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カルチノイド症候群

執筆者:

B. Mark Evers

, MD, Markey Cancer Center, University of Kentucky

最終査読/改訂年月 2018年 12月
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カルチノイド症候群は,カルチノイド腫瘍 カルチノイド腫瘍の概要 カルチノイド腫瘍は,消化管(90%),膵臓,および肺気管支の神経内分泌細胞から発生する。消化管カルチノイド全体の95%以上が虫垂,回腸,直腸という3カ所から発生する。 カルチノイドはしばしば良性であるか,浸潤性であっても限局的であるが,回腸および気管支を侵すものは悪性であることが多い。... さらに読む 患者の一部に発生する病態で,皮膚紅潮,腹部痙攣,および下痢を特徴とする。右側の心臓弁膜症が数年後に生じることがある。本症候群は,腫瘍によって分泌される血管作動性物質(セロトニン,ブラジキニン,ヒスタミン,プロスタグランジン,ポリペプチドホルモンなど)に起因し,その腫瘍は典型的には転移性の消化管カルチノイドである。診断は臨床的に,また尿中5-ヒドロキシインドール酢酸の高値を示すことによる。腫瘍の局在診断に核医学検査または開腹が必要になる場合がある。対症療法はソマトスタチンアナログのオクトレオチドで行うが,可能であれば外科的切除を行う;悪性腫瘍には化学療法が用いられる場合もある。

病因

末梢に散在する内分泌系またはパラクリン系に発生した内分泌活性をもつ腫瘍は,様々なアミンやポリペプチドを産生し,それによりカルチノイド症候群を含む症状および徴候を引き起こす。カルチノイド症候群は通常,神経内分泌細胞(大半は回腸の細胞―小腸腫瘍 小腸腫瘍 小腸腫瘍は消化管腫瘍の1~5%を占める。米国では,小腸癌の年間症例数は推定10,470例,年間死亡数は約1450例である(1)。診断はゾンデ法による小腸造影による。治療は外科的切除である。 良性腫瘍としては,平滑筋腫,脂肪腫,神経線維腫,線維腫などがある。これらはいずれも腹部膨隆,疼痛,出血,下痢を引き起こすことがあり,閉塞が発生した場合には,嘔吐を惹起する可能性がある。ポリープは結腸ほど頻度が高くない。... さらに読む を参照)から発生してセロトニンを産生する内分泌活性のある悪性腫瘍を原因とする。しかしながら,消化管の別の部位(特に虫垂および直腸),膵臓,気管支 気管支カルチノイド 気管支カルチノイドは,気管支粘膜から生じる,まれな(成人の全ての肺癌の1~2%),増殖速度の遅い神経内分泌腫瘍である;40代~60代で発症する。 患者の半数は無症状であるが,残りの半数は,呼吸困難,喘鳴,および咳嗽などの気道閉塞症状を呈し,しばしば喘息と誤診される。反復性肺炎,喀血,および胸痛もよくみられる。 腫瘍随伴症候群には,異所性ACTHによるクッシング症候群,異所性成長ホルモン放出因子による先端巨大症,および異所性ガストリン分泌... さらに読む や,まれに性腺に生じた腫瘍が原因であることもある。まれに,特定の極めて悪性度の高い腫瘍(例,肺の燕麦細胞癌,膵島細胞癌 膵内分泌腫瘍の概要 膵内分泌腫瘍は膵島細胞およびガストリン産生細胞から発生し,しばしば多くのホルモンを生成する。それらの腫瘍は膵臓に最も多く発生するが,他の臓器,特に十二指腸,空腸,および肺にみられることがある。 膵内分泌腫瘍の臨床像は大きく次の2つに分けられる: 機能性 非機能性 非機能性腫瘍は,胆道もしくは十二指腸の閉塞症状,消化管出血,または腹部腫瘤を引き起こすことがある。 さらに読む 甲状腺髄様癌 甲状腺髄様癌 甲状腺癌は主に4種類がある。大半の甲状腺癌は無症候性の結節として発現する。まれに,小さい甲状腺癌の主症状が,リンパ節,肺,または骨への転移により現れる。診断はしばしば穿刺吸引細胞診によって行われるが,他の検査を要する場合もある。治療は外科的切除により行い,通常はそれに続いて放射性ヨードで残存組織を破壊する。 (甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺癌には主に次の4種類がある: 乳頭癌 濾胞癌 さらに読む )に起因することもある。

通常,消化管カルチノイドは肝転移を起こさない限りカルチノイド症候群を引き起こすことはないが,これは腫瘍から放出される代謝物が門脈循環内で血中酵素や肝酵素により急速に破壊されるからである(例,肝モノアミン酸化酵素によるセロトニン分解)。一方で肝転移があると,代謝物が肝静脈を経由して体循環中に直接放出される。肺および卵巣原発のカルチノイドによって放出される代謝物は門脈系を迂回し,同様に症状を引き起こすことがある。腹腔内にのみ進展するまれな消化管カルチノイドも,体循環系またはリンパ系に代謝物を直接排出して症状を引き起こすことがある。

病態生理

セロトニンは,平滑筋に作用して下痢,仙痛,および吸収不良をもたらす。ヒスタミンおよびブラジキニンは,血管拡張作用を介して紅潮を引き起こす。

プロスタグランジンや種々のポリペプチドホルモンは,パラクリン細胞によって産生されると考えられ,これらの役割についてはさらなる研究を待つ必要がある;カルチノイドではときにヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび膵ポリペプチドの高値が認められる。

患者によっては右側の心内膜線維症を来し,これは肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症(PS)は,肺動脈流出路が狭小化することによって,収縮期の右室から肺動脈への血流が妨げられる病態である。ほとんどの症例が先天性であり,多くは成人期まで無症状である。徴候としては漸増漸減性の駆出性雑音などがある。診断は心エコー検査による。症状がみられる患者と圧較差が大きい患者には,バルーン弁形成術が必要である。 (心臓弁膜症の概要も参照のこと。) 肺動脈弁狭窄症は先天性のことが最も多く,大半は小児に発生し,狭窄は弁に生じる場... さらに読む および三尖弁逆流症 三尖弁逆流症 三尖弁逆流症(TR)は,三尖弁の閉鎖不全により,収縮期に右室から右房に向かって逆流が生じる病態である。最も一般的な原因は右室の拡大である。症状や徴候は通常みられないが,重症TRでは頸部の拍動,全収縮期雑音,および右室由来の心不全または心房細動が引き起こされる。診断は身体診察および心エコー検査による。TRは通常良性で治療を必要としないが,一部の患者では弁輪形成術,弁修復術,または弁置換術が必要になる。... さらに読む につながる。気管支カルチノイド 気管支カルチノイド 気管支カルチノイドは,気管支粘膜から生じる,まれな(成人の全ての肺癌の1~2%),増殖速度の遅い神経内分泌腫瘍である;40代~60代で発症する。 患者の半数は無症状であるが,残りの半数は,呼吸困難,喘鳴,および咳嗽などの気道閉塞症状を呈し,しばしば喘息と誤診される。反復性肺炎,喀血,および胸痛もよくみられる。 腫瘍随伴症候群には,異所性ACTHによるクッシング症候群,異所性成長ホルモン放出因子による先端巨大症,および異所性ガストリン分泌... さらに読む で左心病変が報告されているが,これは肺を通過する間にセロトニンが破壊されるため,まれである。

症状と徴候

最も一般的な(かつしばしば最初に現れる)カルチノイド症候群の徴候は以下のものである:

  • 不快な紅潮,典型的には頭頸部に生じる

紅潮は精神的ストレスや食物,温かい飲料,またはアルコールの摂取によって誘発される場合が多い。

蒼白または紅斑から紫色に及ぶ際立った皮膚色の変化が起こることがある。

弁膜病変を有する患者では心雑音が聴取されることがある。少数の患者では喘息様の喘鳴が聴かれ,一部の患者は性欲減退や勃起障害を呈する。まれにペラグラが生じる。

診断

  • 尿中5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)

セロトニン産生カルチノイドは,その症状および徴候に基づいて疑われる。診断は,セロトニン代謝物である5-HIAAの尿中排泄量の増加を証明することで確定する。偽陽性を回避するために,セロトニンを含有する食物(例,バナナ,トマト,プラム,アボカド,パイナップル,ナス,クルミ)を3日間控えさせてから検査を行う。グアイフェネシン,メトカルバモール,およびフェノチアジン系薬剤を含む特定の薬剤も検査を妨げるため,検査前に一時中断すべきである。3日目に24時間蓄尿検体を採取して分析する。5-HIAA排泄量の正常値は10mg/日(52μmol/日)未満であるが,カルチノイド症候群患者での排泄量は通常50mg/日(260μmol/日)を上回る。

過去には,グルコン酸カルシウム,カテコールアミン類,ペンタガストリン,またはアルコールを用いて皮膚紅潮の誘発試験が行われていた。これらの試験は,診断が不確かなときに助けとなりうるが,まれにしか用いられず,慎重に施行しなければならない。

腫瘍の局在診断

腫瘍の局在診断では血管造影,CT,またはMRIを行うが,非機能性カルチノイド カルチノイド腫瘍の概要 カルチノイド腫瘍は,消化管(90%),膵臓,および肺気管支の神経内分泌細胞から発生する。消化管カルチノイド全体の95%以上が虫垂,回腸,直腸という3カ所から発生する。 カルチノイドはしばしば良性であるか,浸潤性であっても限局的であるが,回腸および気管支を侵すものは悪性であることが多い。... さらに読む の局在診断と同じ方法が用いられる。局在診断に詳細な評価を要する場合もあり,ときに開腹も必要となる。ソマトスタチン受容体リガンドを放射性核種で標識したインジウム111ペンテトレオチド,またはヨウ素123メタヨードベンジルグアニジンを用いたシンチグラフィーによって転移が証明されることがある。

紅潮の他の原因の除外

紅潮を呈する,したがってカルチノイド症候群と混同される可能性がある他の疾患を除外すべきである。5-HIAA排泄量が増加していない患者では,全身性の肥満細胞の活性化が関与する疾患(例,ヒスタミン代謝物の尿中濃度およびトリプターゼの血清中濃度の上昇を伴う全身性肥満細胞症 全身性肥満細胞症 肥満細胞症は,皮膚または他の組織および器官の肥満細胞浸潤である。症状は主にメディエータ放出に起因し,そう痒,紅潮,胃酸過剰分泌による消化不良などを含む。診断は皮膚もしくは骨髄の生検,またはその両方による。治療は抗ヒスタミン薬の投与,および基礎疾患の制御による。 (アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。) 肥満細胞症は,肥満細胞の増殖,および皮膚,他の器官,またはその両方への浸潤を特徴とする疾患群である。病理は主に,ヒスタ... さらに読む 全身性肥満細胞症 )や特発性のアナフィラキシー アナフィラキシー アナフィラキシーは,急性で生命を脅かす可能性のあるIgE介在性のアレルギー反応で,すでに感作されている人が感作抗原に再び曝露した場合に発生する。症状としては,吸気性喘鳴,呼吸困難,呼気性喘鳴,低血圧などがある。診断は臨床的に行う。治療はアドレナリンによる。気管支攣縮および上気道浮腫では,β作動薬の吸入または注射,ときに気管挿管が必要になることがある。低血圧が持続する場合は,輸液およびときに昇圧薬が必要となる。... さらに読む が原因である可能性がある。

紅潮のその他の原因としては,閉経 閉経 閉経は,卵巣機能の低下による生理的または医原性の月経停止(無月経)である。症状としては,ホットフラッシュ,盗汗,睡眠障害,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)(外陰・腟の萎縮などのエストロゲン欠乏による症状および徴候)などがある。診断は1年間の無月経を基準として臨床的に行う。症... さらに読む ,飲酒,ナイアシンなどの薬物,特定の腫瘍(例,VIPoma VIPoma VIPomaは,血管作動性腸管ペプチド(VIP)を分泌する非β膵島細胞腫瘍で,水様性下痢,低カリウム血症,および無酸症を呈する症候群(WDHA症候群)を来す。診断は血清VIP濃度による。腫瘍の局在診断はCTおよび超音波内視鏡検査による。治療は外科的切除である。 VIPomaは,膵島細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種である。これらの腫瘍のうち50~75%は悪性で,診断時に極めて大きい(7cm)ものもある。VIPomaの約6%は,多発性内分... さらに読む 腎細胞癌 腎細胞癌 腎細胞癌(RCC)は,最も頻度の高い腎癌である。症状としては,血尿,側腹部痛,触知可能な腫瘤,不明熱などがみられる。しかしながら,症状はしばしば認められないため,診断は通常所見の偶然の発見に基づいて疑われる。診断はCTまたはMRI,ときに生検により確定される。治療は早期疾患に対しては手術,進行した疾患に対しては分子標的療法,実験的プロトコル,緩和治療による。 RCCは腺癌であり,原発性悪性腎腫瘍の90~95%を占める。比較的頻度の低い原... さらに読む 甲状腺髄様癌 甲状腺髄様癌 甲状腺癌は主に4種類がある。大半の甲状腺癌は無症候性の結節として発現する。まれに,小さい甲状腺癌の主症状が,リンパ節,肺,または骨への転移により現れる。診断はしばしば穿刺吸引細胞診によって行われるが,他の検査を要する場合もある。治療は外科的切除により行い,通常はそれに続いて放射性ヨードで残存組織を破壊する。 (甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺癌には主に次の4種類がある: 乳頭癌 濾胞癌 さらに読む )などがある。

予後

予後は原発部位,悪性度,および病期に依存する。転移性疾患であるにもかかわらず,これらの腫瘍は成長が遅く,10~15年の生存もまれではない。

治療

  • 外科的切除

  • 症状に対してオクトレオチド

外科的切除

原発性肺カルチノイドは切除により根治できることが多い。

肝転移がある患者の場合は,根治は望めないものの腫瘍減量手術で症状を緩和できることがあり,特定の状況では生存期間が延長する。さらに,肝転移に対する局所治療として,肝動脈化学塞栓療法(TACE),血管塞栓用ビーズ単独による塞栓治療(bland embolization),イットリウム90マイクロスフィアによる放射線塞栓療法,およびラジオ波焼灼術などがある。放射線療法は,正常な肝組織の放射腺に対する耐容性が不良であるなどの理由から不成功に終わる。効果的な化学療法レジメンは確立されていないが,ストレプトゾシンとフルオロウラシルの併用が最も広く用いられており,ときにストレプトゾシンをドキソルビシンと併用することもある。

症状緩和

紅潮を含む特定の症状は,オクトレオチド(大半のホルモン分泌を抑制する)の投与により,5-HIAAまたはガストリンの尿中濃度を低下させることなく軽減されている。多数の研究で,ソマトスタチンの長時間作用型アナログであるオクトレオチドによる良好な治療成績が示されている。オクトレオチドは下痢および紅潮のコントロールにおける第1選択薬である。症例報告として,タモキシフェンがまれに効果的であったとする報告や,白血球インターフェロン(IFN-α)により一時的に症状が軽減されたという報告がある。

紅潮はフェノチアジン系薬剤(例,プロクロルペラジン5~10mgまたはクロルプロマジン25~50mg,6時間毎に経口)でも治療できる。ヒスタミンH2(H2)受容体拮抗薬も使用されることがある。フェントラミン(α遮断薬)5~15mgの静注は,実験的に誘発される紅潮を予防した。コルチコステロイド(例,プレドニゾン5mg,経口,6時間毎)は,気管支カルチノイドが原因の重度紅潮に有用な場合がある。

下痢は,コデイン(15mg,経口,4~6時間毎),アヘンチンキ(0.6mL,経口,6時間毎),ロペラミド(経口,負荷量として4mg,下痢のたびに2mg,最大16mg/日),ジフェノキシラート(diphenoxylate)(5mg,経口,1日4回),またはシプロヘプタジン(4~8mg,経口,6時間毎)などの末梢セロトニン拮抗薬でもコントロールできる。

食物中のトリプトファンが腫瘍によりセロトニンに変換されるため,ペラグラの予防としてナイアシンと十分なタンパク質の摂取が必要である。5-ヒドロキシトリプトファンのセロトニンへの変換を妨げる酵素阻害薬として,メチルドパ(250~500mg,経口,6時間毎)などがある。

要点

  • カルチノイド腫瘍のうち一部のものだけがカルチノイド症候群の原因物質を分泌する。

  • 主な原因物質はセロトニン(腹部痙攣および下痢を引き起こす)とヒスタミン(紅潮を引き起こす)である。

  • 診断はセロトニン代謝物である5-ハイドロキシインドール酢酸の検出により行う。

  • オクトレオチドが症状のコントロールに役立つことがある。

  • 転移がなければ,外科的切除で根治できる可能性がある。

  • 肝転移のある患者では,腫瘍減量手術が症状緩和に役立つ場合があり,生存期間が延長する可能性もある。

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