米国では,常時およそ1400万人が尖圭コンジローマを有し,毎年約36万件の症例が新規発生している。米国ではまた,性行為によるHPV感染症が毎年約1400万件新規発生している。50歳までに,性的に活動的な女性の約80%が少なくとも1度はHPVに感染する。
ほとんどのHPV感染症は1~2年で自然に消失するが,一部は持続する。
病因
HPVには100を超える型が知られている。その一部は皮膚に尋常性疣贅を引き起こす。主に肛門性器領域の皮膚および粘膜に感染するものもある。
肛門性器HPV感染の重要な症候としては以下のものがある:
尖圭コンジローマは,主にHPV 6型および11型によって引き起こされる良性の肛門性器疣贅である。低悪性度および高悪性度の上皮内腫瘍および癌がHPVによって引き起こされる可能性がある。実質的に全ての子宮頸癌がHPVによるものであり,約70%は16型および18型により,残りの多くは31型,33型,35型,および39型によって引き起こされる。主に肛門性器領域を侵すHPVの型は,口腔性器接触により中咽頭へ伝播する;中咽頭癌の多くの症例は,16型に起因していると考えられる。HPV 16および18型は,外陰,腟,陰茎などの他の部位にも癌も引き起こす可能性がある。
HPVは皮膚と皮膚が接触する際に,病変から伝播する。肛門性器領域を侵す型は,通常腟または肛門への挿入による性交によって伝播するが,手指や口腔による接触,および挿入を伴わない性器接触が関与する場合もある。
尖圭コンジローマは,易感染性患者でより多くみられる。増殖の速度は様々であるが,妊娠,免疫抑制,または皮膚の浸軟は,疣贅の増殖および拡大を加速する可能性がある。
症状と徴候
疣贅は1~6カ月の潜伏期の後に出現する。
目に見える肛門性器疣贅は通常,軟らかく湿性で微小な,ピンク色または灰色のポリープ(隆起性病変)であり,以下の特徴をもつ:
これらの疣贅は通常,症状を伴わないが,一部の患者では,そう痒,灼熱感,または不快感を伴う。
男性では,疣贅は包皮下,環状溝,外尿道口,および陰茎幹に最もよくみられる。病変が肛門周囲および直腸内に発生することもあり,特に男性同性愛者でその傾向が強い。
女性では,疣贅は外陰,腟壁,子宮頸部,および会陰に最もよくみられ,尿道および肛門部が侵されることもある。
HPV16および18型は,通常は頸管内または肛門に扁平疣贅を引き起こし,これらは肉眼で見ることが難しく,臨床的に診断することは困難である。
診断
尖圭コンジローマの診断は通常,臨床的に行う。通常は,その外観から第2期梅毒の扁平コンジローマ(平坦に隆起した病変)および癌腫と鑑別される。しかしながら,梅毒血清学的検査を初期および3カ月後に行うべきである。癌腫を除外するため,非定型,出血性,潰瘍性,または持続性の疣贅には生検が必要になる場合がある。
頸管内疣贅および肛門疣贅は,コルポスコピーおよび肛門鏡検査によってのみ観察できる。コルポスコピーの前に,3~5%の酢酸溶液を垂らして2~3分間置いておくと,疣贅が白っぽくなり小さな疣贅が見やすくなるため検出しやすくなる。
HPV DNAの核酸増幅検査(NAAT)により,診断が確定し,HPVの型の判別ができるが,HPV管理における役割はいまだ不明確である。
治療
肛門性器疣贅の治療は,どれも完全に満足できるものではなく,再発の頻度が高く,再発時には再治療を要する。免疫能が正常な患者では,尖圭コンジローマは無治療でも消失することがある。易感染性患者では,疣贅は治療に反応しにくい可能性がある。
他より明らかに優れた治療があるわけではないため,肛門性器疣贅の治療は他の要因を考慮して決めるべきであり,主に疣贅の大きさ,数,部位;患者の嗜好;治療費用;簡便性;有害作用;ならびに医師の経験を参考にする(Centers for Disease Control and Prevention[CDC]の2015 STDs Treatment Guidelines: Anogenital Wartsを参照のこと)。
尖圭コンジローマは,凍結療法,電気焼灼,レーザー,または外科的切除で除去できる;その際には局所麻酔か全身麻酔を用いるが,どちらを選択するかは病変の大きさと除去する数によって決まる。レゼクトスコープを用いた除去が最も効果的な治療であり,全身麻酔下で施行される。
抗有糸分裂薬(例,podophyllotoxin,podophyllin,フルオロウラシル),腐食薬(例,トリクロロ酢酸),インターフェロン誘導物質(例,イミキモド),およびsinecatechin(機序不明な新規のボタニカル製品)などの外用薬が広く使用されているが,通常は数週間から数カ月にわたって何度も塗布する必要があり,しばしば無効である。局所治療の前に,ワセリンにより周辺組織を保護すべきである。治療後,病変部に疼痛が生じる可能性について患者に警告すべきである。
インターフェロンα(例,インターフェロンα-2b,インターフェロンα-n3)の病変内または筋肉内注射により,皮膚および性器の難治性病変が消失した例が報告されているが,至適な用量や長期的な影響はまだ不明である。また,性器のボーエン様丘疹症(16型HPVが原因)患者の一部では,インターフェロンαによる治療後,初め病変は消失したがその後浸潤癌となって再び現れている。
尿道内病変には,チオテパ(アルキル化薬)を尿道に注入するのが効果的である。男性では,尿道病変に対してフルオロウラシルの1日2回~1日3回の塗布が非常に効果的であるが,まれに腫脹を引き起こして,尿道閉塞に至ることがある。
パパニコロウ(Pap)検査の結果により,追加治療が必要となりうる他の子宮頸部異常(例,異形成,癌)が除外されるまで,頸管内病変は治療すべきではない。
包皮環状切除を受けていない男性では,包皮下面の湿潤部位を除去することで,再発を予防できる可能性がある。
頸管内疣贅を有する女性のセックスパートナーおよびボーエン様丘疹症患者のセックスパートナーは,HPV関連病変について定期的にカウンセリングおよびスクリーニングを受けるべきである。直腸内のHPVについても,同様のアプローチが行える。
尖圭コンジローマ患者の現在のセックスパートナーは,診察を受け,感染している場合は治療を受けるべきである。
予防
目視可能な尖圭コンジローマの90%以上の原因である2つのHPV型(6型および11型)を予防する9価ワクチンおよび4価ワクチンが使用可能である。これらのワクチンは,ほとんどの子宮頸癌の原因となっている2つの型(16型および18型)のHPVにも予防効果がある。9価ワクチンは,子宮頸癌の約15%を占めるその他の型のHPV(31型,33型,45型,52型,58型)に対しても予防効果がある。
16型および18型の感染を予防する2価ワクチンも利用できる。
これらのHPVワクチン(4価または2価— 7~18歳を対象期間とする推奨予防接種スケジュール)は,初回感染の予防として9~26歳の女児および女性に推奨される。接種回数は3回であるが,11~12歳の間に行うのが望ましい。ワクチンは性行為を経験する前に接種すべきであるが,性行為の経験がある女児および女性もワクチン接種を受けるべきである。
男性には,9価ワクチンまたは4価ワクチンのみが推奨される。11~12歳の男児に対する3回のワクチン接種が推奨されているが,3回の接種を受けていない場合は,13~21歳の男児および男性も接種を受けるべきである。このワクチンは26歳までの男性で,男性と性交渉を行う者または免疫不全の患者にも推奨されており,3回の接種を受けていない場合は,22~26歳の男性も接種を受けてよい。
疣贅の位置が位置であるため,コンドームでは完全に感染を防御できない可能性がある。