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汎下垂体機能低下症

執筆者:

Ian M. Chapman

, MBBS, PhD, University of Adelaide, Royal Adelaide Hospital

最終査読/改訂年月 2019年 8月
本ページのリソース

汎下垂体機能低下症は,下垂体前葉機能の部分的または完全な喪失により内分泌機能が低下して生じる症候群である。欠乏しているホルモンによって多様な臨床的特徴が生じる。診断には,画像検査,ならびに下垂体ホルモンの基礎値および様々な誘発刺激後の値の測定を要する。治療は原因により異なるが,一般に腫瘍切除およびホルモン補充療法が行われる。

(下垂体の構造および機能,ならびに視床下部と下垂体との関連については内分泌系の概要で考察されている。)

下垂体機能低下症は以下に分類される:

  • 原発性:下垂体を侵す疾患に起因する

  • 二次性:視床下部の疾患に起因する

原発性および二次性下垂体機能低下症の様々な原因を,下垂体機能低下症の原因の表に列挙する。

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下垂体機能低下症の原因

原因

下垂体が主たる原因(原発性下垂体機能低下症)

下垂体腫瘍

腺腫

頭蓋咽頭腫

梗塞または虚血性壊死

出血性梗塞(下垂体卒中)

ショック,特に分娩後(シーハン症候群),または糖尿病もしくは鎌状赤血球症におけるもの

血管血栓症または動脈瘤,特に内頸動脈のもの

炎症過程

髄膜炎(結核性,その他の細菌性,真菌性,マラリア性)

下垂体膿瘍

浸潤性疾患

単独または複数の下垂体ホルモンの特発性欠損症

医原性

薬剤(例,免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎)

放射線照射

外科的摘出

自己免疫系の障害

リンパ球性下垂体炎

視床下部が主たる原因(二次性下垂体機能低下症)

視床下部腫瘍

頭蓋咽頭腫

上衣腫

髄膜腫

転移性腫瘍

松果体腫

炎症過程

視床下部神経ホルモンの欠損

単独

複数

医原性

下垂体茎の外科的離断

外傷

頭蓋底骨折

症状と徴候

症状および徴候は,基礎疾患や,欠乏または欠如している特定の下垂体ホルモンに関係する。発症は通常潜行性であり,患者に認識されない場合もあるが,ときに突然または劇的に発症する。

最も一般的には,まず成長ホルモン(GH)が欠乏し,次にゴナドトロピン,最後に甲状腺刺激ホルモン(TSH)および副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が欠乏する。 バソプレシンの欠乏(中枢性尿崩症を引き起こす)は原発性の下垂体疾患ではまれであるが,下垂体茎および視床下部の病変ではよくみられる。全てのホルモンが欠乏した場合(汎下垂体機能低下症),あらゆる標的内分泌腺の機能が低下する。

黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)が小児で欠乏すると,思春期遅発につながる。閉経前の女性では,無月経,性欲減退,第二次性徴の退行,および不妊が生じる。男性では,勃起障害,精巣萎縮,性欲減退,第二次性徴の退行,および精子形成低下とそれに続く不妊が生じる。

成人では,GH欠損症は活力減退の一因となることがあるが,通常は無症状であり臨床的には検出されない。GH欠損症が動脈硬化を促進するという説は証明されていない。小児におけるGH欠損症の影響については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

TSH欠損症は甲状腺機能低下症をもたらし,顔面腫脹,嗄声,徐脈,耐寒性低下などの症状を伴う。

ACTH欠損症は副腎機能低下症をもたらし,疲労,低血圧,ストレス不耐性,易感染性などが認められる。ACTH欠損症では,原発性副腎不全に特徴的な色素沈着は生じない。ACTH欠損症では,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は損なわれていないため,原発性副腎機能不全でみられるような低ナトリウム血症や高カリウム血症は生じない。

視床下部病変は,下垂体機能低下症につながることがあり,食欲中枢を障害して神経性やせ症に類似した症候群,またはときに重度の肥満を伴う過食をもたらすことがある。

シーハン症候群は分娩後の女性が罹患し,周産期に生じた循環血液量減少およびショックが原因で生じる下垂体壊死のことである。乳汁分泌が分娩後も始まらず,患者は疲労および陰毛や腋毛の喪失を訴えることがある。

下垂体卒中は,正常下垂体,またはより一般的には下垂体腫瘍のいずれかの出血性梗塞によって引き起こされる症候群である。急性症状としては,重度の頭痛,項部硬直,発熱,視野欠損,動眼神経麻痺などがある。結果として生じた浮腫が視床下部を圧迫し,傾眠および昏睡が生じることもある。様々な程度の下垂体機能低下症が突然発生することがあり,患者はACTHおよびコルチゾールの欠乏が原因で血管虚脱を来す場合もある。髄液はしばしば血性で,MRIで出血が証明される。

診断

  • MRIまたはCT

  • 下垂体ホルモン値:TSH,プロラクチン,LH,FSH

  • 標的臓器のホルモン値:遊離サイロキシン(T4), テストステロン(男性)または エストラジオール(女性),および コルチゾール値と下垂体-副腎系の誘発試験

  • ときに,その他の誘発試験

臨床的特徴はしばしば非特異的であり,また診断は,患者に対し生涯にわたるホルモン補充療法を開始する前に確立しなければならない。下垂体機能不全は,神経性やせ症,慢性肝疾患,筋強直性ジストロフィー,多腺性自己免疫疾患,および他の内分泌腺疾患と鑑別しなければならない(汎下垂体機能低下症と他の疾患との鑑別の表を参照)。2つ以上の内分泌腺の機能が同時に低下した場合の臨床像は特に混乱を招く可能性がある。画像検査および臨床検査により,下垂体の構造異常やホルモン欠乏の証拠を検索すべきである。

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汎下垂体機能低下症と他の特定の疾患との鑑別

疾患

鑑別点

女性優位;悪液質;食物および身体像に対する異常な観念;無月経にもかかわらず維持される第二次性徴;成長ホルモンおよびコルチゾールの基礎値の上昇

肝疾患の所見;臨床検査

筋強直性ジストロフィー

進行性の筋力低下;若年性の禿頭;白内障;老化の加速を示す顔貌;臨床検査

多腺性自己免疫疾患†

下垂体ホルモン濃度

*性腺機能低下症および全身衰弱をもたらす可能性がある。

†障害の生じた内分泌腺が下垂体の標的腺である場合。

画像検査

高分解能CTまたはMRIを施行し,必要に応じて造影剤を使用する(下垂体腺腫などの構造的異常を除外するため)。陽電子放出断層撮影(PET)は,少数の専門施設で用いられている研究的な検査手段であり,したがって施行されることはまれである。最新の脳画像検査が利用できない場合は,照射野縮小法を用いたトルコ鞍の側面単純X線像により下垂体の巨大腺腫(直径 > 10mm)を同定できる。脳血管造影検査は,他の画像検査からトルコ鞍周囲の血管奇形や動脈瘤が示唆されるときのみ適応となる。

臨床検査

初回評価にはTSH欠損症およびACTH欠損症に対する検査を含めるべきである(いずれの病態も生命を脅かす可能性があるため)。その他のホルモン欠損症の検査については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

遊離T4およびTSHを測定すべきである。汎下垂体機能低下症ではいずれの値も低下しているが,TSHは正常範囲内で遊離T4が低下しているパターンも生じうる。一方,TSHの上昇と遊離T4の低下は原発性の甲状腺異常を示す。

合成甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)200~500μgを15~30秒かけて静注すると,視床下部機能不全患者と下垂体機能不全患者の鑑別に役立つことがあるが,この検査は頻繁には実施されない。血清TSHを,一般に注射後0分,20分,および60分の時点で測定する。下垂体機能が正常であれば,TSHの上昇量は5mU/Lを超えるはずであり,注射後30分経過するまでにピーク値に達する。視床下部疾患患者では血清TSHの上昇が遅延する可能性がある。しかし,原発性下垂体疾患がある患者の一部も遅延性の上昇を示す。

血清コルチゾールは,単独ではACTH-副腎系機能の指標としての信頼性は低いが,朝の血清コルチゾールが極めて低値であれば(午前7:30~9:00で3.5μg/dL[96.6nmol/L]未満),ほぼ確実にコルチゾール欠損症が示唆される。数種の誘発試験のうち1種を実施すべきである。

迅速ACTH負荷試験は, インスリン負荷試験よりも安全かつ労力の少ない,コルチゾール欠損症の検査である。迅速ACTH負荷試験では,合成ACTH 250μgを静注または筋注(標準用量試験)するか,または合成ACTH 1μgを静注し(低用量試験),投与直前ならびに投与後30分後および60分後に血中コルチゾールの反応を測定する。コルチゾールは有意に上昇するはずであり,ピーク値が20µg/dL(552nmol/L)未満であれば異常である。しかし,二次性のコルチゾール欠損症では,発症から2~4週間以上が経過して初めて迅速ACTH負荷試験が異常な結果となる;これよりも前の時点では,副腎が萎縮しておらず,依然として外因性のACTHに反応する。

インスリン負荷試験は,ACTH(ならびにGHおよびプロラクチン)の貯蔵を評価するための最も正確な方法であると考えられるが,負担の大きい検査であるため,迅速ACTH負荷試験中にコルチゾールの有意な上昇がみられない患者(確認試験が必要な場合),または,考えられる下垂体損傷の発生後2~4週間以内に試験を実施しなければならない場合にのみ行うのがおそらく最良である。レギュラーインスリン0.1単位/kg体重を15~30秒かけて静注し,ベースライン時( インスリン負荷前)および負荷後20分,30分,45分,60分,90分に静脈血を採取しGH,コルチゾール,グルコースを測定する。グルコースが40mg/dL未満(2.22mmol/L未満)に低下するか低血糖症状が生じる場合は,コルチゾール値は7μg/dL(193nmol/L)を超える上昇量を示すか,20μg/dL(552nmol/L)を超えるレベルまで上昇するはずである。注意:この試験は,すでに重症と診断が確定している汎下垂体機能低下症または糖尿病がある患者,および高齢者には危険であり,冠動脈疾患患者またはてんかん患者では禁忌である。試験中は医療従事者が立ち会うべきである。通常は,一過性の発汗,頻脈,および神経過敏のみが生じる。患者が動悸を訴えるか,意識消失,痙攣発作が生じたならば,50%ブドウ糖液50mLを静注して速やかに試験を中止する。

迅速ACTH負荷試験および インスリン負荷試験のいずれも単独では,原発性(アジソン病)と二次性(下垂体性)の副腎機能不全の鑑別はできない。この鑑別を行い視床下部-下垂体-副腎系を評価するための検査についてはアジソン病で論じる。

副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)試験は,副腎機能不全の原発性,二次性(下垂体性),および三次性(視床下部性)の原因を鑑別するために行われる。1μg/kgのCRHを急速静注する。血清ACTHおよびコルチゾールを,負荷の15分前,ベースライン時,および負荷の15分,30分,60分,90分,120分後に測定する。有害作用としては,一時的な紅潮,口内金属味,軽度の一過性低血圧などがある。

プロラクチンをルーチンに測定する。巨大な下垂体腫瘍が存在する場合は,この腫瘍がプロラクチンを産生していなくとも,プロラクチン値はしばしば正常値の5倍にまで上昇する。腫瘍は下垂体茎を圧迫し,下垂体でのプロラクチンの産生および放出を抑制する ドパミンが下垂体に到達するのを阻害する。このような高プロラクチン血症を呈する患者は,しばしば低ゴナドトロピン症および続発性性腺機能低下症を有する。

LHおよびFSHの基礎値測定は,外因性 エストロゲンを使用しておらず循環血液中ゴナドトロピン値が平時から高い(> 30mIU/mL[> 30IU/L])閉経後女性の下垂体機能低下症を評価する上で最も有用である。ゴナドトロピン値は,その他の汎下垂体機能低下症患者では低い傾向にあるが,正常範囲とのオーバーラップが存在する。いずれのホルモンも,合成ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)100μgの静注に反応して増加し,LHはGnRH静注の30分後,FSHは40分後にピーク値に達する。しかし,視床下部-下垂体系の機能障害では,GnRHに対する反応は正常,減弱,または欠如する可能性がある。GnRHに反応して生じるLHおよびFSHの正常な上昇にはばらつきがある。外因性GnRH投与は原発性視床下部疾患と原発性下垂体疾患との鑑別には役立たない。

GH治療が考慮(例,下垂体機能低下症患者で説明不能な活力減退および生活の質の低下が生じており,その他のホルモンは完全に補充されている場合など)されていない限り,成人におけるGH欠損症のスクリーニングは推奨されない。その他に2種以上の下垂体ホルモンが欠乏していれば,GH欠損症が疑われる。時間帯や他の因子によってGH値は変化し解釈が難しいため,GHを反映する インスリン様成長因子1(IGF-1)の値を用いる;低値はGH欠損症を示唆するが,正常範囲内の値ではGH欠損症は除外されない。GH放出誘発試験が必要となる場合がある。

放出ホルモンを用いた下垂体機能の誘発試験の有用性はまだ確立されていないが,こうした試験を選択する場合は,複数のホルモンを同時に評価することが最も効率的である。成長ホルモン放出ホルモン(1μg/kg),CRH(1μg/kg),TRH(200μg),およびGnRH(100μg)を,15~30秒かけてまとめて静注する。グルコース,コルチゾール,GH,TSH,プロラクチン,LH,FSH,およびACTHを,続く180分間頻回に測定する。正常反応は前述した各検査の場合と同様である。

治療

  • ホルモン補充

  • 原因(例,腫瘍)の治療

本節の関連各章および本マニュアルの別の箇所で考察されているように,治療は機能低下がみられる標的内分泌腺のホルモン補充である。

最近では,GHの欠乏した50歳以下の成人に対し,GH 0.002~0.012mg/kg,1日1回皮下注射による治療を行うことがある。治療の便益は,活力の増加,生活の質の向上,体筋量の増加,および体脂肪量の減少である。GH欠損症によって誘発される動脈硬化の進行をGH補充で抑制できるという説は証明されていない。

下垂体卒中において,視野障害や動眼神経麻痺が突然生じた場合や,視床下部圧迫により傾眠が昏睡へと進行した場合には,直ちに外科手術を行う必要がある。少数の症例では,高用量のコルチコステロイドおよび一般的な支持療法による管理で十分であるが,通常は経蝶形骨洞法による腫瘍の減圧を直ちに行うべきである。

下垂体腫瘍の治療のために手術または放射線療法を受けた患者では,治療に続いて他の下垂体ホルモンの機能が低下する可能性がある。放射線照射を受けた患者では,長期にわたって徐々に内分泌機能が失われる場合がある。このため,治療後にはホルモンの状態を頻繁に評価すべきであり,放射線療法の3カ月後および6カ月後に評価を行い,およびその後は年1回の評価を10年以上,できれば最長15年間継続することが望ましい。このような評価には,少なくとも甲状腺機能および副腎機能の評価を含めるべきである。また,視交叉の線維化に関連する視覚障害が生じる可能性もある。特に腫瘍組織が残存する場合には,初めの約10年間は少なくとも2年毎にトルコ鞍の画像検査および視野検査を行うべきである。

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