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ロッキー山紅斑熱(RMSF)

(紅斑熱;ダニ熱;ダニチフス)

執筆者:

William A. Petri, Jr

, MD, PhD, University of Virginia School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 7月
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ロッキー山紅斑熱(RMSF)は,Rickettsia rickettsiiによって引き起こされ,マダニによって伝播される。症状は高熱,重度の頭痛,および発疹である。

ロッキー山紅斑熱はリケッチア感染症の一種である。

RMSFの疫学

RMSFの発生は西半球に限られている。RMSFは当初ロッキー山脈諸州で確認されたが,実際には米国全土と中南米各地で発生している。ヒトへの感染は,主として3月から9月まで,すなわちダニ成虫の活動時期で,ダニの蔓延する地域に人々が出掛ける可能性が最も高い季節に発生する。米国南部諸州では,年間を通して散発例が発生している。発生率は15歳未満の小児と仕事やレジャーでダニの蔓延地域を頻繁に訪れる人々で最も高い。Centers for Disease Control and Prevention: RMSF–epidemiology and statisticsも参照のこと。)

R. rickettsiiは固い殻を有するダニ(マダニ科)に寄生し,寄生されたメスは子孫に菌を伝播する。これらのダニが病原体保有生物である。Dermacentor andersoni(森林ダニ)は米国西部における主要媒介生物である。D. variabilis(イヌダニ)は米国東部および南部における主要媒介生物である。

RMSFはおそらくヒトからヒトへ直接伝播しない。

RMSFの病態生理

RMSFの症状と徴候

ロッキー山紅斑熱の潜伏期間は平均7日であるが,範囲は3~12日と幅があり,潜伏期間が短いほど感染は重症となる。

発症は突然で,重度の頭痛,悪寒,極度の疲労,および筋肉痛がみられる。発熱は数日以内に39.5~40℃に達し,高熱が持続するが(重症例では15~20日間),朝には軽快することがある。

RMSFの患者のほとんどで,有熱期の1~6日目の間に,手関節,足関節,手掌,足底,および前腕に発疹が出現し,急速に頸部,顔面,腋窩,殿部,および体幹に拡大する。当初は斑状でピンク色を呈するが,やがて斑状丘疹状で暗色に変化する。病変部は4日ほどで点状出血となるが,融合して大きな出血部位を形成した後に潰瘍化することがある。

神経症状としては,頭痛,不穏,不眠症,せん妄,昏睡などがあり,いずれも脳炎を示唆する。

重症例では血圧低下が生じる。肝腫大を認めることがあるが,黄疸はまれである。悪心および嘔吐がよくみられる。限局性肺炎が起きることもある。無治療の患者では肺炎,組織壊死,循環不全を起こすことがあり,ときに脳や心臓の損傷も生じる。劇症例では,ときに心停止による突然死が起きる。

RMSFの診断

  • 臨床的特徴

  • 発疹部生検検体の蛍光抗体染色法による起因菌の検出

  • 急性期および回復期血清での血清学的検査(急性期には血清学的検査は有用でない)

  • ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法

西半球であればどこであれ,森の中やその近隣に住む患者に原因不明の発熱,頭痛,および極度の疲労がみられ,重篤感を呈している場合には,ダニへの接触歴の有無にかかわらず,ロッキー山紅斑熱を疑うべきである。ダニ刺咬の既往が明らかになる患者は全体の約70%である。

RMSFの確定には通常検査が必要であるが,現在利用できる検査は限られているため,普通は検査結果が確定する前に治療を始めなければならない。

発疹があれば,その部位から皮膚生検検体を採取すべきである。PCRまたは免疫組織化学染色が使用され,いずれもかなり迅速に結果が得られる。急性期に抗菌薬治療を始める前に組織検体を採取した場合,これらの検査の感度は約70%である。しかしながら,結果が陰性であったとしても,RMSFを示唆する臨床像がみられるのであれば,治療を控えるべきではない。

R. rickettsiiの培養検査は専門の検査施設でのみ行える。

パール&ピットフォール

  • 検査結果が陰性であったとしても,RMSFを示唆する臨床像がみられるのであれば,治療を控えるべきではない。

血清学的検査については,通常は回復期でのみ陽性となることから,急性期の診断には有用とならない。通常,2つのペア検体を用いた間接蛍光抗体法が行われる。

RMSFの治療

  • ドキシサイクリン

抗菌薬投与を早期に開始することにより,死亡率が有意に(約20%から5%へ)低下し,ロッキー山紅斑熱の大半の合併症を予防できる。流行地域に滞在してダニに咬まれたが臨床症候を認めない患者については,直ちに抗菌薬を投与するべきではない。

発熱,頭痛,および倦怠感(発疹の有無は問わない)が発生した時点で速やかに抗菌薬を開始するようにすべきである。

初期治療としては,ドキシサイクリン200mgを経口で単回投与した後,成人では100mgを1日2回,体重45kg未満の小児では2.2mg/kgを1日2回,発熱が治まってから少なくとも3日間投与すれば,臨床的改善の所見が認められる。最低限の治療期間は5~7日間である。ドキシサイクリンは成人と小児の両方に使用されている。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)により,歯の着色や歯のエナメル質の脆弱化を引き起こすことなく,小児にドキシサイクリンを短期間(5~10日間)使用できることが明らかにされている。ドキシサイクリン以外の抗菌薬を使用すると,重症化および死亡のリスクが増大する。

クロラムフェニコール500mg,経口または静注,1日4回,7日間が第2選択の治療である。経口クロラムフェニコールは米国では利用できず,その使用には血液指標のモニタリングが必要となる血液有害事象との関連が認められている。

RMSFの重症患者では,疾患後期に毛細血管の透過性が著しく亢進することがあり,そのため輸液は,肺水腫および脳浮腫の悪化を回避しつつ血圧を維持できるように,慎重に行うべきである。

RMSFの予防

ロッキー山紅斑熱の予防に利用できる効果的なワクチンはない。ダニ刺咬の予防策を講じることが可能である。(Centers for Disease Control and Prevention: Preventing tick bitesも参照のこと。)

シカダニおよびイヌダニの大きさの比較

シカダニ

ダニを皮膚に到達させない対策:

  • 遊歩道や小道から外れない

  • ズボンの裾をブーツまたは靴下の中に入れる

  • 長袖のシャツを着用する

  • ジエチルトルアミド(DEET)を含有する防虫剤を皮膚に塗布する

毒性反応が報告されているため,非常に年少の小児に対するDEETの使用には注意が必要である。衣服へのペルメトリンの散布はダニを効果的に死滅させる。流行地域では,ダニが付着していないか頻繁に調べることが必須である(特に有毛部と小児)。

吸血して膨張したダニは注意深く除去すべきであり,病原体の伝播につながる恐れがあるため,指でつぶしてはならない。ダニの体部をつまんだり,強い力をかけたりしてはならない。小さなピンセットで頭部を徐々に引っ張れば,ダニを除去することができる。ダニが付着していた部位はアルコールで清拭する。ワセリン,火を付けたマッチ,その他の刺激物はダニを除去する方法としては無効であり,使用してはならない。

ダニを根絶できる実用的な方法はないが,流行地域では小動物の個体数を制御することでダニの個体数を低減できる可能性がある。

RMSFの要点

  • ロッキー山紅斑熱(RMSF)という名称に反して,本症は米国のほぼ全域と中南米各地で発生している。

  • 小血管の血管炎により中枢神経系,肺,心臓,腎臓,肝臓,および脾臓に重篤な病態が生じる可能性があり,無治療での死亡率は約20%である。

  • 症状(重度の頭痛,悪寒,極度の疲労,筋肉痛)は突然始まり,その後発熱がみられ通常は発疹が現れる。

  • 神経症状(頭痛,不穏,不眠症,せん妄,昏睡)が発生することがあり,脳炎を示唆する。

  • 西半球であればどこであれ,森の中やその近隣に住む患者に原因不明の発熱,頭痛,および極度の疲労がみられ,重篤感を呈している場合には,ダニへの接触歴の有無にかかわらず,RMSFを疑う。

  • 急性期に皮膚生検検体を用いてPCRまたは免疫染色を行うが,感度は約70%に過ぎないため,結果が陰性であっても抗菌薬による治療を控えるべきではない。

  • ドキシサイクリンにより治療し,循環血液量減少および/または臓器症状があれば必要に応じて支持療法を施す。

RMSFについてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

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