カリウムは,最も豊富な細胞内陽イオンであり,体内総カリウムのわずか2%程度のみが細胞外に存在する。細胞内カリウムのほとんどは筋細胞内に含まれるため,体内の総カリウム量は除脂肪体重に概ね比例する。平均的な70kgの成人は約3500mEq(3500mmol)のカリウムを有する。
カリウムは細胞内浸透圧を決定する主要因子である。細胞内液のカリウム濃度と細胞外液のカリウム濃度の比は細胞膜の分極に強く影響し,ひいては神経インパルスの伝導および筋(心筋を含む)細胞の収縮など,細胞の重要な過程に影響を及ぼす。したがって,血清カリウム濃度の比較的小さな変化が重大な臨床症状を生むことがある。血清総カリウム濃度は以下のように変化することがある:
カリウム濃度の異常による臨床像には,筋力低下や 不整脈 不整脈の概要 正常な心臓は規則正しく協調的に拍動するが,これは固有の電気的特性を有する筋細胞によって電気パルスが生成・伝達され,それにより一連の組織化された心筋収縮が誘発されることによって生じる。不整脈と伝導障害は,そうした電気パルスの生成,伝導,またはその両方の異常により引き起こされる。 先天的な構造異常(例,房室副伝導路)や機能異常(例,遺伝性のイ... さらに読む などがある。
カリウムを細胞内外に移動させる因子の不在下では,血清カリウム濃度は体内総カリウム量と密接に相関している。細胞内および細胞外の濃度が安定している状態で,血清カリウム濃度の約1mEq/L(1mmol/L)の低下は,総カリウムの約200~400mEq(200~400mmol)の不足を示す。一般に,カリウム濃度が3mEq/L(3mmol/L)未満の状態が常態化している患者には,重大なカリウム不足がある。
カリウムの移動
細胞内外にカリウムを移動させる要因には以下のものがある:
インスリン濃度
βアドレナリン作用
酸塩基の状態
インスリンはカリウムを細胞内に移動させるため,インスリン高値は血清カリウム濃度を低下させる。 糖尿病性ケトアシドーシス 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,および代謝性アシドーシスを特徴とする。高血糖は浸透圧利尿を引き起こし,体液と電解質の有意な減少をもたらす。DKAは主に1型糖尿病で生じる。悪心,嘔吐,および腹痛を引き起こし,脳浮腫,昏睡,および死亡に進展する恐れがある。DKAの診断は,高血糖の存在下で高ケトン血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを検出することによる。治療は循環血液量の... さらに読む にみられるようにインスリンが低値になると,カリウムが細胞外へ移動して血清カリウム濃度が上昇するが,これは体内総カリウム量が不足していても生じることがある。
β作動薬,特に選択的β2作動薬はカリウムを細胞内に移動させるが,β遮断薬およびα作動薬は細胞外へのカリウム移動を促進する。
急性 代謝性アシドーシス 代謝性アシドーシス 代謝性アシドーシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の減少で,通常は二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに正常範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたはアニオンギャップ正常に分類される。原因には,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管または腎からのHCO3... さらに読む ではカリウムは細胞外へ移動するが,急性 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の増加で,二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の上昇を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値またはほぼ正常範囲内である。一般的な原因としては,遷延性の嘔吐,循環血液量減少,利尿薬の使用,低カリウム血症などがある。アルカローシスが持続するためには,腎臓からのHCO3−の排泄障害が存在しなければならない。重症例の症状および徴候には,頭痛,嗜... さらに読む ではカリウムは細胞内へ移動する。しかし,血清重炭酸濃度の変化の方がpHの変化よりも重要であると考えられる;無機酸の蓄積に起因するアシドーシス(アニオンギャップが正常な高クロール性アシドーシス)では血清カリウム濃度が上昇する可能性がより高い。これに対して,有機酸の蓄積による代謝性アシドーシス(アニオンギャップ アニオンギャップの算出 酸塩基平衡障害は,二酸化炭素分圧(Pco2)または血清中の重炭酸イオン(HCO3−)濃度が病的に変化した状態であり,その結果,典型的には動脈血のpHが異常値を示す。 アシデミアは血清pHが7.35未満の状態である。 アルカレミアは血清pHが7.45を上回ることである。 アシドーシスは酸の蓄積またはアルカリの欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 アルカローシスはアルカリの蓄積または酸の欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 さらに読む が開大するアシドーシス)では高カリウム血症は生じない。したがって,糖尿病性ケトアシドーシスに一般的な高カリウム血症は,アシドーシスよりもインスリン欠乏に起因することの方が多い。
急性の 呼吸性アシドーシス 呼吸性アシドーシス 呼吸性アシドーシスは二酸化炭素分圧(Pco2)の一次性上昇で,重炭酸イオン(HCO3−)の代償性の増加を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは通常低いが,正常範囲に近いこともある。原因は呼吸数および/または呼吸量の減少(低換気)であり,典型的には中枢神経系疾患,肺疾患,または医原性の病態に起因する。呼吸性アシドーシスには急性と慢性がある;慢性型は無症状であるが,急性型(増悪型)は頭痛,錯乱,および眠気を引き起こす。... さらに読む および 呼吸性アルカローシス 呼吸性アルカローシス 呼吸性アルカローシスは二酸化炭素分圧(Pco2)の一次性低下で,重炭酸イオン(HCO3−)の代償性の減少を伴う場合と伴わない場合とがある;pHは高値または正常範囲に近い。原因は呼吸数の増加,呼吸量の増加(過換気),またはその両方である。呼吸性アルカローシスには急性の場合と慢性の場合とがある。慢性型は無症状であるが,急性型ではふらつき,錯乱,錯感覚,筋痙攣,および失神が生じる。徴候には過呼吸または頻呼吸および手足の攣... さらに読む は,代謝性アシドーシスおよび代謝性アルカローシスほどには血清カリウム濃度に影響を与えない。しかし,血清カリウム濃度は常に血清pH(および重炭酸濃度)との関連で解釈すべきである。
カリウム代謝
食事からのカリウム摂取量は,正常では40~150mEq(40~150mmol)/日と多様である。定常状態では,通常,便中への排泄量は摂取量のほぼ10%である。残りの90%は尿中に排泄されるため,腎臓のカリウム分泌の変化はカリウム平衡に大きく影響する。
カリウム摂取が1日当たり150mEq(150mmol)/日を上回ると,その後の数時間で過剰なカリウムの約50%が尿中に排泄される。残りのほとんどは細胞内コンパートメントに運ばれるため,血清カリウム濃度の上昇は最低限にとどめられる。カリウム摂取の増加が持続すると,アルドステロンの分泌が刺激されて腎臓からのカリウム排泄が増加する。さらに,便からのカリウム吸収もある程度調節を受けるようであり,慢性的なカリウム過剰では50%低下することもある。
カリウム摂取が減少すると,細胞内カリウムが,血清カリウム濃度の大幅な変動を緩衝する機能を果たす。腎臓でのカリウム保持は食物性カリウムの減少に反応して比較的緩徐に進み,腎臓のナトリウム保持能と比べてはるかに効率が悪い。したがって,カリウム欠乏はしばしば臨床的に問題となる。尿中カリウム排泄量が10mEq(10mmol)/日であれば,ほぼ最大限のカリウム保持が腎臓で行われていることを意味し,有意なカリウム欠乏が示唆される。
急性アシドーシスがカリウム排泄を障害するのに対して,慢性アシドーシスおよび急性アルカローシスはカリウム排泄を促進することがある。ナトリウム大量摂取またはループ利尿薬療法によって生じるような遠位ネフロンへのナトリウム輸送の増加は,カリウム排泄を促進する。
偽性のカリウム濃度
白血球数が100,000/μL(100 x 109/L)を上回る慢性骨髄性白血病患者の血液検体を処理前に室温に置いた場合,検体中の異常白血球が血清中のカリウムを取り込むため,ときに偽性低カリウム血症,すなわち血清カリウム濃度の偽低値が生じる。血漿または血清を血液検体から速やかに分離することでこれを防ぐことができる。
偽性高カリウム血症,すなわち血清カリウム濃度の偽高値はより一般的であり,典型的には溶血や細胞内カリウムの放出によって生じる。誤った結果が出ないよう,採血者は細針で急激に血液を吸引したり,血液検体を過度に撹拌したりすべきではない。偽性高カリウム血症は血小板数が400,000/μL(400 × 109/L)を上回るときにも起こりうるが,これは血液凝固時に血小板からカリウムが放出されることによる;このような場合は,血清カリウム濃度とは対照的に血漿カリウム濃度(非凝固血)は正常範囲内にある。