原因菌であるActinomyces属細菌(A. israeliiが最も頻度が高い)は,しばしば歯肉,扁桃,および歯に共生菌として常在している。しかしながら,感染例の多く(大半ではない)が複数菌によるもので,病変からは他の細菌(口腔嫌気性菌,ブドウ球菌,レンサ球菌,Aggregatibacter属[以前の分類ではActinobacillus actinomycetemcomitans],腸内細菌科)が高頻度に培養される。
放線菌症は成人男性で最もよくみられ,いくつかの病型がある:
症状と徴候
特徴的病変は,周囲を肉芽組織に取り囲まれた,互いに交通のある複数の小さな膿瘍から成る硬結性の領域である。病変は皮膚につながる瘻孔を形成する傾向があり,そこから「硫黄顆粒(sulfur granules)」(円形または球形,通常は黄色,直径1mm以下)を含む膿性分泌物が排出される。感染は隣接組織に拡大するが,血行性の拡大はごくまれである。
頸部顔面放線菌症は通常,口腔粘膜下または頸部皮下の小さく扁平で硬い腫脹(疼痛を伴う場合もある)として,または下顎の骨膜下腫脹として発症する。その後,一部の領域が軟化していき,特徴的な硫黄顆粒を排出する瘻管および瘻孔となる。頬,舌,咽頭,唾液腺,頭蓋骨,髄膜,および脳が直接の伝播により侵されることがある。
腹部放線菌症では,腸管(通常は盲腸と虫垂)および腹膜が感染する。疼痛,発熱,嘔吐,下痢または便秘,るいそうが特徴的である。単一または複数の腹部腫瘤が形成され,部分的な腸閉塞の徴候を引き起こす。排膿を伴う瘻管および腸瘻が形成されて,外腹壁へ感染が拡大することがある。
限局性骨盤内放線菌症では,IUDを使用する患者において帯下と骨盤痛または下腹部痛がみられる。
胸部放線菌症では,肺病変が結核に類似する。胸痛,発熱,および湿性咳嗽が出現する前に広範な侵襲が起こることがある。胸壁の穿孔と排膿を伴う慢性の瘻孔形成を来すことがある。
全身性放線菌症では,感染が皮膚,椎体,脳,肝臓,腎臓,尿管,女性の骨盤内臓器など複数の領域に血行性に伝播する。これらの部位に関連した多彩な症状(例,背部痛,頭痛,腹痛)がみられる。
診断
診断は臨床的に疑い,喀痰(理想的には内視鏡下で採取したもの),膿汁,または生検材料の鏡検および培養によりA. israeliiを同定することによって確定する。しばしば所見に応じて画像検査(例,胸部X線,腹部または胸部CT)を施行する。
膿汁または組織検体中では,起因菌は特徴的な硫黄顆粒として観察されるか,または分岐状および分岐のない波状の細菌線維,膿細胞,ならびに細胞残屑がもつれ合った集塊として観察され,その周囲は放射状,棍棒状を呈する硝子質の屈折性線維の層(組織内ではヘマトキシリン-エオジン染色で染まるが,グラム染色は陽性)に取り囲まれる。
どの部位の病変も悪性腫瘍に類似することがある。肺病変は,結核や癌の病変と鑑別しなければならない。腹部病変の大半は回盲部に発生し,開腹時と腹壁に排膿を伴う瘻孔がみられる場合を除き,診断は困難である。肝臓の穿刺吸引生検は,持続性の瘻孔を残す可能性があるため,避けるべきである。
予後
治療
ほとんどの患者は抗菌薬に反応するが,広範な組織の硬結と比較的脈管に乏しいという病変の性質から,反応は通常緩慢である。したがって,治療は症状と徴候が消失するまで,少なくとも8週間,ときに1年以上継続しなければならない。
高用量のベンジルペニシリン(例,300万~500万単位,静注,6時間毎)が通常効果的である。約2~6週間後には,ペニシリンV 1g,経口,1日4回で代用してもよい。ペニシリンの代わりにテトラサイクリン500mg,経口,6時間毎またはドキシサイクリン100mg,12時間毎を使用してもよい。ミノサイクリン,クリンダマイシン,およびエリスロマイシンによる治療成功例も報告されている。病変部の培養で検出された他の病原体に対処するために,抗菌薬のレジメンを拡張してもよい。
高圧酸素療法の有用性を示唆する症例報告もある。
広範かつ複数回の外科的処置が必要になることがある。ときに,小さな膿瘍は穿刺吸引で対処でき,大きな膿瘍には排膿,瘻孔には外科的切除を行う。