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シャーガス病

(アメリカトリパノソーマ症)

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

最終査読/改訂年月 2017年 2月
本ページのリソース

シャーガス病はクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)による感染症で,主な伝播経路はサシガメ類昆虫による咬傷であるが,まれに感染したサシガメやその糞に汚染されたさとうきびジュースまたは食品からの伝播,母から子への経胎盤感染,感染したドナーからの輸血または臓器移植を介した伝播もみられる。症状はサシガメ類に咬まれた後に皮膚病変または一側性の眼窩周囲浮腫で始まり,続いて発熱,倦怠感,全身性リンパ節腫脹,および肝脾腫に進行する;一部の症例では数年後に慢性心筋症,巨大食道症,または巨大結腸症が生じる。感染しても多くの人は一度も発症しない。AIDS患者では,皮膚または脳が侵されることがある。診断は末梢血または感染臓器吸引物中のトリパノソーマの検出による。抗体検査は感度が高く,役立つ場合がある。治療はnifurtimoxまたはbenznidazoleによる。

クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)は,サシガメ類の昆虫(reduviid bug,kissing bug,assassin bugとも呼ばれる)により伝播され,中南米とメキシコのほか,極めてまれに米国でもみられる。ヒト以外の病原体保有生物としては,ペットのイヌ,オポッサム,アルマジロ,ネズミ,アライグマ,その他多くの動物がある。より頻度は下がるが,クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)の伝播は,感染したサシガメ類やその糞に汚染されたさとうきびジュースまたは食品から,母から子へ経胎盤的に,あるいは感染したドナーからの輸血または臓器移植を介して起こることもある。

世界で800万人がクルーズトリパノソーマ(T. cruzi)に慢性的に感染していると推定されている。その大半はラテンアメリカに居住しているが,ラテンアメリカで感染した人のうち約30万人は現在米国に居住しており,欧州やその他の地域に居住する人もいる。ラテンアメリカでは,居住環境の改善,血液および臓器ドナーのスクリーニング,その他の措置により,クルーズトリパノソーマ感染症の発生率は低下している。

病態生理

シャーガス病は,感染した人間または動物を刺したサシガメが別の人間を刺すことで拡大する。感染した昆虫は,刺咬しながらメタサイクリック型(発育終末型)トリポマスティゴートを含む糞を皮膚上に落とす。これらの感染型原虫は刺咬傷から侵入するか,結膜または粘膜を通過して侵入する。原虫は侵入部位のマクロファージに侵入し,二分裂により増殖するアマスティゴートに変態する;アマスティゴートはトリポマスティゴートに発育し,血流および組織間隙に入り,別の細胞に感染する。網内系,心筋層,筋肉,神経系の細胞が侵されることが最も多い。

症状と徴候

シャーガス病は以下の3段階で発生する:

  • 急性期

  • 潜伏期(不確定期)

  • 慢性期

急性感染後に潜伏期(不確定期)が続き,無症候性のまま経過することもあれば,慢性疾患に進行することもある。免疫抑制により潜伏感染が再活性化され,高度原虫血症および第2急性期,皮膚病変,または脳膿瘍を来すことがある。

感染した妊婦の約1~5%が感染症を経胎盤的に伝播させ,流産,死産,または死亡率の高い慢性新生児疾患の原因となる。

急性期

流行地域における急性感染症は通常小児に起こり,無症状のこともある。症候性の場合は,曝露後1~2週間で症状が出現し始める。原虫の侵入部位に,硬結を伴う紅斑性の皮膚病変(シャゴーマ)が現れる。接種部位が結膜の場合は,結膜炎を伴う片側性の眼周囲および眼瞼浮腫と耳前リンパ節腫脹がみられ,これらはまとめてRomaña signと呼ばれる。

急性シャーガス病は,ごく一部の患者で致死的となる;死亡は,心不全を伴う急性心筋炎または髄膜脳炎に起因する。それ以外の患者では,無治療でも症状が治まる。

AIDS患者などの易感染性患者における一次急性シャーガス病は,重症かつ非定型的なことがあり,皮膚病変およびまれではあるが脳膿瘍を伴う。

不確定期

不確定期の感染症を有する患者では,クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)感染症の寄生虫学的かつ/または血清学的所見はみられるが,症状,身体所見の異常はみられないほか,心電図およびモニター心電図,心臓の超音波検査,胸部X線,または他の検査による評価で心臓または消化管の病変を示す所見もみられない。

感染患者の多くは,献血時の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によるスクリーニングと放射性免疫沈降法(radioimmunoprecipitation assay:RIPA)による確定診断で同定される。

慢性期

数年ないし数十年の潜伏期の後,20~40%で慢性疾患が発症する。主に以下の臓器に異常を来す:

  • 心臓

  • 消化管

慢性心筋症から,全房室の弛緩性拡大,心尖部動脈瘤,興奮伝導系の局所的変性を来す。心不全,失神,心ブロックや心室性不整脈による突然死,または血栓塞栓症を認めることがある。心電図で右脚ブロックまたは完全房室ブロックを認めることがある。

胃腸疾患アカラシアまたはヒルシュスプルング病に似た症状を引き起こす。シャーガス病の巨大食道症により嚥下困難を来し,誤嚥による肺感染症や重度の低栄養に至ることがある。巨大結腸症は長期間持続する重度の便秘および腸捻転を来しうる。

診断

  • 血液塗抹標本(薄層または厚層)または組織の光学顕微鏡検査(急性シャーガス病)

  • 血清学的検査によるスクリーニングと二次検査による確定

  • PCR検査

シャーガス病の急性期には末梢血トリパノソーマ数が高値となり,薄層または厚層塗抹標本により容易に検出できる。対照的に,潜伏期または慢性期には,血液中に原虫はほとんど存在しない。急性期シャーガス病の診断は,リンパ節または心臓から採取した組織を検査することで確定できる場合もある。

免疫能が正常な慢性シャーガス病患者では,クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)に対する抗体を検出するために,しばしば血清学的検査(間接蛍光抗体法[IFA],酵素免疫測定法[EIA],または酵素結合免疫吸着測定法[ELISA])が行われる。血清学的検査は感度が高いものの,リーシュマニア症などの疾患を有する患者では偽陽性となる場合がある。そのため,初回検査で陽性となったら,続いて1つまたは複数の別の検査(米国では一般的に放射性免疫沈降法[radioimmunoprecipitation assay:RIPA])を行うか,ときに血液塗抹標本または組織検体を光学顕微鏡下に観察することにより診断を確定する。流行地域と米国では,血液ドナーに対するクルーズトリパノソーマ(T. cruzi)のスクリーニング目的でも血清学的検査が行われている。

原虫血症である可能性が高い場合,例えば,急性シャーガス病,経胎盤感染による(先天性)シャーガス病,または輸血,移植,実験室での曝露により感染したシャーガス病などでは,PCR検査が用いられる。流行地域では,媒介体診断法(xenodiagnosis)が用いられており,これはシャーガス病が疑われる患者を吸血させたサシガメ類の昆虫を実験室で育て,その腸内容物を検査するものである。

慢性シャーガス病患者に対する補助検査

シャーガス病と診断したら,所見に応じて以下の検査を行うべきである:

  • クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)感染症と確認されたが無症状の場合:心電図検査によるスクリーニングおよびモニター心電図ならびに胸部X線

  • スクリーニング検査で心臓の異常が示唆されるか,心疾患を示唆する症状がみられる場合:心エコー検査

  • 嚥下困難または消化管のその他の症状もしくは所見がみられる場合:消化管の造影検査および/または内視鏡検査

治療

  • benznidazoleまたはnifurtimox

  • 支持療法

抗寄生虫薬による急性期シャーガス病の治療には以下の効果がある:

  • 原虫血症を急速に軽減する

  • 症状の持続期間を短縮する

  • 死亡リスクを軽減する

  • 慢性化の可能性を低下させる

治療の適応は,急性,先天性,または再活性化のシャーガス病の全症例と18歳以下の小児における不確定期の感染症である。患者が若年であるいほど,また治療の開始が早いほど,治療により寄生虫学的な治癒が得られる可能性が高くなる。

不確定期の感染症では,50歳未満の成人に対する治療が推奨されてきた。50歳以上の患者の治療は,潜在的なリスクとベネフィットに基づいて個別に判断する。

慢性シャーガス病による心臓または消化管の徴候が一旦現れたら,抗寄生虫薬は役に立たなくなると考えられている。

支持的な措置としては,心不全の治療,心ブロックに対するペースメーカー,抗不整脈薬,心臓移植,食道拡張術,下部食道括約筋へのボツリヌス毒素の注射,巨大結腸症に対する消化管手術などがある。

効果的な薬剤は以下の2つのみである:

  • benznidazole:成人および12歳以上の小児の場合,2.5~3.5mg/kg,経口,1日2回,60日間

    12歳未満の小児の場合,2.5~3.75mg/kg,1日2回,60日間

  • nifurtimox:17歳以上の患者の場合,2~2.5mg/kg,経口,1日4回,90日間

    11~16歳の小児の場合,3~3.75mg/kg,1日4回,90日間

    1~10歳の小児の場合,4~5mg/kg,1日4回,90日間

どちらの薬剤もCDCから入手できる。かなりの毒性があり,毒性は加齢とともに強くなる。治療の禁忌としては,重度の肝疾患または腎疾患などがある。

benznidazoleの頻度の高い有害作用としては,アレルギー性皮膚炎,末梢神経障害,食欲不振,体重減少,不眠などがある。

nifurtimoxの頻度の高い有害作用としては,食欲不振,体重減少,多発神経障害,悪心,嘔吐,頭痛,めまい,回転性めまいなどがある。

妊婦中の女性または授乳中の母親には,これらの薬剤を使用しないよう推奨されている。

予防

壁の漆喰塗り,草葺き屋根の交換,家屋への残留性殺虫剤(作用持続時間が長い殺虫剤)の反復散布により,サシガメを制御できる。旅行者の感染はまれであり,日干しレンガ造りの住居内で睡眠しないか,それが避けられないのなら蚊帳を使用することにより,感染を回避できる。

流行地域の多くのほか,2006年以降は米国でも,輸血および臓器移植関連のシャーガス病を予防するべく,供血者および臓器提供者に対するスクリーニング検査が実施されている。

要点

  • シャーガス病は,サシガメ類の昆虫(reduviid bug,kissing bug,assassin bug)により伝播されるクルーズトリパノソーマ( Trypanosoma cruzi)によって引き起こされる。

  • 中南米およびメキシコで流行が起きており,全世界では800万人が,米国では300,000人(主に移民)が感染していると推定されている。

  • 急性感染後に潜伏期(不確定期)が続き,無症状のまま経過することもあるが,20~40%では特に心臓および消化管を障害する慢性疾患に進行することもある。

  • 急性シャーガス病は,血液塗抹標本(薄層または厚層)または組織検体の光学顕微鏡検査を用いて診断する。

  • クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)の慢性感染症の診断は,血液を用いた酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によりスクリーニングし,放射性免疫沈降法(radioimmunoprecipitation assay:RIPA)またはその他の抗体検査により確定する。

  • 経胎盤的に感染した可能性のある症例と輸血,移植,もしくは実験室での曝露によって感染した可能性のある症例は,PCR検査により評価する。

  • 慢性シャーガス病を検出するには,心疾患を示唆する症状があるか,胸部X線,心電図,またはモニター心電図で心臓の異常が示唆される患者に対して心エコー検査を施行する;嚥下困難または他の消化管症状がある患者には,消化管の造影検査または内視鏡検査を施行する。

  • 急性期の患者と不確定期の多くの患者は,benznidazoleまたはnifurtimoxにより治療する。

  • 抗寄生虫薬は慢性シャーガス病には無効であるが,しばしば支持療法(例,心不全の治療,心ブロックに対するペースメーカー,抗不整脈薬,心臓移植,食道拡張術,下部食道括約筋へのボツリヌス毒素の注射,消化管手術)が助けになる。

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