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血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

執筆者:

David J. Kuter

, MD, DPhil, Harvard Medical School

レビュー/改訂 2020年 6月
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血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,血小板減少症と微小血管障害性溶血性貧血を特徴とする急性の劇症疾患である。その他の臨床像として,意識レベルの変化や,ときに腎不全などがみられる。診断するには,直接抗グロブリン試験陰性の溶血性貧血とADAMTS13レベルの低下を含む,特徴的な臨床検査値異常を証明する必要がある。治療法は血漿交換,コルチコステロイド,リツキシマブ,およびまれにカプラシズマブである。

TTPの病態生理

血栓性血小板減少性紫斑病では(溶血性尿毒症症候群 溶血性尿毒症症候群 溶血性尿毒症症候群(HUS)は,血小板減少症,微小血管障害性溶血性貧血,および急性腎障害を特徴とする急性の劇症疾患である。HUSは通常,感染後の小児に発生し,典型的には志賀毒素産生菌(例,大腸菌[ Escherichia coli O157:H7])の感染後であるが,成人でもみられる場合がある。診断するには,直接抗グロブリン試験陰性の溶血性貧血を含む,特徴的な臨床検査値異常を証明する必要がある。治療は支持療法(ときに血液透... さらに読む 溶血性尿毒症症候群 [HUS]と同様に)非免疫学的機序による血小板破壊が起きる。内皮損傷がよくみられる。血小板とフィブリンから成る緩い糸状の塊が複数の小血管に沈着し,そこを通過する血小板と赤血球に損傷を与えることにより,有意な血小板減少症および貧血(微小血管障害性溶血性貧血)を引き起こす。血小板は多発性の小血栓内でも消費され,血小板減少症の一因となる。

主に動脈と毛細血管の接合部に局在する無菌の血小板–フォン・ヴィレブランド因子(VWF)血栓が複数の臓器で発生し,血栓性微小血管症として報告されている。特に脳,消化管,および腎臓に発現する可能性が高い。腎病変は生検(施行した場合)で認められることが多いが,HUSと異なり,重度の 急性腎障害 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む はまれである。その微小血栓には赤血球とフィブリンが含まれておらず(播種性血管内凝固症候群における血栓と異なる), 血管炎 血管炎の概要 血管炎は血管の炎症であり,しばしば虚血,壊死,および臓器の炎症を伴う。血管炎は,あらゆる血管,すなわち動脈,細動脈,静脈,細静脈,または毛細血管を侵すことがある。具体的な血管炎疾患の臨床像は多彩であり,侵された血管の太さおよび部位,臓器病変の範囲,ならびに血管外の炎症の程度およびパターンによって異なる。... さらに読む 血管炎の概要 の特徴である血管壁への顆粒球浸潤がみられない。大径血管の血栓症はまれである。

TTPの病因

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は以下により引き起こされる:

  • 血漿酵素ADAMTS13の先天性または後天性の活性不全

ADAMTS13酵素は,フォン・ヴィレブランド因子をより小さく分解する血漿プロテアーゼであり,それにより異常に大きなフォン・ヴィレブランド因子(VWF)マルチマーを排除するが,これが排除されないと,内皮細胞上に蓄積して,そこで血小板血栓を引き起こす可能性がある。発症に至るには,ADAMTS13活性が通常10%未満でなければならない。場合によっては,その他の血栓促進因子も存在する必要がある。

大半の症例は後天性で,ADAMTS13に対する自己抗体の発現がみられる。まれに,ADAMTS13遺伝子の常染色体劣性変異が関与する遺伝性(Upshaw-Schulman症候群)の症例もある。

多くの後天性の症例では,自己抗体の原因は不明である。既知の原因および関連として以下のものがある:

TTPでみられるものと同様の血栓性微小血管症は,キニーネ,シクロスポリン,タクロリムス,がん化学療法薬(例,マイトマイシンC,ゲムシタビン)など,いくつかの薬剤によって誘発されることがある。大半の症例では,これらの薬物が細い血管に損傷を与え,微小血栓を引き起こすと考えられる。TTPと異なり,このような患者は常にADAMTS13のレベルが正常で,血漿交換,コルチコステロイド,補体阻害薬に反応しない。

TTPの症状と徴候

遺伝性の症例は乳児および小児期早期に発症することが多い。後天性の症例は典型的には成人に発症する。初期症状には,軽度で緩徐に現れるものから,重度かつ急性のものまで幅がみられる。無治療では,病状が進行して,しばしば死に至る。

貧血により典型的には脱力と疲労が生じる。

血小板減少症により,しばしば紫斑と出血が生じる。

複数の臓器で様々な重症度の虚血症状が生じる。具体的な臨床像としては,脱力,錯乱,痙攣発作(昏睡を伴うこともある),腹痛,悪心,嘔吐,下痢,心筋損傷による不整脈などがある。発熱は通常みられない。溶血性尿毒症症候群(HUS)では神経症状がまれであることを除けば,血栓性血小板減少性紫斑病とHUSの症状および徴候は鑑別困難である。

TTPの診断

  • 血小板数を含む血算,末梢血塗抹検査,直接抗グロブリン(クームス)試験,乳酸脱水素酵素(LDH),プロトロンビン時間(PT),部分トロンボプラスチン時間(PTT),フィブリノーゲン,ハプトグロビン

  • ADAMTS13の活性レベルおよび自己抗体価

  • 他の血小板減少性疾患の除外

血栓性血小板減少性紫斑病は,示唆的な症状,血小板減少症,および貧血がみられる患者で疑われる。本疾患が疑われる場合は,尿検査,末梢血塗抹検査,網状赤血球数,血清LDH,ハプトグロビン,腎機能検査,ADAMTS13の活性および自己抗体(インヒビター)検査,血清ビリルビン(直接および間接),および直接抗グロブリン試験を行う。できるだけ早く治療を開始するために,早期発見が重要である。疑わしい症例で血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の他の臨床像(臨床症状,血小板減少症,LDH高値,末梢血塗抹所見)がこの診断と一致する場合は,ADAMTS13検査で診断を確定する前の治療開始が必要になることがある。

以下があればTTPが示唆される:

  • 血小板減少症および貧血

  • 微小血管障害性溶血を示唆する血液塗抹標本の断片化した赤血球(破砕赤血球:ヘルメット形細胞,三角形赤血球,歪みを呈する赤血球)

  • 溶血の所見(ヘモグロビン値の低下,多染性,網状赤血球数の増加,血清LDHおよびビリルビン値の上昇,ハプトグロビンの減少)

  • 直接抗グロブリン試験陰性

  • 凝固検査が正常

TTPが疑われる全ての患者で,ADAMTS13の活性および自己抗体の検査が適切である。ADAMTS13の検査結果を待って初期治療を遅らせてはならないが,その結果は以降の治療の指針として重要である。TTPのほとんどの成人患者では,ADAMTS13活性が10%を下回りADAMTS13に対する抗体がみられることが特徴的であり,そのような患者は血漿交換および免疫抑制(コルチコステロイドおよびリツキシマブ)に反応する。ADAMTS13レベルが10%以上でADAMTS13 Sに対する抗体が認められない患者は,このような治療に反応を示す可能性が低く, 播種性血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,循環血中のトロンビンおよびフィブリンの異常な過剰生成に関係する。その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進する。緩徐に(数週間または数カ月かけて)進行するDICでは,主に静脈の血栓性および塞栓性の症状がみられる;急速に(数時間または数日で)進行するDICでは,主に出血が生じる。重度で急速進行性のDICは,血小板減少症,部分トロンボプラスチン時間およびプロトロンビン時間の延長,血漿Dダイマー(または血... さらに読む 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む ,潜在がん, 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む 全身性強皮症 全身性強皮症 全身性強皮症は,皮膚,関節,および内臓(特に食道,下部消化管,肺,心臓,腎臓)におけるびまん性の線維化および血管異常を特徴とする,原因不明のまれな慢性疾患である。一般的な症状としては,レイノー現象,多発性関節痛,嚥下困難,胸やけ,腫脹などがあり,最終的には皮膚の硬化と手指の拘縮が起こる。肺,心臓,および腎臓の病変がほとんどの死亡の原因である。診断は臨床的に行うが,臨床検査は診断の裏付けになり,予後予測に役立つ。特異的治療は困難であり,合... さらに読む 全身性強皮症 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは,自己免疫を原因とする慢性,多臓器性,炎症性の疾患であり,主に若年女性に起こる。一般的な症状としては,関節痛および関節炎,レイノー症候群,頬部などの発疹,胸膜炎または心膜炎,腎障害,中枢神経系障害,血球減少などがある。診断には,臨床的および血清学的な基準が必要である。重症で進行中の活動性疾患の治療には,コルチコステロイドおよび免疫抑制薬を必要とする。 全症例のうち,70~90%が女性(通常妊娠可能年齢)に起こる。... さらに読む 全身性エリテマトーデス(SLE) ,加速性 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む 高血圧 ,急性腎臓同種移植片拒絶反応など,貧血および血小板減少症の他の原因について評価すべきである。ADAMTS13レベルが低く,自己抗体が認められない患者はまれであるが,そのような患者は,血漿輸液のみを必要とし,免疫抑制の必要がないため,ADAMTS13遺伝子検査を受けるべきである。遺伝子検査は,小児期または妊娠中に発症した患者,再発を繰り返す患者,家族歴が陽性の患者,その他の臨床的疑いがある患者でも適応となる。

TTPの治療

  • 血漿交換

  • コルチコステロイドおよびリツキシマブ

  • カプラシズマブ(まれ)

無治療の血栓性血小板減少性紫斑病は,ほぼ常に死に至る。しかし, 血漿交換 治療としてのアフェレーシス アフェレーシスとは,機器を用いて血液中の血球と水溶性成分を分離する処理のことを指す。アフェレーシスは,供血者に対してしばしば行われ,様々な患者の輸血に用いるべく全血を遠心分離して個々の成分(例,特定の重力に応じて赤血球,血小板,および血漿)を分取する。アフェレーシスは様々な疾患に対する治療目的でも用いられる( 1)。 治療目的のアフェレーシスとしては, 血漿交換や 血球除去などがある。... さらに読む により85%を超える患者が完全に回復する。血漿交換を緊急で開始し,疾患活動性の所見が消失する(血小板数が正常化することで示される)まで連日継続するが,数日から数週間を要する場合がある。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の成人には,しばしばコルチコステロイドとリツキシマブも投与する。

カプラシズマブは,抗フォン・ヴィレブランド因子ヒト化単一可変領域免疫グロブリン(ナノボディ)で,異常に大きなフォン・ヴィレブランド因子マルチマーと血小板の相互作用を阻害する。カプラシズマブにより血小板減少症の回復が早まるとみられるが,出血傾向が強まることがある。血漿交換の必要性が低下する場合があるが,単独で寛解をもたらすことはまれであり,TTPの治療における役割は不明である。

ほとんどの患者で,TTPのエピソードは1回のみである。ただし,ADAMTS13の自己抗体(インヒビター)に起因する重度のADAMTS13活性欠乏を認める患者の約40%で再発がみられる。血漿交換の中止後に再発した患者,または単に再発した患者では,より強力なリツキシマブによる免疫抑制療法が効果的な場合がある。再発を示唆する症状が認められた場合は,迅速に患者の評価を実施しなければならない。

TTPの要点

  • 微小血管血栓によって非免疫学的機序による血小板および赤血球破壊が起き,それにより血小板減少症,貧血,および臓器虚血が生じる。

  • 原因はADAMTS13プロテアーゼの活性不全であり,通常は後天性の自己抗体に起因するが,まれに先天性の遺伝子変異によるものがある。

  • 無治療の血栓性血小板減少性紫斑病は,通常は死に至る。

  • コルチコステロイドおよびリツキシマブとともに血漿交換による治療を適時に行えば,85%を超える生存率が得られる。

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