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カルチノイド症候群

執筆者:

B. Mark Evers

, MD,

  • Director
  • Markey Cancer Center, University of Kentucky
  • Professor and Vice-Chair for Research
  • University of Kentucky Department of Surgery

最終査読/改訂年月 2015年 11月

カルチノイド症候群は,カルチノイド腫瘍患者の一部に発生する病態で,皮膚紅潮,腹部痙攣,および下痢を特徴とする。右側の心臓弁膜症が数年後に生じることがある。本症候群は,腫瘍によって分泌される血管作動性物質(セロトニン,ブラジキニン,ヒスタミン,プロスタグランジン,ポリペプチドホルモンなど)に起因し,その腫瘍は典型的には転移性の消化管カルチノイドである。診断は臨床的に,また尿中5-ヒドロキシインドール酢酸の高値を示すことによる。腫瘍の局在診断に核医学検査または開腹が必要になる場合がある。対症療法はソマトスタチンアナログのオクトレオチドで行うが,可能であれば外科的切除を行う;悪性腫瘍には化学療法が用いられる場合もある。

病因

末梢に散在する内分泌系またはパラクリン系に発生した内分泌活性をもつ腫瘍は,様々なアミンやポリペプチドを産生し,それによりカルチノイド症候群を含む症状および徴候を引き起こす。カルチノイド症候群は通常,神経内分泌細胞(大半は回腸の細胞)から発生して セロトニンを産生する内分泌活性のある悪性腫瘍を原因とする。しかしながら,消化管の別の部位(特に虫垂および直腸),膵臓,気管支や,まれに性腺に生じた腫瘍が原因であることもある。まれに,特定の極めて悪性度の高い腫瘍(例,肺の燕麦細胞癌,膵島細胞癌,甲状腺髄様癌)に起因することもある。

通常,消化管カルチノイドは肝転移を起こさない限りカルチノイド症候群を引き起こすことはないが,これは腫瘍から放出される代謝産物が門脈循環内で血中酵素や肝酵素により急速に破壊されるからである(例,肝モノアミン酸化酵素による セロトニン分解)。一方で肝転移があると,代謝産物が肝静脈を経由して体循環中に直接放出される。肺および卵巣原発のカルチノイドによって放出される代謝産物は,門脈系を迂回して,同様に症状を引き起こすことがある。腹腔内にのみ進展するまれな消化管カルチノイドも,体循環系またはリンパ系に代謝物を直接排出して症状を引き起こすことがある。

病態生理

セロトニンは,平滑筋に作用して下痢,仙痛,および吸収不良をもたらす。ヒスタミンおよびブラジキニンは,血管拡張作用を介して紅潮を引き起こす。

プロスタグランジンや種々のポリペプチドホルモンは,パラクリン細胞によって産生されると考えられ,これらの役割についてはさらなる研究を待つ必要がある;カルチノイドではときにヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび膵ポリペプチドの高値が認められる。

患者によっては右側の心内膜線維症を来し,これは肺動脈弁狭窄症や三尖弁逆流症につながる。気管支カルチノイドで左心病変が報告されているが,これは肺を通過する間にセロトニンが破壊されるため,まれである。

症状と徴候

最も一般的な(かつしばしば最初に現れる)徴候は以下のものである:

  • 不快な紅潮,典型的には頭頸部に生じる

紅潮は精神的ストレスや食物,温かい飲料,またはアルコールの摂取によって誘発される場合が多い。

蒼白または紅斑から紫色に及ぶ際立った皮膚色の変化が起こることがある。反復性の下痢を伴う腹部痙攣が現れ,しばしば患者の主訴となる。吸収不良症候群も生じうる。弁膜病変を有する患者では心雑音が聴取されることがある。少数の患者では喘息様の喘鳴が聴かれ,一部の患者は性欲減退や勃起障害を呈する。まれにペラグラが生じる。

診断

  • 尿中5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)

セロトニン産生カルチノイドは,その症状および徴候に基づいて疑われる。診断は,セロトニン代謝物である5-HIAAの尿中排泄量の増加を証明することで確定する。偽陽性を回避するために,セロトニンを含有する食物(例,バナナ,トマト,プラム,アボカド,パイナップル,ナス,クルミ)を3日間控えさせてから検査を行う。グアイフェネシン,メトカルバモール,およびフェノチアジン系薬剤を含む特定の薬剤も検査を妨げるため,検査前に一時中断すべきである。3日目に24時間蓄尿検体を採取して分析する。5-HIAA排泄量の正常値は10mg/日(52μmol/日)未満であるが,カルチノイド症候群患者での排泄量は通常50mg/日(260μmol/日)を上回る。

過去には,グルコン酸カルシウム,カテコールアミン類,ペンタガストリン,またはアルコールを用いて皮膚紅潮の誘発試験が行われていた。これらの試験は,診断が不確かなときに助けとなりうるが,まれにしか用いられず,慎重に施行しなければならない。

腫瘍の局在診断

腫瘍の局在診断では血管造影,CT,またはMRIを行うが,非機能性カルチノイドの局在診断と同じ方法が用いられる。局在診断に詳細な評価を要する場合もあり,ときに開腹も必要となる。ソマトスタチン受容体リガンドを放射性核種で標識したインジウム111ペンテトレオチド,またはヨウ素123メタヨードベンジルグアニジンを用いたシンチグラフィーによって転移が証明されることがある。

紅潮の他の原因の除外

紅潮を呈する,したがってカルチノイド症候群と混同される可能性がある他の疾患を除外すべきである。5-HIAA排泄量が増加していない患者では,全身性の肥満細胞の活性化が関与する疾患(例,ヒスタミン代謝物の尿中濃度およびトリプターゼの血清中濃度の上昇を伴う全身性肥満細胞症)や特発性のアナフィラキシーが原因である可能性がある。

紅潮のその他の原因としては,閉経,飲酒,ナイアシンなどの薬物,特定の腫瘍(例,VIPoma,腎細胞癌,甲状腺髄様癌)などがある。

予後

予後は原発部位,悪性度,および病期に依存する。転移性疾患であるにもかかわらず,これらの腫瘍は成長が遅く,10~15年の生存もまれではない。

治療

  • 外科的切除

  • 症状に対してオクトレオチド

外科的切除

原発性肺カルチノイドは切除により根治できることが多い。

肝転移がある患者の場合は,根治は望めないものの腫瘍減量手術で症状を緩和できることがあり,特定の状況では生存期間が延長する。さらに,肝転移に対する局所治療として,肝動脈化学塞栓療法(TACE),血管塞栓用ビーズ単独による塞栓治療(bland embolization),イットリウム90マイクロスフィアによる放射線塞栓療法,ラジオ波焼灼術などがある。放射線療法は,正常な肝組織の放射腺に対する耐容性が不良であるなどの理由から不成功に終わる。効果的な化学療法レジメンは確立されていないが,ストレプトゾシンとフルオロウラシルの併用が最も広く用いられており,ときにストレプトゾシンをドキソルビシンと併用することもある。

症状緩和

紅潮を含む特定の症状は,オクトレオチド(大半のホルモン分泌を抑制する)の投与により,5-HIAAまたはガストリンの尿中濃度を低下させることなく軽減されている。多数の研究で,ソマトスタチンの長時間作用型アナログであるオクトレオチドによる良好な治療成績が示されている。オクトレオチドは下痢および紅潮のコントロールにおける第1選択薬である。症例報告として,タモキシフェンがまれに効果的であったとする報告や,白血球インターフェロン(IFN-α)により一時的に症状が軽減されたという報告がある。

紅潮はフェノチアジン系薬剤(例,プロクロルペラジン5~10mgまたはクロルプロマジン25~50mg,6時間毎に経口)でも治療できる。ヒスタミンH2(H2)受容体拮抗薬も使用されることがある。フェントラミン(α遮断薬)5~15mgの静注は,実験的に誘発される紅潮を予防した。コルチコステロイド(例,プレドニゾン5mg,経口,6時間毎)は,気管支カルチノイドが原因の重度紅潮に有用な場合がある。

下痢は,コデイン(15mg,経口,4~6時間毎),アヘンチンキ(0.6mL,経口,6時間毎),ロペラミド(経口,負荷量として4mg,下痢のたびに2mg,最大16mg/日),diphenoxylate(5mg,経口,1日4回),またはシプロヘプタジン(4~8mg,経口,6時間毎)などの末梢セロトニン拮抗薬でもコントロールできる。

食物中のトリプトファンが腫瘍によりセロトニンに変換されるため,ペラグラの予防としてナイアシンと十分なタンパク質の摂取が必要である。5-ヒドロキシトリプトファンのセロトニンへの変換を妨げる酵素阻害薬として,メチルドパ(250~500mg,経口,6時間毎)などがある。

要点

  • カルチノイド腫瘍のうち一部のものだけがカルチノイド症候群の原因物質を分泌する。

  • 主な原因物質はセロトニン(腹部痙攣および下痢を引き起こす)とヒスタミン(紅潮を引き起こす)である。

  • 診断はセロトニン代謝物である5-HIAAの検出により行う。

  • オクトレオチドが症状のコントロールに役立つことがある。

  • 転移がなければ,外科的切除で根治できる可能性がある。

  • 肝転移のある患者では,腫瘍減量手術が症状緩和に役立つ場合があり,生存期間が延長する可能性もある。

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