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低血糖

執筆者:

Erika F. Brutsaert

, MD, New York Medical College

レビュー/改訂 2020年 9月
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外因性のインスリン療法と無関係な低血糖は,血漿血糖値の低下,症候性の交感神経系刺激,および中枢神経系機能障害を特徴とするまれな臨床症候群である。多数の薬剤および疾患が原因となる。診断には,症状発生時または72時間絶食中の血液検査の施行を要する。治療はブドウ糖投与と基礎疾患の治療とを組み合わせて行う。

糖尿病治療に無関係な症候性の低血糖は比較的まれで,その理由の1つとして生体には低血糖を代償するための徹底した拮抗機序が備わっていることがあげられる。急性の低血糖に反応して生じるグルカゴン濃度およびアドレナリン濃度の急上昇が最初の防衛反応であると考えられる。コルチゾールや成長ホルモンの濃度も急速に増加し,遷延する低血糖からの回復に重要となる。通常,これらのホルモンの分泌閾値は,低血糖症状の閾値よりも高い。乳児期および小児期に低血糖を引き起こす遺伝性または先天性の症候群については,ここでは考察しない。

低血糖の病因

成人の低血糖の原因は以下のように分類できる:

  • 反応性のもの(食後),または空腹時のもの

  • インスリンを介するもの,またはインスリンを介さないもの

  • 薬剤性または非薬剤性

臨床状態に基づく分類,すなわち一見健康な患者または病的な患者のいずれに低血糖が生じたかは,実践的で役立つ。

糖尿病のない健康そうに見える(well-appearing)成人における鑑別診断には,インスリンを介する疾患とインスリンを介さない疾患の両者が含まれる。

インスリンを介する原因には以下のものがある:

  • 外因性インスリン

  • インスリン分泌促進薬(スルホニル尿素薬)の使用

  • インスリノーマ

  • 膵島細胞症(nesidioblastosis)

  • 肥満外科手術後の低血糖

  • インスリン自己免疫による低血糖

インスリノーマは,インスリン産生β細胞から生じるまれな神経内分泌腫瘍である。膵島細胞症(nesidioblastosis)は,膵臓にあるインスリン産生β細胞の肥大である。インスリン自己免疫による低血糖は,全身性エリテマトーデスなど他の自己免疫疾患の患者で最も多くみられる病態である。自己抗体はインスリンまたはその受容体に結合してから解離するが,抗体から解離した血中のインスリンが受容体に結合できるようになり,低血糖を引き起こす。

インスリンを介さない原因には以下のものがある:

状態の悪い患者の鑑別診断にも,インスリンを介する疾患とインスリンを介さない疾患の両者が含まれる。

インスリンを介する原因には以下のものがある:

  • 外因性インスリン

  • インスリン分泌促進薬(スルホニル尿素薬)の使用

インスリンを介さない原因には以下のものがある:

非膵島細胞腫瘍性低血糖(non-islet cell tumor hypoglycemia)は,腫瘍から異常な形態のインスリン様成長因子2(IGF-2)が大量に産生され,これがインスリン受容体に結合することで低血糖を引き起こすまれな病態である。

状態の悪い入院患者において,薬剤によってではなく自発的に生じた低血糖は予後不良の徴候であり,進行した臓器不全(特に肝臓,腎臓,または心不全)および/または敗血症に栄養不良が合併することで起こりうる。

偽低血糖(pseudohypoglycemia)は,未処置の試験管に入れた血液検体の分析が遅れ,赤血球,白血球などの細胞(特に白血病または赤血球増多症でみられるように増加している場合)がブドウ糖を消費することで生じる。手指への血液循環が悪い場合も,指先採血での血糖測定値が偽低値を示すことがある。虚偽性低血糖(factitious hypoglycemia)はスルホニル尿素薬またはインスリンの非治療的投与によって誘発される真性低血糖である。

低血糖の症状と徴候

低血糖に反応して生じる自律神経活動の急激な高まりは,発汗,悪心,熱感,不安,振戦,動悸のほか,おそらく空腹感や錯感覚も引き起こす。脳へのブドウ糖供給不足により,頭痛,霧視または複視,錯乱,発声困難,痙攣発作,および昏睡が生じる。

コントロールされた状況では,自律神経症状は血糖値が約60mg/dL(3.3mmol/L)以下になると発現し,これに対して中枢神経系症状は血漿血糖値が約50mg/dL(2.8mmol/L)以下になると発現する。しかし,低血糖を示唆する症状は低血糖自体よりもはるかに一般的である。血糖値がこれらの閾値にある者の大半は症状を呈さず,低血糖を示唆する症状を呈する者の大半では血糖値は正常範囲内にある。

低血糖の診断

  • 臨床所見と相関した血糖値

  • ブドウ糖(またはその他の糖)の投与に対する反応

  • ときに,48~72時間絶食

  • ときに,インスリン,Cペプチド,およびプロインスリンの各濃度

原則として,診断には低血糖症状発生時に血漿血糖値が低値(50mg/dL未満[2.8mmol/L未満])であること,および症状がブドウ糖投与に反応することを証明する必要がある。医療従事者が症状発生時に立ち会っていたならば,解糖阻害剤入り採血管に入れた血液を血糖検査に送るべきである。血糖値が正常範囲内であれば,低血糖は除外され,症状を引き起こす他の原因を検討すべきである。血糖値が異常に低く,病歴(例,薬剤,副腎機能不全,重度の栄養障害,臓器不全または敗血症)から原因が同定できない場合は,血清インスリン,インスリン抗体およびスルホニル尿素薬の濃度をチェックすべきである。同一検体でCペプチドおよびプロインスリンを測定することにより,インスリンを介する低血糖とインスリンを介さない低血糖,虚偽性低血糖と生理的低血糖とを識別でき,さらなる検査は不要となる。

しかし実際には,患者が低血糖を示唆する症状を来したときに医療従事者が立ち会っていることはまれである。家庭用血糖測定器は低血糖の定量において信頼性が低く,また長期間の低血糖と正常血糖とを識別する糖化ヘモグロビン(HbA1C)の明らかな閾値は存在しない。したがって,患者の臨床状態および併存疾患を考慮して,低血糖を引き起こしうる基礎疾患が存在する可能性を推定し,それに基づいてより広範な診断検査を行う必要があるかどうかを判断する。

制御された環境で72時間の絶食を施行することが診断のスタンダードである。ただし,低血糖性の疾患のある患者ほとんど全てにおいて,低血糖を検出するためには48時間の絶食で十分であり,72時間の絶食はおそらく不要である。患者はカフェインを含まないノンカロリー飲料のみを摂取し,ベースライン時,症状出現時,および4~6時間毎(血漿血糖値が60mg/dL[3.3mmol/L]未満に低下した場合は1~2時間毎)に血糖値を測定する。血清インスリン,Cペプチド,プロインスリンを低血糖時に測定することで,内因性低血糖を外因性(虚偽性)低血糖と鑑別すべきである。症状が出現せず血糖値が正常範囲内であれば,絶食を72時間で中止し,血糖値が45mg/dL(2.5mmol/L)以下に低下した場合や低血糖症状が出現した場合には,より早い時点で中止する。

絶食終了時の測定項目には,β-ヒドロキシ酪酸(インスリノーマでは低値),血清スルホニル尿素(薬剤性低血糖を検出する),およびグルカゴン静注後血糖値(インスリノーマに特徴的な血漿血糖値の上昇を検出する)を含める。このプロトコルによって低血糖を検出する際の感度,特異度,適中率は報告されていない。

モニタリング下での絶食中の病的な低血糖を明確に定義する,確実な血糖値の下限値は存在しない。健常な女性では,男性と比べて空腹時血糖値が低下する傾向があり,症状を伴わず血糖値が50mg/dL(2.8mmol/L)にまで低下する場合もある。症候性低血糖が48~72時間以内に生じなければ,激しい運動を約30分間行うとよい。低血糖がそれでも生じなければ,インスリノーマは基本的に除外され,追加の検査は一般に適応とならない。

低血糖の治療

  • 砂糖の経口投与またはブドウ糖の静脈内投与

  • ときに,グルカゴンの非経口(parenteral)投与

低血糖の緊急治療はブドウ糖供給である。飲食できる患者は,症状出現時にジュースやショ糖水,ブドウ糖液を飲んだり,砂糖菓子や他の食物を摂取したり,ブドウ糖錠剤を服用したりしてもよい。乳幼児には10%ブドウ糖液2~5mL/kgを経静脈的にボーラス投与する場合がある。飲食不能な成人および児童には,グルカゴン0.5mg(20kg未満)もしくは1mg(20kg以上)を皮下注または筋注するか,50%ブドウ糖液50~100mLを静注ボーラス投与し,ときに続いて症状緩和に十分な量の5~10%ブドウ糖液を持続静注することがある。グルカゴン鼻腔スプレー3mgも使用されることがある。グルカゴンの効力は肝臓のグリコーゲン貯蔵量に依存し,長期間絶食していた患者や長期間低血糖状態にあった患者ではグルカゴンは血漿血糖値にほとんど影響を及ぼさない。

低血糖を引き起こす基礎疾患も治療しなければならない。膵島細胞腫瘍および非膵島細胞腫瘍はまず局在を明らかにし,続いて核出または膵部分切除によって取り除く;約6%は10年以内に再発する。手術待機中,患者が手術を拒否しているとき,または手術の適応がないときには,症状のコントロールにジアゾキシドおよびオクトレオチドが使用されることもある。

膵島細胞腫瘍の検索が行われたが腫瘍が同定されなかったときには,膵島細胞肥大が除外診断となることが最も多い。

低血糖を引き起こす薬剤は,アルコールを含めて中止しなければならない。

遺伝性疾患,内分泌疾患, 肝不全 急性肝不全 急性肝不全は,薬物および肝炎ウイルスによって引き起こされる場合が最も多い。主な臨床像は,黄疸,凝固障害,および脳症である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法が中心であるが,ときに肝移植および/または特異的な治療(例,アセトアミノフェン中毒に対するN-アセチルシステイン)も行う。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 肝不全には,いくつかの分類法があるが,普遍的に受け入れられているものはない(... さらに読む 腎不全 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む の治療については別の箇所に記載されている。

低血糖の要点

  • 低血糖は,血漿血糖値の低下(50mg/dL未満[2.8mmol/L未満])かつブドウ糖投与により回復する低血糖症状が同時に認められる状態である。

  • 大半の低血糖は,糖尿病治療に使用される薬剤により引き起こされる(不正な使用を含む);インスリン分泌腫瘍はまれな原因である。

  • 病因が不明の場合は,48~72時間絶食を施行し,定期的に,また症状が生じた時点で血漿血糖値を測定する。

  • 内因性低血糖を外因性(虚偽性)低血糖と鑑別するため,低血糖があるときに,血清インスリン,Cペプチド,およびプロインスリンを測定する。

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