個別の風味は嗅覚の化学受容体を刺激する芳香に左右されるため,味覚と嗅覚は生理学上,相互に依存する。一方の機能障害はしばしば他方を障害する。嗅覚および味覚の障害が生活に支障を来すまたは生命を脅かすことはまれであるため,生活の質に及ぼす両者の影響は重大となることもあるが,綿密な医学的配慮がなされないことが多い。
味覚
嗅覚
ガスまたは煙などの特定の匂いを探知する能力の欠如は危険な場合もあり,症状を無害なものとして退ける前に,いくつかの全身性疾患および頭蓋内疾患を除外すべきである。通常,他の神経症状が優先されるため,脳幹の疾患(孤束核の障害)が嗅覚および味覚の障害を引き起こしうるかどうかは不明である。
おそらく嗅覚脱失(嗅覚の完全欠如)が最も一般的な異常である。通常,嗅覚過敏(匂いに対する感受性の増大)は神経症性または演技性パーソナリティ障害を反映しているが,痙攣性疾患によって断続的に発生しうる。嗅覚異常(不快なまたは歪んだ匂いの感覚)は,副鼻腔の感染,嗅球の部分的損傷,または抑うつにより起こる場合がある。不快な味覚を伴う一部の症例は,歯の衛生不良に起因する。鉤回てんかんにより,短期的に鮮明で不快な幻嗅が生じることもある。嗅覚低下(嗅覚の部分的欠如)および味覚低下(味覚の低下)は,急性インフルエンザに続発することがあり,通常は一過性である。突然の味覚喪失は,COVID-19の初期症状である可能性もある。