血管性浮腫は,血管透過性の亢進および血管内液の溢出による皮下組織の腫脹(通常は限局性)である。血管透過性亢進で知られているメディエータには以下のものがある:
肥満細胞由来のメディエータは,真皮・上皮接合部を含む皮下組織の表層にも影響を与える傾向がある。そこでは,これらのメディエータが蕁麻疹およびそう痒を引き起こし,通常はそれにより肥満細胞介在性の血管性浮腫を合併する。
ブラジキニン介在性の血管性浮腫で,真皮は通常侵されないため,蕁麻疹およびそう痒はみられない。
一部の症例における血管性浮腫の機序および原因は不明である。一部の原因(例,カルシウム拮抗薬,血栓溶解薬)は機序が同定されていないが,ときに機序がわかっている原因(例,筋弛緩薬)が臨床的に見過ごされることもある。
血管性浮腫は急性のことも慢性(6週間を超える)のこともある。遺伝性のものと後天性のものがある。
急性血管性浮腫
急性血管性浮腫は,90%を超える症例で肥満細胞介在性である。肥満細胞介在性の機序には,急性アレルギー性,典型的にはIgE介在性反応が含まれる。IgE介在性血管性浮腫には通常,急性蕁麻疹(皮膚の局所的膨疹および紅斑)が伴う。しばしば急性のIgE介在性蕁麻疹に関与する同じアレルゲン(例,薬物,毒液,食物,抽出したアレルゲン)によって引き起こされることがある。
急性血管性浮腫は,IgEの関与なしに直接肥満細胞を刺激する薬剤に起因することもある。原因には,オピオイド,放射線不透過性造影剤,アスピリン,およびNSAIDなどがある。
ACE阻害薬は,救急外来でみられる急性血管性浮腫のうち最大30%の症例の原因である。ACE阻害薬は,ブラジキニンのレベルを直接増加させることがある。顔面および上気道が最も多く侵されるが,腸管が侵されることもある。蕁麻疹は起こらない。血管性浮腫は,治療開始後すぐに起こることも,数年後に起こることもある。
慢性血管性浮腫
遺伝性および後天性の血管性浮腫
遺伝性血管性浮腫および後天性血管性浮腫は,異常な補体反応を特徴とし,C1インヒビターの欠損または機能不全によって引き起こされる疾患である。症状はブラジキニン介在性血管性浮腫と同じである。
症状と徴候
診断
蕁麻疹の診断に関しては, 蕁麻疹 : 評価を参照のこと。
限局性腫脹がみられるが蕁麻疹を認めない患者には,特にACE阻害薬の使用について尋ねる。
血管性浮腫の原因は明らかなことが多く,ほとんどの反応が自然治癒性で再発しないため,診断検査が必要になることはめったにない。血管性浮腫が急性の場合,特に有用な検査はない。慢性の場合,薬物および食物の徹底的な評価が必要である;原因が明らかでない場合,または家系員に認められる場合は,遺伝性または後天性血管性浮腫のいずれであるか確かめるためにC1インヒビター欠損症の検査を考慮すべきである。
骨髄性プロトポルフィリン症がアレルギー性の血管性浮腫と類似することがある;いずれも日光への曝露により浮腫および紅斑を起こすことがある。これら2つは血中および便中のポルフィリンを測定することによって鑑別できる。
治療
気道の確保を最優先する。肥満細胞介在性の血管性浮腫では,通常,治療により気道の浮腫が急速に縮小する;ただし,ブラジキニン介在性の血管性浮腫では,治療開始から浮腫が縮小するまでに通常は30分を超える時間を要する。それゆえ,ブラジキニン介在性の血管性浮腫では,気管挿管が必要となる可能性が非常に高い。血管性浮腫が気道に及ぶ場合,機序がブラジキニン介在性でない(例,ACE阻害薬の投与または既知の遺伝性もしくは後天性血管性浮腫による)限り,アナフィラキシーと同様にアドレナリンを皮下または筋肉内に投与する。
血管性浮腫の治療には,アレルゲンの除去または回避および症状を緩和する薬剤の使用なども含まれる。原因が明らかでない場合は,必須ではない薬剤を全て中止すべきである。
肥満細胞介在性の血管性浮腫に対しては,症状を緩和する可能性のある薬剤にH1受容体拮抗薬がある。プレドニゾン30~40mgの1日1回経口投与は,より重度の反応に適応となる。外用コルチコステロイドは役に立たない。症状が重度であれば,コルチコステロイドおよび抗ヒスタミン薬を静脈内投与してもよい(例,メチルプレドニゾロン125mgおよびジフェンヒドラミン50mg)。長期治療には,H1およびH2受容体拮抗薬のほか,ときにコルチコステロイドを用いることがある。
ブラジキニン介在性の血管性浮腫に対して,アドレナリン,コルチコステロイド,および抗ヒスタミン薬による効果は,これまで認められていない。ACE阻害薬の使用に起因する血管性浮腫は,通常薬剤を止めてから約24~48時間で消失する。症状が重度,進行,または難治性であれば,遺伝性または後天性の血管性浮腫に対して用いる治療を試みてもよい。治療には,新鮮凍結血漿,C1インヒビター濃縮液,および場合によってエカランチド(ブラジキニンの産生に必要な血漿カリクレインを阻害する)およびイカチバント(ブラジキニンを阻害する)などがある。
特発性の血管性浮腫に対しては,非鎮静性抗ヒスタミン薬の高用量経口投与を試みてもよい。
重度の肥満細胞介在性の反応を有する患者には,アドレナリン充填済みの自己注射器および経口抗ヒスタミン薬を常に携行し,重度のアレルギー反応が起こった場合には,これらの薬剤を直ちに使用して,救急外来へ行くよう忠告しておくべきである。救急外来では,患者を注意深くモニタリングし,必要に応じて治療を繰り返したり調節したりできる。
要点
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救急外来における急性血管性浮腫の最大30%の症例がACE阻害薬によって引き起こされる(ブラジキニン介在性)が,全体的には90%を超える症例が肥満細胞介在性である。
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慢性の血管性浮腫の原因は通常不明である。
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腫脹が常に出現する;ブラジキニン介在性の血管性浮腫では,肥満細胞介在性の血管性浮腫に比べて,より緩慢に発生し,急性アレルギー反応(例,そう痒,蕁麻疹,アナフィラキシーショック)の症状をあまり引き起こさない傾向がみられる。
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慢性の血管性浮腫に対しては,薬物および食物の履歴を徹底的に聴取し,場合によってC1インヒビター欠損症の検査を行う;急性の血管性浮腫に対して検査が必要になることはまれである。
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まず,気道の確保を確認する;気道が侵されている場合は,原因が明らかにブラジキニン介在性の血管性浮腫(気管挿管が必要になる可能性が非常に高い)でない限り,アドレナリンを皮下または筋肉内に投与する。
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アレルゲンの除去または回避が重要である。
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対症療法および補助的治療に関しては,肥満細胞介在性の血管性浮腫で抗ヒスタミン薬(例,H1受容体拮抗薬)および全身性コルチコステロイドにより症状が緩和することがある;ブラジキニン介在性の血管性浮腫が重度または難治性であれば,新鮮凍結血漿,C1インヒビター濃縮液,および/またはエカランチドまたはイカチバントを試みてもよい。