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鼠径リンパ肉芽腫(LGV)

執筆者:

Sheldon R. Morris

, MD, MPH, University of California San Diego

レビュー/改訂 2020年 12月
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鼠径リンパ肉芽腫(LGV)は,Chlamydia trachomatisの3種類の株によって引き起こされる疾患であり,小さな,しばしば症状を伴わない皮膚病変を特徴とし,それに続いて鼠径部または骨盤の所属リンパ節腫脹を生じる。あるいは,肛門性交で感染した場合は,重度の直腸炎を呈することがある。無治療の場合,LGVはリンパの流れを閉塞し,性器組織の慢性的腫脹を引き起こすことがある。診断は臨床徴候によるが,血清学的検査または蛍光抗体法を用いた臨床検査による確認も通常可能である。治療は,テトラサイクリン系薬剤またはエリスロマイシンの21日間投与による。

LGVは,細菌であるChlamydia trachomatisの血清型 L1,L2,およびL3によって引き起こされる。これらの血清型は, トラコーマ トラコーマ トラコーマはChlamydia trachomatisによって生じる慢性結膜炎で,進行性の増悪および寛解が繰り返す特徴がある。予防可能な失明原因の世界第1位である。初期症状は,結膜充血,眼瞼浮腫,羞明,および流涙である。後に,角膜血管新生,ならびに結膜,角膜,および眼瞼の瘢痕化を生じる。診断は通常臨床的に行う。治療は抗菌薬の外用または全身投与による。 トラコーマは,北アフリカ,中東,インド亜大陸,オーストラリア,および東南... さらに読む トラコーマ ,封入体結膜炎, クラミジア尿道炎および子宮頸管炎 クラミジア,マイコプラズマ,およびウレアプラズマによる粘膜感染症 非淋菌性STDとしての尿道炎,子宮頸管炎,直腸炎,および咽頭炎は,主にクラミジアが原因であるが,まれにマイコプラズマまたはUreaplasma属細菌によることもある。クラミジアは,卵管炎,精巣上体炎,肝周囲炎,新生児結膜炎,および乳児肺炎も引き起こすことがある。未治療のクラミジア卵管炎は慢性化し,引き起こす症状は最小限であるが,重篤な転帰を招く。診断は培養,抗原の免疫測定法,または核酸検査による。治療はアジスロマイシンの単... さらに読む クラミジア,マイコプラズマ,およびウレアプラズマによる粘膜感染症 を引き起こす血清型のクラミジアとは異なり,所属リンパ節内に侵入して増殖することができる。

LGVは米国で散発的に発生しているが,アフリカの一部,インド,東南アジア,南米,およびカリブ海諸国では風土病である。女性よりも男性に診断されることの方がはるかに多い。LGVは,北米,欧州,オーストラリアの男性と性交する男性(men who have sex with men:MSM)の間で報告される機会が増えている。

LGVの症状と徴候

鼠径リンパ肉芽腫は3つの段階を経て発生する。

第1期は,約3日間の潜伏期間の後に始まり,侵入部位に小さな皮膚病変ができる。被覆する皮膚を破壊(潰瘍を生じる)することがあるが,非常に早く治癒するため,気づかれないうちに消失する場合がある。

第2期は通常,男性では2~4週間後に始まり,片側または両側の鼠径リンパ節腫脹を来し,大きな圧痛を伴う,ときに動揺性の腫瘤(横痃)を形成する。横痃はより深部の組織に付着し,被覆する皮膚の炎症を引き起こし,ときに発熱および倦怠感を来す。女性では背部痛または骨盤痛がよくみられる;最初の病変は子宮頸部または腟の上部に生じる可能性があり,その結果より深部の直腸周囲および骨盤リンパ節の腫脹および炎症を来す。瘻孔が複数形成され,そこから膿または血液が排出されることがある。

第3期には,病変が瘢痕を残して治癒するが,瘻孔は遺残または再発する。未治療の感染症による持続性の炎症は,リンパ管を閉塞し,腫脹および皮膚のただれを引き起こす。

肛門性交の受け側の人は,第1期に重度の直腸炎または直腸結腸炎を発症することがあり,血性かつ膿性の直腸分泌物を伴う。慢性期には, クローン病 クローン病 クローン病は,全層性炎症性腸疾患を引き起こす慢性疾患であり,通常は遠位回腸と結腸を侵すが,消化管のいかなる部位にも発生しうる。症状としては下痢や腹痛などがある。膿瘍,内瘻孔,外瘻孔,および腸閉塞が発生することがある。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。診断は大腸内視鏡検査および画像検査による。治療はメサラジン,コルチコステロイド,免疫調節薬,サイトカイン阻害薬,および抗菌薬のほか,しばしば手術による。... さらに読む クローン病 に類似した大腸炎から,しぶり腹と直腸狭窄や,骨盤リンパ節の炎症による疼痛が引き起こされる可能性がある。直腸鏡検査により,びまん性の炎症,ポリープ,および腫瘤または粘液膿性の滲出液を同定できることがあり,これは炎症性腸疾患に類似した所見である。

LGVの診断

  • 抗体の検出

  • ときに核酸増幅検査(NAAT)

鼠径リンパ肉芽腫は,陰部潰瘍,鼠径リンパ節腫脹,または直腸炎を有する患者や,この感染症がよくみられる地域に在住しているか訪問した患者,それらの地域から来た人と性的接触をもつ患者において疑われる。横痃を有する患者でもLGVが疑われるが,横痃は他の細菌によって引き起こされる膿瘍と間違われることがある。

診断には通常,クラミジア内毒素に対する抗体の検出(補体結合抗体価 > 64倍またはmicroimmunofluorescence[MIF]法による抗体価 > 256倍)か,ポリメラーゼ連鎖反応法をベースとするNAATによる遺伝子型判定が用いられてきた。抗体値は通常発症時またはその後まもなくして上昇し,高値を維持する。

免疫測定法(例,酵素結合免疫吸着測定法[ELISA])もしくはモノクローナル抗体を用いて膿を染色する蛍光抗体法によるクラミジア抗原の直接検査,またはNAATが,基準となる検査施設(例,米国では疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention])を通して実施できる場合がある。

全てのセックスパートナーを診断すべきである。

治療が成功したと思われる場合は,その後6カ月にわたりフォローアップを継続すべきである。

LGVの治療

  • 経口のテトラサイクリン系薬剤またはエリスロマイシン

  • 場合により,症状の緩和のために横痃のドレナージ

ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,エリスロマイシン500mg,経口,1日4回,またはテトラサイクリン500mg,経口,1日4回,それぞれ21日間の服用は,早期例に効果的である。アジスロマイシン1g,経口,週1回,1~3週間はおそらく効果的であるが,クラリスロマイシンと同様十分に評価されていない。

後期に生じた損傷組織の腫脹は,細菌を排除しても消退しないことがある。症状緩和に必要であれば,穿刺または外科的手技により横痃をドレナージするが,ほとんどの患者は抗菌薬に速やかに反応する。横痃および瘻孔は手術を要することがあるが,直腸狭窄は通常は拡張できる。

発症前の60日間に鼠径リンパ肉芽腫の患者と性的接触があった人は,曝露部位に応じて尿道,子宮頸部,または直腸のクラミジア感染症に関する診察および検査を受けるべきである。このような人では,LGVを示唆する所見の有無を問わず,推定的に治療(アジスロマイシン1g,経口,単回投与またはドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間)を開始すべきである。

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