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歯髄炎

執筆者:

Bernard J. Hennessy

, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry

レビュー/改訂 2021年 3月
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歯髄炎は未処置の齲蝕,外傷または複数の修復物に起因する歯髄の炎症である。主症状は疼痛である。診断は臨床所見とX線および歯髄診査(生活反応)の結果に基づく。処置として,齲蝕の除去,欠損部歯質の修復,ときには根管治療または抜歯が行われる。

歯髄炎は以下の場合に起こる:

歯髄炎は以下に分類される:

  • 可逆性:限局された炎症として始まる歯髄炎で,単純修復で歯牙保存が可能なもの。

  • 不可逆性:象牙質という硬い閉鎖空間内の腫脹により循環が損なわれ,歯髄が壊死し,感染が起こりやすくなった状態。

合併症

歯髄炎の感染性続発症には,根尖性 歯周炎 歯周炎 歯周炎は口腔の慢性炎症性疾患であり,歯周組織を進行性に破壊する。通常,歯肉炎の悪化した状態として発現し,無処置の場合,歯の動揺と喪失を引き起こす。その他の症状は,HIVに感染している患者か膿瘍がある患者を除いてまれであり,疼痛や腫脹が一般的である。診断は,視診,歯周探査,X線写真に基づく。処置は,歯肉縁下に及ぶ清掃と家庭での徹底した口腔衛... さらに読む 歯周炎 ,根尖周囲膿瘍, 蜂窩織炎 蜂窩織炎 蜂窩織炎は皮膚および皮下組織の急性細菌感染で,最も頻度の高い原因菌はレンサ球菌とブドウ球菌である。症状と徴候は疼痛,熱感,急速に拡大する紅斑,および浮腫である。発熱がみられる場合もあるほか,より重篤な感染例では所属リンパ節腫脹を認めることもある。診断は病変の外観によるほか,培養も参考になるが,その結果を待つために治療(抗菌薬投与)を遅らせてはならない。時機を逸することなく治療すれば,予後は極めて良好である。... さらに読む 蜂窩織炎 ,および(まれに)顎骨 骨髄炎 骨髄炎 骨髄炎は,細菌,抗酸菌,または真菌に起因する骨の炎症および破壊である。よくみられる症状は,全身症状を伴う(急性骨髄炎)または全身症状を伴わない(慢性骨髄炎),限局性の骨痛および圧痛である。診断は画像検査および培養による。治療は抗菌薬およびときに手術による。 骨髄炎は以下によって生じる: 感染組織または 感染した人工関節からの連続した進展 血液由来の微生物(血行性骨髄炎) 開放創(汚染された開放骨折または骨の手術による) さらに読む 骨髄炎 がある。上顎歯からの感染拡大は,化膿性 副鼻腔炎 副鼻腔炎 副鼻腔炎はウイルス,細菌,もしくは真菌性感染症またはアレルギー反応による副鼻腔の炎症である。症状としては,鼻閉,膿性鼻汁,顔面痛または顔面の圧迫感などのほか,ときに倦怠感,頭痛,発熱もみられる。急性ウイルス性鼻炎を想定した治療には,蒸気吸入および血管収縮薬の局所薬または全身投与などがある。細菌感染が疑われる場合の治療は,アモキシシリン/クラブラン酸またはドキシサイクリンなどの抗菌薬を,急性副鼻腔炎には5~7日間,慢性副鼻腔炎には最長6週... さらに読む 副鼻腔炎 髄膜炎 髄膜炎の概要 髄膜炎は髄膜および,くも膜下腔の炎症である。感染症,その他の疾患,または薬剤への反応によって起こりうる。重症度および急性度は様々である。典型的な所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は適応に応じて抗菌薬を投与する他に,補助的手段などがある。 ( 脳感染症に関する序論および... さらに読む 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍は脳内に膿が蓄積した状態である。症状としては,頭痛,嗜眠,発熱,局所神経脱落症状などがある。診断は造影MRIまたはCTによる。治療は抗菌薬に加えて,通常はCTガイド下穿刺吸引術または外科的ドレナージによる。 ( 脳感染症に関する序論も参照のこと。) 脳膿瘍は,脳の炎症領域が壊死に陥り,その周囲を神経膠細胞と線維芽細胞が被膜で覆うことによって形成される。膿瘍周囲の浮腫は,膿瘍そのものと同様に,頭蓋内圧を亢進させることがある。... さらに読む 脳膿瘍 眼窩蜂窩織炎 眼窩隔膜前蜂窩織炎および眼窩蜂窩織炎 眼窩隔膜前蜂窩織炎(眼窩周囲蜂窩織炎)とは,眼瞼,および眼瞼を取り囲み眼窩隔膜より前方にある皮膚の感染症である。眼窩蜂窩織炎とは,眼窩隔膜より後方の組織の感染症である。いずれも外部の感染巣(例,創傷),鼻腔または歯から波及した感染症,または他の部位の感染症の転移によって起こりうる。症状としては眼瞼痛,変色,腫脹などがあり,眼窩蜂窩織炎では発熱,倦怠感,眼球突出,眼球運動制限,および視覚障害も起こる。診断は病歴聴取,診察,およびCTまたは... さらに読む 眼窩隔膜前蜂窩織炎および眼窩蜂窩織炎 海綿静脈洞血栓症 海綿静脈洞血栓症 海綿静脈洞血栓症は非常にまれな典型的に海綿静脈洞の敗血症性血栓症であり,通常は鼻せつまたは細菌性副鼻腔炎により起こる。症状と徴候には,疼痛,眼球突出,眼筋麻痺,視力障害,乳頭浮腫,および発熱などがある。診断はCTまたはMRIで確定する。治療は抗菌薬の静注による。合併症がよくみられ,予後は不良である。... さらに読む を引き起こす可能性がある。

下顎歯からの感染拡大は, 口底蜂窩織炎(Ludwig angina) 顎下隙の感染症 顎下隙の感染症は口腔の下にある軟部組織の急性の蜂窩織炎である。症状としては,疼痛,嚥下困難,死に至る場合もある気道閉塞などがある。通常,診断は臨床的に行う。治療には,気道管理,外科的排膿,および抗菌薬の静脈内投与などがある。 顎下隙の感染症は,急速に拡大する,両側性で,硬結性の蜂窩織炎であり,膿瘍形成を伴うことなく,舌骨上の軟部組織,口底,ならびに舌下隙および顎下隙の両方に生じる。真の膿瘍ではないが,臨床的には膿瘍に類似し,膿瘍と同様に... さらに読む 顎下隙の感染症 副咽頭間隙膿瘍 副咽頭間隙膿瘍 副咽頭間隙膿瘍は,深頸部の膿瘍である。症状としては,発熱,咽頭痛,嚥下痛,舌骨方向への頸部の腫脹などがある。診断はCTによる。治療は抗菌薬および外科的排膿による。 副咽頭(上顎咽頭[pharyngomaxillary])間隙は,上咽頭収縮筋の外側,翼突筋の内側に位置する。この間隙は,他の主な頸部筋膜間隙全てに接続しており,茎状突起によって前区域と後区域に分けられる。後区域には頸動脈,内頸静脈,および多数の神経が含まれる。歯性感染源および... さらに読む 副咽頭間隙膿瘍 縦隔炎 縦隔炎 縦隔炎は縦隔の炎症である。急性縦隔炎は通常,食道穿孔または胸骨正中切開に起因する。症状としては,重度の胸痛,呼吸困難,発熱などがある。診断は胸部X線またはCTにより確定される。治療は抗菌薬(例,クリンダマイシンとセフトリアキソンの併用),およびときに手術による。 急性縦隔炎の最も頻度の高い原因は以下の2つである: 食道穿孔 胸骨正中切開 食道穿孔は,食道鏡検査の施行中やSB(Sengstaken-Blakemore)チューブまたはMin... さらに読む 心膜炎 心膜炎 心膜炎とは心膜の炎症であり,しばしば心嚢液貯留を伴う。心膜炎は,多くの疾患(例,感染症,心筋梗塞,外傷,腫瘍,代謝性疾患)によって引き起こされるが,特発性のことも多い。症状としては胸痛や胸部圧迫感などがあり,しばしば深呼吸により悪化する。心タンポナーデまたは収縮性心膜炎が発生した場合には,心拍出量が大きく低下することがある。診断は症状,心膜摩擦音,心電図変化,およびX線または心エコー検査での心嚢液貯留の所見に基づく。原因の特定には,さら... さらに読む 心膜炎 ,膿胸,頸静脈血栓性静脈炎を起こす可能性がある。

歯髄炎の症状と徴候

可逆性歯髄炎においては,歯に刺激(通常は冷感や甘味)が加わるときに疼痛が生じる。刺激が除去されると痛みは1~2秒で止まる。

不可逆性歯髄炎においては,疼痛が自発的に生じたり,刺激(通常は温熱,頻度は低いが冷感)が取り除かれた後も何分か残存したりする。患者は痛みを発する歯を特定することが困難であり,上顎と下顎の歯列弓を混同することさえある(ただし口腔の左右側を間違えることはない)。疼痛は歯髄の壊死により,その後数日で止まることがある。歯髄壊死が完了すると,歯髄は熱または冷刺激に応答しなくなるが,しばしば打診痛を示す。感染が起こり,根尖孔にまで拡大すると,歯は圧と打診に対して強烈に過敏になる。根尖周囲(歯槽)膿瘍が歯槽から歯を挙上し,咬合時に歯が「高く」感じる。

歯髄炎の診断

  • 臨床的評価

  • ときに歯科X線検査

診断は,病歴および刺激の誘発(熱および冷刺激を加える,および/または打診を行う)を用いた身体診察に基づく。歯科医師はまた,電気歯髄診断器を使用することもあるが,これにより歯髄の生死は判明するが歯髄が健康かどうかはわからない。患者が歯に加えられた微小な電流を感じることができれば,歯髄は生存している。

X線写真は,炎症が歯根まで拡大しているかの判断や,その他の病状除外の手助けとなる。

歯髄炎の処置

  • 可逆性歯髄炎に対しては形成充填

  • 不可逆性歯髄炎に対しては根管治療および歯冠補綴,または抜歯

  • 局所の処置で消失しない感染に対しては抗菌薬(例,アモキシシリンまたはクリンダマイシン)

可逆性歯髄炎においては,歯の処置(通常齲蝕の除去),続いて修復を行った場合に,歯髄を温存できる。

不可逆性歯髄炎とその続発症には,歯内療法(根管治療)または抜歯が必要である。歯内療法においては,歯に開口部を作り歯髄を除去する。根管内の清掃を徹底的に行い,根管形成後,ガッタパーチャを充填する。根管治療後に,臨床的には症状の消失によって,X線所見的には,数カ月の期間後,根尖部のX線透過像部の骨の再生によって治療の良否を判定する。患者に感染の全身徴候(例,発熱など)が認められる場合,経口抗菌薬を処方する(アモキシシリン500mg,8時間毎;またはペニシリンにアレルギーのある患者には,クリンダマイシン150mgまたは300mg,6時間毎)。もし症状が持続したり,悪化がみられたりする場合は,根管の見逃しがないか確認のため,通常は再度根管治療を行うが,別の診断の可能性(例,顎関節症,潜在的歯牙破折,神経疾患)も考慮に入れるべきである。

非常にまれであるが,圧搾空気や歯科用エアタービンを根管治療または抜歯時に用いた後,皮下または縦隔の気腫が発生することがある。これらの器具は空気を歯槽周囲組織に送り込み,筋膜面に沿って解離させる。顎と頸部の腫脹が急性に生じ,触診により腫脹した皮膚に特徴的な捻髪音が伴う場合に,それと診断される。ときに予防的な抗菌薬の投与を行うが,処置は通常必要ない。

歯髄炎の要点

  • 歯髄炎は歯の深い齲蝕,外傷または広範囲の修復に起因する歯髄の炎症である。

  • ときに感染が起こる(例,根尖周囲膿瘍,蜂窩織炎,骨髄炎)。

  • 歯髄炎は可逆性または不可逆性の場合がある。

  • 可逆性歯髄炎では歯髄が壊死しておらず,冷感や甘味の刺激により疼痛が生じ(通常痛みは1~2秒で止まる),その修復には形成および充填を要する。

  • 不可逆性歯髄炎の場合,歯髄は壊死しつつあり,刺激(しばしば温熱)により,典型的には数分間持続する疼痛がみられる;根管治療または抜歯が必要である。

  • 不可逆性歯髄炎の後期には歯髄壊死が生じ,熱や冷感刺激に歯髄は反応しないが,しばしば打診に反応する;根管治療または抜歯が必要である。

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