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移植の概要

執筆者:

Martin Hertl

, MD, PhD,

  • Rush University Medical Center
;


Paul S. Russell

, MD, Harvard Medical School

最終査読/改訂年月 2016年 9月
本ページのリソース

移植組織は以下のいずれかを利用する:

  • 患者自身の組織(自家移植片[autograft];例,骨,骨髄,皮膚)

  • 遺伝的に同一の(同系[一卵性双生児])ドナーの組織(同系移植片[isograft])

  • 遺伝的に異なるドナーの組織(同種移植片[allograftまたはhomograft])

  • まれに,他の種由来の組織片(異種移植片[xenograftまたはheterograft])

移植される組織には以下の種類がある:

  • 細胞(造血幹細胞[HSC],リンパ球,膵島細胞の移植など)

  • 臓器の一部(肝葉または肺葉移植および皮膚移植など)

  • 臓器全体(心臓または腎移植など)

  • 組織(例,複合組織片)

組織は解剖学的に正常な部位(同所性;例,心臓移植)または変則の部位(異所性;例,腸骨窩への腎移植)に移植することがある。

ほとんどの場合,移植は患者の生存期間延長を目的に行う。しかし,一部の手技(例,手,喉頭,舌,および顔面の移植)では,生活の質を高めるが,生存期間は改善せず,手術および免疫抑制に関連する重大なリスクがある。これらの手技は,早期の探索的段階である( 組織移植)。

まれな例外を除いて,臨床移植では,血縁生体ドナー,非血縁生体ドナー,または死体ドナーからの同種移植片を用いる。生体ドナーは,腎移植および造血幹細胞移植で採用されることが多く,頻度は下がるが,肝臓,膵臓,および肺の部分移植でも採用される。死体ドナー(脳死ドナーまたは心停止ドナー)の臓器の使用は,臓器の需要と供給の不均衡是正に貢献している;しかし,依然として需要が供給をはるかに上回り,臓器移植を待つ患者の数は増え続けている。

移植片の拒絶および移植片対宿主病

同種移植のレシピエントでは全てにおいて移植片の拒絶反応のリスクがある;つまり,レシピエントの免疫系が移植片を異物として認識し,破壊しようとする。免疫細胞を含む移植片(特に骨髄,腸管,および肝臓)のレシピエントでは,移植片対宿主病(GVHD)のリスクがある。このような合併症のリスクは,移植前スクリーニングならびに移植中および移植後の免疫抑制療法によって最小限に抑えられる。

臓器の割り当て

臓器の割り当ては,一部の臓器(肝臓,心臓)で疾患の重症度によって,他の臓器(腎臓,肺,腸管)で疾患の重症度,待機リストの優先順位,またはその両方によって決定される。

米国およびプエルトリコでは,まず12の地域に臓器が割り振られ,その後に地方の臓器調達組織(Organ Procurement Organization)に割り振られる。臓器が割り振られた最初の地域に適切なレシピエントがいなければ,次に他の地域に割り振られる。

移植前スクリーニング

移植のリスクおよび費用を引き受け,責任をもって貴重なドナー臓器を使用させてもらう前に,医療チームは候補となるレシピエントについて,成功の可能性に影響を及ぼす恐れのある医学的要素および医学以外の要素に関してスクリーニングを行う。

組織適合性

移植前スクリーニングにおいて,レシピエントおよびドナーは以下について検査を受ける:

  • ヒト白血球抗原(HLA;主要組織適合抗原複合体[MHC]とも呼ばれる)

  • ABO抗原

レシピエントは以下の検査を受ける:

  • ドナーの抗原への前感作

HLA組織適合検査が最も重要なのは,以下の移植である:

以下の臓器移植では,HLA組織適合検査が完了しないうちに緊急的に行われることが多いため,これら臓器でのHLA組織適合の役割は十分に確立されているとは言えない。

末梢血またはリンパ節リンパ球のHLA組織適合検査を行って,ドナーとレシピエントの組織適合性で判明している最も重要な決定因子を適合させる。HLAの6抗原(HLA-A,-B,-C,-DP,-DQ,-DR)を決定するアレルは1250を超えるため,適合はかなり困難である;例えば,米国における腎移植のドナーとレシピエントとの適合性は平均して6抗原中わずか2抗原である。できるだけ多くのHLA抗原を適合させることにより,腎臓および造血幹細胞の血縁生体ドナーからの移植片の機能的生着が著しく改善する;非血縁ドナーからの移植片でもHLA適合により生着が改善するが,未検出の組織適合性に多くの違いがあるため,改善の程度ははるかに低い。免疫抑制療法が進展したことにより移植に適格な患者が増大している;免疫抑制療法がより効果的になってきているため,HLA不適合によって自動的に患者が移植不適格になることはもはやなくなっている。

ABO適合性およびHLA適合性は移植片の生着に重要である。ABO不適合の場合,血管に富む移植片(例,腎臓,心臓)で超急性拒絶反応を誘発することがあり,このような移植片では血管内皮細胞表面にABO抗原を発現している。HLA抗原およびABO抗原に対する前感作は,以前の輸血,移植,または妊娠によりもたらされ,血清学的検査またはより一般的にレシピエントの血清とドナーのリンパ球を用いて補体存在下で行うリンパ球細胞傷害性試験によって検出できる。交差適合試験が陽性であれば,レシピエントの血清にドナーのABO抗原またはHLAクラスI抗原に対する抗体が含まれていることを示す;これは移植の絶対的禁忌であるが,同種血球凝集素をまだ産生していない乳児(生後14カ月まで)では例外となる可能性がある。

これより適合した移植片が得られない場合,HLA抗体を抑制して移植を容易にするために,高用量の免疫グロブリン静注および血漿交換が用いられている。費用は高いが,中期の転帰は有望で,感作されていない患者の転帰と同程度であると考えられる。

交差適合試験が陰性であっても安全性が保証されるわけではなく,ABO抗原が適合するといっても同じではない場合(例,ドナーがO型でレシピエントがA,BまたはAB型),移植された(パッセンジャー)ドナーリンパ球が抗体を産生することによる溶血が潜在的な合併症となる。

HLA抗原およびABO抗原を適合させることで一般的に移植片生着率が改善するが,以下の点で非白人患者は不利である:

  • 非白人における臓器提供の頻度が低く,そのため非白人で候補となるドナーの数が限られている

  • 黒人では末期腎臓病がかなり多く,そのため臓器への需要が高い

  • 非白人患者では,白人ドナーとHLA多型が異なり,HLA抗原に対する前感作の発生率が高く,また血液型でO型およびB型の頻度が高いといった可能性がある

感染

ドナーから感染が伝播するリスクおよびレシピエントの既存感染症が悪化または再活性化するリスク(免疫抑制薬の使用による)を最小限に抑えるために,移植に先立ってドナーおよびレシピエントについて一般的な感染病原体および潜伏感染に加えて活動性感染への曝露を検出しなければならない。

このスクリーニングには通常,病歴聴取に加え,サイトメガロウイルス(CMV),エプスタイン-バーウイルス(EBV),単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),B型およびC型肝炎ウイルス,HIV,ウエストナイルウイルス(曝露が疑われる場合),ならびに結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の検査が含まれる。陽性の所見であれば,移植後に抗ウイルス治療が必要となったり(例,CMV感染症またはB型肝炎),感染症が制御されるまで移植が禁忌となったり(例,AIDSでHIVが検出された場合)することがある。

移植の禁忌

移植の絶対的禁忌としては以下のものがある:

  • 活動性感染症(ただし,レシピエントに感染症の疑いがあるものの,取り換えようとしている臓器に限定されている場合[例,肝膿瘍]は除く)

  • 悪性腫瘍(ただし,レシピエントの肝臓に限局した肝細胞癌および特定の神経内分泌腫瘍は除く)

  • リンパ球細胞傷害性試験により交差適合が陽性と確認された場合

相対的禁忌としては以下のものがある:

  • 年齢65歳以上

  • 機能状態または栄養状態が悪い(重度の肥満を含む)

  • HIV感染症

  • 多臓器の機能不全

心理的因子および社会的因子も移植が成功するかどうかの重要な鍵を握っている。例えば,薬物乱用の患者または精神的に不安定な患者は,生涯にわたって必要な治療レジメンおよびフォローアップ来院を確実に守る可能性が低い。

相対的禁忌に該当する患者の適格性判定は医療施設によって異なる。HIV陽性の移植レシピエントにおける免疫抑制薬は忍容性良好かつ効果的である。

移植後の免疫抑制

免疫抑制薬は,移植片拒絶反応を制御するもので,移植の成功に主要な役割を担っている。しかし,全ての免疫応答が抑制されるため,多くの移植後合併症の一因となり,例えば癌の発生や心血管疾患の加速がみられるだけでなく,患者は重篤感染症により死亡することさえある。

免疫抑制薬は通常,移植後長期間にわたって投与を継続しなければならないが,手術後の数週間で初期の高用量から減量し,拒絶反応が起こらない限り低用量を無期限に継続できる。移植から長期間経過後に免疫抑制薬の用量をさらに減じる方法およびドナー臓器の寛容を誘導するプロトコルが研究段階にある。

コルチコステロイド

通常は移植時に高用量を投与し,その後徐々に減らして維持量とし,それを無期限に投与する。移植後数カ月でコルチコステロイドの隔日投与が可能である;このレジメンは小児の発育不全の予防に有用である。拒絶反応が発生した場合は,高用量投与を再開する。

コルチコステロイドの必要性を減じるレジメン(ステロイド節約レジメン)が開発段階にある。

カルシニューリン阻害薬(CNI)

これらの薬剤(シクロスポリン,タクロリムス)はサイトカイン産生に必要なT細胞の転写過程を阻害し,それによってT細胞の増殖および活性化を選択的に阻害する。

シクロスポリンは心臓移植および肺移植で最も多く用いられる薬剤である。単剤投与も可能であるが,通常は他の薬剤(例,アザチオプリン,プレドニゾン)と併用され,それにより毒性の弱い低用量で使用することができる。移植後すぐに初回用量を維持量まで減らす。シクロスポリンはチトクロムP450 3A酵素により代謝され,血中濃度は他の多くの薬物により影響を受ける。

シクロスポリンがもつ最も重篤な用量依存性の有害作用は腎毒性である;シクロスポリンは輸入(糸球体前)細動脈の血管収縮を引き起こし,糸球体装置の障害,治療抵抗性の糸球体血流低下,および最終的な慢性腎不全の要因となる。また,高用量のシクロスポリン単独投与またはシクロスポリンとT細胞に対する他の免疫抑制薬の併用投与を受けている患者では,B細胞リンパ腫および多クローン性B細胞リンパ球増殖がより多くみられ,これはおそらくEBVと関連しているためである。その他の有害作用には,糖尿病,肝毒性,結節性痛風,難治性高血圧,神経毒性(振戦など),他の腫瘍の発生率増加,およびそれほど重篤ではない作用(例,歯肉の肥厚,男性型多毛症,多毛症)などがある。血清中のシクロスポリン濃度は有効性または毒性と相関しない。

タクロリムスは,腎臓,肝臓,膵臓,および小腸の移植に最も多く用いられる薬剤である。移植時または手術の数日後にタクロリムスの投与を開始することがある。血中濃度に基づいて投与すべきであり,血中濃度はシクロスポリンの場合と同様の薬物相互作用に影響される。タクロリムスは,シクロスポリンにより効果がみられない場合または許容できない有害作用がみられた場合に有用なことがある。

タクロリムスの方が糖尿病を引き起こす傾向が強いことを除けば,タクロリムスの有害作用はシクロスポリンと同程度である;歯肉肥厚および多毛はそれほど多くない。タクロリムスを服用している患者では,移植後わずか数週間でも,リンパ増殖性疾患がより頻繁に認められており,薬剤投与を中止すると,部分的または完全に消失することがある。リンパ増殖性疾患が認められた場合は,タクロリムスを中止する必要があり,代わりにシクロスポリンまたは他の免疫抑制薬を使用すべきである。

プリン代謝阻害薬

例としては,アザチオプリンおよびミコフェノール酸モフェチルがある。

アザチオプリンは代謝拮抗薬で,通常は移植時に投与を開始する。ほとんどの患者が無期限に許容する。最も重篤な有害作用は,骨髄抑制およびまれな肝炎である。全身性の過敏反応が5%を超える患者にみられる。アザチオプリンは低用量のカルシニューリン阻害薬と併用することが多い。

ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は,代謝されてミコフェノール酸となるプロドラッグであり,リンパ球増殖の律速段階となるグアニン核酸合成経路の酵素であるイノシンイノシン一リン酸脱水素酵素を可逆的に阻害する。MMFは,腎移植,心臓移植,または肝移植の患者にシクロスポリン(またはタクロリムス)およびコルチコステロイドと併用して投与する。最も頻度の高い有害作用は,白血球減少症,悪心,嘔吐,および下痢である。

ラパマイシン

これらの薬剤(シロリムス,エベロリムス)はリンパ球における主要な制御キナーゼ(mTOR[mammalian target of rapamycin])を阻害することで,細胞周期を停止させ,サイトカイン刺激に対するリンパ球応答を阻害する。

シロリムスは,典型的にはシクロスポリンおよびコルチコステロイドと併用して投与され,腎機能不全患者に有用な可能性がある。有害作用には,高脂血症,間質性肺炎,下肢の浮腫,創傷治癒の障害,ならびに白血球減少症,血小板減少症,および貧血を伴う骨髄抑制などがある。

エベロリムスは,腎臓および肝臓の拒絶反応の予防に使用される。有害作用はシロリムスと同様である。

免疫抑制作用のある免疫グロブリン

具体例を以下に示す:

  • 抗リンパ球グロブリン(ALG)

  • 抗胸腺細胞グロブリン(ATG)

いずれもリンパ球(ALG)および胸腺細胞(ATG)のヒト細胞に対する動物の抗血清の分画である。ALGおよびATGは細胞性免疫を抑制する一方で,液性免疫には影響を与えない。他の免疫抑制薬と併用することで,毒性の弱い低用量で使用することができる。急性拒絶反応を抑制するためにALGまたはATGを用いると,移植片の生着率が改善する;移植時に用いると,拒絶反応の発生率が低下し,カルシニューリン阻害薬の投与開始を遅らせることができ,それにより毒性を低下させることができる。

高度に精製された血清分画を用いることで,有害作用(例,アナフィラキシー,血清病,抗原抗体誘導性糸球体腎炎)の発生率が大幅に低下している。

モノクローナル抗体(mAb)

T細胞に対するmAbでは,ALGおよびATGより高い濃度の抗T細胞抗体が得られ,不適切な血清タンパクが少ない。

OKT3(マウス抗体)はT細胞受容体(TCR)–抗原結合を阻害して免疫抑制をもたらす。OKT3は主に急性拒絶反応の抑制に用いられていた;また,移植時に拒絶反応の発生率を低下させたり,発現を遅らせたりするためにも用いられていた。しかしこの薬剤は現在では入手不可能である。

抗IL-2受容体モノクローナル抗体は,活性化T細胞が分泌するIL-2の作用を阻害することによってT細胞の増殖を抑制する。バシリキシマブは,ヒト化抗IL-2受容体抗体で,腎移植,肝移植,および小腸移植における急性拒絶反応の治療に用いられる;また,移植時の補助免疫抑制療法としても用いられる。報告されている唯一の有害作用はアナフィラキシーであるが,リンパ増殖性疾患のリスク増加を無視することはできない。

放射線照射

移植片,レシピエントの局所組織,またはその両方に対する放射線照射は,腎移植の拒絶反応の治療で他の治療(例,コルチコステロイドおよびATG)による効果がみられない場合に行われることがある。全身リンパ節照射は探索的方法であるが,最初に抑制性T細胞を刺激し,その後におそらく特異的抗原反応性細胞のクローンを除去することによって,安全に細胞性免疫を抑制すると考えられる。しかし,現在では免疫抑制薬がかなり効果的であるため,放射線照射が必要になることは極めてまれである。

今後の治療法

他の免疫応答を抑制することなく,移植片抗原特異的な寛容を誘導するプロトコルおよび薬剤が求められている。以下の2つの戦略が有望である:

  • 細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)-IgG1融合タンパクを用いるT細胞共刺激経路の遮断

  • 骨髄非破壊的移植前治療(例,シクロホスファミド,胸腺照射,ATG,およびシクロスポリンによる)を用いて,一過性のT細胞除去,ドナー造血幹細胞の定着,およびその後の同一ドナーからの臓器移植に対する寛容に導くキメリズム(ドナーおよびレシピエントの免疫細胞が併存し,そこでは移植片組織が自己として認識される)への誘導(研究段階)

belataceptはT細胞共刺激経路を阻害する別の抗体で,腎移植のレシピエントに用いられることがある。ただし,致死的な中枢神経系疾患である進行性多巣性白質脳症の発生率が高いと考えられ,ウイルス感染症の発生率も高い。移植後のリンパ増殖性疾患はもう1つの懸念材料である。

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移植の拒絶反応を治療するために用いられる免疫抑制薬

免疫抑制薬

作用機序

適応

主な有害作用

抗リンパ球グロブリン(ALG)

抗胸腺細胞グロブリン(ATG)

リンパ球(ALG)または胸腺細胞(ATG)の抑制

導入,維持,および急性拒絶反応の治療

アナフィラキシー,血清病,抗原抗体誘導性の糸球体腎炎

アザチオプリン

プリン代謝阻害薬

維持

骨髄抑制,肝炎

バシリキシマブ

IL-2の作用を妨げることによるT細胞増殖の抑制

主に導入

感染症,アナフィラキシー,骨髄増殖性疾患

belatacept

T細胞共刺激経路を阻害する抗体

維持

進行性多巣性白質脳症,他のウイルス感染症

コルチコステロイド

抗炎症

導入療法,維持療法,および急性拒絶反応の補助的治療

糖尿病,高血圧,骨粗鬆症,動脈硬化

シクロスポリン

カルシニューリン阻害(T細胞転写を遮断)

導入(まれ),維持,ならびに急性および慢性拒絶反応の治療

腎毒性,神経毒性,高脂血症,男性型多毛症,多毛症,糖尿病,肝毒性,結節性痛風,難治性の高血圧,その他の腫瘍の発生率上昇,歯肉の肥厚

エベロリムス

シロリムス

mTORを阻害し,サイトカイン刺激に対するリンパ球応答を抑制

維持

間質性肺炎,下肢の浮腫,高脂血症,創傷治癒障害,骨髄抑制

ミコフェノール酸モフェチル

プリン代謝阻害薬

維持

骨髄抑制,悪心,嘔吐,下痢

タクロリムス

カルシニューリン阻害(T細胞転写を遮断)

導入,維持,ならびに急性および慢性拒絶反応の治療

腎毒性,神経毒性,高脂血症,脱毛症,高血圧

mTOR = mammalian target of rapamycin

移植後の合併症

合併症としては以下のものがある:

  • 拒絶反応

  • 感染症

  • 腎機能不全

  • 悪性腫瘍

  • 動脈硬化

拒絶反応

実質臓器の拒絶反応は,超急性,促進性,急性,または慢性(遅発性)に分けられる。これらのカテゴリーは病理組織学的に区別することも,発現時期によって大まかに区別することもできる。症状は臓器により異なる( カテゴリー別移植拒絶反応の症状)。

超急性拒絶反応には以下の特徴がある:

  • 移植後48時間以内に発生する

  • 移植片抗原に対する既存の補体結合抗体(前感作)によって引き起こされる

  • 小型血管の血栓症および移植片梗塞を特徴とする

移植前スクリーニングの改善とともに,まれ(1%)になってきている。移植片の除去以外に効果的な治療法はない。

促進性拒絶反応(accelerated rejection)には以下の特徴がある:

  • 移植から3~5日後に発生する

  • 移植片抗原に対する既存の非補体結合抗体によって引き起こされる

  • 病理組織学的には細胞浸潤を特徴とし,ときに血管の変化を伴う

促進性拒絶反応もまれである。治療は高用量ステロイドパルス療法,または血管に変化が生じていれば,抗リンパ球製剤による。血中抗体をより速く除去する可能性のある血漿交換が用いられ,ある程度の効果が認められている。

急性拒絶反応は,移植後の移植片の破壊であり,以下の特徴がある:

  • 移植から遅れて(約5日後)に発生する(超急性および促進性拒絶反応とは異なり,急性拒絶反応は,既存の抗体ではなく,移植片に対する新たなT細胞応答を介して生じるため)

  • 同種移植片の組織適合性抗原に対するT細胞介在性の遅延型過敏反応によって引き起こされる

  • 単核細胞浸潤を特徴とし,様々な程度の出血,浮腫,および壊死を伴うが,(血管内皮が主な標的であるように見えるものの)血管の形態・機能は一般に保たれている

急性拒絶反応は,10年以内に発現する全ての拒絶反応の約半分を占める。急性拒絶反応は,免疫抑制療法の強化(例,ステロイドパルス療法,ALG,または両方による)によって回復することが多い。拒絶反応から回復した後,移植片の重度に損傷した部分は線維化によって治癒し,移植片の残りの部分は正常であるため,免疫抑制薬の用量は非常に少ない値まで減量でき,同種移植片は長期間にわたり生着できる。

慢性拒絶反応は,移植片の機能不全であり,発熱を伴わないことが多い。以下の特徴がある:

  • 典型的には移植後数カ月から数年で発生するが,ときに数週間以内に現れることもある

  • 原因は複数あり,早期の抗体介在性拒絶反応,周術期の虚血および再灌流傷害,薬物毒性,感染症,ならびに血管因子(例,高血圧,高脂血症)などがある

  • 病理組織学的特徴は,平滑筋細胞および細胞外基質からなる新生内膜の増殖(移植動脈硬化症)であり,これが徐々に進行して最終的に血管内腔を塞ぎ,移植片の斑状の虚血および線維化をもたらす

慢性拒絶反応は,全ての拒絶反応のうち残り半分のほとんどを占める。慢性拒絶反応は,免疫抑制療法にもかかわらず潜行性に進行する;確立された治療法はない。少数の患者でタクロリムスにより慢性の肝拒絶反応が制御されることが報告されている。

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カテゴリー別移植拒絶反応の症状

臓器

超急性

促進性

急性

慢性

発熱,無尿

発熱,乏尿,移植片腫脹および圧痛

発熱,血清クレアチニン増加,高血圧,体重増加,移植片腫脹,圧痛

尿沈渣でタンパク,リンパ球,および尿細管細胞を検出

高血圧を伴うかどうかを問わないタンパク尿,ネフローゼ症候群

発熱,肝機能検査結果(AST,ビリルビン)の異常上昇,凝固障害

発熱,凝固障害,肝機能検査結果(AST,ビリルビン)の異常上昇,腹水

食欲不振,疼痛,発熱,黄疸,明色(粘土色)便,暗色尿,肝機能検査結果(AST,ビリルビン)の上昇

黄疸,胆管消失症候群(ビリルビン,アルカリホスファターゼ,およびGGTの高値を伴う),肝機能検査結果(AST,ビリルビン)のわずかな上昇,腹水

心原性ショック

心房性不整脈,心原性ショック

心不全,心房性不整脈

労作中の呼吸困難,ストレス耐性の低下

酸素化不良,発熱,咳嗽,呼吸困難,FEV1の低下

酸素化不良,発熱,咳嗽,呼吸困難,胸部X線でみられる浸潤,FEV1の低下

促進型拒絶反応でみられるものと同じ

間質・血管周囲浸潤(経気管支生検によって検出)

閉塞性細気管支炎,咳嗽,呼吸困難

膵壊死,発熱,高血糖

膵炎,高血糖,アミラーゼおよびリパーゼの上昇

促進型拒絶反応でみられるものと同じ

高血糖,アミラーゼおよびリパーゼの軽度上昇

発熱,乳酸の異常上昇

発熱,下痢,乳酸の上昇

発熱,下痢,吸収不良,乳酸の軽度上昇

下痢,吸収不良

*心臓移植で拒絶反応を起こした患者のほとんどは無症状である。

FEV1 = 1秒量(1秒間の努力呼気量);GGT = γ-グルタミルトランスペプチターゼ。

感染症

移植を受けた患者は,以下の原因により,感染症に罹りやすくなる:

  • 免疫抑制薬の使用

  • 臓器不全に伴う続発性免疫不全症

  • 手術

まれに,移植臓器が感染源(例,CMV)となる。

最も多くみられる徴候は発熱で,局所的徴候を伴わないことが多い。発熱は急性拒絶反応の症状でもあるが,通常は移植片機能不全の徴候を伴う。これらの徴候がなければ,治療法は他の不明熱と同じである;移植後の症状と徴候の発現時期は,鑑別診断を絞り込むのに役立つ。

移植後最初の1カ月間は,ほとんどの感染症が他の手術患者に感染するものと同じ院内感染細菌および真菌(例,肺炎を起こすPseudomonas属,創傷感染を起こすグラム陽性細菌)に起因する。初期感染で最大の懸念は,微生物が縫合部位で移植片またはその供給血管に感染し,感染性動脈瘤または離開を引き起こす可能性である。

日和見感染症は移植後1~6カ月で発生する(治療については,本マニュアルの別項を参照のこと)。感染には,細菌によるもの(例,リステリア症,ノカルジア症),ウイルス(例,CMV,EBV,VZV,またはB型もしくはC型肝炎ウイルス)によるもの,真菌によるもの(例,アスペルギルス症,クリプトコッカス症,Pneumocystis jirovecii感染症),または寄生虫によるもの(例,糞線虫症,トキソプラズマ症,トリパノソーマ症,リーシュマニア症)がある。これまで,これらの感染症の多くは高用量コルチコステロイドの使用と関連していた。

感染症のリスクは,約80%の患者で6カ月後にベースラインに戻る。移植片のウイルス感染,転移性感染(例,CMV網膜炎,大腸炎),またはウイルス誘発性の悪性腫瘍(例,肝炎およびそれに続く肝細胞癌,ヒトパピローマウイルスおよびそれに続く基底細胞癌)など,初期感染の合併症を約10%の患者が発症する。その他に,慢性拒絶反応を起こして高用量の免疫抑制薬を必要とし(5~10%),日和見感染症の高リスクが無期限に続く患者もいる。感染症のリスクは,移植された移植片によって異なり,同種腎移植のレシピエントで最も低く,肝および肺移植のレシピエントで最も高い。

移植後,ほとんどの患者に抗菌薬を投与して感染症のリスクを減らす。薬剤の選択は個々のリスクおよび移植の種類に依存し,具体的なレジメンとしては,P. jirovecii感染症の予防または腎移植患者における尿路感染症の予防を目的とした,4~12カ月にわたるトリメトプリム/スルファメトキサゾール80/400mgの1日1回経口投与などがある。好中球減少症の患者では,ときにキノロン系抗菌薬(例,レボフロキサシン500mgを1日1回経口または静脈内投与)を投与して,グラム陰性菌感染を予防する。免疫抑制薬の投与量が最も高い移植後の最初の数カ月にCMVおよび他のウイルス感染症が最も高い頻度で発生するため,多くの場合,ガンシクロビルまたはアシクロビルを予防的に投与する。投与量は患者の腎機能に依存する。

不活化ワクチンは,移植後でも安全に投与できる。たとえ免疫抑制薬の血中濃度が低くとも,免疫抑制状態にある患者では感染症および拒絶反応増悪の可能性が臨床的に明白なため,弱毒生ワクチンによるリスクを潜在的な有益性と比較検討しなければならない。

腎疾患

臓器移植後最初の6カ月間で,15~20%の患者のGFRが30~50%低下する。これらの患者では通常,高血圧も発生する。移植片の維持に免疫抑制薬(通常はカルシニューリン阻害薬)の血中濃度を高くする必要があるため,小腸移植のレシピエントで発生率が最も高い(21%)。心肺同時移植レシピエントで発生率が最も低い(7%)。カルシニューリン阻害薬の腎毒性作用および糖尿病誘発作用が最も重要な寄与因子であるが,周術期の腎障害,移植前の腎機能不全,および他の腎毒性薬剤の使用も一因となる。

GFRは,最初に低下した後,典型的には安定するか,よりゆっくりと低下する;それにもかかわらず,透析を要する末期腎臓病に進行した患者では,その後に腎移植を行わない限り,死亡リスクが4倍になる。移植後の腎機能不全はカルシニューリン阻害薬から早期に離脱することによって予防できる可能性があるが,安全な最小用量は確定していない。

悪性腫瘍

長期間の免疫抑制は,ウイルス誘発性の悪性腫瘍,特に扁平上皮癌および基底細胞癌,リンパ増殖性疾患(主にB細胞非ホジキンリンパ腫),肛門性器部(子宮頸部を含む)癌および中咽頭癌,ならびにカポジ肉腫の発生率を高める。

治療法は免疫抑制状態にない患者の悪性腫瘍と同様である;低悪性度の腫瘍では通常免疫抑制の減弱または中断を必要としないが,より侵襲性の腫瘍とリンパ腫では推奨される。特に,プリン代謝拮抗薬(アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル)の投与を中止するとともに,リンパ増殖性疾患が発生した場合はタクロリムスの投与も中止する。

その他の合併症

移植前から骨粗鬆症のリスクがあった患者(例,運動不足,喫煙および/または飲酒,または既存の腎疾患)に骨粗鬆症が発生することがあるが,これは免疫抑制薬(特にコルチコステロイドおよびCNI)が骨吸収を亢進させるためである。ルーチンに行うものではないが,移植後にビタミンD,ビスホスホネート系薬剤,または他の骨吸収抑制薬を用いると予防に役立つことがある。

小児では,主として長期的にコルチコステロイドを用いた結果として発育不全が懸念される。発育不全は,コルチコステロイドの用量を移植片の拒絶反応を来さない最小用量まで漸減することによって軽減できる。

動脈硬化は,カルシニューリン阻害薬,ラパマイシン(シロリムス,エベロリムス),またはコルチコステロイドの使用に起因する高脂血症によりもたらされることがある;典型的には移植後15年を過ぎた腎移植レシピエントに発生する。

移植片対宿主病(GVHD)は,ドナーのT細胞がレシピエントの自己抗原に反応する場合に生じる。GVHDは主に造血幹細胞レシピエントにみられるが,肝および小腸移植のレシピエントにみられることもある。GVHDには,血液疾患に加えて,特に肝臓,小腸,および皮膚などの組織に対する炎症性傷害が含まれる。

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