(緑内障の概要 緑内障の概要 緑内障は,不可逆的な視力障害につながりうる進行性の視神経損傷を特徴とする一群の眼疾患であり,重要な要因として眼圧の相対的上昇が関わっている。 緑内障は世界で,また米国で2番目に頻度が高い失明の原因であり,米国ではアフリカ系の人々およびヒスパニックの失明の原因として最多である。約300万人の米国人および世界で約6400万人が緑内障に罹患して... さらに読む も参照のこと。)
閉塞隅角緑内障は米国における緑内障全体の約10%を占める。
閉塞隅角緑内障の病因
閉塞隅角緑内障は,虹彩が隅角(すなわち,前房辺縁部の虹彩と角膜の接合部)へ引き上げられるか,または押し上げられるかのいずれかの要因により生じ,房水排出が物理的に妨げられて眼圧が上昇する(開放隅角緑内障 開放隅角緑内障:流出路閉塞の機序に基づく分類* の表を参照)。眼圧上昇により視神経が障害される。
閉塞隅角緑内障の病態生理
閉塞隅角緑内障には原発のもの(原因不明)または他の疾患に続発するもの(開放隅角緑内障 開放隅角緑内障:流出路閉塞の機序に基づく分類* の表を参照)があり,また急性,亜急性(間欠性),または慢性のものがありうる。
原発閉塞隅角緑内障
若年者に狭隅角は認められない。加齢に伴って眼の水晶体は厚くなり続ける。全てではないが一部の人では,厚くなった水晶体が虹彩を前方へ押し,隅角を狭小化する。狭隅角の危険因子として,家族歴,高齢,民族などがあり,アジア系民族とイヌイットではリスクが高く,欧州系およびアフリカ系民族ではリスクが低い。
狭隅角の人では,瞳孔の虹彩と水晶体との間の距離も非常に狭くなっている。散瞳すると,虹彩を求心方向および後方へ引っ張る力が働いて虹彩と水晶体の接触部分が増大するため,水晶体と虹彩の間を通り,瞳孔をくぐって前房に入る房水の流れが遮断される(この機序は瞳孔ブロックと呼ばれる)。毛様体から後房へ分泌され続ける房水の圧力により,虹彩周辺部が前方に押され(前方に弯曲した虹彩を膨隆虹彩と呼ぶ),隅角を閉塞する。これにより房水流出が遮断されると,急速(数時間以内)かつ重度の眼圧上昇(> 40mmHg)が生じる。
発症が急激であるため,この状態は原発急性閉塞隅角緑内障と呼ばれ,緊急治療を要する眼科救急疾患である。瞳孔が関わらない閉塞機序としては,プラトー虹彩症候群などがあり,この疾患では前房中心部は深いが毛様体が異常に前に位置するために前房辺縁部が浅くなっている。
間欠性閉塞隅角緑内障では,瞳孔ブロックのエピソードが,発症後数時間経過後(通常仰臥位で寝た後)に自然寛解する。
慢性閉塞隅角緑内障では,徐々に隅角が狭まり虹彩周辺部と線維柱帯との間に瘢痕化が生じる;眼圧は徐々に上昇する。
隅角が狭い人では,瞳孔の散大(散瞳)により虹彩が隅角へ押され,突然,急性閉塞隅角緑内障を起こす可能性がある。瞳孔を散大させる点眼薬を診察(例,シクロペントラート,フェニレフリン)もしくは治療(例,ホマトロピン)のために投与する場合,または瞳孔を散大させる可能性のある薬剤(例,スコポラミン,一般に尿失禁に用いられるα作動薬,抗コリン作用のある薬剤)を全身投与する場合に,このような障害の発生がとりわけ懸念される。
続発性閉塞隅角緑内障
隅角の機械的閉塞は, 増殖性糖尿病網膜症 糖尿病網膜症 糖尿病患者における長年にわたるコントロール不良の高血糖は,複数の合併症をもたらすが,主なものは血管性の合併症であり,小径血管(微小血管性),大径血管(大血管性),またはその両方が侵される。 血管障害の発生機序としては,以下のものがある: 血清タンパク質および組織タンパク質の糖付加(終末糖化産物の形成を伴う) 超酸化物産生 血管透過性を亢進させ,内皮機能障害を引き起こすシグナル分子であるプロテインキナーゼCの活性化 さらに読む (PDR),虚血性 網膜中心静脈閉塞 網膜中心静脈閉塞症および網膜静脈分枝閉塞症 網膜中心静脈閉塞症は血栓による網膜中心静脈の閉塞である。軽度から重度の無痛性の視力障害を引き起こし,通常は突然に起こる。診断は眼底検査による。治療法としては,血管内皮増殖因子阻害薬(例,ラニビズマブ,ペガプタニブ,ベバシズマブ),デキサメタゾンのインプラントまたはトリアムシノロンの眼内注射,およびレーザー光凝固が使用できる。 主要な危険因子としては以下のものがある: 高血圧 年齢... さらに読む , ぶどう膜炎 ぶどう膜炎の概要 ぶどう膜炎はぶどう膜(虹彩,毛様体,および脈絡膜)の炎症と定義される。しかしながら,網膜と前房内の房水,硝子体液もしばしば障害を受ける。約半数は特発性である;同定可能な原因には,外傷,感染症,および全身性疾患などがあり,そのうち多くは自己免疫性である。症状としては,視力低下,眼痛,充血,羞明,飛蚊症などがある。ぶどう膜炎は臨床的に同定可能... さらに読む ,または眼内上皮下方増殖などの併発疾患による。新生血管膜の収縮(例,PDR),または炎症後の瘢痕により虹彩が隅角へ牽引されることがある。
閉塞隅角緑内障の症状と徴候
急性閉塞隅角緑内障
慢性閉塞隅角緑内障
この病型の緑内障は 開放隅角緑内障 原発開放隅角緑内障 原発開放隅角緑内障は,前房隅角の開放に関連する視神経損傷の症候群であり,眼圧は高値またはときに正常である。症状は視野欠損によるものである。診断は眼底検査,隅角鏡検査,視野検査,ならびに角膜中心厚および眼圧の測定による。治療法としては点眼薬(例,プロスタグランジン誘導体,β遮断薬)などがあり,しばしば房水排出を促すためにレーザーまたは観血的手術が必要になる。 ( 緑内障の概要も参照のこと。)... さらに読む に似た所見を示す。一部の患者では,眼の充血,不快感,霧視,または頭痛がみられるが,睡眠により軽減する(おそらく眠ることによって縮瞳し,水晶体が重力で後方移動するため)。隅角鏡検査では,隅角は狭く,周辺虹彩と隅角構造の癒着により線維柱帯および/または毛様体表面に閉塞を生じる周辺虹彩前癒着(PAS)を認めることがある。眼圧は正常の場合もあるが,通常患眼の方が高い。
閉塞隅角緑内障の診断
急性:眼圧測定および臨床所見
慢性:隅角鏡検査における周辺虹彩前癒着,ならびに特徴的な視神経および視野の異常
急性閉塞隅角緑内障の診断は,臨床所見および眼圧測定による。患眼では角膜が混濁し角膜上皮がもろくなっているため,隅角鏡検査の実施が困難なことがある。しかしながら,他方の眼を診察すると,隅角が狭い,または閉塞の恐れがあることがわかる。他方の眼の隅角が広い場合は,原発閉塞隅角緑内障以外の診断を考慮すべきである。
慢性閉塞隅角緑内障の診断は,隅角鏡検査における周辺虹彩前癒着の存在,ならびに特徴的な視神経および視野の変化に基づいて行う(原発開放隅角緑内障 症状と徴候 原発開放隅角緑内障は,前房隅角の開放に関連する視神経損傷の症候群であり,眼圧は高値またはときに正常である。症状は視野欠損によるものである。診断は眼底検査,隅角鏡検査,視野検査,ならびに角膜中心厚および眼圧の測定による。治療法としては点眼薬(例,プロスタグランジン誘導体,β遮断薬)などがあり,しばしば房水排出を促すためにレーザーまたは観血的手術が必要になる。 ( 緑内障の概要も参照のこと。)... さらに読む の症状と徴候を参照)。
閉塞隅角緑内障の治療
急性:チモロール,ピロカルピン,およびブリモニジンの点眼,アセタゾラミド経口投与および高浸透圧薬の全身投与に続き,レーザー虹彩周辺切開を行う。
慢性:原発開放隅角緑内障とほぼ同じであるが,例外として,隅角の機械的閉塞を遅らせる可能性があると眼科医が判断した場合は,レーザー虹彩周辺切開を行うべきである。 白内障 白内障 白内障は先天性または変性による水晶体混濁である。主な症状は緩徐で無痛性の霧視である。診断は眼底検査および細隙灯顕微鏡検査による。治療は外科的摘出および眼内レンズ挿入である。 白内障は世界の失明原因の第1位である。米国では,65~74歳の約20%の人が視力に影響する白内障である。75歳以上のほぼ2人に1人が白内障である。... さらに読む の摘出は慢性閉塞隅角緑内障の進行を遅らせるのに役立つ。
急性閉塞隅角緑内障
視力障害が急激に進行し,永久に持続する恐れがあるため,直ちに治療を開始しなければならない。一度に複数の薬物を投与すべきである。推奨されるレジメンは,0.5%チモロール1滴を30分毎に2回;2~4%ピロカルピン1滴を15分毎に2回;0.15%または0.2%ブリモニジン1滴を15分毎に2回;アセタゾラミドを初回に500mg経口投与し(悪心がある場合は静注),その後6時間毎に250mgを経口投与;以下のいずれかの高浸透圧薬,すなわちグリセロール1mL/kgを同量の冷水で希釈したものを経口投与,マンニトール1.0~1.5mg/kgの静注,またはイソソルビド100gの経口投与(45%溶液を220mL)などである。(注:この形態のイソソルビドは硝酸イソソルビドではない。)眼圧測定により反応を評価する。眼圧が40または50mmHgを超える場合は,瞳孔括約筋が無酸素状態であるため,一般的に縮瞳薬(例,ピロカルピン)は効果がない。
根治的治療はレーザー周辺虹彩切開術(LPI)により行い,瞳孔ブロックに穴をあけて後房から前房へ房水が流れるもう1つの流出路を作る。角膜が明瞭化し,炎症が治まると同時に直ちに行う。なかには,眼圧が下がってから数時間で角膜が明瞭化する症例もある一方,1~2日を要する場合もある。他方の眼で急性発作が生じる可能性は80%であるため,LPIは両眼に行う。
LPIに伴う合併症のリスクは,その有益性に比べて極めて低い。煩わしいグレアが起こりうる。
慢性閉塞隅角緑内障
慢性,亜急性,または間欠性の閉塞隅角緑内障患者に対してもLPIを施行すべきである。また,隅角が狭い患者では,たとえ症状がなくても,閉塞隅角緑内障を予防するために速やかにLPIを施行すべきである。白内障が存在する場合は,白内障の摘出により慢性閉塞隅角緑内障の進行を劇的に遅らせることができる。
薬物療法および外科的治療は,開放隅角緑内障と同様である。隅角があまりにも狭く,レーザーを照射してもさらに周辺虹彩前癒着を形成する恐れのある場合は,レーザー線維柱帯形成術の相対的禁忌である。通常は,分層手技の適応はない。
閉塞隅角緑内障の要点
閉塞隅角緑内障は急性,間欠性,または慢性として発症する。
急性閉塞隅角緑内障は,臨床所見に基づいて疑い,眼圧測定によって診断を確定する。
慢性閉塞隅角緑内障は,周辺虹彩前癒着と視神経所見および視野変化により診断を確定する。
急性閉塞隅角緑内障は,救急疾患として治療する。
閉塞隅角緑内障の患者については,レーザー周辺虹彩切開術を手配するため,全例で眼科医へのコンサルテーションを行う。