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糞線虫症

(糞線虫感染症)

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

最終査読/改訂年月 2017年 2月
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糞線虫症は,糞線虫(Strongyloides stercoralis)による感染症である。所見には,発疹および肺症状(咳嗽や喘鳴など),好酸球増多,ならびに下痢を伴う腹痛などがある。診断は,便もしくは小腸内容物中またはときに喀痰中の幼虫の発見,あるいは血中抗体の検出による。治療はイベルメクチンまたはアルベンダゾールによる。

寄生虫感染症へのアプローチも参照のこと。)

糞線虫症は,米国南部の農村地域を含む熱帯および亜熱帯地域のいたるところで流行しており,人々が汚染された土壌に素肌を曝している場所および衛生状態が悪い場所でよくみられる。

流行地域に居住していた無症状のドナーから実質臓器移植を受けたレシピエントにおいて重篤な糞線虫(S. stercoralis)感染症が発生している(1)。

チンパンジーとヒヒに感染するStrongyloides fülleborniは,ヒトにおいて限定的な感染症を引き起こす可能性がある。

参考文献

  • 1.Abanyie FA, Gray EB, Delli Carpini KW, et al: Donor-derived Strongyloides stercoralis infection in solid organ transplant recipients in the United States, 2009–2013. Am J Transplant 15 (5):1369–1375, 2015. doi: 10.1111/ajt.13137.

病態生理

糞線虫(Strongyloides)の成虫は十二指腸および空腸の粘膜および粘膜下層に寄生する。産出された虫卵は腸管内腔で孵化し,ラブジチス型幼虫を放出する。これらの幼虫の大部分は便中に排出される。土壌中で数日経た後,感染性のフィラリア型幼虫に発育する。鉤虫と同様に,糞線虫(Strongyloides)属の幼虫はヒトの皮膚から体内に侵入し,血流を介して肺に移行し,肺毛細血管を突き破って気道を上行した後,嚥下されて腸管に達し,そこで約2週間かけて成熟する。ヒトと接触しない幼虫は土壌中で自由生活性の成虫となり,やがてその幼虫がヒト宿主に再び侵入するまで何世代か繁殖することがある。

一部のラブジチス型幼虫は腸管内で感染性のフィラリア型幼虫に変化し,そのまま腸壁から体内に再侵入して生活環を一気に進める(体内自家感染[internal autoinfection])。ときにフィラリア型幼虫が便中に排出され,殿部および大腿部の皮膚から再び体内に侵入することがある(体外自家感染[external autoinfection])。自家感染により,糞線虫症が何十年も持続しうる理由が説明できるほか,過剰感染症候群において感染虫体数が極端に多いことも一部説明できる。

過剰感染症候群

過剰感染症候群は,新たに生じた糞線虫(Strongyloides)感染症によることもあれば,それまで無症候性であった感染症によることもある。いずれの場合も,この寄生虫の通常の生活環には含まれない臓器(例,中枢神経系,皮膚,肝臓,心臓)を侵す播種性疾患に至る可能性がある。過剰感染症候群は通常,コルチコステロイドを使用している患者またはTH2型の細胞性免疫に障害がある患者,特にヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1)感染症患者に起こる。しかしながら,HIV/AIDS患者における過剰感染および播種性糞線虫症は,一般に想像されるよりはまれで,糞線虫(Strongyloides)の高度流行地域に住むHIV/AIDS患者でさえあまりみられない。

症状と徴候

糞線虫症は無症状のことがある。

幼虫爬行症(larva currens)(クリーピング病)は,糞線虫(Strongyloides)による感染症に特異的な皮膚幼虫移行症の一型であり,自家感染に起因する。発疹は通常肛門周囲領域から始まり,強いそう痒を伴う。典型的な幼虫爬行症は,線状または蛇行状に急速に移動する紅色の蕁麻疹様皮膚病変として現れる。非特異的な斑状丘疹状または蕁麻疹様発疹が生じる場合もある。

肺症状はまれであるが,多数寄生ではレフレル症候群が発生して,咳嗽,喘鳴,および好酸球増多を来すことがある。消化管症状としては,食欲不振,心窩部の疼痛および圧痛,下痢,悪心,嘔吐などがある。多数寄生では,吸収不良およびタンパク漏出性胃腸症から体重減少および悪液質を来しうる。

過剰感染症候群

消化管および肺の症状がしばしば顕著である。幼虫が膀胱または肺に侵入すると菌血症が発生することがある。イレウス,閉塞,多量の消化管出血,重度の吸収不良,および腹膜炎が生じることがある。肺症状としては,呼吸困難,喀血,呼吸不全などがある。胸部X線で浸潤を認めることがある。

その他の症状は,侵される臓器により異なる。中枢神経系の障害には,寄生虫性髄膜炎,脳膿瘍,およびびまん性脳侵襲などがある。グラム陰性細菌の二次感染による髄膜炎および菌血症は高頻度に発生するが,これはおそらく腸粘膜の破綻,移行する幼虫による細菌の輸送,またはその両方を反映していると考えられる。肝臓への感染により胆汁うっ滞性肝炎および肉芽腫性肝炎が起こりうる。

易感染性患者では,たとえ治療を行っても,感染が致死的となることがある。

診断

  • 便の鏡検または寒天培地法による幼虫の同定

  • 抗体の酵素免疫測定法

合併症のない糞線虫(Strongyloides)感染症の場合には,1つの便検体から幼虫を顕微鏡で発見できる確率は約25%である。濃縮便検体を繰り返し検査することで感度が高まる;便検体は最低3回採取することが推奨される。寒天培地法の感度は85%超である。検体を室温で数時間放置すると,ラブジチス型幼虫がより長いフィラリア型幼虫に変わり,過剰感染と誤診されることがある。

糞線虫症を示唆する所見(例,好酸球増多)のある患者において,上部小腸から吸引により検体を採取する場合,虫体量の少ない感染症でも陽性となる可能性があり,十二指腸および空腸の疑わしい病変の生検ができるよう,内視鏡的に実施すべきである。

過剰感染症候群においては,便,十二指腸内容物,喀痰,および気管支洗浄液,ならびにまれに髄液,尿,または胸水もしくは腹水からフィラリア型幼虫が発見されることがある。胸部X線により,びまん性間質性浸潤影,実質性陰影,または膿瘍を認めることがある。

糞線虫症には,いくつかの免疫学的診断検査が利用できる。酵素免疫測定法(EIA)は感度が高い(90%超)ため推奨される。IgG抗体は,通常播種性糞線虫症を有する易感染性患者においても検出できるが,抗体が検出不能であっても感染は除外されない。フィラリア症または他の線虫感染症を有する患者における交差反応が,偽陽性につながる場合もある。抗体検査の結果は,現在の感染と過去の感染の鑑別には使用できない。検査で陽性であれば,寄生虫学的診断を確定する努力を継続する必要がある。

化学療法が奏効すると抗体濃度が6カ月以内に低下するため,フォローアップには血清学的モニタリングが有用な場合がある。

PCRを用いた糞線虫(S. stercoralis)感染症の診断法が開発中である。

しばしば好酸球増多がみられるが,コルチコステロイドや化学療法の細胞傷害性薬剤などの薬剤によって抑制できる。

治療

  • イベルメクチン

  • あるいは,アルベンダゾール

糞線虫症の患者は全て治療すべきである。治癒率はアルベンダゾールよりイベルメクチンの方が高い(1)。

合併症のない感染症にはイベルメクチンが200μg/kg,経口,1日1回,2日間で使用されており,一般に忍容性良好である。ロア糸状虫(Loa loa の流行地である中央アフリカに旅行したことのある患者では,イベルメクチンを投与する前にこの寄生虫の同時感染がないか評価すべきである。イベルメクチンはロア糸状虫症の患者で重度の反応を惹起することがある。アルベンダゾール400mg,経口,1日2回,7日間の投与が代替となる。

易感染性患者では,長期的治療または治療コースの繰り返しが必要になる場合がある。経口薬を服用できない重症患者には,イベルメクチンの直腸内投与製剤のほか,ときにイベルメクチンの動物用皮下製剤が使用されている。

パール&ピットフォール

  • 合併症のない糞線虫症をイベルメクチンで治療する前に,ロア糸状虫(Loa loa)の同時感染がないか評価すべきである。

糞線虫症による過剰感染症候群は,生命を脅かす救急疾患である。唾液または便検査でラブジチス型幼虫およびフィラリア型幼虫が2週間陰性になるまで,イベルメクチン200μg/kg,経口,1日1回の投与を続ける。腸管からの幼虫の侵入に関連して併発する複数菌感染症を治療するため,広域抗菌薬が使用される。

糞線虫症の治療終了後は,2~4週間後に便検査を繰り返すことで,治癒を証明すべきである。便が陽性のままであれば,再治療が適応となる。

治療に関する参考文献

予防

糞線虫(Strongyloides)感染症の一次予防は鉤虫の場合と同じである。具体的には以下を行う:

  • 不衛生な排便を避ける(例,トイレを使用する)

  • 土壌との皮膚の直接接触を避ける(例,靴を履く,地面に座るときはシートなどを敷く)

過剰感染症候群の予防

コルチコステロイドやその他の免疫抑制薬による治療を開始する患者,HTLV-1感染患者,または別の理由で細胞性免疫が低下している患者には,糞線虫(Strongyloides)感染症の検査を行うことがある。以下のうち該当するものが1つでもある場合は,複数回の便検査および血清学的検査を行うべきである:

  • 糞線虫(Strongyloides)への曝露の可能性(最近または遠い過去でも流行地域の旅行歴または居住歴がある)

  • 原因不明の好酸球増多

  • 糞線虫症を示唆する症状

流行地の臓器移植のレシピエントまたはドナーの候補者にも検査を行うべきである。

そのような検査は,致死的となりうる過剰感染症候群の予防に役立つ可能性がある。

糞線虫症がみられる場合は,治療を開始すべきであり,免疫抑制療法を行う前に寄生虫学的治癒を証明すべきである。再発性の糞線虫症を有する免疫抑制状態の人は,治癒するまで治療コースを追加する必要がある。

要点

  • 糞線虫(Strongyloides)属の幼虫は,汚染された土壌を裸足で歩くヒトの皮膚から体内に侵入する。

  • 幼虫は血流に乗って肺に到達し,肺胞を通過して気道を上行し,続いて嚥下された後に腸管内で発育する;成虫が産んだ虫卵が腸管内で孵化し,幼虫が放出される;幼虫は,感染性のフィラリア型幼虫に発育し,体外自家感染または体内自家感染を引き起こし,サイクルを永久的に繰り返しうる。

  • HTLV-1に同時感染している患者,コルチコステロイドを服用中の患者,またはその他の理由で細胞性免疫が低下している患者は,致死的となりうる過剰感染症候群—肺,腸管,皮膚,およびこの寄生虫の本来の生活環と関わりのない他の臓器(例,中枢神経系,肝臓,心臓)を侵す播種性疾患—を発症することがある。

  • 症状としては,発疹,肺症状(咳嗽や喘鳴など),下痢を伴う腹痛などがある。

  • 複数の便検体,寒天培地法,または十二指腸吸引物を用いた鏡検により診断する。 過剰感染患者では幼虫が喀痰中で同定されることがある。

  • 合併症のない感染症は,イベルメクチンにより2日間治療する;代わりにアルベンダゾールを7日間投与することもできる。

  • 過剰感染症候群には,イベルメクチンによる長期の治療が必要である。

  • 全ての糞線虫(Strongyloides)感染症に対し,便検査を繰り返すことにより,治癒を証明すべきである。

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