アトピー性皮膚炎(湿疹)

(アトピー性湿疹;乳児湿疹;神経皮膚炎;内因性湿疹)

執筆者:Thomas M. Ruenger, MD, PhD, Georg-August University of Göttingen, Germany
レビュー/改訂 2021年 2月
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アトピー性皮膚炎は,遺伝的感受性,免疫および表皮バリアの機能障害,ならびに環境因子が複雑に関与して繰り返し発生する慢性炎症性皮膚疾患である。そう痒が主たる症状であり,皮膚病変は軽度の紅斑から重度の苔癬化,紅皮症まで様々である。診断は病歴および診察による。治療法としては,適切なスキンケアについてのカウンセリング,誘因の回避,コルチコステロイドや免疫抑制薬の外用などがある。そう痒および重複感染のコントロールも重要である。重症例では免疫抑制薬の全身投与による治療が必要になることがある。小児期のアトピー性皮膚炎は多くの場合,成人期までに消失するか有意に軽減する。

皮膚炎の定義も参照のこと。)

アトピー性皮膚炎の病因

アトピー性皮膚炎は,主に都市部または先進国の小児に発生し,過去30年で有病率が上昇しており,先進国の小児の最大20%と成人の10%が罹患している。本症の患者の大半は5歳までに発症し,その多くは1歳未満で発症するが,アトピー性皮膚炎は成人期後期に発症することもある。証明されたものではないが,幼児期の感染因子への曝露が少なくなると(すなわち,家庭での衛生管理がより徹底的であるために)アトピー性疾患や自己タンパク質に対する自己免疫が発生しやすくなるという衛生仮説がある。

アトピー性皮膚炎の多くの患者とその家族には,アレルギー性喘息および/または即時型過敏症もみられ,例えば,季節性または通年性のアレルギー性鼻結膜炎として発症する。アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻結膜炎,および喘息の三徴は,アトピーまたはアトピー素因と呼ばれる。アトピーのその他の皮膚症状としては,乾皮症,魚鱗癬/掌紋増強(すなわち,手掌の割線がより著明になる),毛孔性角化症,眼窩下の皮膚のひだ(デニー-モルガンひだ),眉毛外側の希薄化(Hertoghe徴候),ウールに対する不耐性(ウールとの皮膚接触により誘発される刺激およびそう痒),白色皮膚描記症(血管収縮により,掻破に反応して皮膚が白くなる),経表皮水分蒸散量の増加(患部皮膚だけでなく患部以外の皮膚でもみられる)などがある。

アトピー性皮膚炎の病態生理

アトピー性皮膚炎の発生には以下の因子の全てが関与する:

  • 遺伝因子

  • 表皮バリアの機能障害

  • 免疫学的機序

  • 環境誘因

アトピー性皮膚炎との関連が報告されている遺伝子は,表皮および免疫系のタンパク質をコードする遺伝子である。アトピー性皮膚炎の主な素因の1つは,フィラグリンタンパク質をコードする遺伝子の機能喪失変異であり,この変異は多くの患者でみられる(1)。フィラグリンは,分化途中の角化細胞が産生する周辺帯の成分である。究極的に重要なことは,角層に吸湿性のバリア(天然保湿因子とも呼ばれる)を構築することである。欧州人集団の約10%は,フィラグリン遺伝子の機能喪失変異のヘテロ接合体の保因者である。それらの変異が存在すると(より多くある遺伝子内コピー数変異と同様に),アトピー性皮膚炎の重症化およびIgE高値となるリスクが高まる。また,フィラグリン遺伝子変異には,アトピー性皮膚炎がない場合も含めて,ピーナッツアレルギーおよび喘息との関連がみられる。

これらの最近の分子生物学的知見から,アトピー性皮膚炎について,およびT細胞性の遅延型過敏反応である皮膚炎症が喘息やアレルギー性鼻炎(花粉症)など即時型過敏反応を伴うアレルギー疾患とどのように関連するかについての,新たな理解が得られている。フィラグリン遺伝子変異に起因する表皮の皮膚バリアの異常によって,乾皮症の発生およびアトピー性皮膚炎として現れる皮膚刺激の素因が説明できるが,これらはアレルギー性の機序を介するものではない。対照的に,皮膚の炎症はT細胞性の遅延型過敏反応であり,皮膚にTh2優位の所見がみられる。この過敏反応は抗菌ペプチド(例,β-デフェンシン)を抑制することから,アトピー性皮膚炎患者が細菌性およびウイルス性皮膚感染症を発症しやすい理由の説明となる。皮膚刺激物やアレルゲンの侵入が増加することでもTh2優位の炎症が生じるが,これもIgE産生を促進し,即時型過敏反応を生じやすくする。しかしながら,アトピー性皮膚炎を媒介する主な機序は遅延型の細胞性免疫反応であるため,即時型のアレルゲン(例,花粉,チリダニ)を回避してもアトピー性皮膚炎は通常改善しない。即時型過敏反応(例,喘息,アレルギー性鼻炎)は皮膚バリアの異常に起因するが,アトピー性皮膚炎のT細胞性の皮膚炎症を促進するものではない。

アトピー素因を有する患者では,典型的にはアトピー性皮膚炎がアレルギー性鼻結膜炎および喘息に先行する。ときに,この一連の流れは「アトピーマーチ」と呼ばれ,皮膚バリアの異常がアトピー性疾患における主要な異常であるために起こる。

病態生理に関する参考文献

  1. Brown SJ, McLean WH: One remarkable molecule: Filaggrin.J Invest Dermatol 132(3 Pt 2):751–762, 2012. doi: 10.1038/jid.2011.393

アトピー性皮膚炎の症状と徴候

アトピー性皮膚炎は通常は乳児期に,早くて生後3カ月で発症する。

急性期の病変は,強いそう痒を伴い,鱗屑を伴う肥厚した紅色の斑または局面であり,掻破によりびらんを生じていることもある。

慢性期には,掻破や擦過などの行為により皮膚病変(典型的には紅斑と丘疹で,掻破が続けば苔癬化を来す)が生じる。

病変の分布は年齢に応じて異なる。乳児では,病変が顔面,頭皮,頸部,眼瞼,および四肢伸側に生じるのが特徴である。より年長の小児と成人では,頸部などの屈側面と肘窩および膝窩に病変が生じる。

強いそう痒が重要な特徴である。そう痒はしばしば病変に先行し,乾燥した空気,発汗,局所の刺激,ウールの衣服,精神的ストレスなどにより増悪する。

症状のよくみられる環境誘因としては以下のものがある:

  • 過度の入浴または洗浄

  • 刺激の強い石鹸

  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の皮膚への定着

  • 発汗

  • 粗い繊維およびウール

アトピー性皮膚炎の臨床像
アトピー性皮膚炎(膝窩)
アトピー性皮膚炎(膝窩)
この写真には,膝窩および下肢表面に生じた痂皮を伴う紅色局面が写っている。

© Springer Science+Business Media

アトピー性皮膚炎(急性)
アトピー性皮膚炎(急性)
アトピー性皮膚炎は通常,乳児期に発症する。急性期には,病変は顔面に出現して頸部,頭皮,および四肢に拡大する。

Image provided by Thomas Habif, MD.

アトピー性皮膚炎(慢性)
アトピー性皮膚炎(慢性)
アトピー性皮膚炎の慢性期には,病変は乾燥して苔癬化している。

Image provided by Thomas Habif, MD.

皮膚病変(苔癬化)
皮膚病変(苔癬化)
苔癬化は,正常な皮野の増強を伴う皮膚の肥厚であり,この変化は慢性的な掻破や擦過の結果として生じるが,この患者ではアトピー性皮膚炎の慢性期に発生した。

Image provided by Thomas Habif, MD.

合併症

二次性の細菌感染(重複感染),特にブドウ球菌およびレンサ球菌感染症(例,膿痂疹,蜂窩織炎)がよくみられる。紅皮症(体表面積の70%を超える紅斑)はまれであるが,アトピー性皮膚炎が重症の場合に起こることがある。

二次感染を伴った急性アトピー性皮膚炎
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この患者では,急性の皮膚炎病変に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による二次感染(重複感染)が合併していた(膿痂疹化)。
© Springer Science+Business Media

カポジ水痘様発疹症(ヘルペス性湿疹)は,単純ヘルペスウイルス(HSV)による皮膚感染症であり,アトピーのない患者と比較して,よりびまん性かつ広範に病変が生じる。カポジ水痘様発疹症は一般的にはHSVの初感染であるが,アトピー性皮膚炎患者では再発性の感染によって起こることもある。この疾患は,活動性の皮膚炎や最近起こった皮膚炎の部位に小水疱の集簇病変として生じるが,正常な皮膚が侵されることもある。数日後に高熱およびリンパ節腫脹を来すことがある。ときに,この感染症が全身性となることがあり,その場合は死に至ることもある。ときに眼が侵され,疼痛を伴う角膜病変が生じる。類似の合併症であるワクシニア性湿疹は,天然痘ワクチンの接種によりワクシニアウイルスが播種し,生命を脅かすことがある。したがって,アトピー患者は天然痘ワクチンの接種を受けるべきではない。

カポジ水痘様発疹症
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この写真には,アトピー性皮膚炎患者に生じた集簇する小水疱を伴った単純ヘルペス感染症のびまん性病変が写っている。
© Springer Science+Business Media

アトピー患者には,その他のウイルスによる皮膚感染症(例,尋常性疣贅伝染性軟属腫)も生じやすい。

アトピー性皮膚炎患者では,アレルギー性の接触反応のリスクも高い。例えば,最も一般的な接触アレルゲンであるニッケルに対する接触アレルギーは,アトピーのない患者より2倍多くみられる。外用製品を頻繁に使用すると,多くの潜在的アレルゲンに曝露することになり,それらの製品により生じるアレルギー性接触皮膚炎はアトピー性皮膚炎の管理を複雑なものとする。

アトピー性皮膚炎の診断

  • 臨床的評価

アトピー性皮膚炎の診断は臨床的に行う。病歴聴取(例,季節性または通年性のアレルギー性鼻結膜炎や喘息の既往歴または家族歴)が有用である。American Academy of Dermatologyによる臨床的に重要なアトピー性皮膚炎を管理するためのケアに関するガイドラインの改訂版と小児の診断基準については, See table アトピー性皮膚炎の診断につながる臨床的特徴*

アトピー性皮膚炎は,ときに他の皮膚疾患(例,脂漏性皮膚炎接触皮膚炎貨幣状湿疹乾癬)との鑑別が困難であるが,アトピーの既往歴/家族歴と病変の分布が鑑別に役立つ。以下の分布パターンが鑑別に役立つことがある:

  • 乾癬は,典型的には,境界明瞭で紅色の厚い鱗屑を伴う局面により容易に認識される。通常は屈側より伸側に分布し,アトピー性皮膚炎では一般的でない典型的な爪所見(例,オイルスポット変色,爪の点状陥凹)がみられることがある。

  • 脂漏性皮膚炎は顔面(例,鼻唇溝,眉毛,眉間部,頭皮)に好発する。

  • 貨幣状湿疹は屈側に生じず,苔癬化はまれである。(ただし,アトピー性皮膚炎で硬貨様の形状の貨幣状局面[nummular atopic dermatitis]がみられることもある。)

アトピー性皮膚炎を原因とする紅皮症は,他の皮膚疾患を原因とする紅皮症との鑑別が困難なことがある。

パール&ピットフォール

  • アトピー性皮膚炎の手がかりとしては,屈側に生じる病変の分布と,アレルギー性鼻結膜炎および喘息の既往歴または家族歴がある。

表&コラム

アトピー性皮膚炎には確定的な臨床検査が存在しない。しかしながら,I型アレルギーの検査(プリックテスト,スクラッチテスト,および皮内テストまたはアレルゲン特異的IgE値および総IgE値の測定)がアトピー素因の確定に役立つことがある。黄色ブドウ球菌(S. aureus)の培養は,ルーチンには行わないものの,膿痂疹化が疑われる(例,黄色がかった痂皮を伴う)場合には,抗菌薬の全身投与に対する感受性の判定に役立つ可能性がある。

アトピー性皮膚炎の予後

小児のアトピー性皮膚炎は5歳までに軽快する場合が多いが,青年期を通じて,さらには成人期まで増悪が続くこともよくある。女児および重症患者,発症年齢の低い患者,家族歴のある患者,およびアレルギー性鼻炎または喘息を合併している患者では,疾患の経過が長引く可能性が高い。たとえこのような患者でも,アトピー性皮膚炎は成人期になるまでに消失するか,有意に軽減することが多い。小児患者は目に見え,ときに生活に支障を来す皮膚疾患を抱えながら人格形成期を過ごす過程で困難に直面するため,アトピー性皮膚炎は長期に及ぶ心理的後遺症を残す可能性がある。

アトピー性皮膚炎の治療

  • 支持療法(適切なスキンケアについてのカウンセリングと誘発因子の回避を含む)

  • 止痒薬

  • コルチコステロイドの外用

  • カルシニューリン阻害薬の外用

  • クリサボロール(crisaborole)の外用

  • 光線療法,特にナローバンドUVB

  • 免疫抑制薬の全身投与

  • デュピルマブ

  • 重複感染の治療

アトピー性皮膚炎の治療は,基礎にある病態生理学的過程に対処する場合に最も効果的となる。適切なスキンケアおよび誘因の回避についてのカウンセリングは,患者が基礎にある皮膚バリアの異常に対処するために役立つ。そう痒のある病変を掻破すると,一般的に,そう痒が増強するため,さらに掻破することになる。このそう痒と掻破のサイクルを断つことが重要である。炎症性の急性増悪(flare-up)は,免疫抑制薬の外用,光線療法,および必要に応じた免疫抑制薬の全身投与により抑制できる。ほぼ全てのアトピー性皮膚炎患者は,外来で治療可能であるが,重度の重複感染または紅皮症を来した患者には入院が必要になることもある。

(American Academy of Dermatology Associationのアトピー性皮膚炎診療ガイドラインも参照のこと。)

支持療法

総合的なスキンケアでは,以下のように,皮膚刺激の最も一般的な原因である過度の洗浄および刺激の強い石鹸に焦点を置くべきである:

  • 洗浄および入浴の頻度および時間を制限する(シャワー/入浴は1日1回に制限すべきである;入浴をする日数を減らすため,スポンジによる清拭に代えてもよい)

  • 浴槽の湯の温度をぬるめに制限する

  • シャワー/入浴の後には,過度に擦らないようにしつつ,皮膚を軽く叩くようにして体を拭く

  • 保湿剤を塗布する(軟膏またはクリーム—セラミド含有製品が特に有用)

  • 皮膚の重複感染(例,黄色がかった痂皮形成から膿痂疹が示唆される場合)に対しては,希釈した漂白剤による入浴

経口抗ヒスタミン薬は,その鎮静作用によりそう痒の軽減に役立つ。選択肢としては,ヒドロキシジン25mg,1日3回または1日4回投与(例,小児では,0.5mg/kgを6時間毎,または2mg/kgを就寝時に単回投与)やジフェンヒドラミン(例,25~50mg)などがあり,日中の鎮静作用を避けるために就寝時の投与が望ましい。ロラタジン(10mg,1日1回),フェキソフェナジン(60mg,1日2回または180mg,1日1回),セチリジン(5~10mg,1日1回)などの鎮静作用の弱いまたは非鎮静性抗ヒスタミン薬が有用となりうるが,その効力はまだ確立されていない。ドキセピン(H1および H2受容体拮抗活性も有する三環系抗うつ薬)25~50mgの就寝時投与も役立つことがあるが,12歳未満の小児では推奨されない。掻破による表皮剥離や二次感染を最小限にとどめるため,手指の爪は短く切っておくべきである。

精神的ストレスの軽減が有用であり,そう痒と掻破のサイクルを断つために役立つ。ストレスは,患者(例,そう痒のために眠れない)だけでなく,家族(例,泣いている乳児に起こされる状態が続く)にも影響を及ぼす可能性がある。食物アレルゲンへの曝露を排除するために食事を変えることは,一般に不要であり,効果がなく,ストレスを不必要に増加させる。アトピー性皮膚炎が食物アレルギーによって引き起こされることは非常にまれである。

コルチコステロイド

治療の中心はコルチコステロイドの外用である。軽症から中等症の患者の大半では,クリームまたは軟膏の1日2回塗布が効果的である。低力価から中力価のコルチコステロイドによりしばしば皮膚の炎症をコントロールできるが,慢性炎症を起こして苔癬化した皮膚の解消には,典型的には高力価のコルチコステロイドが必要となる。皮膚の菲薄化,皮膚伸展線条,皮膚感染症などのコルチコステロイドの外用による皮膚の有害作用が,使用するコルチコステロイドの力価,使用期間,および使用部位に応じて生じることがある。副腎抑制が生じないようにするために,長期かつ広範に強力なコルチコステロイドを使用することは,特に乳児において,避けるべきである。皮膚の炎症がコントロールされたら,コルチコステロイドは必ず中止すべきであり,再発予防の目的で使用してはならない。

コルチコステロイドの全身投与は,典型的に良好な緊急の緩和をもたらすが,複数の有害作用があるため長期使用は避けるべきである。アトピー性皮膚炎はコルチコステロイドの全身投与を中止すると再燃する傾向があるため,コルチコステロイドの全身投与の漸減および中止を管理するために,典型的には他の治療が必要となる。

その他の治療法

外用薬として使用されるタクロリムスおよびピメクロリムスは,カルシニューリン阻害薬である。これらはT細胞阻害薬であり,軽症から中等症のアトピー性皮膚炎に対して,またはコルチコステロイドの有害作用が懸念される場合に使用できる。タクロリムスの軟膏またはピメクロリムスまたはクリームを1日2回塗布する。塗布後に生じる灼熱感やチクチク感は,通常は一過性であり,数日後に軽減する。紅潮の頻度はあまり高くない。

クリサボロール(crisaborole)2%軟膏は,外用のホスホジエステラーゼ4阻害薬である。2歳以上の患者における軽症から中等症のアトピー性皮膚炎に対して使用できる。クリサボロール(crisaborole)は湿疹部に1日2回塗布する。粘膜に使用することはできない。塗布後の灼熱感またはチクチク感が最も頻度の高い有害作用である。

ナローバンド紫外線B波(UVB)による光線療法は,広範なアトピー性皮膚炎の治療に役立ち,適切なスキンケアおよび外用療法で炎症のコントロールが成功しない場合に特に有用である。ナローバンドUVBは,以前使用されていたブロードバンドUVBよりもはるかに効力が高いため,ソラレンとUVAの併用療法(PUVA療法)はもはや使用されることはまれである。ナローバンドUVBによる光線療法が皮膚悪性腫瘍のリスクを増大させる可能性は証明されていないが,依然として懸念がもたれており,特に小児に使用する場合や長期間使用する場合に懸念される。適切なスキンケアおよび外用療法が不成功に終わった場合は,このリスクを他の全身療法のリスクと比較検討する必要がある。外来での光線療法が利用できない場合,または非常に不便な場合には,在宅での光線療法が有用な代替法となる。一部の家庭用光線療法機器にはプログラム可能な機能があり,それによって専門家が患者による機器の使用を制限し監督できる。光線療法を行えない場合は,自然光への曝露が代替法となる。

シクロスポリン,ミコフェノール酸,メトトレキサート,アザチオプリンなどの免疫抑制薬の全身投与は,T細胞の機能を阻害する。これらの薬剤は,外用療法および光線療法で軽減しなかった病変が広範であるか,難治性であるか,生活に支障を来しているアトピー性皮膚炎で適応となる。これらの薬剤の使用は,有害作用のリスクとのバランスを取る必要がある(特に長期使用の場合)。

デュピルマブは,アトピー性皮膚炎におけるIL-4およびIL-13(いずれも炎症性Th2サイトカイン)のシグナル伝達を遮断する完全ヒトモノクローナルIgG4抗体である。皮下注射により負荷量として600mgを投与した後,2週毎に300mgを投与するが,60kg未満の患者では,負荷量400mgに続いて2週毎に200mgを投与する。デュピルマブは,6歳以上の患者における中等症から重症のアトピー性皮膚炎の治療に利用でき,他の治療で病勢を十分に制御できない患者に推奨される。より標的を絞った全身投与の免疫抑制薬(生物製剤)がアトピー性皮膚炎に対していくつか開発中である。

ブドウ球菌に有効な抗菌薬は,外用薬(例,ムピロシン,フシジン酸)と経口薬の両方があり,膿痂疹毛包炎せつ腫症など皮膚の細菌性重複感染の治療に使用する。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は,アトピー性皮膚炎患者において皮膚感染症を引き起こす最も一般的な細菌であり,しばしばメチシリンに耐性を示す(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[S. aureus][MRSA])。ドキシサイクリンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールは,全身投与の抗菌薬の最初の選択肢として適切であるが,これはMRSAがほとんどの場合これらの薬剤に感受性を示すためである。しかしながら,耐性を予測することはできないため,抗菌薬の全身投与を開始する前に細菌培養と耐性検査を行うことが推奨される。

ムピロシンの鼻腔内投与は,反復性の膿痂疹化の感染源となる可能性がある黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の鼻腔内保菌者に推奨される。

カポジ水痘様発疹症(ヘルペス性湿疹)は抗ウイルス薬(例,アシクロビル,バラシクロビル)の全身投与で治療する。アシクロビルの用量としては,乳児では10~20mg/kgを8時間毎に静注し,軽症の児童および成人では200mg,経口,1日5回で投与することができる。眼病変は眼科救急疾患とみなされており,眼病変が疑われる場合は,眼科医へのコンサルテーションを行うべきである。

アトピー性皮膚炎の要点

  • アトピー性皮膚炎は特に先進国で多くみられ,小児の最大20%および成人の10%が罹患している。

  • 遺伝的に規定された皮膚バリアの異常により,皮膚刺激物による炎症が起こりやすくなり,ひいてはアトピー性皮膚炎の素因となる。

  • 一般的な誘因は過度の洗浄および入浴である。

  • よくみられる所見は年齢によって異なり,肘窩,膝窩,眼瞼,頸部,手関節のそう痒,鱗屑を伴う紅色の斑および局面,苔癬化などがある。

  • 重複感染(特に黄色ブドウ球菌[S. aureus]感染症とカポジ水痘様発疹症)がよくみられる。

  • アトピー性皮膚炎は多くの場合,成人期までに消失するか有意に軽減する。

  • 第1選択の治療法としては,保湿剤,コルチコステロイドの外用,そう痒に対する必要に応じた抗ヒスタミン薬などがある。

  • 外用療法に反応しない場合は,光線療法または免疫抑制薬の全身投与を考慮する。

アトピー性皮膚炎についてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Academy of Dermatology Association: Atopic dermatitis clinical guidelines

  2. American Academy of Dermatology Association: Consensus conference guidelines on pediatric atopic dermatitis

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