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解離性同一症

執筆者:

David Spiegel

, MD,

  • Willson Professor
  • Stanford University School of Medicine
  • Associate Chair of Psychiatry & Behavioral Sciences
  • Stanford University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2015年 7月

解離性同一症は,かつて多重人格障害と呼ばれていたもので,交代して現れる複数のパーソナリティ状態(交代人格[alternate identity]や別の同一性とも呼ばれる)を特徴とする解離症の一種である。この障害の症状には日常の出来事,重要な個人的情報,および/または外傷的出来事やストレスの強い出来事を想起できないことが含まれ,そのいずれも通常のもの忘れでは典型的には失われないものである。誘因はほぼ常に,小児期に体験した圧倒的な心的外傷である。診断は病歴に基づくが,ときに催眠法または薬剤を使用する面接法も併用する。治療は長期の精神療法であり,ときに併存する抑うつや不安に対する薬物療法を併用する。

異なる人格がどれほど明らかであるかは様々である。別の人格は患者が極度のストレスに曝されている場合に,より顕著になる傾向がある。ある人格が知っていることを別の人格が知っている場合もあれば,知らない場合がある;すなわち,ある人格で健忘を生じている出来事を別の人格が体験している場合がある。一部の人格は,複雑な内面世界に存在する他の人格を把握して,やり取りをしているように思われ,他の人格よりやり取りを多く行っている人格もいる。

米国で実施された地域レベルの小規模研究では,解離性同一症の12カ月間の有病率は1.5%で,男女の患者数はほぼ同数であった。この障害は,小児期早期から晩年まで,あらゆる年齢で発症する。

解離性同一症には憑依型と非憑依型がある。

憑依型では,人格は通常は外部の主体,典型的には超自然的な存在または霊魂(ただし別の人物の場合もある)で,それが本人を支配して普段とは大きく異なる話し方でしゃべらせたり,普段と大きく異なる行動をさせたりするかのように現れる。このようなケースでは,別の人格が非常に明らかである(他者に容易に気づかれる)。多くの文化では,同様の憑依状態が文化的または霊的慣習の通常の一部とみなされており,そこでは解離性同一症とはみなされない。憑依型の解離性同一症は,交代人格が望ましくないもので,不随意に現れ,相当の苦痛および障害を引き起こし,文化的および/または宗教的規範を逸脱する時間や場所で顕著になるという点で異なる。

非憑依型はあまり明白にならない傾向がある。患者は自己感覚が突然変化したと感じることがあり,おそらくは自分を主体ではなく,自分の発話,感情,および行動の傍観者であるかのように感じる。多くの患者では反復性の解離性健忘もみられる。

病因

解離性同一症は通常,小児期に圧倒的なストレスを経験した人に生じる。

小児は生まれつき統合された人格の感覚をもっているわけではなく,それは多くの養育と経験によって発達する。圧倒的な体験をした小児では,一体となるべき多くの部分がばらばらの状態にとどまる。解離性同一症患者では,小児期の慢性的な重度の虐待(身体的,性的,または心理的)およびネグレクトがしばしば報告され,実際に確認できる(米国,カナダ,欧州では約90%の患者でみられる)。虐待はなくとも,重大な早期の喪失(親の死など),重篤な身体疾患,他の圧倒的にストレスの強い出来事を経験している患者もいる。

自身および他者に関する統一性のある複雑な認識能力を獲得する大半の小児とは対照的に,重度の虐待を受けた小児は,人生経験の様々な知覚,記憶,および感情が切り離されたまま諸段階を経る可能性がある。時間とともに,このような小児は自身の心の中に「逃げ込む」または引きこもることで虐待から逃れる能力を形成することがある。別の人格を作り出すために,各発達段階または心理的に外傷的な体験が利用される場合がある。

標準化された検査では,この障害の患者は催眠法へのかかりやすさと解離の生じやすさ(自身の記憶,知覚,または人格を意識から分離する能力)について高いスコアを示す。

症状と徴候

解離性同一症に特徴的な症状がいくつかある。

多重人格

憑依型では,多重人格が家族や関係者に容易に気づかれる。患者は他の人物または存在に乗っ取られたかのように,普段と明らかに異なる話し方でしゃべり,普段と異なる行動をする。新たな人格は,他の人物(しばしば[おそらくは劇的な形で]死亡した人物)である場合もあれば,超自然的な存在(しばしば悪魔または神)である場合もあり,過去の行為に対する罰を求めてくることがある。

非憑依型では,別の人格が周囲の人間にとって明らかではないことが多い。代わりに,患者自身が離人感を体験する;すなわち,患者は非現実の世界にいて,自己から切り離され,自分の身体と精神プロセスから遊離したように感じる。患者は自分が自身の人生の傍観者であり,自分のことをあたかも映画の登場人物のように観察しており,自分ではコントロールできないかのように感じていると述べる(個人的主体性の喪失)。患者は自分の体を別の誰かのもののように感じ(例,幼い子どもや異性の誰かの体のように感じる),自分のものではないと考えることがある。自分のものではないように思える思考,衝動,感情が突然生じることがあり,それらは頭を混乱させる複数の思考の流れや声として現れる場合もある。周囲の人間に気づかれる症状もある。例えば,患者の態度,意見,好み(例,食品,衣服,または興味に関するもの)が突然変化し,その後元に戻ることがある。

健忘

典型的には解離性健忘がみられる。解離性健忘は以下の形で現れる:

  • 過去の個人的出来事(例,小児期または青年期の一定期間,近親者の死)に関する記憶の空白

  • 信頼できる記憶(例,その日に起こったこと,コンピュータの使い方などのよく習得された技能)の欠落

  • 自分が行ったがその記憶がない行為を示す証拠の発見

一定期間の記憶が失われることがある。自分の買い物袋の中に説明できない物や見覚えのない物を発見したり,見覚えのない手書きのメモなどを見つけたりすることがある。自らが最後にいたことを覚えている場所とは異なる,なぜ,どのようにそこにたどり着いたのか全く分からない場所にいることに気づくこともある。心的外傷後ストレス障害患者とは異なり,解離性同一症の患者は,ストレスの強い出来事や外傷的出来事だけでなく,日常の出来事も忘れる。

健忘についての患者の認識は様々である。それを隠そうとする患者もいる。健忘は,患者が自分で言ったことや行ったこと,あるいは自分の名前などの重要な個人的情報を思い出せない場合に,他者に気づかれる場合がある。

その他の症状

声が聞こえることに加え,解離性同一症患者では幻視,幻触,幻嗅,幻味がみられることがある。そのため,精神病性障害と誤診される場合もある。しかしながら,これらの幻覚症状は統合失調症などの精神病性障害に典型的な幻覚とは異なる。解離性同一症患者は,これらの症状を交代人格から生じるものとして体験する(例,他の誰かが自分の眼を使って泣きたがっているように感じる)。

抑うつ,不安,物質乱用,自傷行為,非てんかん性発作,および自殺行動がよくみられ,性機能障害も同様である。

人格の交代と健忘による人格間の障壁によって,しばしば生活が混沌とすることがある。一般に,患者は自分の症状や症状が他人に及ぼす影響を最小限に抑えようと試みる。

診断

  • 臨床基準

  • 詳細な面接,ときに催眠法,または薬剤による補助を用いる

解離性同一症の診断は,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の基準に基づいて臨床的に行う:

  • 2つ以上のパーソナリティ状態または人格がみられ(人格の破綻),自己感覚および主体性の感覚に相当の断絶がある。

  • 日常の出来事,重要な個人的情報,および外傷的出来事についての記憶(通常のもの忘れでは典型的には失われることのない情報)に空白がある。

  • 症状によって,著しい苦痛が生じているか,社会的または職業的機能が著しく損なわれている。

また,症状が他の障害(例,部分的な複雑性発作,双極性障害,心的外傷後ストレス障害,他の解離症),アルコール中毒の作用,広く受け入れられている文化的または宗教的慣習,または小児では空想の遊び(例,想像上の友人)でうまく説明することができない。

診断には解離現象に関する知識および解離現象に関する具体的な質問が必要である。ときに長時間の面接,催眠法,または薬剤(バルビツール酸系またはベンゾジアゼピン系薬剤)を使用する面接法が用いられ,患者は来院間の日記をつけるよう指示されることもある。これらの方法は全て,評価中の人格の交代を促すものである。医師は時間をかけて複数の人格とそれらの関係を図に書き出すことを試みてもよい。特別に設計された構造化面接および質問票が非常に有用となる可能性があり,特に本疾患を扱った経験が少ない医師には極めて有用となりうる。

また,医師は患者が思い出せない行動または他の誰かが行ったように思える行動に関与した心の部分に話しかけるよう指示することにより,他の人格との直接の接触を試みることもできる。

利得が動機である可能性がある場合(例,行動に対する説明責任または責任を逃れるため)は,詐病(外的報酬を動機とした身体または精神症状の意図的な捏造)を考慮すべきである。しかしながら,詐病者はこの障害のよく知られている症状(例,解離性健忘)を過大報告し,他の症状を過少報告する傾向がある。また,詐病者はよく知られた典型的な交代人格を創出する傾向がある。解離性同一症の患者とは異なり,詐病者は通常,自分にこの障害があるという考えを楽しんでいるように見える一方,解離性同一症患者はこの障害を隠そうとする場合が多い。この障害の捏造を疑う場合は,多方面からの情報を照合することで,この診断を除外する根拠となる矛盾が発見されることがある。

予後

解離性同一症における障害には大きな幅がある。高度な機能を示す患者では障害がわずかな場合もあり,このような患者では職業的機能より人間関係(例,自分の子供,配偶者,友人)が大きく障害されることがある。治療により,対人的,社会的,職業的機能が改善することがあるが,治療に対する反応が非常に遅く,長期的な支持療法が必要になる患者もいる。

症状は自然に一進一退するが,解離性同一症が自然に治癒することはない。症状に基づいて以下のように患者をグループ分けすることができる:

  • 主な症状が解離症状および心理的な外傷後の症状である。一般的にこの患者群は機能が良好であり,治療により完全に回復する。

  • 解離症状が,パーソナリティ障害,気分障害,摂食障害,物質乱用障害などの他の疾患の著明な症状と同時に認められる。この患者群は改善がより緩徐で,治療は成功する可能性がより低く,または長い期間を要し,危機的な状況に陥ることが多い。

  • 併存する精神障害による重度の症状がみられるだけでなく,依然として虐待者に深い思い入れがあることがある。この患者群は治療が困難である可能性があり,典型的には人格の統合を実現することより,症状のコントロールを支援することを目的とする,より長期間の治療が必要となる場合が多い。

治療

  • 支持療法(随伴症状に対する必要に応じた薬物療法を含む)

  • 可能であれば,人格状態の長期的統合に焦点を当てた精神療法

人格状態の統合が解離性同一症の治療の最も望ましい転帰である。薬剤は抑うつ,不安,衝動性,および物質乱用の症状管理を支援する目的で広く使用されているが,解離自体を緩和することはできず,統合を実現するための治療は,精神療法が中心となる。統合しようと努力ができない患者またはそうする意思がない患者に関しては,人格間での協調および協力を促すことと,症状を軽減することを治療目的とする。

精神療法の最優先事項は,患者を安定させ,安全を確保することであり,心理的に外傷的な体験の評価と問題のある人格や解離の理由の検索はその後に行う。一部の患者には入院が有益であり,その間に継続的な支持およびモニタリングを行いつつ,苦痛な記憶に対する対応を講じる。

催眠法は,個々の人格への接触を試み,人格間のコミュニケーションを促して,それらの安定化および解釈を進めるのに役立つことがある。曝露療法の変法は,心理的な外傷に対する患者の感受性を徐々に低下させることが可能であるが,この方法はときにごく一部分の外傷しか耐えられないことがある。

解離の理由が対処され,克服されていくにつれて,治療は,患者内の交代する自己,それらの関連性,および社会的機能を再結合し,統合し,修復する方向に進む可能性がある。一部の統合は治療過程で自然に起こることがある。統合は,個々の人格と交渉して統一の準備を行うことによって,あるいは催眠法による暗示および誘導イメージ療法を用いることによって促すことができる。

心的外傷を負った患者,特に小児期に心的外傷を負った患者は,治療中にさらなる虐待を予期し,治療者に対して複雑な転移反応を生じることがある。このような予想される感情について話し合うことが,効果的な精神療法の重要な要素の1つである。

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