下垂体ホルモンの単独欠損症は,より 広範な下垂体機能低下症 汎下垂体機能低下症 汎下垂体機能低下症は,下垂体前葉機能の部分的または完全な喪失により内分泌機能が低下して生じる症候群である。欠乏しているホルモンによって多様な臨床的特徴が生じる。診断には,画像検査,ならびに下垂体ホルモンの基礎値および様々な誘発刺激後の値の測定を要する。治療は原因により異なるが,一般に腫瘍切除およびホルモン補充療法が行われる。 (下垂体の構造および機能,ならびに視床下部と下垂体との関連については... さらに読む の発症初期段階であると考えられる。他の下垂体ホルモン欠乏の徴候がないか患者を観察する必要があり,トルコ鞍の画像検査を定期的に実施して下垂体腫瘍の徴候を確認すべきである。
(下垂体の構造および機能,ならびに視床下部と下垂体との関連については 内分泌系の概要 内分泌系の概要 内分泌系は,内分泌腺内の特定の種類の細胞から血流中に放出される化学物質であるホルモンによって,様々な臓器の機能を調整する。一度循環血中に入ると,ホルモンは標的組織(他の内分泌腺であることもあれば,臓器であることもある)の機能に影響を及ぼす。分泌元の臓器の細胞に影響するホルモンもあれば(パラクリン作用),同じ種類の細胞に作用するホルモンもあ... さらに読む で考察されている。)
成長ホルモン(GH)単独欠損症は,多くの 下垂体性小人症 小児の成長ホルモン欠損症 成長ホルモン欠損症は,小児において最もよくみられる下垂体ホルモン欠損症であり,単独欠損の場合もあれば,他の下垂体ホルモンの欠損が合併することもある。成長ホルモン欠損症は,一般に成長の異常な遅れおよび正常な均整が保たれた状態での低身長をもたらす。診断では,下垂体ホルモン測定および下垂体の構造異常または脳腫瘍を検出するためのCTまたはMRIを行う。治療では通常,特定のホルモンの補充および原因となる腫瘍があればその除去を行う。... さらに読む 症例の原因である。GH完全欠損症で常染色体優性遺伝形式のものはGH構造遺伝子の欠損と関連しているが,このような遺伝子欠損が原因となっている症例は少数である。成人におけるGH欠損症の治療については,本マニュアルの別の箇所で考察されている(汎下垂体機能低下症 汎下垂体機能低下症 汎下垂体機能低下症は,下垂体前葉機能の部分的または完全な喪失により内分泌機能が低下して生じる症候群である。欠乏しているホルモンによって多様な臨床的特徴が生じる。診断には,画像検査,ならびに下垂体ホルモンの基礎値および様々な誘発刺激後の値の測定を要する。治療は原因により異なるが,一般に腫瘍切除およびホルモン補充療法が行われる。 (下垂体の構造および機能,ならびに視床下部と下垂体との関連については... さらに読む を参照)。
ゴナドトロピン単独欠損症は男女ともに発生し,原発性性腺機能低下症と鑑別しなければならない;男性には血清テストステロン低値と不妊が認められ,女性には無月経,血清エストロゲン低値,および不妊が認められる。一般的にeunuchoid体型(背が高く痩身で上下肢が長い)を呈する。ただし, 原発性性腺機能低下症 病因 性腺機能低下症は,関連する症候,精子産生の欠乏,またはそれらの両方を伴うテストステロンの欠乏と定義される。精巣の疾患に起因する場合(原発性性腺機能低下症)と,視床下部-下垂体系の疾患に起因する場合(続発性性腺機能低下症)がある。どちらも先天性の場合と,加齢,疾患,薬剤,その他の因子による後天性の場合がある。さらに,いくつかの先天的な酵素欠損症により標的器官で種々の程度のアンドロゲン抵抗性が惹起される。診断はホルモン濃度により確定される。... さらに読む の患者では黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)が高値であるのに対し,二次性(下垂体性)または三次性(視床下部性)のゴナドトロピン欠損症の患者では,LHおよびFSHが正常低値,低値,または測定不能である。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症では,LHおよびFSHの両方が欠乏することがほとんどであるが,まれに1種の分泌のみが障害されることもある。ゴナドトロピン単独欠損症は,運動,ダイエット,または精神的ストレスに続発する低ゴナドトロピン性 無月経 無月経 無月経(月経がない状態)には原発性または続発性のものがある。 原発性無月経は,正常な成長と第二次性徴が認められる患者において15歳までに月経が起こらないことである。しかし,13歳までに何らかの乳房の発達がみられない場合は,原発性無月経の評価を行うようにすべきである。 続発性無月経は,規則的な月経周期の確立後に6カ月以上または月経周期で3周期以上の期間,月経がない状態である( 1... さらに読む とも鑑別しなければならない。病歴は診断の助けになりうるが,鑑別診断は不可能と考えられる。
カルマン症候群 続発性性腺機能低下症 ,では,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)単独の欠損に伴い,嗅覚脱失,口唇裂,口蓋裂などの顔面正中部の異常と色覚異常がみられる。複数の発生学的研究で,GnRHニューロンは嗅板上皮より発生し,発生初期に視床下部の中隔-視索前野に移動することが示されている。この症候群の伴性遺伝型のうち少なくとも一部の症例では,このニューロンの移動を促進する接着タンパク質をコードするX染色体上のKALIG-1(Kallmann syndrome interval gene 1)と呼ばれる遺伝子の異常が認められている。GnRH投与の適応はない。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症 二次性副腎機能不全 二次性副腎機能不全は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)欠乏による副腎機能低下である。症状は アジソン病と同じで,疲労,筋力低下,体重減少,悪心,嘔吐,および下痢などがあるが,通常,循環血液量減少の程度は比較的小さい。診断は臨床的に行い,血漿コルチゾール低値を伴う血漿ACTH低値などの臨床検査所見による。治療は原因に応じて異なるが,一般にはヒドロコルチゾンを用いる。 ( 副腎機能の概要も参照のこと。)... さらに読む はまれである。筋力低下,低血糖,体重減少,腋毛および陰毛の減少は本症を示唆する。血中および尿中のステロイドは低値を示すが,ACTH補充によって正常範囲まで回復する。他のホルモンの欠乏を示す臨床所見や検査所見は認められない。治療は, アジソン病 治療 アジソン病は潜行性で通常は進行性の副腎皮質の機能低下である。低血圧,色素沈着など種々の症状を引き起こし,心血管虚脱を伴う副腎クリーゼにつながる恐れがある。診断は臨床的に行われ,血漿副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)高値および血漿コルチゾール低値の所見によってなされる。治療は原因に応じて異なるが,一般にはヒドロコルチゾンや,ときに他のホルモンを用いる。 ( 副腎機能の概要も参照のこと。)... さらに読む と同様にコルチゾール補充により行う;ミネラルコルチコイド補充は不要である。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)単独欠損症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏である。診断は典型的な顔貌,嗄声および言語緩徐,乾燥皮膚などの臨床的特徴,ならびに甲状腺ホルモン低値による。サイロキシン投与などにより管理を行う。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能低下症は年齢を問わず生じるが,特に高齢者でよくみられ,その場合症状が軽微で認識しにくい可能性がある。甲状腺機能低下症は以下に分類される: 原発性:甲状腺の疾患に起因する... さらに読む は,甲状腺機能低下症の臨床的特徴がみられ,血清TSHが低値であるかまたは上昇しておらず,他の下垂体ホルモンの欠乏がない場合に可能性が高い。免疫測定で血清TSH値が必ずしも正常値を下回るとは限らず,その場合は分泌されたTSHが生物学的に不活性であることが示唆される。組換えヒトTSHの投与によって甲状腺ホルモン濃度は上昇する。
プロラクチン単独欠損症は,分娩後に乳汁分泌のない女性でまれに認められている。プロラクチンの基礎値は低下しており,甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンなどの誘発刺激に反応して上昇することもない。プロラクチン投与の適応はない。