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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症

執筆者:

Edward R. Cachay

, MD, MAS, University of California, San Diego

最終査読/改訂年月 2016年 2月
本ページのリソース

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れるリスクは,CD4陽性リンパ球のレベルに相関する。HIVは脳,性腺,腎臓,および心臓を直接障害することがあり,それぞれ認知障害,性腺機能低下症,腎機能不全,および心筋症を引き起こす。臨床像は無症候性キャリアから後天性免疫不全症候群(AIDS)まで様々であるが,AIDSは重篤な日和見感染症もしくは悪性腫瘍の存在またはCD4陽性細胞数200/μL未満によって定義される。HIV感染症は,抗体,核酸(HIV RNA),または抗原(p24)検査によって診断できる。全ての成人および青年を対象としてスクリーニングをルーチンに勧めるべきである。治療の目的は,HIVの酵素を阻害する3剤以上の薬剤を併用することによりHIVの複製を抑制することであり,複製の抑制を維持できれば,治療によりほとんどの患者で免疫機能が回復する。

乳児および小児におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症,National Institute's of Health[米国国立衛生研究所]のAIDS Info web site,および HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of Americaの勧告:Primary Care Guidelines for the Management of Persons Infected with HIV。)

レトロウイルスは,エンベロープを有するRNAウイルスのうち,逆転写により産生したDNAコピーを宿主細胞のゲノムに組み込むことによって自己複製する機序をもつものである。2種類のHIVと2種類のヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV— HTLV感染症)など,数種類のレトロウイルスはヒトにおいて重篤な疾患を引き起こす。

HTLV感染症

ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)1型または2型の感染では,T細胞性白血病およびリンパ腫,リンパ節腫脹,肝脾腫,皮膚病変,ならびに易感染状態が生じる可能性がある。一部のHTLV感染患者は,HIV感染患者で起こるものと類似した感染症を発症する。HTLV-1は脊髄症も引き起こす可能性がある( 熱帯性痙性対麻痺/HTLV-1関連脊髄症 (TSP/HAM))。

ほとんどの症例は,授乳により母から子へ伝播するが,HTLV-1は性行為,血液のほか,まれにHTLV-1血清反応陽性のドナーからの臓器移植を介して伝播することもある。

世界中のほとんどのHIV感染症の原因はHIV-1であるが,HIV-2も西アフリカの諸地域における感染症のかなりの割合を占める。西アフリカの一部の地域では,両方のウイルスが蔓延しており,患者に同時感染することがある。HIV-2はHIV-1よりも病原性が低いようである。

HIV-1の起源は,20世紀の前半に中央アフリカで近縁種のチンパンジーウイルスが初めてヒトに感染した際である。流行が世界的に広がり始めたのは1970年代後半で,AIDSは1981年に認識された。

World Health Organization(世界保健機関ーWHO )によると,2015年の時点で世界で3690万人(うち260万人は小児)がHIVに感染しているとされている(1)。ほぼ半数は感染していることに気づいていない。2014年には,120万人が死亡し,200万人が新たに感染した。新たな感染症のほとんど(95%)が発展途上国で発生し,2分の1超が女性で,7分の1が15歳未満の小児である。サハラ以南アフリカの国々では,発生率が10年前は非常に高かったのに比べ,現在では著しく減少している。

2012年には米国で,13歳以上の人のうち推定120万人がHIVに感染していた;そのうち約12.8%ではHIVが診断されていなかった。米国では毎年約5万人が新たに感染していると推定される。2010年(データがある最新の年)には,4万7500人の新しい症例があった。新たな感染症のほぼ3分の2が男性同性愛者および男性両性愛者で起こったもので,黒人/アフリカ系アメリカ人では白人に比べて8倍多くの症例がみられた(2)。

AIDS

AIDSは以下の1つ以上に該当する場合と定義される:

  • 特定の疾患の発症につながるHIV感染症( AIDS指標疾患 [3])

  • CD4陽性Tリンパ球数(ヘルパー細胞)が200/μL未満

  • CD4陽性細胞数が14%以下

AIDS指標疾患は以下の通りである:

  • 重篤な日和見感染症

  • 細胞性免疫の異常が素因となる特定の悪性腫瘍(例,カポジ肉腫,非ホジキンリンパ腫)

  • 神経機能障害

AIDS指標疾患

  • 細菌感染症(複数または再発性)

  • 気管支,気管,または肺のカンジダ症

  • 食道のカンジダ症

  • 子宮頸癌(浸潤性)

  • コクシジオイデス症(播種性または肺外)

  • クリプトコッカス症(肺外)

  • クリプトスポリジウム症(慢性腸管型,1カ月以上持続)

  • サイトメガロウイルス感染症(肝臓,脾臓,またはリンパ節の感染症以外,生後1カ月以降の発症)

  • サイトメガロウイルス網膜炎(視力障害を伴う)

  • 脳症(HIV関連)

  • 単純ヘルペス:慢性潰瘍(1カ月以上持続)または気管支炎,肺炎,もしくは食道炎(生後1カ月以降の発症)

  • ヒストプラズマ症(播種性または肺外)

  • イソスポーラ症(慢性腸管型,1カ月以上持続)

  • カポジ肉腫

  • リンパ腫,バーキット(または同等の用語)

  • リンパ腫,免疫芽球型(または同等の用語)

  • リンパ腫(原発性,脳内発生のもの)

  • Mycobacterium avium complexまたはMycobacterium kansasii感染症(播種性または肺外)

  • 結核菌(Mycobacterium tuberculosis)感染症(肺,播種性,肺外のいずれの部位でも)

  • その他の種または種未同定の抗酸菌(Mycobacterium)による感染症(播種性または肺外)

  • Pneumocystis jirovecii(以前のPneumocystis carinii)肺炎

  • 肺炎(再発性)

  • 進行性多巣性白質脳症

  • サルモネラ(Salmonella)敗血症(再発性)

  • 脳トキソプラズマ症(生後1カ月以降の発症)

  • HIVに起因する消耗性症候群

参考文献

伝播

HIVの伝播には,遊離HIVウイルス粒子または感染細胞を含む体液(特に血液,精液,腟分泌物,母乳,唾液,または創傷もしくは皮膚および粘膜病変からの滲出物)との接触を要する。急性感染症の間は,たとえ無症状でもウイルス粒子の量が多いため,伝播が起きる可能性が高い。唾液を介して,または咳嗽もしくはくしゃみの際の飛沫を介して伝播することはありうるものの,極めてまれである。職場,学校,家庭で起こりうる日常的な非性的接触ではHIVの伝播は起こらない。

通常は以下により伝播する:

  • 性感染:性交による性器,直腸,または口腔内分泌液の直接的な移行

  • 針や器具関連:血液で汚染された針の共用または汚染された器具への暴露

  • 母子感染:出産または授乳

  • 輸血または移植関連

性行為感染

フェラチオやクンニリングスなどの性行為は比較的リスクが低いとみられているが,絶対に安全とは言えない( 性行為ごとのHIV伝播のリスク)。精液または腟分泌物を飲み込んでも,リスクは有意に増加しない。しかしながら,口腔内に開放したびらんが存在するとリスクが増加する可能性がある。

最もリスクの高い性行為は,粘膜の外傷を引き起こす行為であり,典型的には性交である。アナルセックスを受ける側は最もリスクが高い。粘膜の炎症はHIVの伝播を容易にする;淋菌感染症,クラミジア感染症,トリコモナス症,および特に潰瘍を引き起こす疾患(例,軟性下疳,ヘルペス,梅毒)などの性感染症は,リスクを数倍に高める。

異性愛者では,性交毎の感染リスクは約1/1000と推定されているが,以下の集団ではリスクが上昇する:

  • HIV感染症の初期または進行期(血漿中および性器分泌物中のHIV濃度が高い)

  • 若年者

  • 潰瘍性性器病変のある患者

包皮環状切除により,男性がHIVに感染するリスクは約50%低下するようであるが,これは切除される陰茎粘膜(包皮下側部)が,陰茎の残りの部分を覆う角化重層扁平上皮と比べて,HIV感染症に対する感受性がより高いことが理由であると考えられる。

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性行為ごとのHIV伝播のリスク

リスク

行為

なし(びらんが存在しない限り)

ドライキス

身体同士のこすり合いおよびマッサージ

挿入型性器具の共有しない使用

精液または腟分泌物との接触がない場合のパートナーによる性器の刺激

入浴またはシャワー浴

皮膚に創傷がない場合の便または尿との接触

理論的にあり(びらんが存在しない限り,リスクは極めて低い)

ウェットキス

コンドームを使用する場合の射精を伴わないフェラチオ(男性に対して行われるオーラルセックス)

遮蔽物がある場合のクンニリングス(女性に対して行われるオーラルセックス)

口腔と肛門の接触

腟または肛門への指の挿入(手袋着用の有無は問わない)

消毒済みの挿入型性器具の共用

低い

コンドームを使用しない場合の射精を伴うフェラチオ

遮蔽物がない場合のクンニリングス

コンドームを正しく使用する場合の腟または肛門性交

消毒されていない挿入型性器具の共用

高い

コンドームを使用しないか正しく装着しない場合の腟または肛門性交(射精の有無は問わない)

注射針および器具関連の伝播

感染血液で汚染された医療器具を皮膚に刺し,曝露後の抗レトロウイルス薬による予防法を施さない場合,HIVが伝播されるリスクは平均約1/300(300回に1回)である。抗レトロウイルス薬による予防を迅速に行えば,リスクはおそらく1/1500未満に低下する。創傷が深かったり,血液が接種されたりすると(例,汚染された中空針により),リスクが高まるようである。中空針の使用と動脈または静脈の穿刺も,多量の血液が移行するため,血液の付着した中実針または他の貫通用器具と比べてリスクが高まる。したがって,他の注射薬物使用者の静脈に刺入された注射針を共用することは,非常にリスクの高い行為である。

適切な予防措置を講じている感染した医療従事者から伝播するリスクは,不明ではあるが最小限と思われる。1980年代に1人の歯科医が,方法は不明であるが,6名以上の担当患者にHIVを感染させた。しかしながら,外科医を含め,HIVに感染した他の医師に治療された患者の広範囲な調査では,症例はほとんど発見されていない。

母親からの伝播

HIVは以下の経路で母から子に伝播される:

  • 経胎盤感染

  • 周産期感染

  • 経母乳感染

無治療の場合,出生時の伝播のリスクは約25~35%である。

HIVは母乳に排出されるため,HIVに感染した未治療の母親が授乳することで,過去に感染を免れた乳児の約10~15%にHIVが伝播されうる。HIV陽性の母親を妊娠中,分娩中,および授乳中に抗レトロウイルス薬で治療することで,この割合は劇的に低下しうる。

多くのHIV陽性の妊婦は,治療を受けるか予防薬を服用しているため,多くの国々で小児のAIDSの発生率が低下している( 乳児および小児におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症)。

輸血および移植関連の伝播

献血者に対してHIV抗体およびHIV RNAの両検査によるスクリーニングを行うことで,輸血による伝播のリスクが最小限に留められている。米国において,現在輸血を介したHIV感染のリスクは,おそらく輸血量1単位当たり1/2,000,000未満である。しかしながら,血液および血液製剤のHIVスクリーニングが行われていない多くの発展途上国では,輸血によるHIV感染症の伝播のリスクは依然として高い。

まれに,HIV血清反応陽性の臓器提供者からの臓器移植を介して,HIVが伝播している。感染症は腎臓,肝臓,心臓,膵臓,骨,および皮膚(いずれも血液を含む)のレシピエントで発生しているが,HIVのスクリーニングを行うことによって,伝播のリスクが大幅に低下する。角膜,エタノール処理された骨および凍結乾燥骨,骨髄を除去した新鮮凍結骨,凍結乾燥した腱もしくは筋膜,または凍結乾燥および放射線照射処理した硬膜の移植では,HIVが伝播する可能性はさらに低くなる。

HIV陽性のドナーからの精子を使用した人工受精を介してHIVが伝播することもある。症例の一部は1980年代前半,予防策が導入される前に起こったものである。米国では,HIV陽性の精子ドナーからパートナーへの感染リスクを低減する方法として,精子洗浄が効果的と考えられている。

疫学

HIVは疫学的に2つの異なるパターンで広がっている:

  • 男性の同性間性交または感染血液との接触(例,注射薬物使用者との注射針の共用を介して;献血者の効果的なスクリーニングが始まる前は,輸血を介して)

  • 異性間性交(男性および女性を同等に侵す)

ほとんどの国で両方のパターンが起こっているが,通常先進国では1つ目のパターンがより優勢であり,アフリカ,南米,および東南アジアでは,2つ目パターンがより優勢である。

異性間伝播が優勢な地域では,HIV感染は都市へ向かう商業,輸送,および経済移民の経路に沿って広がり,それに続いて地方への伝播が起こる。アフリカ,特に南アフリカでは,HIVの流行により数千万人の若年成人が死亡しており,数百万人の孤児が生まれている。感染拡大を長引かせる因子としては以下のものがある:

  • 貧困

  • 低い教育水準

  • 医療制度が不十分であるために患者が抗レトロウイルス薬を使用できないこと

しかしながら,国際協力を通じて,およそ1千万人の患者が治療を受けており,多くの国で死亡および伝播が劇的に減少している。

HIVに合併する多くの日和見感染症は,潜伏感染の再活性化を表す。したがって,潜伏感染の有病率を決める疫学的因子もまた,特定の日和見感染症を発症するリスクに影響する。多くの発展途上国では,先進国に比べて一般集団の潜在性結核およびトキソプラズマ症の有病率が高い。これらの国では,HIVによる免疫抑制に続いて,再活性化した結核およびトキソプラズマ脳炎が劇的に増加している。同様に米国でも,HIV感染症によってコクシジオイデス症(南西部に多い)およびヒストプラズマ症(中西部に多い)の発生率が増加した。

カポジ肉腫を引き起こすヒトヘルペスウイルス8型感染は男性同性愛者および男性両性愛者ではよくみられるが,それ以外の米国および欧州のHIV感染患者ではまれである。したがって,米国ではカポジ肉腫を発症したAIDS患者の90%以上が男性の同性愛者または両性愛者である。

病態生理

HIVはCD4陽性分子およびケモカイン受容体を介して宿主のT細胞に付着して侵入する( HIVの生活環の概略)。付着後には,HIV RNAとHIVがコードするいくつかの酵素が宿主細胞中に放出される。

ウイルスの複製には,逆転写酵素(RNA依存性DNA ポリメラーゼ)によりHIV RNAを複製し,プロウイルスDNAを産生する必要がある;この複製機序はエラーを起こしやすく,結果として突然変異が頻繁に起きる。これらの突然変異により,宿主の免疫系および抗レトロウイルス薬に抵抗できるHIVが発生しやすくなる。

プロウイルスDNAは宿主細胞の核に侵入し,宿主DNAに組み込まれるが,その過程で別のHIV酵素であるインテグラーゼが関与する。細胞分裂のたびに,組み込まれたプロウイルスDNAは宿主DNAとともに複製される。その後,プロウイルスHIV DNAはHIV RNAに転写され,エンベロープ糖タンパク41および120のようなHIVタンパクに翻訳される。これらのHIVタンパクは,宿主細胞の内膜で組み立てられてHIVウイルス粒子となり,ヒト細胞膜の一部が変化してできたエンベロープに包まれて,細胞表面から出芽する。それぞれの宿主細胞は,何千ものウイルス粒子を生産しうる。

出芽後に,別のHIV酵素であるプロテアーゼにより,ウイルスタンパクが分解され,未成熟のウイルス粒子が成熟した感染性ウイルス粒子に変換される。

HIVの生活環の概略

HIVが宿主のT細胞に付着して侵入し,次にHIV RNAおよび酵素を宿主細胞内に放出する。HIV逆転写酵素がウイルスRNAを複製してプロウイルスDNAを産生する。プロウイルスDNAは宿主細胞の核に侵入し,HIVインテグラーゼの働きで,プロウイルスDNAが宿主のDNAに組み込まれる。その後宿主細胞はHIV RNAおよびHIVタンパクを生産する。HIVタンパクは組み立てられてHIVウイルス粒子となり,細胞表面から出芽する。HIVプロテアーゼがウイルスタンパクを分解し,未成熟なウイルス粒子を,成熟した感染性ウイルス粒子に変換する。

HIVの生活環の概略

感染したCD4陽性リンパ球は,血漿HIV粒子の98%以上を産生する。感染したCD4陽性リンパ球の一部は,再活性化しうる(例,抗ウイルス治療が中止された場合)HIVの病原巣となる。

ウイルス粒子の血漿中半減期は約6時間である。中等度から重度のHIV感染では,約108~109個のウイルス粒子が,毎日産生されて除去される。この膨大な数のHIV複製とHIV逆転写酵素による高頻度の転写エラーの結果として,多数の突然変異が発生し,宿主の免疫および薬剤に対して耐性を獲得したウイルス株が出現する可能性が高まる。

免疫系

HIV感染は2つの主な結果を招く:

  • 免疫系の損傷,特にCD4陽性リンパ球の枯渇

  • 免疫活性化

CD4陽性リンパ球は,細胞性免疫,およびより程度は低いが液性免疫に関与している。CD4陽性細胞枯渇の原因として以下ものが考えられる:

  • HIV複製による直接的な細胞毒性

  • 細胞性免疫による細胞毒性

  • 胸腺損傷によるリンパ球の産生低下

感染したCD4陽性リンパ球の半減期は約2日間であり,感染していないCD4陽性細胞よりはるかに短い。CD4陽性リンパ球の破壊率は血漿HIVレベルに相関する。典型的には,初感染または急性感染期にHIVレベルが最も高く(> 106コピー/mL),CD4陽性細胞数が急速に減少する。

正常なCD4陽性細胞数は約750/μLであるが,350/μLを超えていれば,免疫系への影響はほとんどない。この数が約200/μL以下に低下した場合は,細胞性免疫が損なわれることにより,様々な日和見病原体が潜伏状態から再活性化し,症状を引き起こす。

液性免疫系も同様に障害される。リンパ節内におけるB細胞の過形成は,リンパ節腫脹および以前に遭遇した抗原に対する抗体の分泌増加を引き起こし,しばしば高グロブリン血症を招く。全体の抗体レベル(特にIgGおよびIgA)ならびに以前に遭遇した抗原に対する力価は異常に高くなりうる。しかしながら,CD4陽性細胞数が減少するにつれ,新たな抗原(例,ワクチン)に対する抗体反応は低下する。

腸内細菌叢の構成菌が吸収されることが一因となって,免疫が異常に活性化することもある。まだ機序は解明されていないが,この免疫系の活性化がCD4陽性細胞の枯渇と免疫抑制に寄与する。

他の組織

HIVはまた,非リンパ系単球細胞(例,皮膚の樹状細胞,マクロファージ,脳の小膠細胞)と脳,性器,心臓,および腎臓の細胞にも感染し,それぞれ対応する器官系に疾患を引き起こす。

神経系(脳および髄液)や性器(精液)など,一部の臓器におけるHIV株は,血漿中のHIV株とは遺伝学的に異なることがあり,これらの株は,そのような解剖学的区画によって選択された,あるいはそこに適応したことが示唆される。したがって,このような区画内のHIVレベルおよび耐性パターンは,血漿中のものとは異なる独立のものである。

疾患の進行

急性感染後の最初の数週間は,液性および細胞性免疫応答がある:

  • 液性:HIVに対する抗体は通常,急性感染後の数週間以内は測定可能である;しかしながら,患者の現在の抗HIV抗体では制御できない変異型HIVが産生されるため,抗体によって十分HIV感染を制御できない。

  • 細胞性:細胞性免疫は,高レベルのウイルス血症(通常,106コピー/mL以上)を制御するため,初期はより重要である。しかしながら,リンパ球による細胞傷害の標的であるウイルス抗原が急速に変異するため,数パーセントを除くほぼ全ての患者では,HIVを制御できなくなる。

患者間で大きなばらつきはあるものの,HIV RNAコピー/mLで表す血漿中のHIVウイルス粒子密度は,約6カ月後に平均して30,000~100,000/mL (4.2~5 log10/mL)の水準(セットポイント)に落ち着く。このセットポイントが高ければ高いほど,免疫機能が重篤に障害される水準(200/μL未満)までCD4陽性細胞数は急速に減少し,AIDS指標疾患である日和見感染症や悪性腫瘍を発症する。

日和見感染症,AIDS,およびAIDS関連悪性腫瘍の発症リスクおよび重症度は,以下の2つの因子によって規定される:

  • CD4陽性細胞数

  • 日和見感染の可能性がある病原体への曝露

特定の日和見感染症への罹患リスクは,以下のように一部の感染症ではCD4陽性細胞数が約200/μL,他の感染症では50/μLを下回ると増加する:

  • CD4陽性細胞数 < 200/μL:Pneumocystis jirovecii肺炎,トキソプラズマ脳炎,およびクリプトコッカス髄膜炎のリスクが上昇する

  • CD4陽性細胞数 < 50/μL:サイトメガロウイルス(CMV)およびMycobacterium avium complex(MAC)感染症のリスクが上昇する。

未治療患者では,血漿HIV RNAが3倍(0.5 log10)増加する毎に,次の2~3年間にAIDSに進行するリスクまたは死に至るリスクが約50%増加する。

無治療の場合,AIDSに進行するリスクは,感染後最初の2~3年は約1~2%/年であり,それ以降は約5~6%/年である。最終的に,未治療の患者ではAIDSがほぼ必然的に発生する。

症状と徴候

初期のHIV感染症

最初,急性HIV感染症は無症状のこともあれば,一過性の非特異的症状(急性レトロウイルス症候群)を引き起こすこともある。

急性レトロウイルス症候群は,通常感染後1~4週間以内に発生し,一般に3~14日間持続する。症状および徴候は伝染性単核球症や良性かつ非特異的なウイルス性疾患のそれと間違われることが多いが,具体的には発熱,倦怠感,疲労,数種類の皮膚炎,咽頭痛,関節痛,全身性リンパ節腫脹,無菌性髄膜炎などがみられる。

最初の症状が消失した後,ほとんどの患者は,たとえ無治療でも無症状に経過するか軽度の間欠的な非特異的症状が若干みられるのみであるが,この期間の長さには大きなばらつきがある(2~15年)。

この比較的症状の少ない期間にみられる症状は,直接HIVに起因することもあれば,日和見感染症に起因することもある。最もよくみられるのは以下の症状である:

  • リンパ節腫脹

  • 口腔カンジダ症による白苔

  • 帯状疱疹

  • 下痢

  • 疲労

  • 間欠的な発汗を伴う発熱

症状を伴わない軽度から中等度の血球減少(例,白血球減少,貧血,血小板減少)もよくみられる。一部の患者では進行性の消耗(感染症による食欲不振および異化亢進と関連する可能性がある)ならびに微熱または下痢がみられる。

HIV感染症の悪化

CD4陽性細胞数が200/μL未満に低下すると,非特異的症状が悪化し,AIDS指標疾患( AIDS指標疾患)が次々と発生する。

一般人口では普通起こらない感染症,抗酸菌(Mycobacterium属),P. jirovecii,Cryptococcus neoformans,またはその他の真菌による感染症が評価により同定されることがある。

一般集団にもみられる一方,非常に重症であるか頻回に再発する場合にはAIDSが示唆される感染症としては,帯状疱疹,単純ヘルペス,腟カンジダ症,サルモネラ(Salmonella)敗血症などがある。

HIV感染症の患者では,特定の症候群がよくみられ,違った判断が求められることがある( 器官系別に見たHIV感染症の一般的な臨床像)。一部の患者で頻発する悪性腫瘍(例,カポジ肉腫,B細胞リンパ腫)は,非常に重症化するか,HIV感染特有の所見を呈する( HIV感染患者によくみられる悪性腫瘍)。また,神経機能障害が生じる患者もいる。

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器官系別に見たHIV感染症の一般的な臨床像

症候群

原因

診断評価

治療

症状/備考

心臓

心筋症

ウイルスによる心筋細胞の直接損傷

心エコー検査

抗レトロウイルス薬

心不全の症状

消化管

カンジダ症,CMV,または単純ヘルペスウイルス

食道鏡による潰瘍生検

原因の治療

嚥下困難,食欲不振

胃腸炎または大腸炎

腸管サルモネラ(Salmonella),MAC,クリプトスポリジウム(Cryptosporidium),サイクロスポーラ(Cyclospora),CMV,微胞子虫,Cystoisospora (Isospora) belliシストイソスポーラ症),またはClostridium difficile

便の培養および染色,または生検,ただし原因の特定は困難となることがある

全例において,以下の通り症状に対する支持療法,原因の治療,抗レトロウイルス薬の迅速な開始:

  • サルモネラ(Salmonella),MAC,およびC. difficileに対して抗菌薬

  • クリプトスポリジウム(Cryptosporidium),サイクロスポーラ(Cyclospora),および微胞子虫に対して抗レトロウイルス薬の迅速な使用

  • クリプトスポリジウム(Cyclospora),サイクロスポーラ(Cystoisospora),および微胞子虫に対してTMP/SMX

  • CMVに対して抗ウイルス薬

下痢,体重減少,腹部痙攣

胆嚢炎または胆管炎

CMV,クリプトスポリジウム(Cryptosporidium),サイクロスポーラ(Cyclospora),または微胞子虫

超音波検査または内視鏡検査

CMVの治療

クリプトスポリジウム(Cryptosporidium),サイクロスポーラ(Cyclospora),および微胞子虫に対して抗レトロウイルス薬

場合により疼痛または閉塞

単純ヘルペスウイルス,ヒトパピローマウイルス,または肛門癌

原因は複数ある可能性がある

診察

グラム染色および培養

生検

原因の治療

肛門性交を受けることによりヒトパピローマウイルスに感染した男性同性愛者で発生率が高い

肝炎ウイルス,日和見感染,または抗ウイルス薬の毒性による肝細胞傷害

結核,MAC,CMV,または紫斑病(バルトネラ症)

B型慢性肝炎またはC型慢性肝炎(HIVにより悪化する可能性がある)

抗レトロウイルス薬または他の薬剤による肝炎からの鑑別

ときに肝生検が必要

原因の治療

肝炎の症状(例,食欲不振,悪心,嘔吐,黄疸)

婦人科系

腟カンジダ症

カンジダ(Candida

重症化または再発することがある

骨盤内炎症性疾患

淋菌(Neisseria gonorrhoeae),Chlamydia trachomatis,または他の一般的な病原体

重症化,非定型,治療抵抗性のことがある

血液

貧血

多因子性:

HIVによる骨髄抑制

免疫を介した末梢性破壊

慢性疾患に伴う貧血

感染症,特にヒトパルボウイルスB-19,播種性MAC,またはヒストプラズマ症

悪性腫瘍

パルボウイルスB19感染症に対し,骨髄検査(多核赤芽球がないか確認するため)または血漿もしくは骨髄のPCR

原因の治療

必要に応じて輸血

抗腫瘍薬またはジドブジンによる貧血に対し,輸血を必要とするほど重症で,エリスロポエチン濃度が500mU/L未満である場合,エリスロポエチン

パルボウイルスに対し,IVIG

パルボウイルスにより,ときに急性の重症貧血

血小板減少症

免疫性血小板減少症,薬物毒性,HIVによる骨髄抑制,免疫を介した末梢性破壊,感染症,または悪性腫瘍

血算,凝固検査,部分トロンボプラスチン時間,末梢血塗抹検査,骨髄生検,またはvon Willebrand因子の測定

抗レトロウイルス薬

出血に対し,または術前にIVIG

場合によって,抗Rho(D)IgG,ビンクリスチン,ダナゾール,またはインターフェロン

重症および難治性の場合,脾臓摘出

しばしば症状を伴わず,他に症候のないHIV感染症で起こりうる

好中球減少

HIVによる骨髄抑制,免疫を介した末梢性破壊,感染症,悪性腫瘍,または薬物毒性

重度の好中球減少(500/μL未満)に加えて発熱があれば,広域抗菌薬を直ちに投与する。

薬剤性の場合,顆粒球または顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子

神経

軽度から重度の認知障害,運動障害の有無を問わない

ウイルスによる直接脳損傷

髄液中のHIV RNAレベル

脳萎縮(非特異的)をチェックするためCTまたはMRI

抗レトロウイルス薬による損傷回復および機能改善,ただし治療を受けた患者でも一般的に軽度の認知機能障害は残存する

治療した患者では,認知症への進行はまれ

上行性麻痺

ギラン-バレー症候群またはCMV多発神経根障害

脊髄MRI

髄液検査

CMV多発神経根障害の治療

ギラン-バレー症候群に対し支持療法

CMV多発神経根障害患者における髄液中の好中球増多は,細菌性髄膜炎に類似することがある

急性または亜急性限局性脳炎

Toxoplasma gondiiトキソプラズマ症

CTまたはMRIにより,特に大脳基底核近辺でリング状に造影される病変をチェックする

髄液の抗体検査(精度は高いが,特異的ではない)

PCR検査により,髄液中のT. gondii DNAをチェックする

脳生検(適応になることはまれ)

ピリメタミン,ロイコボリン,スルファジアジン,およびときにトリメトプリム/スルファメトキサゾール(サルファ剤にアレルギーがある場合はクリンダマイシン― 治療

しばしば維持療法を生涯続ける

クリンダマイシンとピリメタミンまたはトリメトプリム/スルファメトキサゾールによる一次予防(ニューモシスチス(Pneumocystis )肺炎に対して)は,CD4陽性細胞数が100/μL未満で,かつトキソプラズマ症の既往を有するか抗体が陽性である患者で適応となる;抗レトロウイルス療法に反応してCD4陽性細胞数が200/μLを超える状態が3カ月以上持続すれば,一次予防を中止できる。

亜急性脳炎

CMV

より頻度は低いが,単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルス

髄液PCR

治療に対する反応

抗ウイルス薬

CMV脳炎では,診察時にしばしばせん妄,脳神経麻痺,ミオクローヌス,痙攣,および進行性意識障害がみられる

しばしば,速やかに治療に反応する

脊髄炎または多発神経根障害

CMV

脊髄MRI

髄液PCR

ギラン-バレー症候群と類似する

白質に限局する進行性脳炎

潜在性JCウイルス感染症の再活性化による進行性多巣性白質脳症

HIV

脳MRI

髄液検査

抗レトロウイルス薬による免疫機能の回復(JCウイルスに効果的な薬剤はない)

通常,数カ月内に致死的となる

抗レトロウイルス薬に反応することがある

亜急性髄膜炎

Cryptococcus属,Histoplasma属,または結核菌(Mycobacterium tuberculosis

CTまたはMRI

髄液の染色,抗体検査,および培養

原因の治療

早期治療で,転帰が改善する

HIVまたはCMVもしくは抗ウイルス薬の毒性による直接損傷

病歴

感覚検査および運動検査

原因の治療または毒性のある薬剤からの離脱

非常に多い

速やかに回復しない

網膜炎

CMV

直像眼底検査

特異的な抗CMV薬

専門家による診察を要する

口腔

HIVによる免疫抑制

診察

抗真菌薬の全身投与

早期には疼痛がないことがある

口腔内潰瘍

単純ヘルペスウイルスまたはアフタ性口内炎

アフタ性潰瘍には,コルチコステロイドの病変内または全身投与とモンテルカストおよびサリドマイドの全身投与

ヘルペスにアシクロビル

重症化し,低栄養を来すことがある

歯周病

口腔内の混合細菌叢

診察

衛生および栄養状態の改善

抗菌薬

重症化し,出血,腫脹,および歯の喪失を来しうる

無痛性の口腔内腫瘤

カポジ肉腫またはリンパ腫

生検

腫瘍の治療

舌の両側にみられる無痛性の毛状白斑(口腔毛様白板症)

エプスタイン-バーウイルス

診察

アシクロビル

通常無症候性

亜急性(ときに急性)肺炎

抗酸菌のほか,P. jirovecii, C. neoformansH. capsulatumCoccidioides immitisAspergillus属などの真菌

パルスオキシメトリー

胸部X線

皮膚テスト(ときにアネルギーにより偽陰性となる)

気管支鏡検査と気管支洗浄液の特殊染色および培養がときに必要になる

原因の治療

診察時に咳嗽,頻呼吸,および胸部不快感がみられることがある

X線上で肺炎の所見が現れる前に,軽度の低酸素症または肺胞気-動脈血酸素分圧較差の増加を認めうる

急性(ときに亜急性)肺炎

典型的な病原細菌またはHaemophilusPseudomonasNocardia,もしくはRhodococcus

HIVの疑いまたは確定症例で,患者が肺炎を有する場合,日和見病原体またはまれな病原体の除外

原因の治療

診察時に咳嗽,頻呼吸,および胸部不快感がみられることがある

気管気管支炎

カンジダ(Candida)または単純ヘルペスウイルス

原因の治療

診察時に咳嗽,頻呼吸,および胸部不快感がみられることがある

亜急性もしくは慢性肺炎または縦隔リンパ節腫脹

カポジ肉腫またはB細胞リンパ腫

胸部CT

気管支鏡検査

原因の治療

診察時に咳嗽,頻呼吸,および胸部不快感がみられることがある

ネフローゼ症候群または腎機能不全

ウイルスによる直接損傷により,巣状糸球体硬化症を来す

腎生検

抗レトロウイルス薬またはACE阻害薬が有用となる可能性がある

アフリカ系米国人およびCD4陽性細胞数が少ない患者における発生率が上昇している

尿細管機能障害(糖尿,タンパク尿)

一部の抗ウイルス薬

尿検査および/または血液検査

抗ウイルス薬の減量または中止

皮膚

帯状疱疹

水痘帯状疱疹ウイルス

アシクロビルまたは関連薬剤

よくみられる

皮膚病変出現前に,軽度から重度の疼痛またはチクチク感が前駆症状としてみられる可能性がある

単純ヘルペス潰瘍

通常は臨床的評価

病変が重度,広範囲,持続性,または播種性の場合,抗ウイルス薬

広範囲,重度,または持続性の単純ヘルペス非定型病変

疥癬

疥癬虫(ヒゼンダニ[Sarcoptes scabiei])

場合により重度の角質増殖性病変

青紫色または赤色の丘疹または結節

カポジ肉腫またはバルトネラ症

生検

抗レトロウイルス薬および原因の治療

中心臍窩のある皮膚病変

クリプトコッカス症または伝染性軟属腫

クリプトコッカス血症の徴候を呈する場合がある

全身

グラム陰性桿菌およびブドウ球菌の院内感染,播種性日和見感染症による敗血症および敗血症性ショック

グラム陰性桿菌,黄色ブドウ球菌( Staphylococcus aureus),Candida属真菌,Salmonella属細菌,結核菌,MAC,またはH. capsulatum

血液培養

骨髄検査

原因の治療

消耗性症候群(著明な体重減少)

多因子(AIDS,AIDS関連日和見感染症,AIDS関連悪性腫瘍,および/またはAIDSによる性腺機能低下症)

10%以上の体重減少と定義される

抗レトロウイルス薬(この症候群の主要な治療)

基礎にある感染症の治療;適応があればAIDSによる性腺機能低下症の治療

食欲およびカロリー摂取を改善する対策

CMV = サイトメガロウイルス; IVIG = 静注用免疫グロブリン製剤; MAC =Mycobacterium avium;TMP/SMX = トリメトプリム/スルファメトキサゾール

診断

  • HIV抗体検査

  • 核酸増幅法によるHIV RNAレベル(ウイルス量)の測定

持続性かつ原因不明の全身性リンパ節腫脹,またはAIDS指標疾患 ( AIDS指標疾患)に挙げられている疾患のいずれかがみられる患者では,HIV感染症が疑われる。急性HIV感染症を示しうる症状のある高リスク患者でもHIV感染を疑うことがある。

診断検査

抗HIV抗体の検出は,感染後の最初の数週間を除いて感度および特異度が高い。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による抗HIV抗体の検出感度は高いが,まれに偽陽性がある。したがって,ELISAが陽性であれば,ウェスタンブロットなどのより特異度の高い検査で確定する。しかしながら,これらの検査にはいくつか欠点がある:

  • ELISAは複雑な機器を要する。

  • ウェスタンブロットは,熟練した技術者を要し,また高価である。

  • 検査工程全体で少なくとも1日を要する。

血液または唾液を用いる最新のポイントオブケア検査(例,粒子凝集法,immunoconcentration,免疫クロマトグラフィー)は,素早く(15分内),容易に行えるため,様々な状況で検査が実施でき,患者へ迅速に結果を報告できる。これらの迅速検査で陽性であれば,先進国では標準的な血液検査(例,ウェスタンブロット併用または非併用ELISA)により,発展途上国では1種類以上の他の迅速検査による再検査で確認すべきである。陰性であれば,再確認の必要はない。

抗体検査で陰性であるにもかかわらずHIV感染が疑われる場合(例,感染直後の数週間)には,血漿HIV RNAを測定してもよい。この検査で用いられる核酸増幅法は,感度および特異度が非常に高い。HIV RNA検査には,逆転写PCR(RT-PCR)法などの先進技術が必要であるが,極めて低レベルのHIV RNAも検出することができる。ELISAによるHIV p24抗原(p24はウイルスのコアタンパク)の測定は,血液中のHIV RNAを直接検出するのに比べて感度および特異度が低い。

モニタリング

HIVと診断されたら,以下の項目を判定すべきである:

  • CD4陽性細胞数

  • 血漿HIV RNA濃度

どちらも予後予測と治療のモニタリングに有用である。

CD4陽性細胞数は以下の数値の積で計算される:

  • 白血球数(例,4000/mL)

  • 白血球におけるリンパ球の割合 (例,30%)

  • リンパ球におけるCD4陽性細胞の割合(例,20%)

上記の数値を用いると,CD4陽性細胞数(4000 × 0.3 × 0.2)は240/mLであり,これは成人の正常CD4陽性細胞数(約750 ± 250/μL)の約3分の1である。

血漿HIV RNAレベル(ウイルス量)はHIV複製率を反映する。セットポイント(一次感染後の比較的安定したウイルスレベル)が高ければ高いほど,CD4陽性細胞数は急速に減少し,たとえ無症状の患者でも日和見感染症のリスクが高まる。

病期分類

HIV感染症はCD4陽性細胞数に応じて4期に分類される:6歳以上の患者では,以下のように病期が定義される:

  • 1期:≥ 500細胞/μL

  • 2期:≥ 200~499細胞/μL

  • 3期:< 200細胞/μL

治療から1~2年後のCD4陽性細胞数が,最終的な免疫回復を予測する指標となる;HIVが長期間抑制されていたとしても,CD4陽性細胞数は正常範囲に戻らない可能性がある。

HIV関連疾患

HIV感染患者に発生する種々の日和見感染症,悪性腫瘍,およびその他の症候群の診断については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。多くは,HIV感染症特有の所見がある。

血液疾患(例,血球減少,リンパ腫,その他の悪性腫瘍)は頻度が高く,その評価には骨髄穿刺と骨髄生検が有用となる場合がある。この手技は,MAC,結核菌(M. tuberculosis),Cryptococcus,Histoplasma,ヒトパルボウイルスB19,P. jirovecii,およびLeishmaniaによる播種性感染症の診断にも役立つ可能性がある。ほとんどの患者は,末梢の血球が減少しているにもかかわらず骨髄中の細胞数は正常であるか過剰であり,末梢での破壊が示唆される。貯蔵鉄は通常は正常または増加しており,慢性疾患(鉄再利用障害)による貧血を反映している。軽度から中等度の形質細胞増加,リンパ球凝集,組織球数の増加,および造血細胞の異形成がよくみられる。

HIV関連神経症候群は,腰椎穿刺による髄液検査と造影CTまたはMRIによって鑑別できる( 器官系別に見たHIV感染症の一般的な臨床像および本マニュアルの別の箇所を参照のこと)。

HIVのスクリーニング

抗体検査によるスクリーニングは,リスクが報告されているものの,成人および青年,特に妊婦にはルーチンに勧められるべきである。最もリスクが高い人々,特に複数のパートナーをもち,安全なセックスの習慣がない性的に活動的な人々には,6~12カ月毎に検査を繰り返すべきである。このような検査は,世界中の公立および民間の機関で秘密厳守の上,しばしば無料で利用可能である。

予後

AIDS,死亡,またはその両者のリスクは以下の項目により予測される:

  • 短期的なCD4陽性細胞数

  • 長期的な血漿HIV RNAレベル

ウイルス量が3倍増加(0.5log10)する毎に次の2~3年間の死亡率が約50%上昇する。HIV関連の合併症発生率および死亡率はCD4陽性細胞数によりばらつきがあり,HIV関連の原因による死亡率は,CD4陽性細胞数50/μL未満で最大となる。しかしながら,効果的な治療により,HIV RNAレベルは検出限界未満まで低下し,CD4陽性細胞数はしばしば劇的に上昇し,疾患および死亡のリスクは低下するが,HIVに感染していない同年齢集団に比べると依然として高い。

他にあまり解明されていない予後因子として免疫活性レベルがあり,これはCD4およびCD8リンパ球上の活性化マーカーの発現を評価することにより決定される。HIVによる損傷を受けた結腸粘膜から細菌が漏出することに起因する活性化は,強力な予後予測因子であるが,この検査はあまり普及しておらず,また抗レトロウイルス療法によって予後が変化するため,この検査の重要性は低くなっており,臨床的には用いられていない。

HIV感染患者の一部(長期未発症感染者と称される)は,抗レトロウイルス治療なしでもCD4陽性細胞数が高く,HIV血中レベルが低く,無症状の状態が維持される。これらの人々は,in vitroの検査で測定した場合,感染HIV株に対して通常は激しい細胞性および液性免疫応答を起こす。この効果的な反応の特異性は,このような人々があまり有効な免疫反応を誘導しない2つ目の別のHIV株に重複感染した場合に,より典型的な疾患進行パターンを呈するという事実から示される。したがって,最初の株に対する非常に効果的な反応は,第2の株には通用しない。これらの症例は,HIV感染者であっても,危険な性行為または注射針の共用を介したHIV重複感染への曝露の可能性を回避する必要があることをカウンセリングすべきであるという主張の根拠となる。

HIV感染症の治癒はありえないと考えられているため,生涯を通じた薬物治療が必要と考えられる。しかしながら,最近報告された数例の乳児症例では,診断後に抗レトロウイルス療法による短期間の治療が行われ,治療中止後も何カ月にもわたってHIV陰性が維持されており,この状況でも治癒を望めることが示唆される。

治療

  • 抗レトロウイルス薬の多剤併用(抗レトロウイルス療法[ART],ときにhighly active ART[HAART]または多剤併用ART[cART]と呼ばれる)

  • 高リスクの患者における日和見感染症の化学予防

未治療の患者ではCD4陽性細胞数が高くても,合併症が発生する可能性があるため,また毒性の低い薬剤が開発されているため,ARTによる治療はほぼ全ての患者に推奨される。少数の例外的な患者では,無治療でもHIV株を制御することができ,長期にわたって血中HIVレベルを非常に低く,またCD4陽性細胞数を正常に維持できる。これらの患者はARTを必要としない可能性があるが,そうした患者の治療が助けになるどうかを検討する研究は行われておらず,またこのような患者は数が少ないうえ,ARTなしで長期間健康でいられる可能性が高いため,研究を実施するのは困難と考えられる。

抗レトロウイルス療法:一般原則

ARTでは以下を目標とする:

  • 血漿HIV RNAレベルを検出限界未満の水準(20~50コピー/mL未満)まで減少させること

  • CD4陽性細胞数を正常値まで回復させること(免疫の回復または免疫再構築)

治療開始時にCD4陽性細胞数が低い場合(特に50/μL未満の場合),および/またはHIV RNAレベルが高い場合,CD4陽性細胞数の反応が不良である可能性がより高い。しかしながら,進行した免疫抑制患者においても,著しい改善が得られる可能性が高い。CD4陽性細胞数の上昇は,日和見感染症,他の合併症,および死亡のリスクの著しい減少に相関する。免疫の回復により,特異的な治療が存在しない合併症(例,HIVによる認知機能障害),または以前は治療不可能と考えられていた合併症(例,進行性多巣性白質脳症)を有する患者であっても,改善する可能性がある。悪性腫瘍(例,リンパ腫,カポジ肉腫)や大半の日和見感染の合併患者でも,転帰が改善される。

ARTでは,患者が薬剤の服用を95%以上遵守すれば,通常は目標を達成できる。しかしながら,この水準のアドヒアランスを維持することは困難である。部分的に抑制すると(血漿中濃度を検出限界未満まで低下させることに失敗すると),蓄積した単一または複数のHIV突然変異が選択される結果,ウイルスが単剤または全クラスの薬剤に対して部分的または完全な耐性を獲得する可能性がある。次の治療で,まだHIVが感受性を有する他クラスの薬剤が使用されない限り,治療は失敗する可能性が高い。

急性日和見感染症の患者の多くは,早期にARTを開始することが有益である(日和見感染症の管理の最中に開始する)。しかしながら,結核性髄膜炎やクリプトコッカス髄膜炎など,一部の日和見感染症では,これらの感染症に対する初回抗菌薬療法が終了するまで,ARTの開始を遅らせるべきであることを示唆するエビデンスがある。

ARTが成功したかどうかの評価は,最初の4~6カ月または検出限界未満となるまで血漿HIV RNAレベルを8~12週間毎に測定し,その後は一律3~6カ月毎に測定することによる。HIVレベルの上昇は治療失敗の最初の所見であり,これはCD4陽性細胞数の低下に数カ月先行する可能性がある。失敗しかけている投薬レジメンを維持すると,より強い薬剤耐性をもったHIVの変異体を選択することにつながる。しかしながら,野生型HIVと比較すると,これらの変異体はCD4陽性細胞数を減少させる能力が低いため,完全に抑制できるレジメンが見つからない場合には,失敗しかけている投薬レジメンが継続して使用されることも多い。

治療が失敗した場合は,薬剤感受性(耐性)試験により,利用できる全ての薬剤について優勢なHIV株の感受性を判定することができる。遺伝子型および表現型検査が利用可能となっており,HIV株が感受性を示す薬剤を少なくとも2剤,できれば3剤含む新しいレジメンを選択するのに有用である。抗レトロウイルス療法を中止した患者の血中で優勢なHIV株は,数カ月から数年かけて野生型(例,感受性)株に戻ることがあり,これは耐性のある突然変異体の複製速度がより遅く,野生型に置き換えられるためである。したがって,患者が最近治療を受けていない場合,耐性検査によって耐性の全容が明らかになるとは限らないが,治療を再開すれば,耐性のある突然変異株がしばしば潜伏状態から再び現れ,また野生型のHIV株に取って代わる。

抗レトロウイルス薬のクラス

ARTでは,複数のクラスの抗レトロウイルス薬が使用される( 抗レトロウイルス薬)。あるクラスはHIVの侵入を阻害し,他のクラスはヒト細胞内での複製に必要な3つのHIV酵素のうち1つを阻害する;3つのクラスにより,そのRNA依存性およびDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を遮断することで逆転写酵素を阻害する。

  • 核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)がリン酸化されてできる活性代謝物は,競合的にウイルスDNAに取り込まれる。これがHIV逆転写酵素を競合的に阻害し,DNA鎖の合成を停止させる。

  • 核酸系逆転写酵素阻害薬(nRTI)もNRTIと同様にHIV逆転写酵素を競合的に阻害するが,最初のリン酸化は不要である。

  • 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)は,逆転写酵素に直接結合する。

  • プロテアーゼ阻害薬(PI)は,宿主細胞からの出芽後のHIVウイルス粒子の成熟に極めて重要な役割を果たすウイルスプロテアーゼを阻害する。

  • 侵入阻害薬(EI)は,ときに膜融合阻害薬とも呼ばれ,HIVがCD4受容体およびケモカイン補助受容体に結合するのを妨げる;この結合はHIVが細胞に侵入するのに必要である。例えば,CCR-5阻害薬は CCR-5受容体を遮断する。

  • インテグラーゼ阻害薬は,HIV DNAがヒトのDNAに組み込まれるのを阻害する。

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抗レトロウイルス薬

一般名

略称

成人における常用量a

主な有害作用b

侵入(膜融合)阻害薬

enfuvirtide

T-20

90mg,皮下,1日2回

過敏反応,局所注射部位の反応,末梢神経障害,細菌性肺炎のリスク,不眠症,食欲不振

マラビロク(CCR5阻害薬)

150~600mg,1日2回,使用中の他の薬剤に応じて

心筋虚血または心筋梗塞

インテグラーゼ阻害薬

ドルテグラビル

50mg,1日1回

頭痛,不眠

エルビテグラビル

150mg,1日1回

悪心,下痢

ラルテグラビル

400mg,1日2回

なし

非核酸系逆転写酵素阻害薬

発疹(ときに重度または生命を脅かす),肝機能障害

エファビレンツ

EFV

600mg,就寝時

中枢神経系症状,カンナビノイド試験偽陽性,脂肪分の多い食事の後に服用すると血中濃度過上昇

エトラビリン

200mg,1日2回

生命を脅かす可能性がある重度の発疹

ネビラピン

NVP

200mg,1日1回,2週間に続いて200mg,1日2回

生命を脅かす可能性のある重度の肝毒性および発疹,特に治療開始から最初の18週間の間

チトクロムP450の増加とそれに起因するプロテアーゼ阻害薬および他の薬剤(例,エファビレンツ,クラリスロマイシン,エチニルエストラジオール,ケトコナゾール,イトラコナゾール,メサドン,特定の抗不整脈薬,抗てんかん薬,カルシウム拮抗薬,免疫抑制薬,シクロホスファミド,麦角アルカロイド,フェンタニル,シサプリド,ワルファリン)の血中濃度低下

リルピビリン

25mg,1日1回

エファビレンツと比べて中枢神経系の有害作用が少ない

核酸系逆転写酵素阻害薬

乳酸アシドーシス(生命を脅かすことがある),脂肪肝炎

アバカビル

ABC

300mg,1日2回

致死的となりうる重度の過敏反応がみられ,発熱,発疹,悪心,嘔吐,下痢,咽頭炎,呼吸困難,および/または咳嗽を伴う(HLA-B*57:01を有する患者ではリスクが100倍高く,これは遺伝子検査で検出できる)。

食欲不振,悪心,嘔吐

再投与は禁忌

ジダノシン

ddI

体重60kg以上の場合,400mg,1日1回または200mg,1日2回

体重60kg未満の場合,250mg,1日1回または125mg,1日2回

末梢神経障害c,生命を脅かす可能性のある膵炎d,脂肪肝を伴う重度の肝腫大,下痢

エムトリシタビン

FTC

200mg,1日1回

最小限;皮膚色素沈着

ラミブジン

3TC

150mg,1日2回または300mg,1日1回

末梢神経障害,まれに膵炎

スタブジン

d4T

体重60kg以上の場合,40mg,1日2回

体重60kg未満の場合,30mg,1日2回

末梢神経障害,生命を脅かす可能性のある膵炎(まれ),脂肪肝,顔面および四肢の脂肪萎縮症を伴う脂肪再分布

ザルシタビン

ddC

0.75mg,1日3回

末梢神経障害,生命を脅かす可能性のある膵炎d,口腔内潰瘍

ジドブジン

ZDV,AZT

300mg,1日2回

貧血および白血球減少e,まれに膵炎,脂肪肝,ミオパチー,筋炎

核酸系逆転写酵素阻害薬

フマル酸テノホビルジソプロキシル

TDF

300mg,1日1回

軽度の腎機能不全(頻度は低い),他の重篤な腎疾患(まれ)

dd濃度の上昇;それ以外は最小限

プロテアーゼ阻害薬f

悪心,嘔吐,下痢,腹部不快感,血清血糖値上昇および高コレステロール血症(一般的),腹部脂肪の増加,肝機能障害,出血傾向(特に血友病患者において)

アンプレナビル

APV

1200mg,1日2回,食事とともに服用

発疹

アタザナビル

ATV

400mg,1日1回

発疹,高ビリルビン血症

ダルナビル

800mg,1日1回(リトナビル100mgと同時)または600mg,1日2回(リトナビル100mg,1日2回と同時)および食事とともに服用

重度の発疹,過敏症,発熱

ホスアンプレナビル

なし

1400mg,1日2回

発疹

インジナビル

IND

800mg,1日3回,空腹時(デラビルジン投与患者では600mg;インジナビル濃度を低下させるため,ddIと併用してはならない)

腎結石,ときに閉塞性(毎日1300mLの水分を摂取させるべきである)

他のプロテアーゼ阻害薬(特にリトナビル)との交差耐性

ロピナビル

LPV

400mg,1日2回(リトナビル100mgとの固定用量配合剤として),食事とともに服用

味覚異常,口周囲の錯感覚

ネルフィナビル

NLF

1250mg,1日2回,食事とともに服用

リトナビル

RIT

600mg,1日2回,食事とともに服用

味覚異常,口周囲の錯感覚

用量を減らすことで,有害作用の発生率および重症度が低下する可能性がある

サキナビル

SQV

1200mg,1日3回,食後2時間以内(リトナビルと併用することで,トラフ濃度および効力が高まる可能性がある)

tipranavir

TPV

500mg,リトナビル200mgと同時,1日2回

生命を脅かす可能性のある肝炎および頭蓋内出血

a特に指定がない限り,薬剤は経口投与する。

b全てのクラスの抗レトロウイルス薬は,コレステロール値およびトリグリセリド値の上昇,インスリン抵抗性,体脂肪の求心性再分布など,慢性の代謝性有害作用の一因となりうる。薬物クラスごとに記載されている有害作用は,そのクラス内のいずれの薬剤を使用した際にも起こりうる。

c末梢神経障害は投薬を中止すれば可逆的となる可能性があり,対症療法により部分的に症状を緩和できる。

d膵炎の症状(例,悪心,嘔吐,背部痛,腹痛)が発生する場合は,膵炎が確定または否定されるまでddIまたはddCを直ちに中止しなければならない。

e貧血は輸血またはその他の薬剤(エリスロポエチンなど)によって治療できる;白血球減少はコロニー刺激因子(顆粒球コロニー刺激因子または顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子)によって治療できる。

fいずれもチトクロムP450系により代謝されるため,多くの薬物相互作用の可能性がある。

抗レトロウイルス薬のレジメン

野生型HIVの複製を完全に抑制するには,通常クラスの異なる3または4種類の薬剤を併用する必要がある。具体的にどの薬剤を選択するかは,以下に応じて判断する:

  • 予想される有害作用

  • レジメンの単純さ

  • 併存疾患(例,肝または腎機能障害)

  • 使用しているその他の薬剤(薬物相互作用を避けるため)

アドヒアランスを最大限に高めるため,安価な費用で,1日1回(より好ましい)または1日2回の服用で済み,かつ忍容性の高いレジメンを選択すべきである。治療の開始,選択,切替え,および中断に関して,ならびに女性および小児の治療時の特殊な問題に関して,専門家会議によるガイドラインが定期的に改定され,www.aidsinfo. nih.govで更新されている。

レジメンを簡略化してアドヒアランスを改善するため,現在では組合せの固定された2剤以上の薬物を含有する錠剤が幅広く利用されている。一般的な配合錠としては以下のものがある:

  • Stribild(エルビテグラビル150mg,コビシスタット150mg,エムトリシタビン200mgに加え,フマル酸テノホビルジソプロキシル 300mg),経口,1日1回,食事とともに服用

  • Atripla(エファビレンツ600mg,フマル酸テノホビルジソプロキシル300mgに加え,エムトリシタビン200mg),経口,1日1回,空腹時,できれば就寝時

  • Complera(リルピビリン25mg,エムトリシタビン200mg,フマル酸テノホビルジソプロキシル300mg),経口,1日1回,食事とともに服用

  • Truvada(エムトリシタビン200mg,フマル酸テノホビルジソプロキシル300mg),経口,1日1回,食事ととともに服用または空腹時

  • Triumeq(ドルテグラビル50mg,ラミブジン300mgに加えて,アバカビル600mg),経口,1日1回,食事とともに服用

HIV活性のある薬物の量を増加させることを目的として,ある薬剤と抗HIV活性のない薬物動態学的増強因子を組み合わせた用量固定配合剤が使用可能である。こういった配合剤には以下のものがある:

  • Evotaz:(アタザナビル300mgに加えてコビシスタット150mg),経口,1日1回,食事とともに服用

  • Prezcobix(ダルナビル800mgに加えてコビシスタット150mg),経口,1日1回,食事とともに服用

配合錠の有害作用は,含有されている各薬物の有害作用と同一である。

薬物相互作用

抗レトロウイルス薬間の相互作用により,薬剤の効力が高まったり低まったりする。

例えば,リトナビルを治療量以下の用量(100mg,1日1回)で,別のPI(例,ロピナビル,アンプレナビル,インジナビル,アタザナビル,tipranavir)と併用すると,効力が高まることがある。リトナビルは,他のPIを代謝する肝酵素を阻害する。治療量のPIのクリアランスを遅延させることで,リトナビルはPIの濃度を上昇させ,その高い濃度をより長く維持し,投与間隔を短縮させ,効力を高める。別の例として,ラミブジン(3TC)とジドブジン(ZDV)の併用がある。どちらかを単剤で投与すると急速に耐性が生じるが,3TCに反応して耐性を生じさせる突然変異は,ZDVに対するHIVの感受性を増大させる。したがって,両剤の併用により相乗効果が得られる。

また逆に,抗レトロウイルス薬間の相互作用により,各々の薬物の効力が低下することがある。ある薬物が別の薬物の排泄を促進する場合がある(例,排泄に関与する肝のチトクロムP450酵素を誘導することによる)。別の例で機序はほとんどわかっていないが,一部のNRTIの併用(例,ZDVとスタブジン[d4T]の併用)は,薬物の排泄を促進することなく抗レトロウイルス活性を低下させることがある。

薬物の併用により,いずれかの薬物が有害作用を起こすリスクがしばしば高まる。考えられる機序としては以下のものがある:

  • チトクロムP450によるPIの肝代謝:その結果,他の薬物の代謝が低下する(それにより血中濃度が上昇する)。

  • 付加的毒性:例えば,d4Tやジダノシン(ddI)などのNRTIを併用すると,代謝への有害な影響や末梢神経障害が発生する可能性が高まる。

多くの薬物が抗レトロウイルス薬を阻害する可能性があるため(Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents: Drug Interactionsを参照のこと),新しい薬剤を開始する前に相互作用について必ず確認すべきである。

薬物相互作用に加えて,以下の物質はいくつかの抗レトロウイルス薬の活性に影響を及ぼすため,摂取を避けるべきである:

  • グレープフルーツジュース:PIであるサキナビルを分解する消化管内の酵素を阻害することにより,サキナビルの生物学的利用能を上昇させる

  • セントジョーンズワート:PIおよび NNRTIの代謝を促進することにより,PIおよび NNRTIの血中濃度を低下させる

抗レトロウイルス薬の有害作用

抗レトロウイルス薬は重篤な有害作用を起こす可能性がある( 抗レトロウイルス薬)。これらの作用の一部,特に貧血,肝炎,腎機能不全,膵炎,および耐糖能障害は,症状を引き起こす前に血液検査で検出できる。特に新しい薬剤を開始した後と説明できない症状が発生した後には,臨床的評価と適切な臨床検査(血算;高血糖,高脂血症,肝および膵障害,ならびに腎機能に関する血液検査;尿検査)の両方により定期的に患者を検査すべきである。

代謝への影響は,脂肪再分布,高脂血症,および インスリン抵抗性が相互に関連して生じる症候群である。一般的には皮下脂肪が顔面と四肢から体幹,頸部,乳房,および腹部へと再分配され,これは患者の美容面を損なって苦痛の原因となりうる。この結果生じる顔面の深い溝は,コラーゲンまたはポリ乳酸注入で治療することが有益となりうる。

中心性肥満,高脂血症,および インスリン抵抗性は,メタボリックシンドロームを構成する要素であり,心筋梗塞,脳卒中,および認知症のリスクを増大させる。

全てのクラスの抗ウイルス薬は,これらの代謝への影響に寄与すると考えられるが,関与が最も明らかなのはPIである。リトナビルまたはd4Tなどの一部の薬物は,一般的に代謝に影響を及ぼす。フマル酸テノホビルジソプロキシル,エトラビリン,アタザナビルまたはダルナビル(定用量リトナビルとの併用時でも),ラルテグラビル,およびマラビロクのような他の薬物は,脂質濃度に最小限度から軽度の影響を及ぼすようである。

代謝に影響を与える機序は複数あるとみられており,その1つはミトコンドリア毒性である。代謝への影響(PIで最も高い)およびミトコンドリア毒性(NRTIで最も高い)のリスクは,薬物クラス間および薬物クラス内で異なる(例,NRTIの中ではd4Tが最も高い)。

これらの代謝への影響は用量依存性でしばしば治療開始後1~2年以内に始まる。非アルコール性脂肪肝炎および乳酸アシドーシスはまれであるが,死に至ることもある。長期的な影響と,代謝への影響に対する至適な管理法は不明である。脂質低下薬(スタチン系薬剤)と インスリン抵抗性改善薬(グリタゾン系薬剤)が役立つ可能性がある。(HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of AmericaおよびAdult AIDS Clinical Trials Groupの推奨[Guidelines for the evaluation and management of dyslipidemia in HIV-infected adults receiving antiretroviral therapy]も参照のこと。)

ARTの骨合併症には,無症候性骨減少および骨粗鬆症があり,これらはよくみられる。まれに,股関節や肩関節などの大関節の骨壊死により,重度の関節痛および機能障害が生じる。骨合併症の機序はほとんど解明されていない。

免疫再構築症候群(IRIS)

ART開始後,血中のHIVレベルが抑制され,CD4陽性細胞数が増加するにもかかわらず,ときに臨床的に悪化する患者がいるが,これは不顕性の日和見感染症に対して,または日和見感染症の治療が奏効した後も残存する微生物抗原に対して免疫応答が起こることに起因する。IRISは一般に治療の最初の月に起こるが,遅れて発生することもある。IRISは,実質的にあらゆる日和見感染症と腫瘍(例,カポジ肉腫)にさえ合併する可能性があるが,通常は自然に治癒するか,短期間のコルチコステロイドによるレジメンに反応する。

臨床的な悪化が治療の失敗,IRIS,またはその両者のいずれに起因するかの判断には,活動性感染症が持続しているかを培養で評価する必要があるが,これは困難となることがある。

抗レトロウイルス療法の中断

ARTを中断する際は,全ての薬剤を同時に中止すれば通常は安全であるが,緩徐に代謝される薬物(例,ネビラピン)の濃度は高いまま維持されるため,耐性のリスクが上昇する。併存疾患の治療を要する場合,または薬物毒性に耐えられないか薬物毒性を評価する必要がある場合には,中断を要することがある。毒性の原因となっている薬剤を同定するために中断した後は,ほとんどの薬剤を単剤療法として再開することができ,数日間までであれば安全に使用できる。注:最も重要な例外はアバカビルである;アバカビルへの過去の曝露時に発熱または発疹がみられていた患者は,再曝露によって致死的となりうる重度の過敏反応を発症することがある。

パール&ピットフォール

  • アバカビルに対する有害反応を呈したことのある患者が再曝露した場合は,致死的となりうる重度の過敏反応が発生する可能性があるため,この薬剤を再投与してはならない。

  • アバカビルに対する有害反応のリスクは,HLA-B*57:01を有する患者で100倍上昇し,これは遺伝子検査で同定できる。

終末期ケア

抗レトロウイルス療法は,AIDS患者の期待余命を劇的に延長したが,多くの患者はいまだに悪化し,死亡している。死亡の原因を以下に挙げる:

  • ARTを一貫して服用できず,そのために進行性の免疫抑制に至る

  • 治療不能な日和見感染症および悪性腫瘍の発生

  • B型肝炎またはC型肝炎による肝不全

  • 老化の加速および加齢に関わる疾患

死が突然訪れることはまれであり,したがって通常,患者には計画を立てるための時間がある。それでもなお,終末期ケアのあり方を明確に指示した医療計画を早い時期に記録すべきである。委任状や遺言など,その他の法的文書を作成しておくべきである。同性愛患者の場合,パートナーの資産および権利(面会および意思決定を含む)が保護されない可能性があるため,これらの文書が特に重要となる。

患者の終末期が近づくと,疼痛,食欲不振,興奮,その他の苦痛症状を緩和する薬剤の処方が必要となることがある。AIDSの終末期には多くの患者で深刻な体重減少が生じ,適切なスキンケアが困難となる。ホスピスの職員は症状管理に極めて熟練しており,介護者および患者の自立を援助するため,ホスピスプログラムによる総合支援は,多くの患者で有用である。

予防

HIVの表面タンパクは容易に突然変異を起こし,極めて多様な型の抗原が生じるため,HIVのワクチン開発は困難である。それでも,様々なワクチン候補が研究されており,その内いくつかは臨床試験で効果を発揮している。現時点では,効果的なAIDSワクチンはない。

伝播の予防

性的接触の前に挿入する腟殺菌薬(抗レトロウイルス薬など)は,現在のところ有効性が証明されておらず,一部の薬剤は,おそらくHIVに対する自然障壁を破壊することで,女性側のリスクを増加させるようである。

効果的な手段として以下のものがある:

  • 市民の教育:教育は効果的であり,一部の国(特にタイやウガンダなど)で感染率を低下させたと考えられている。ほとんどの症例で性的接触が原因であるため,危険な性行為を避けるよう人々に教えることが最も重要な対策である( 性行為ごとのHIV伝播のリスク)。

  • 安全な性行為:両方のパートナーがHIVに感染していないことがわかっており,他にパートナーがいない場合を除き,安全な性行為は必須である。パートナーがHIV感染者同士でも,安全な性行為が勧められる;HIV感染者同士の無防備な性行為により,耐性株またはより毒性の強いHIV株,およびAIDS患者に重度の疾患を引き起こすその他のウイルス(例,サイトメガロウイルス,エプスタイン-バーウイルス,単純ヘルペスウイルス,B型肝炎ウイルス)に加え,梅毒その他の性感染症(STD)に曝露する恐れがある。コンドームは最も優れた予防法である。油脂ベースの潤滑剤は,ラテックスを溶解させることがあり,コンドームの避妊失敗リスクを増加させるため,使用すべきでない。(Centers for Disease Control and Prevention [CDC],Health Resources and Services Administration,National Institutes of Health,およびHIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of Americaの推奨「Incorporating HIV Prevention into the Medical Care of Persons Living with HIV」を参照のこと。)

  • 静注薬物使用者のカウンセリング:注射針共用のリスクについてのカウンセリングは重要であるが,滅菌針の供給,薬物依存の治療,およびリハビリテーションと組み合わせるとおそらくより効果的である。

  • HIV感染症に対する秘密厳守の検査:実質全ての医療現場で,青年および成人に対して検査をルーチンに勧めるべきである。ルーチン検査を簡易化するため,一部の州ではもはや同意書または検査前の長いカウンセリングが不要である。

  • 妊婦のカウンセリング:HIV検査,ARTによる治療,および先進国では代用母乳の使用により,母子感染は実質的に撲滅されている。妊婦がHIV検査で陽性となった場合には,母子感染のリスクを説明すべきである。HIV感染症の治療を直ちに受けようとしない妊婦には,胎児保護のための治療(一般的には妊娠14週目頃から開始する)を受けるよう説得すべきである。単剤療法より効果的で,薬剤耐性を引き起こす可能性がより低いため,一般的に多剤併用療法が用いられる。一部の薬剤は胎児または女性に毒性があるため,避けるべきである。女性がARTの基準を満たす場合は,患者の病歴および妊娠段階に応じて調節したレジメンを開始し,妊娠期間全体を通して継続すべきである。帝王切開によっても感染リスクを低減できる可能性がある。分娩前のレジメンおよび分娩方法にかかわらず,HIV感染症のある全ての妊婦に対し,分娩中はジドブジンを静注すべきであり,産後は生後6週間まで新生児にジドブジンを経口投与すべきである(周産期感染の予防も参照のこと)。子宮内でHIVが胎児に伝播する可能性があることや,その他の理由から,妊娠中絶を選択する女性もいる。

  • 血液および臓器のスクリーニング:感染初期は抗体は偽陰性となる場合があるため,米国では,まれに輸血による伝播が発生する可能性が残っている。現在米国では,抗体およびp24抗原に対する血液のスクリーニングが義務づけられており,これにより伝播のリスクがさらに減少すると考えられる。HIV感染症の危険因子を有する人には,最近のHIV抗体検査の結果が陰性であっても,血液または臓器を提供しないよう求めることでリスクはさらに減少する。FDAは献血の延期に関する指針の草稿を公開しており,男性と性交した男性,および他の男性と性交した男性と性交した女性に対し,直近の性的接触から12カ月は献血をしないことなどが推奨されている(Revised Recommendations for Reducing the Risk of HIV Transmission by Blood and Blood Productsを参照のこと)。しかしながら,発展途上国においては,感度の高いHIVスクリーニング検査の実施と臓器,血液,および血液製剤の提供者に対する制限は一貫してなされていない。

  • 抗レトロウイルス薬による曝露前予防(PrEP):PrEPでは,HIVに感染していないが高リスクの人々(例,HIVに感染したセックスパートナーをもつ)が,感染のリスクを下げるため,抗レトロウイルス薬を毎日服用する。フマル酸テノホビルジソプロキシルとエムトリシタビンの併用(TDF/FTC)が選択されることがある。PrEPを行っているからといって,コンドームの使用や高リスク行動(例,注射針の共用)の回避など,HIV感染のリスクを低減する他の対策が必要ないというわけではない。HIV陰性で,妊娠中にTDF/FTC PrEPを服用していた母親から生まれた乳児に関するデータは不足しているが,現在のところ,HIVに感染しておりTDF/FTCの治療を受けていた母親から生まれた小児における有害作用は報告されていない。注射薬物使用者でPrEPを使用することによりHIV感染症のリスクが下がるかどうかについては,現在研究中である。最新の CDCの推奨については,Pre-Exposure Prophylaxis (PrEP)を参照のこと。

  • 男性の包皮環状切除:アフリカの若年男性において,包皮の環状切除により,腟性交時に女性パートナーからHIVに感染するリスクが約50%低下することが証明されており,男性の環状切除は,おそらく他の地域でも同様に効果的と考えられる。男性の包皮環状切除がHIV陽性の男性から女性への伝播を減少させるかどうか,また感染した男性のパートナーからHIVを獲得するリスクを減少させるかどうかは判明していない。

  • 普遍的予防策:医療および歯科医療従事者は,いずれの患者であってもその粘膜または体液と接触しうる状況において手袋を着用し,針刺し事故を回避する方法を教わっておくべきである。HIV感染症患者の家庭での介護者は自分の手が体液に曝される恐れのある場合には手袋を着用すべきである。血液または他の体液によって汚染された表面もしくは器具はきれいにふき取り,消毒すべきである。効果的な消毒方法としては,加熱処理,過酸化水素,アルコール,フェノール類,次亜塩素酸塩(漂白剤)などがある。HIV感染患者の隔離は,日和見感染症による適応(例,結核)がない限り不要である。感染した医療従事者から患者への伝播を防ぐためのガイドラインは,定められていない。CDCのRecommendations for Preventing Transmission of Human Immunodeficiency Virus and Hepatitis B Virus to Patients During Exposure-Prone Invasive Proceduresも参照のこと。

  • HIV感染症の治療:ARTによる治療は伝播のリスクを低下させる。

曝露後予防(PEP)

HIVへ曝露されると重大な結果が生じうるため,医療従事者への感染リスクを低下させるための方針および手順,特に予防的治療が開発された。

以下の後には予防的治療の適応がある:

  • HIV感染血液に汚染された穿通性外傷(通常は,針刺し

  • 精液,腟分泌物,もしくは血液を含む他の体液(例,羊水)が粘膜(眼または口)へ大量に曝露される

唾液,尿,涙,鼻汁,吐瀉物,または汗は,明らかに血液が混じっているのでない限り,感染力はないとみなされる。

血液への初回曝露後,皮膚曝露の場合は石鹸と水,刺創の場合は消毒薬で直ちに曝露部位を洗浄する。粘膜が曝露した場合は,その部位を大量の水で洗浄する。

以下の項目を記録する:

  • 曝露の種類

  • 曝露からの経過時間

  • 曝露源の患者および曝露した個人に関する臨床情報(HIVの危険因子およびHIVの血清学的検査など)

曝露の種類は以下によって決まる:

  • どの体液が関与したか

  • 曝露に穿通性外傷(例,針刺し,鋭利な物体による切開)が関係しているかどうか,およびその創傷の深さ

  • 体液が損傷のある表皮(例,皮膚の擦過傷または亀裂)または粘膜に接触したかどうか

典型的な経皮的曝露後の感染リスクは,約 0.3%(1:300) であり,粘膜の曝露後は約 0.09%(1:1100)である。これらのリスクにはばらつきがあり,受傷者の体内に移行したHIV量に応じて変動する;移行するHIV量は,感染源のウイルス量や針の種類(例,中空かそうでないか)など,多くの要因によって決まる。しかし,PEPの推奨ではこれらの要因はもはや考慮されていない。

曝露源は,判明しているか否かによって分類される。曝露源が不明(例,路上または鋭利物廃棄容器内の針)な場合,リスクは曝露の状況(例,曝露が注射薬物使用が頻発する地域で発生したか,薬物治療施設で廃棄された針が使用されたかどうか)に基づいて評価すべきである。曝露源は判明しているが,HIVの状態が不明な場合は,曝露源のHIV危険因子を評価し,予防的治療を考慮する( 曝露後予防の推奨)。

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曝露後予防の推奨

曝露源の感染状態

予防

HIV陽性(症候性または無症候性HIV感染症,AIDS,急性期のセロコンバージョン,ウイルス量がわかっているまたはわかっていない)

3剤以上の抗レトロウイルス薬によるPEP

曝露源のHIV状態が不明または曝露源が不明

一般にPEPの適応はないが*,曝露源にHIVの危険因子がある場合とHIV感染者に曝露した可能性が高い場合には,PEPを考慮する

HIV陰性(抗体検査または核酸増幅法に基づく)

PEPの適応はない

*PEPは任意とし,曝露した個人および治療医による個別の決断に基づくべきである。PEPが勧められて施行された後に,曝露源がHIV陰性であることが判明した場合,PEPは中止すべきである。

PEP = 曝露後予防。

Adapted from the World Health Organization: Guidelines on postexposure prophylaxis for HIV and the use of co-trimoxazole prophylaxis for HIV-related infections among adults, adolescents and children: Recommendations for a public health approach—December 2014 supplement to the 2013 consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection. Available at http://www.who.int/hiv/pub/guidelines/arv2013/arvs2013upplement_dec2014/en/.

予防が必要と判断された場合の目標は,曝露後にPEPを可及的速やかに開始することである。CDCは曝露後24~36時間以内にPEPを行うことを推奨する;曝露から長時間経過した場合は,専門家の助言が必要である。

PEPの使用は感染リスクによって決まる;ガイドラインは3剤以上の抗レトロウイルス薬による抗レトロウイルス療法を推奨している。有害作用を最小化し,投与スケジュールを簡素化してPEPが完遂されるよう,薬剤を慎重に選択すべきである。望ましいレジメンとして,2つのNRTIと1つ以上の薬剤の併用(例,2つのNRTI + インテグラーゼ阻害薬,PI,またはNNRTI)がある;薬剤は28日間投与する。ネビラピンはまれに重度の肝炎を引き起こす可能性があるため避ける。決定的なエビデンスはないが,ZDV単独投与により,針刺し事故後の伝播のリスクがおそらく約80%減少する。詳細な推奨事項については,CDCのGuidelines for the Management of Occupational Exposures to HBV, HCV, and HIV and Recommendations for Postexposure ProphylaxisまたはUniversity of California, San FranciscoのPost-Exposure Prophylaxis (PEP)を参照のこと。

曝露源のウイルスが少なくとも1つの薬剤に対して耐性をもつことが判明しているか,その疑いがある場合は,抗レトロウイルス療法およびHIV伝播の専門家へのコンサルテーションを行うべきである。しかしながら,専門家へのコンサルテーションや薬剤感受性試験の結果を待ってPEPを遅らせてはならない。また,早急な評価および対面カウンセリングを行うべきであり,フォローアップ治療を遅らせてはならない。

日和見感染症の予防

(US Public Health Service and the HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of AmericaのGuidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescentsも参照のこと。)

多数の日和見感染症に対して効果的な化学予防法が利用可能であり,P. jiroveciiCandidaCryptococcus,およびMACによる合併症発生率を低下させる。治療によりCD4陽性細胞数が閾値を超えるまで回復し,その状態が3カ月以上持続すれば,化学予防は中止できる。

一次予防の内容は,CD4陽性細胞数に依存する:

  • CD4陽性細胞数200/μL未満または口腔咽頭カンジダ症(現在または既往):P. jirovecii肺炎に対する予防が推奨される。トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)の2倍量の錠剤,1日1回または週3回の服用が効果的である。週3回投与とするか漸次増量することにより,一部の有害作用を最小限に抑えられる可能性がある。TMP/SMXに耐えられない患者でも,ジアフェニルスルホン(100mg,1日1回)には耐えられる可能性がある。厄介な有害作用(例,発熱,好中球減少,発疹)のためにどの薬剤にも耐えられない少数の患者には,エアロゾル化ペンタミジン(300mg,1日1回)またはアトバコン(1500mg,1日1回)を使用することができる。

  • CD4陽性細胞数50/μL未満:播種性MACに対する予防は,アジスロマイシンまたはクラリスロマイシンで行う;これらのいずれの薬剤にも耐えられない場合は,リファブチンを使用することができる。アジスロマイシンは600mg錠,2錠,週1回で投与できる;クラリスロマイシンの連日投与と同様の防御率(70%)があり,他の薬物と相互作用しない。

潜在性結核が疑われる場合(ツベルクリン検査,インターフェロンγ遊離試験,高リスク曝露,活動性結核の既往,または結核有病率が高い地域での居住に基づく)は,CD4陽性細胞数にかかわらず,再活性化を予防するために,イソニアジド 5mg/kg(最高 300mg),経口,1日1回,およびピリドキシン(ビタミンB6)10~25mg,経口,1日1回で9カ月間投与すべきである。

一部の真菌感染症(例,食道カンジダ症,クリプトコッカスによる髄膜炎または肺炎)の一次予防として,経口フルコナゾール100~200mg,1日1回または400mg,週1回の投与が有効であるが,それぞれの感染毎の予防コストが高く,また通常これらの感染症の診断および治療はうまくいくことから,あまり使用されていない。

二次予防(初回感染の管理後)は,患者に以下の症状が発生した場合に適応となる:

真菌(Pneumocystis属など),ウイルス,抗酸菌,およびトキソプラズマ感染症に対する予防の詳細なガイドラインをwww.aidsinfo.nih.govで入手することができる。

予防接種

HIV感染患者への予防接種に関して,CDC 2015 recommendationsでは以下が推奨されている:

  • 結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)または肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)を接種されていない患者には,PCV13を接種し,その後8週間以上経過してからPPSV23を接種すべきである。

  • 全ての患者に,インフルエンザワクチンを毎年接種すべきである。

  • 全ての患者にB型肝炎ワクチンを接種すべきである。

  • A型肝炎のリスクのある患者またはA型肝炎を予防したい患者には,A型肝炎ワクチンを接種すべきである。

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸癌および肛門癌を予防するため,相応の年齢の男女にHPVワクチンを接種すべきである。

一般に,不活化ワクチンを使用すべきである。これらのワクチンは,HIV陰性の人に比べてHIV陽性の人では効果がみられることが少ない。

帯状疱疹ワクチン(帯状疱疹としての再活性化を予防するための免疫の強化)はHIVに感染した成人に有用であるが,CD4陽性細胞数200/μL未満の人には禁忌である。

生ウイルスワクチンは重度の免疫抑制患者には危険である可能性があるため,水痘一次感染のリスクがある患者を治療する場合は,専門医の意見を求めるべきである;推奨にはばらつきがある( 乳児および小児におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 : 予防接種および HIV感染児における生ワクチンの接種に対する考慮事項)。

要点

  • HIVはCD4陽性リンパ球に感染し,したがって細胞性免疫および程度はより低いが液性免疫を阻害する。

  • HIVは主に性的接触,注射を介した汚染血液への曝露,ならびに出産前および周産期の母子感染により広がる。

  • 免疫系の損傷に加え,頻発するウイルスの突然変異により,HIV感染を排除する身体の能力が有意に障害される。

  • 種々の日和見感染症および悪性腫瘍が発生する可能性があり,無治療の患者では通常これらが死因となる。

  • 抗体検査により診断し,ウイルス量およびCD4陽性細胞数の測定によりモニタリングする。

  • 抗レトロウイルス薬の多剤併用により治療し,一貫して薬剤が服用されれば,ほとんどの患者で免疫機能をほぼ正常に回復させることが可能である。

  • 適応があれば,抗レトロウイルス薬による曝露後および曝露前予防を行う。

  • CD4陽性細胞数に基づき,日和見感染症に対する一次予防を施行する。

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