貧血(赤血球数,ヘモグロビン量,またはヘマトクリットの減少)は, 赤血球産生 赤血球産生 赤血球の産生(赤血球造血)は,ホルモンであるエリスロポエチン(EPO)のコントロール下で骨髄内に進行している。腎臓の傍糸球体細胞は,酸素運搬量の減少(貧血および低酸素症で生じる)またはアンドロゲン濃度の上昇に反応してエリスロポエチンを産生する。赤血球の産生には,エリスロポエチン以外にも,主に... さらに読む (赤血球造血)の低下,赤血球崩壊の増加,失血,またはこれらの因子の組合せの結果として生じることがある。(貧血患者へのアプローチ 貧血の評価 貧血では,赤血球の数が減少する(赤血球数,ヘマトクリット,または赤血球ヘモグロビン量で測定する)。男性では,貧血はヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 450万/μL(12/L)と定義されている。女性では,ヘモグロビン... さらに読む も参照のこと。)
赤血球産生低下による貧血(hypoproliferative anemiaと呼ばれる)は,網状赤血球数が貧血の程度と不釣り合いに低いことによって確認される。
赤血球指数 検査 貧血では,赤血球の数が減少する(赤血球数,ヘマトクリット,または赤血球ヘモグロビン量で測定する)。男性では,貧血はヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 450万/μL(12/L)と定義されている。女性では,ヘモグロビン... さらに読む (主に平均赤血球容積[MCV])によって,赤血球産生低下の鑑別診断が絞られ,必要な追加検査を判断する助けとなる。
小球性貧血は,ヘムまたはグロビン合成の低下または障害の結果として起こる。小球性貧血としては以下のものがある:
鉄利用障害性貧血(一部の 鉄芽球性貧血 鉄芽球性貧血 鉄芽球性貧血は,血清鉄,フェリチン,およびトランスフェリン飽和度の高値と環状鉄芽球(核周囲に鉄で満たされたミトコンドリアを伴う赤芽球)の存在を特徴とする多様な一群の貧血疾患である。症状は貧血のそれであり,具体的には疲労や嗜眠などがみられる。診断は血算,網状赤血球数,および末梢血塗抹検査のほか,鉄検査および骨髄検査による。治療として,原因物... さらに読む および 鉛中毒 鉛中毒 鉛中毒は,最初は最小限の症状しか引き起こさないことが多いが,急性脳症または不可逆性の臓器障害を引き起こす場合があり,小児では一般に認知障害を来す。診断は全血中鉛濃度により行う。治療としては,鉛への曝露の中止,およびときにサクシマー(succimer)またはエデト酸カルシウム二ナトリウムの単独またはジメルカプロールとの併用による... さらに読む を含む)
小球性貧血の患者には通常は 貯蔵鉄の評価 検査 貧血では,赤血球の数が減少する(赤血球数,ヘマトクリット,または赤血球ヘモグロビン量で測定する)。男性では,貧血はヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 450万/μL(12/L)と定義されている。女性では,ヘモグロビン... さらに読む が必要である。
正球性貧血の特徴は,赤血球分布幅(RDW)が正常で,正色素性の指数を示すことである。最も一般的な原因は以下の2つである:
炎症 慢性疾患に伴う貧血 慢性疾患に伴う貧血は,複数の因子が関与する貧血である。診断のためには一般的に,感染症,自己免疫疾患,腎疾患,悪性腫瘍などの,慢性炎症性疾患が存在する必要がある。小球性または正球性貧血,および網状赤血球数低値を特徴とする。血清鉄とトランスフェリンの測定値は典型的には低値から正常値となるが,血清フェリチン値は正常値または高値となる場合がある。... さらに読む または 腎疾患 腎疾患に伴う貧血 腎疾患に伴う貧血は,主にエリスロポエチン(EPO)の欠乏またはEPOに対する反応性の低下に起因する 産生低下による貧血(hypoproliferative anemia)であり,これは正球性および正色素性の傾向を示す。治療法としては,基礎疾患を是正する治療やEPOの補充のほか,ときに鉄剤の投与などがある。... さらに読む に起因するエリスロポエチン(EPO)の欠乏またはEPOに対する反応性の低下による赤血球産生の低下
再生不良性貧血 再生不良性貧血 再生不良性貧血は,血球前駆細胞の減少,骨髄の低形成または無形成,および2系統以上(赤血球,白血球,血小板)の血球減少が生じる造血幹細胞の疾患である。症状は貧血,血小板減少症(点状出血,出血),または白血球減少症(感染症)によって引き起こされる。診断には,末梢血塗抹での汎血球減少と骨髄生検での骨髄低形成の証明が必要である。治療としては通常,... さらに読む , 赤芽球癆 赤芽球癆 後天性赤芽球癆は,孤立性の正球性貧血が生じる赤芽球系前駆細胞の疾患である。白血球と血小板は影響を受けない。貧血に起因する症状としては,疲労,嗜眠,運動耐容能低下,蒼白などがある。診断には,末梢血塗抹での正球性貧血と骨髄生検での正常な骨髄細胞数に加え,赤芽球系前駆細胞の欠如を認める必要がある。治療としては通常,基礎疾患の治療のほか,一部の症... さらに読む , 骨髄異形成症候群 骨髄異形成症候群(MDS) 骨髄異形成症候群(MDS)は,末梢の血球減少症,異形成の造血前駆細胞,過形成または低形成の骨髄,および 急性骨髄性白血病への移行リスクが高いことを特徴とする疾患群である。症状は最も強く障害された特定の細胞系列に由来するものであり,具体的には易疲労感,筋力低下,蒼白(貧血に起因),感染および発熱の増加(好中球減少症に起因),出血および皮下出... さらに読む (MDS)などの後天性の原発性骨髄疾患も,正球性貧血を呈する可能性がある。
大球性貧血は,DNA合成障害によって生じ,巨赤芽球症に至ることがあり,以下の場合にみられる:
大球性貧血のその他の原因としては以下のものがある:
肝疾患
網状赤血球増多を伴う溶血
薬剤(例,ジドブジン,アザチオプリン,メトトレキサート,ヒドロキシカルバミド,イマチニブ)
甲状腺機能低下症患者の一部は大球性の赤血球指数を示す(貧血を伴わないこともある)。
貧血は, 末梢血塗抹標本 血液塗抹検査 貧血では,赤血球の数が減少する(赤血球数,ヘマトクリット,または赤血球ヘモグロビン量で測定する)。男性では,貧血はヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 450万/μL(12/L)と定義されている。女性では,ヘモグロビン... さらに読む でみられる所見が一定ではないことがある。 慢性疾患に伴う貧血 慢性疾患に伴う貧血 慢性疾患に伴う貧血は,複数の因子が関与する貧血である。診断のためには一般的に,感染症,自己免疫疾患,腎疾患,悪性腫瘍などの,慢性炎症性疾患が存在する必要がある。小球性または正球性貧血,および網状赤血球数低値を特徴とする。血清鉄とトランスフェリンの測定値は典型的には低値から正常値となるが,血清フェリチン値は正常値または高値となる場合がある。... さらに読む は,正球性の場合と小球性の場合がある。 骨髄異形成症候群 骨髄異形成症候群(MDS) 骨髄異形成症候群(MDS)は,末梢の血球減少症,異形成の造血前駆細胞,過形成または低形成の骨髄,および 急性骨髄性白血病への移行リスクが高いことを特徴とする疾患群である。症状は最も強く障害された特定の細胞系列に由来するものであり,具体的には易疲労感,筋力低下,蒼白(貧血に起因),感染および発熱の増加(好中球減少症に起因),出血および皮下出... さらに読む による貧血は,正球性,大球性,さらには小球性の場合もある。内分泌疾患(甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏である。診断は典型的な顔貌,嗄声および言語緩徐,乾燥皮膚などの臨床的特徴,ならびに甲状腺ホルモン低値による。サイロキシン投与などにより管理を行う。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能低下症は年齢を問わず生じるが,特に高齢者でよくみられ,その場合症状が軽微で認識しにくい可能性がある。甲状腺... さらに読む など)または微量元素欠乏症(例, 銅欠乏症 後天性銅欠乏症 銅は体内の多数のタンパク質の構成要素であり,体内の銅のほとんどは銅タンパク質と結合している。 銅欠乏症は,後天性のこともあれば,遺伝性のこともある。( ミネラル欠乏症および中毒の概要も参照のこと。) 銅の代謝を制御する遺伝的機序が正常であれば,食事による欠乏により臨床的に重大な銅欠乏症が生じることはまれである。原因としては以下のものがある... さらに読む , 亜鉛欠乏症 亜鉛欠乏症 亜鉛(Zn)は主に骨,歯,毛髪,皮膚,肝臓,筋肉,白血球,および精巣に含まれる。亜鉛は,多数のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)デヒドロゲナーゼ,RNAポリメラーゼおよびDNAポリメラーゼ,ならびにDNA転写因子のほか,アルカリホスファターゼ,スーパーオキシドジスムターゼ,および炭酸脱水酵素など,数百の酵素の成分である。... さらに読む )による貧血の所見は多様であり,正球性または大球性貧血が含まれる。
赤血球産生低下の治療は原因に応じて異なる。