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アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要

執筆者:

Peter J. Delves

, PhD, University College London, London, UK

レビュー/改訂 2020年 10月
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過敏反応の分類

過敏反応は,ゲル-クームス分類によって4種類の型に分けられる。過敏性疾患には複数の型が含まれることが多い。

I型

I型反応(即時型過敏症)はIgE介在性である。組織肥満細胞および血中の好塩基球に結合しているIgEに抗原が結合し,あらかじめ作られたメディエーター(例,ヒスタミン,プロテアーゼ,走化性因子)の放出およびその他のメディエーター(例,プロスタグランジン,ロイコトリエン,血小板活性化因子,サイトカイン)の合成を引き起こす。これらのメディエーターは,血管拡張,毛細血管透過性亢進,粘液の過剰分泌,平滑筋痙攣,ならびに好酸球,2型ヘルパーT(TH2)細胞,および他の炎症細胞による組織浸潤を引き起こす。

I型過敏症の概要
動画

I型反応は抗原への曝露後1時間未満で出現する。

I型過敏反応は,全てのアトピー性疾患(例, アトピー性皮膚炎 アトピー性皮膚炎(湿疹) アトピー性皮膚炎は,遺伝的感受性,免疫および表皮バリアの機能障害,ならびに環境因子が複雑に関与して繰り返し発生する慢性炎症性皮膚疾患である。そう痒が主たる症状であり,皮膚病変は軽度の紅斑から重度の苔癬化,紅皮症まで様々である。診断は病歴および診察による。治療法としては,適切なスキンケアについてのカウンセリング,誘因の回避,コルチコステロイ... さらに読む アトピー性皮膚炎(湿疹) ,アレルギー性 喘息 喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む 鼻炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎は,季節性または通年性のそう痒,くしゃみ,鼻漏,鼻閉,およびときに 結膜炎で,花粉または他のアレルゲンへの曝露によって発生する。診断は病歴およびときに皮膚テストによる。第1選択の治療は,経鼻コルチコステロイドの投与(経口または経鼻抗ヒスタミン薬の併用は問わない)または経口抗ヒスタミン薬と経口鼻閉改善薬の併用による。... さらに読む 結膜炎 アレルギー性結膜炎 アレルギー性結膜炎は,急性,間欠性,または慢性の結膜の炎症であり,通常,空中アレルゲンによって生じる。症状としては,そう痒,流涙,眼脂,結膜充血などがある。診断は臨床的に行う。治療は抗ヒスタミン薬および肥満細胞安定化薬の局所投与による。 ( 結膜炎の概要も参照のこと。) アレルギー性結膜炎は,特異抗原に対する... さらに読む アレルギー性結膜炎 ),および多くのアレルギー疾患(例, アナフィラキシー アナフィラキシー アナフィラキシーは,急性で生命を脅かす可能性のあるIgE介在性のアレルギー反応で,すでに感作されている人が感作抗原に再び曝露した場合に発生する。症状としては,吸気性喘鳴,呼吸困難,呼気性喘鳴,低血圧などがある。診断は臨床的に行う。治療はアドレナリンによる。気管支攣縮および上気道浮腫では,β作動薬の吸入または注射,ときに気管挿管が必要になる... さらに読む ,一部の症例で 血管性浮腫 血管性浮腫 血管性浮腫は真皮深層および皮下組織の浮腫である。通常は,薬物,毒液,食物,花粉,または動物のフケなどのアレルゲンへの曝露によって引き起こされる急性の肥満細胞介在性反応である。さらに血管性浮腫は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬に対する急性反応,慢性反応,または異常な補体反応を特徴とする遺伝性もしくは後天性疾患のこともある。主な症状は腫脹であ... さらに読む 血管性浮腫 蕁麻疹 蕁麻疹 蕁麻疹は,そう痒と紅斑を伴って皮膚に生じる移動性の境界明瞭な局面で構成される。 蕁麻疹は 血管性浮腫を伴うことあるが,これは真皮深層と皮下組織の肥満細胞および好塩基球が活性化されることで生じるもので,顔面および口唇,四肢,または性器の浮腫として現れる。血管性浮腫は腸管内で発生することもあり,その場合は仙痛性の腹痛がみられる。喉頭浮腫または... さらに読む 蕁麻疹 ,ラテックスおよび一部の 食物に対するアレルギー 食物アレルギー 食物アレルギーは,食物成分,通常はタンパク質に対する過剰な免疫応答である。臨床像には大きな幅があり,アトピー性皮膚炎,消化管または呼吸器症状,アナフィラキシーなどがみられる。診断は病歴に加え,ときにアレルゲン特異的血清IgE検査,皮膚テスト,および/またはアレルゲン除去食による。治療は反応を誘発する食品の除去およびときに経口クロモグリク酸... さらに読む )の基礎にある。アトピーとアレルギーはしばしば混同して使用されるが,以下の点で異なる:

  • アトピーは過剰なIgE介在性免疫応答である;全てのアトピー性疾患はI型過敏性疾患である。

  • アレルギーは,機序にかかわらず,外来抗原に対するあらゆる過剰免疫応答のことである。

アトピー性疾患は,鼻,眼,皮膚,および肺に最もよくみられる。この種の疾患としては, 結膜炎 アレルギー性結膜炎 アレルギー性結膜炎は,急性,間欠性,または慢性の結膜の炎症であり,通常,空中アレルゲンによって生じる。症状としては,そう痒,流涙,眼脂,結膜充血などがある。診断は臨床的に行う。治療は抗ヒスタミン薬および肥満細胞安定化薬の局所投与による。 ( 結膜炎の概要も参照のこと。) アレルギー性結膜炎は,特異抗原に対する... さらに読む アレルギー性結膜炎 ,外因性 アトピー性皮膚炎 アトピー性皮膚炎(湿疹) アトピー性皮膚炎は,遺伝的感受性,免疫および表皮バリアの機能障害,ならびに環境因子が複雑に関与して繰り返し発生する慢性炎症性皮膚疾患である。そう痒が主たる症状であり,皮膚病変は軽度の紅斑から重度の苔癬化,紅皮症まで様々である。診断は病歴および診察による。治療法としては,適切なスキンケアについてのカウンセリング,誘因の回避,コルチコステロイ... さらに読む アトピー性皮膚炎(湿疹) (最も頻度の高い種類の湿疹),免疫介在性の 蕁麻疹 蕁麻疹 蕁麻疹は,そう痒と紅斑を伴って皮膚に生じる移動性の境界明瞭な局面で構成される。 蕁麻疹は 血管性浮腫を伴うことあるが,これは真皮深層と皮下組織の肥満細胞および好塩基球が活性化されることで生じるもので,顔面および口唇,四肢,または性器の浮腫として現れる。血管性浮腫は腸管内で発生することもあり,その場合は仙痛性の腹痛がみられる。喉頭浮腫または... さらに読む 蕁麻疹 ,免疫介在性の 血管性浮腫 血管性浮腫 血管性浮腫は真皮深層および皮下組織の浮腫である。通常は,薬物,毒液,食物,花粉,または動物のフケなどのアレルゲンへの曝露によって引き起こされる急性の肥満細胞介在性反応である。さらに血管性浮腫は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬に対する急性反応,慢性反応,または異常な補体反応を特徴とする遺伝性もしくは後天性疾患のこともある。主な症状は腫脹であ... さらに読む 血管性浮腫 ,急性ラテックスアレルギー,一部のアレルギー性肺疾患(例,アレルギー性 喘息 喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む ,IgE介在性の アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は,Aspergillus属(一般にA. fumigatus)に対する過敏反応であり,ほとんどは喘息患者に限定的に,またはまれに嚢胞性線維症の患者にみられる。アスペルギルス(Aspergillus)抗原に対する免疫応答が気道閉塞を引き起こし,治療しな... さらに読む アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) ), アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎は,季節性または通年性のそう痒,くしゃみ,鼻漏,鼻閉,およびときに 結膜炎で,花粉または他のアレルゲンへの曝露によって発生する。診断は病歴およびときに皮膚テストによる。第1選択の治療は,経鼻コルチコステロイドの投与(経口または経鼻抗ヒスタミン薬の併用は問わない)または経口抗ヒスタミン薬と経口鼻閉改善薬の併用による。... さらに読む 有毒な刺傷 虫刺傷 刺す昆虫は,昆虫綱の膜翅目に属する。膜翅目の毒は全ての人で局所的な毒性反応を引き起こし,過去に感作された人でのみアレルギー反応を引き起こす。重症度は,毒の量および過去の感作の程度による。ミツバチの群れによる攻撃を受けた患者と毒物特異的IgEレベルが高い患者は, アナフィラキシーのリスクが最も高いが,多くの小児では成長してもリスクがなくなる... さらに読む 虫刺傷 に対するアレルギー反応などがある。

II型

II型反応(抗体依存性細胞傷害性過敏症)は,細胞表面抗原または細胞表面に連結した分子に抗体が結合した場合に生じる。抗原抗体複合体が抗体依存性細胞介在性細胞傷害に関わる細胞(例,ナチュラルキラー細胞,好酸球,マクロファージ),補体,またはそれら両方を活性化する。その結果,細胞および組織が損傷する。

II型過敏症の概要
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II型反応が関与する疾患としては,臓器移植片に対する 超急性移植片拒絶反応 拒絶反応 移植組織は以下のいずれかを利用する: 患者自身の組織(自家移植片[autograft];例,骨,骨髄,皮膚) 遺伝的に同一の(同系[一卵性双生児])ドナーの組織(同系移植片[isograft]) 遺伝的に異なるドナーの組織(同種移植片[allograftまたはhomograft])... さらに読む ,クームス試験陽性 溶血性貧血 溶血性貧血の概要 赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血は,赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)ことと定義される。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼... さらに読む 溶血性貧血の概要 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎は甲状腺の慢性自己免疫性炎症で,リンパ球の浸潤を伴う。所見には,無痛性の甲状腺腫大および甲状腺機能低下症状がある。診断には抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の抗体価高値を証明することが含まれる。生涯にわたるL-チロキシン補充が一般的には必要となる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。)... さらに読む ,抗糸球体基底膜抗体病(例, グッドパスチャー症候群 グッドパスチャー症候群 グッドパスチャー症候群は, 肺腎症候群の亜型であり,血中の抗糸球体基底膜抗体(抗GBM抗体)によって引き起こされる 肺胞出血および 糸球体腎炎から成る自己免疫症候群である。グッドパスチャー症候群は,遺伝的感受性を有する喫煙者に最も多く発生するが,炭化水素の吸入曝露およびウイルス性呼吸器感染症もまた誘因となる可能性がある。症状は,呼吸困難,... さらに読む グッドパスチャー症候群 )などがある。

III型

III型反応(免疫複合体病)は,血管または組織に沈着した循環抗原抗体免疫複合体に反応して炎症を引き起こす。これらの複合体が補体系を活性化,または特定の免疫細胞に結合してその細胞を活性化し,炎症メディエーターの放出をもたらす。

免疫複合体形成に続いて起こる現象は,その免疫複合体を形成する抗原および抗体の相対的割合に一部依存する。初期には,抗原が過剰で抗原抗体複合体は少量であるため,補体は活性化されない。その後,抗原と抗体のつり合いが取れて,免疫複合体が増え,様々な組織(例,糸球体,血管)に沈着しやすくなると,全身反応を引き起こす。誘導された抗体のアイソタイプが変化し,複合体成分の糖鎖付加,大きさ,および電荷が臨床反応に寄与する。

III型過敏症の概要
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III型の疾患としては,血清病, 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは,自己免疫を原因とする慢性,多臓器性,炎症性の疾患であり,主に若年女性に起こる。一般的な症状としては,関節痛および関節炎,レイノー症候群,頬部などの発疹,胸膜炎または心膜炎,腎障害,中枢神経系障害,血球減少などがある。診断には,臨床的および血清学的な基準が必要である。重症で進行中の活動性疾患の治療には,コルチコステ... さらに読む 全身性エリテマトーデス(SLE) 関節リウマチ(RA) 関節リウマチ(RA) 関節リウマチ(RA)は,主に関節を侵す慢性の全身性自己免疫疾患である。RAは,サイトカイン,ケモカイン,およびメタロプロテアーゼを介した損傷を引き起こす。特徴として,末梢関節(例,手関節,中手指節関節)に対称性に炎症が生じ,結果として関節構造が進行性に破壊される(通常は全身症状を伴う)。診断は特異的な臨床所見,臨床検査結果,および画像所見... さらに読む 関節リウマチ(RA) 白血球破砕性血管炎 皮膚血管炎 皮膚血管炎は,内臓ではなく皮膚および皮下組織の小型または中型の血管を侵す血管炎のことを指す。皮膚血管炎は,皮膚に限局する場合もあれば,原発性または二次性の全身性血管炎疾患の一要素である場合もある。紫斑,点状出血,または潰瘍が生じることがある。診断には生検が必要である。治療法は病因および疾患の範囲によって異なる。... さらに読む 皮膚血管炎 クリオグロブリン血症 クリオグロブリン血症 典型的には免疫グロブリンの形で血中に含まれるタンパク質が異常に増加する病態であり,それにより血管が脆弱化し,紫斑が形成されやすくなる。 ( 血管性の出血性疾患の概要も参照のこと。) 紫斑とは,出血によって紫調に変色した皮膚または粘膜病変のことである。小さな病変(2mm未満)は点状出血と呼ばれ,大きな病変は斑状出血または皮下出血と呼ばれる。... さらに読む クリオグロブリン血症 ,急性 過敏性肺炎 過敏性肺炎 過敏性肺炎は,環境性(しばしば職業性)抗原への感作および続発する過敏反応により引き起こされる咳嗽,呼吸困難,および疲労から成る症候群である。急性,亜急性,および慢性の形態が存在する;全てが急性の間質性炎症,ならびに長期曝露に伴う肉芽腫および線維化の発生を特徴とする。診断は病歴,身体診察,画像検査,気管支肺胞洗浄,および生検の組合せに基づく... さらに読む 過敏性肺炎 ,いくつかの病型の 糸球体腎炎 糸球体疾患の概要 糸球体疾患の重要な特徴は タンパク尿であり,ネフローゼレベル(3g/日以上)となることも多い。 糸球体疾患は,以下のような所見を主に伴って現れるような尿の変化に基づいて分類される: ネフローゼレベルのタンパク尿,およびネフローゼ型の尿沈渣所見(nephrotic urine sediment;脂肪円柱,卵円形脂肪体を認めるが,細胞と細胞円... さらに読む などがある。

III型反応は,抗原への曝露から4~10日後に出現し,抗原への曝露が続くと,慢性になることがある。

IV型

IV型反応(遅延型過敏症)はT細胞介在性である。

IV型過敏症の概要
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特異抗原と接触して感作されたT細胞は,同じ抗原への継続的な曝露または再曝露によって活性化される;直接的毒性作用により,または好酸球,単球およびマクロファージ,好中球,もしくはナチュラルキラー細胞を活性化するサイトカインの放出を通じて,組織を損傷する。

IV型反応が関与する疾患には, 接触皮膚炎 接触皮膚炎 接触皮膚炎は,刺激物(刺激性接触皮膚炎)またはアレルゲン(アレルギー性接触皮膚炎)との直接接触によって皮膚の炎症が生じる疾患である。症状としては,そう痒のほか,ときに灼熱痛などがみられる。皮膚の変化としては,紅斑,鱗屑,皮膚の腫脹のほか,ときに水疱形成や潰瘍形成などがみられる。局在は接触部位に依存する。診断には曝露歴と診察所見のほか,とき... さらに読む 接触皮膚炎 (例,ツタウルシ),亜急性および慢性の 過敏性肺炎 過敏性肺炎 過敏性肺炎は,環境性(しばしば職業性)抗原への感作および続発する過敏反応により引き起こされる咳嗽,呼吸困難,および疲労から成る症候群である。急性,亜急性,および慢性の形態が存在する;全てが急性の間質性炎症,ならびに長期曝露に伴う肉芽腫および線維化の発生を特徴とする。診断は病歴,身体診察,画像検査,気管支肺胞洗浄,および生検の組合せに基づく... さらに読む 過敏性肺炎 ,急性および慢性の同種移植片 拒絶 拒絶反応 移植組織は以下のいずれかを利用する: 患者自身の組織(自家移植片[autograft];例,骨,骨髄,皮膚) 遺伝的に同一の(同系[一卵性双生児])ドナーの組織(同系移植片[isograft]) 遺伝的に異なるドナーの組織(同種移植片[allograftまたはhomograft])... さらに読む ,結核に対する免疫応答,および多種類の 薬物過敏症 薬物過敏症 薬物過敏症は薬物に対する免疫介在性の反応である。症状は軽度から重度まで様々で,発疹,アナフィラキシー,および血清病などがある。診断は臨床的に行う;ときに皮膚テストが有用である。治療は,薬物投与の中止,支持療法(例,抗ヒスタミン薬による),およびときに脱感作である。 ( アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む などがある。

ラテックス過敏症

ラテックス過敏症は,ラテックス製品(例,ゴム手袋,デンタルダム,コンドーム,呼吸装置用のチューブ,カテーテル,ふくらますことができるラテックスのカフス付きの浣腸の先端部)に含まれる水溶性タンパク質に対する過剰な免疫応答である。

1980年代後半から,普遍的予防策(ユニバーサルプリコーション)が重要視されてラテックス手袋の日常的使用がもたらされた際に,医療従事者の間で発生率が上昇した。

ラテックスへの反応には以下の2種類がある:

  • 急性(IgE媒介性)

  • 遅延性(細胞媒介性)

即時型反応は蕁麻疹およびアナフィラキシーを引き起こす;遅延型反応は皮膚炎を引き起こす。

医療従事者がラテックス手袋をすると,しばしば皮膚がヒリヒリして痂皮化することがあるが,通常この反応は化学刺激であり,ラテックスアレルギーではない。

ラテックス過敏症の診断は主に病歴に基づく。抗ラテックスIgE抗体を検出する皮膚テストおよびアッセイを利用できる。

治療はラテックスの回避である。医療機関はラテックスを含まない手袋および装備を使えるようにすべきである。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の病因

複雑な遺伝因子,環境因子,および部位特異的な因子がアレルギーの出現の一因となる。

遺伝因子が関与する可能性があり,疾患の家族内発症,アトピーと特異的ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子座との関連性,ならびに高親和性IgE受容体β鎖,IL-4受容体α鎖,インターロイキン4(IL-4),IL-13,CD14,DPP10(dipeptidyl-peptidase 10),およびADAM33(a disintegrin and metalloprotease domain 33)などいくつかの遺伝子の多型によって示唆される。

環境因子は,2型ヘルパーT(TH2)細胞が指揮する免疫応答を維持するための遺伝的因子と相互作用する。TH2細胞は好酸球を活性化し,IgE産生を促進するため,アレルギー誘発性である。幼児期に細菌およびウイルス感染症ならびに内毒素(例,リポ多糖体)に曝露すると,正常であれば,ナイーブTH2細胞応答を1型ヘルパーT(TH1)細胞応答に転換させることで,TH2細胞が抑制され,ひいてはアレルギー性反応が阻止される。調節性T(Treg)細胞(例,CD4陽性CD25陽性Foxp3陽性)(TH2細胞の応答を抑制できる)およびIL-12を分泌する樹状細胞(TH1細胞の応答を促進する)もおそらく関与する。しかし,先進国における少子・小世帯化,より清潔な屋内環境,および早期の抗菌薬使用などの傾向により,主にTH1細胞の応答を促進する感染因子への小児の曝露が制限される可能性がある;このような傾向により一部のアレルギー疾患の有病率増加が説明できる可能性がある。

アレルギーの発生に寄与すると考えられる他の因子には,アレルゲンへの慢性的な曝露および感作,食事,環境汚染物質などがある。

部位特異的な因子には,気管支上皮および皮膚の接着分子,ならびにTH2細胞を標的組織に向かわせる消化管内の分子がある。消化管,気道,および皮膚の微生物叢の組成はアレルギーの発生に強い影響を及ぼすと考えられる。これらの微生物叢はアレルギー治療の新たな標的となる可能性がある。

アレルゲン

定義によれば,アレルゲンはIgE介在性のI型またはT細胞介在性のIV型免疫応答を誘発する。アレルギー性誘因は,ほとんどの場合が低分子量タンパク質である;その多くは空気中の粒子に付着する可能性がある。

急性および慢性のアレルギー反応を最も多く引き起こすアレルゲンには以下のものがある:

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の病態生理

IgEで感作された肥満細胞および好塩基球にアレルゲンが結合すると,これらの細胞内の顆粒からヒスタミンが放出される。肥満細胞は広く分布するが,皮膚,肺,および消化管粘膜に最も集中している;ヒスタミンは炎症を促進し,臨床的アトピーの主要なメディエーターである。組織の物理的破壊および様々な物質(例,組織刺激物質,アヘン剤,界面活性剤,補体成分C3aおよびC5a)は,IgEを介さずに,ヒスタミン放出を直接誘発することができる。

ヒスタミンは以下を引き起こす:

  • 局所的な血管拡張(紅斑を引き起こす)

  • 毛細血管透過性の亢進および浮腫(膨疹を形成)

  • ニューロン反射の機序を介する周辺細動脈の血管拡張(フレア―膨疹周囲の発赤を引き起こす)

  • 知覚神経の刺激(そう痒を引き起こす)

  • 気道(気管支収縮)および消化管(消化管運動亢進)の平滑筋収縮

  • 鼻汁,唾液分泌,気管支腺分泌の増加

ヒスタミンは,全身的に放出された場合,強力な細動脈拡張因子であり,末梢における広範な血液貯留および低血圧を引き起こす;脳血管拡張は血管性頭痛の要因となることがある。ヒスタミンにより毛細血管透過性が亢進する;結果として血管腔から血漿および血漿タンパク質が喪失して循環性ショックを悪化させることがある。この喪失は,副腎のクロム親和性細胞からの代償性カテコールアミンの急増をもたらす。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の症状と徴候

アレルギー疾患に共通する症状としては,以下のものがある:

  • 鼻漏,くしゃみ,および鼻閉(上気道)

  • 喘鳴および呼吸困難(下気道)

  • そう痒(眼,鼻,皮膚)

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の診断

  • 臨床的評価

  • ときに血算(好酸球増多症の有無を確認する)と血清中IgE濃度(非特異的検査)

  • しばしば皮膚テストおよびアレルゲン特異的血清IgE検査(特異的検査)

  • まれに誘発試験

徹底的な病歴聴取は,検査またはスクリーニングよりも一般的に信頼性が高い。病歴には以下を含めるべきである:

  • 発作の頻度および長さ,ならびに経時的変化についての質問

  • 同定可能であれば誘発因子

  • 季節的または状況的背景(例,花粉の季節中;動物,枯草,もしくは塵に曝露した後;運動時;または特定の場所で発生することが予想される場合)との関係

  • 同様の症状またはアトピー性疾患の家族歴

  • 試みた治療に対する反応

医療従事者は,ラテックス製品への曝露がアレルギー反応を引き起こしていることに気づかないことがある。

非特異的検査

特定の検査により,症状のアレルギー性起源が示唆されるが,確定はできない。

好酸球数を減少させるコルチコステロイドを服用していない患者であれば,血算を行って好酸球増多症を検出できる場合がある。ただし,アトピーや他の疾患(例,薬剤過敏症,がん,炎症性腸疾患,寄生虫感染症)で好酸球が増加する可能性はあるものの,好酸球数が正常でもアレルギーは除外されないため,血算の価値は限定的である。通常,総白血球数は正常である。貧血および血小板増多症は,アレルギー反応に典型的なものではないため,直ちに全身性炎症性疾患を考慮すべきである。

結膜分泌物,鼻汁,または痰で白血球を調べることができる;好酸球の所見があれば,TH 2 細胞を介した炎症の可能性が高いことが示唆される。

血清中IgE濃度は,アトピー性疾患で上昇するが, 寄生虫感染症 寄生虫感染症へのアプローチ ヒトの寄生虫は,ヒトの体表または体内に生息して,その個体(宿主)から栄養を摂取する微生物である。寄生虫には以下の3種類がある: 単細胞生物(原虫,微胞子虫) 多細胞生物である蠕虫 ダニやシラミなどの外部寄生虫 原虫および蠕虫による寄生虫感染症は,世界的に疾患および死亡の原因としてかなりの割合を占めている。寄生虫感染症は中南米,アフリカ,お... さらに読む 伝染性単核球症 伝染性単核球症 伝染性単核球症は,エプスタイン-バーウイルス(EBV,ヒトヘルペスウイルス4型)により引き起こされ,疲労,発熱,咽頭炎,およびリンパ節腫脹を特徴とする。疲労は数週間から数カ月間続くことがある。気道閉塞,脾破裂,および神経症候群などの重症合併症がときに起こる。診断は臨床的に,またはEBVの血清学的検査により行う。治療は支持療法による。... さらに読む 伝染性単核球症 ,一部の 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患では,免疫系が内因性抗原(自己抗原)に対する抗体を産生する。以下の過敏反応が関与することがある: II型:抗体で覆われた細胞が抗体で覆われた異物粒子と同様に 補体系を活性化して,組織損傷を引き起こす。 III型:損傷の機序に抗原抗体複合体の沈着が関与する。 IV型:損傷がT細胞介在性である。... さらに読む ,薬物反応,免疫不全疾患(高IgE症候群 高IgE症候群 高IgE症候群は,遺伝性のB細胞およびT細胞の複合免疫不全症であり,反復性の皮膚のブドウ球菌性膿瘍,反復性の副鼻腔肺感染,および重度のそう痒性の好酸球性皮膚炎を特徴とする。血清IgE濃度の測定により診断が確定する。治療は,生涯にわたるブドウ球菌に有効な抗菌薬の予防的投与などの支持療法による。... さらに読む および ウィスコット-アルドリッチ症候群 ウィスコット-アルドリッチ症候群 ウィスコット-アルドリッチ症候群(Wiskott-Aldrich syndrome)は,B細胞およびT細胞両方の異常に起因し,反復性感染症,湿疹,および血小板減少症を特徴とする。 ( 免疫不全疾患の概要および 免疫不全疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。) ウィスコット-アルドリッチ症候群は,... さらに読む ),ならびに 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫 多発性骨髄腫は,形質細胞の悪性腫瘍で,単クローン性免疫グロブリンを産生し,隣接する骨組織に浸潤し,それを破壊する。一般的な臨床像としては,骨痛および/または骨折を引き起こす溶骨性骨病変,腎機能不全,高カルシウム血症,貧血,繰り返す感染症などがある。典型的には,Mタンパク質(ときに尿中にみられ,血清中に認められない場合があるが,まれに全く認... さらに読む 多発性骨髄腫 の一部の型でも上昇することがあるため,診断にはほとんど役に立たない。IgE濃度は, アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は,Aspergillus属(一般にA. fumigatus)に対する過敏反応であり,ほとんどは喘息患者に限定的に,またはまれに嚢胞性線維症の患者にみられる。アスペルギルス(Aspergillus)抗原に対する免疫応答が気道閉塞を引き起こし,治療しな... さらに読む アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) で治療に対する反応を追跡する上でおそらく最も役立つ。

特異的検査

皮膚テストは,抗原の濃度を標準化して皮膚に直接塗布するもので,詳細な病歴および身体診察によっても持続する症状または重度の症状の原因および誘因を特定できない場合に適応となる。皮膚テストは,アレルギー性喘息または食物アレルギーよりもアレルギー性鼻炎および結膜炎の診断で陽性適中率が高い;食物アレルギーでは陰性適中率が高い。

最も多く用いられる抗原は,花粉(樹木,イネ科の植物,雑草),カビ,チリダニの糞,動物のフケおよび血清,昆虫毒,食品,ならびにβ-ラクタム系抗菌薬である。テストに含める抗原は,患者の病歴および地理的な有病率に基づいて選択する。

皮膚テストでは以下の2つの方法を用いることができる:

  • 経皮的(プリック)テスト

  • 皮内テスト

プリックテストは頻度が高いアレルギーの大半を検出可能であり,通常は最初に行う。皮内テストは,より感度が高いが特異度は低い;プリックテストの結果が陰性または曖昧な場合に,アレルゲンに対する感受性を評価するために用いることがある。

プリックテストでは,皮膚の上に抗原抽出物を1滴たらし,抽出液を塗り広げて,20°の角度で保持した27Gの注射針の尖端または市販のプリック用器具で抽出液を塗り広げて,ひっかくか穿刺する。

プリックテストでアレルゲンが同定されない場合は,皮内テストを行う。

皮内テストでは,1~2mmの小水疱を形成するのに十分な抽出液(典型的には0.02mL)を0.5または1mLの注射器および27Gのショートベベル針で皮内に注射する。

プリックテストおよび皮内テストでは,陰性対照として希釈液のみ,陽性対照としてヒスタミン(プリックテストで10mg/mL,皮内試験で1:1000に希釈した溶液0.01mL)を加えるべきである。テスト抗原に対する全身反応が最近(1年未満)認められたことのある患者では,標準試薬の100倍希釈溶液からテストを開始し,次に10倍希釈,それから標準濃度を用いる。

膨疹および発赤反応が起こり,15~20分経過後に膨疹の直径が陰性対照よりも3~5mm大きければ,テスト結果を陽性とみなす。

皮膚描記症(皮膚の摩擦または擦過によって誘発される膨疹および発赤反応)では偽陽性となる。アレルゲン抽出液が不適切に保管されていた場合または使用期限を過ぎている場合にも偽陽性が生じる。

特定の薬物が結果を妨げることがあるため,テスト前の数日から1週間は休薬すべきである。これらの薬物には,OTC医薬品および処方薬の抗ヒスタミン薬,三環系抗うつ薬,およびモノアミン酸化酵素阻害薬などがある。β遮断薬を服用している患者は,重度反応の危険因子を有する可能性がより高いため,テストを避けるべきであると提案している医師もいる。このような危険因子では,心肺予備力が不十分なことが予測される傾向があり,冠動脈疾患,不整脈,および高齢などが含まれる。さらに,β遮断薬は,アドレナリンなどのβ作動薬に対する反応を阻害することによって,重度反応の治療を妨げることもある。

アレルゲン特異的血清IgE検査は,酵素標識抗IgE抗体を用いて既知のアレルゲンに対する血清IgEの結合を検出するものである。皮膚テストが無効または危険と考えられる場合―例えば,テスト結果を妨害する薬物をテスト前に一時的に休薬できない場合,または湿疹もしくは乾癬などの皮膚疾患により皮膚テストの実施が困難と考えられる場合に実施する。アレルゲン特異的血清IgE検査では,アレルゲンを合成物質の表面に固定する。患者血清および酵素で標識した抗IgE抗体を反応させた後,酵素に対する基質を加える;基質によって比色,蛍光,または化学発光による結合検出が可能となる。アレルゲン特異的IgE試験は,125I標識抗IgE 抗体を用いる放射性アレルゲン吸着試験(RAST)の代わりに用いられるようになってきた。アレルゲン特異的血清IgE検査は放射性ではないが,ときには依然としてRASTと呼ばれることがある。

誘発試験には,アレルゲンの粘膜への直接的な曝露を必要とする経口負荷試験などがあり,アレルギー反応を立証しなければならない患者(例,職業または障害に関する請求のため)およびときに食物アレルギーの診断に適応となる。他の種類の誘発試験としては,運動誘発喘息を診断するために運動するよう患者に指示する方法や,寒冷蕁麻疹を診断するために皮膚に角氷を4分間当てる方法がある。

眼試験は皮膚テストをしのぐ利点がなく,めったに用いられない。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の治療

  • 救急治療

  • アレルギー誘因の除去または回避

  • H1受容体拮抗薬

  • 肥満細胞安定化薬

  • 抗炎症性コルチコステロイドおよびロイコトリエン阻害薬

  • 免疫療法(脱感作)

救急治療

重度のアレルギーを有する患者には,アドレナリン充填済みの自己注射器および経口抗ヒスタミン薬を常に携行し,重度のアレルギー反応が起こった場合には,これらの薬剤を直ちに使用して,救急外来へ行くよう忠告しておくべきである。救急外来では,患者を注意深くモニタリングし,必要に応じて治療を繰り返したり調節したりできる。

環境管理

H1受容体拮抗薬

抗ヒスタミン薬は受容体を遮断する;ヒスタミン産生または代謝には影響しない。

H1受容体拮抗薬がアレルギー疾患に対する治療の中心である。H2受容体拮抗薬は主に胃酸分泌抑制に用いられ,アレルギー反応に対する有用性は限られている;特定のアトピー性疾患,特に慢性蕁麻疹に対する補助療法として適応となる場合がある。

経口H1受容体拮抗薬 経口H1受容体拮抗薬 経口H1受容体拮抗薬 により,様々なアトピー性疾患やアレルギー疾患(例,季節的な花粉症, アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎は,季節性または通年性のそう痒,くしゃみ,鼻漏,鼻閉,およびときに 結膜炎で,花粉または他のアレルゲンへの曝露によって発生する。診断は病歴およびときに皮膚テストによる。第1選択の治療は,経鼻コルチコステロイドの投与(経口または経鼻抗ヒスタミン薬の併用は問わない)または経口抗ヒスタミン薬と経口鼻閉改善薬の併用による。... さらに読む 結膜炎 アレルギー性結膜炎 アレルギー性結膜炎は,急性,間欠性,または慢性の結膜の炎症であり,通常,空中アレルゲンによって生じる。症状としては,そう痒,流涙,眼脂,結膜充血などがある。診断は臨床的に行う。治療は抗ヒスタミン薬および肥満細胞安定化薬の局所投与による。 ( 結膜炎の概要も参照のこと。) アレルギー性結膜炎は,特異抗原に対する... さらに読む アレルギー性結膜炎 蕁麻疹 蕁麻疹 蕁麻疹は,そう痒と紅斑を伴って皮膚に生じる移動性の境界明瞭な局面で構成される。 蕁麻疹は 血管性浮腫を伴うことあるが,これは真皮深層と皮下組織の肥満細胞および好塩基球が活性化されることで生じるもので,顔面および口唇,四肢,または性器の浮腫として現れる。血管性浮腫は腸管内で発生することもあり,その場合は仙痛性の腹痛がみられる。喉頭浮腫または... さらに読む 蕁麻疹 ,その他の皮膚疾患,不適合輸血に対する軽度の反応)の症状が緩和するが,アレルギー性気管支収縮と全身性の血管拡張にはあまり効果的ではない。作用発現までの時間は通常15~30分で,最大の効果は1時間で得られる;作用持続時間は通常3~6時間である。

経口H1受容体拮抗薬および交感神経刺激薬(例,プソイドエフェドリン)を含有する製品は,成人および12歳以上の小児用にOTC医薬品として広く入手可能である。これらの製品は,抗ヒスタミン薬および鼻閉改善薬の両方が必要なときに特に有用である;しかし,ときに禁忌となる(例,患者がモノアミン酸化酵素阻害薬[MAOI]を服用中の場合)。

経口H1受容体拮抗薬には以下の2種類がある:

  • 鎮静性

  • 非鎮静性(鎮静作用の弱いものと考える方がよい)

鎮静性抗ヒスタミン薬は処方箋がなくても広く入手可能である。これらはいずれもかなりの鎮静作用および抗コリン作用を有する;高齢患者,ならびに緑内障,前立腺肥大症,便秘,起立性低血圧,せん妄,および認知症の患者に特有の問題をもたらす。

鎮静作用が治療に役立つ可能性がある場合(例,夜間のアレルギー症状の緩和,成人における不眠症もしくは若年患者における悪心の短期的治療)を除き,非鎮静性(非抗コリン性)抗ヒスタミン薬が望ましい。

抗ヒスタミン溶液には,以下の投与方法がある:

  • 経鼻(鼻炎治療薬のアゼラスチンまたはオロパタジン)

  • 点眼(例,結膜炎治療薬のアゼラスチン,エメダスチン,ケトチフェン,レボカバスチン,オロパタジン,ペミロラスト[米国では使用不能])

局所ジフェンヒドラミンは入手可能であるが,使用すべきではない;その効力は証明されておらず,薬物感作(すなわちアレルギー)が発生する場合があり,経口H1受容体拮抗薬を同時に服用している幼児では抗コリン作用薬の毒性が出現することがある。

肥満細胞安定化薬

肥満細胞安定化薬は肥満細胞からのメディエーター放出を遮断する。

肥満細胞安定化薬は,他の薬剤(例,抗ヒスタミン薬,外用コルチコステロイド)が無効の場合,または忍容性が良好でない場合に用いられる。

以下の投与方法がある:

  • 経口(クロモグリク酸[cromolyn])

  • 経鼻(例,アゼラスチン,クロモグリク酸[cromolyn])

  • 点眼(例,アゼラスチン,クロモグリク酸[cromolyn],ロドキサミド[lodoxamide],ケトチフェン,ネドクロミル,オロパタジン,ペミロラスト)

点眼薬および経鼻薬のいくつか(例,アゼラスチン,ケトチフェン,オロパタジン,ペミロラスト)は二作用性の肥満細胞安定化薬/抗ヒスタミン薬である。

抗炎症薬

コルチコステロイドは経鼻(経鼻吸入コルチコステロイド 経鼻吸入コルチコステロイド 経鼻吸入コルチコステロイド および 吸入肥満細胞安定化薬 経鼻吸入肥満細胞安定化薬 経鼻吸入肥満細胞安定化薬 の表を参照)または経口投与が可能である。

経口コルチコステロイドは,以下に適応がある:

コルチコステロイド点眼薬は,感染症のリスクがあるため,眼科医が関与する場合にのみ用いる。

非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は典型的には有用ではないが,例外はアレルギー性結膜炎に対して結膜充血およびそう痒を緩和するために使用される外用薬である。

他の薬物

免疫療法

アレルゲンを注射または経口により徐々に増量して投与したり(減感作または脱感作),高用量を舌下に投与したりして曝露させることで寛容が誘導される可能性があるため,アレルゲンへの曝露を回避できない場合および薬物治療が不十分な場合に適応となる。

機序は明らかではないが,以下の物質の誘導が関与している可能性がある:

  • IgG抗体(アレルゲンに対してIgEと競合するか,または肥満細胞のIgE受容体にIgEが結合するのを阻止する)

  • インターフェロン-γ,IL-12,およびTH1細胞によって産生されるサイトカイン

  • 制御性T細胞

十分な効果を得るには,当初,週1回または2回注射する。用量は,最初の感受性に応じて,典型的には0.1~1.0生物学的活性単位(BAU)で開始し,最大耐量(中等度の有害作用を引き起こし始める用量)が確定するまで,注射のたびに最大2倍の増量を毎週または隔週で行う;注射後にアナフィラキシーを起こすことがあるため,用量漸増中は投与後約30分間にわたり患者を観察すべきである続いて,1年を通して2~4週毎に最大耐量を注射すべきである;季節性アレルギーの場合でさえ通年治療の方が季節前または季節中治療より成績良好である。

用いるアレルゲンは,典型的には花粉,チリダニの糞,カビ,および針をもつ昆虫の毒など,回避できないものとする。昆虫毒は重量で標準化されている;典型的な開始量は0.01μgであり,通常の維持量は100~200μgである。本来,動物性フケの脱感作の対象は曝露を回避できない患者(例,獣医師,研究員)に限られるが,この治療法が有用であるとするエビデンスはほとんどない。ピーナッツの脱感作は利用可能であり,その他の食物アレルゲンの脱感作は研究段階である。ペニシリンおよび他の特定の薬物,ならびにヒト以外(異種)の血清については 脱感作 脱感作 薬物過敏症は薬物に対する免疫介在性の反応である。症状は軽度から重度まで様々で,発疹,アナフィラキシー,および血清病などがある。診断は臨床的に行う;ときに皮膚テストが有用である。治療は,薬物投与の中止,支持療法(例,抗ヒスタミン薬による),およびときに脱感作である。 ( アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む が可能である。

有害作用は,ときに不注意によるあまりにも高用量の筋肉内または静脈内注射に起因する過量投与に関連することが最も多く,軽度の咳嗽またはくしゃみから全身性蕁麻疹,重度の喘息,アナフィラキシーショック,およびまれに死亡まで様々である。有害作用は以下によって防ぐことが可能である:

  • 投与量を少しずつ増量する

  • 前回の注射に対して局所反応が大きければ(直径2.5cm以上),同量を繰り返すか減量する

  • 新しい抽出物を用いる場合は用量を減らす

花粉の季節には花粉抽出物の用量を減らすことが推奨される。アナフィラキシーの迅速な治療に対してアドレナリン,酸素,および蘇生器具が速やかに使用できるようにしておくべきである。

アレルギー性鼻炎が雑草の花粉,ブタクサ,ネコのフケ,またはチリダニのアレルゲンによって誘発される場合は,これらのアレルゲン抽出物を用いた 舌下免疫療法 治療 を用いることができる。初回は医療施設で投与し,アナフィラキシーが起こる可能性があるため,投与後30分間は患者を観察すべきである。初回投与が耐容できれば,以降は家庭で日常的に服用させる。成人の場合,初回用量の増量は行わないが,10~17歳の小児および青年では,最初の3日間かけて増量していく。雑草の花粉またはブタクサのアレルギー患者における治療は,各雑草の花粉またはブタクサの季節が始まる4カ月前から開始し,その季節を通して行う。

ピーナッツアレルギーの経口免疫療法では,脱脂済みピーナッツ粉末を用いる。最初の用量漸増は,医療施設で1日で0.5mgから6mgまで5回にわたり用量を増やして投与する。この最初のレジメンに続いて,1日量3mgの投与から開始し,維持量の300mg,1日1回に達するまで22週間かけて2週間毎に増量する。増量期間中,増量を行う日の投与は医療施設で実施する。

妊娠中および授乳中のアレルギー治療

アレルギーのある妊婦では,アレルゲンの回避が症状をコントロールする上で最善の方法である。症状が重度であれば,抗ヒスタミン薬の鼻腔スプレーが推奨される。抗ヒスタミン薬の鼻腔スプレーでは効果が不十分な場合にのみ経口抗ヒスタミン薬を使用すべきである。

授乳中は,非鎮静性抗ヒスタミン薬が望ましい。鎮静性抗ヒスタミン薬を用いることもできるが,乳児に眠気および易刺激性を引き起こす可能性がある。鎮静性抗ヒスタミン薬が必要な場合は,乳児にこれらの作用がないかモニタリングするべきである。

抗ヒスタミン薬は経口薬より鼻腔スプレーが望ましい。症状のコントロールに経口抗ヒスタミン薬が欠かせない場合,授乳後すぐに服用すべきである。シプロヘプタジンは,プロラクチン濃度を低下させ,乳汁分泌が減少する可能性があるため,授乳中は禁忌である。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の予防

アレルギーの誘因を排除または回避すべきである。対策としては以下のものがある:

  • 合成繊維の枕および不透過性のマットレスカバーの使用

  • シーツ,枕カバー,および毛布を熱湯で頻繁に洗浄

  • 掃き掃除,掃除機がけ,モップかけなどの自宅の頻繁な清掃

  • 布張りの家具,ぬいぐるみ,および絨毯の除去または布張りの家具および絨毯の頻繁な掃除機がけ

  • ゴキブリ駆除による曝露解消

  • 地下室および他の通気が悪く湿気の多い部屋における除湿機の使用

  • HEPA(high-efficiency particulate air)フィルター付き掃除機の使用

  • 誘因となる食品の回避

  • ペットを特定の部屋または屋外に限定

  • 重症季節性アレルギー患者では,アレルゲンのない地域への転居もありうる

非アレルギー性の補助的な誘因(例,タバコの煙,強い香り,刺激性のガス,空気汚染,低温,高湿度)も可能であれば回避または管理すべきである。

アレルギー疾患およびアトピー性疾患の要点

  • アトピー性反応(ダニの糞,動物のフケ,花粉,またはカビによって引き起こされることが多い)は,IgE介在性のアレルギー反応で,ヒスタミンの放出を誘発する。

  • 病歴は検査よりも信頼性が高いため,徹底的に病歴を聴取し,病歴には発作の頻度および持続,症状と季節または状況の関係,家族歴,可能性のある誘因,および治療の試みへの反応などを含める。

  • 病歴および診察から原因が同定されない場合,皮膚テストまたはアレルゲン特異的血清IgE検査がアレルゲンの同定に役立つことがある。

  • アレルゲンの除去または回避が治療および予防の鍵であり,症状を軽減するためにH1受容体拮抗薬,外用コルチコステロイド,および/または肥満細胞安定化薬を使用する。

  • アレルゲンを回避できず,他の治療が無効であれば,免疫療法が必要になることがある。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

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