抗精神病薬

執筆者:Carol Tamminga, MD, UT Southwestern Medical Dallas
レビュー/改訂 2020年 5月
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    抗精神病薬は,神経伝達物質受容体に対する特異的な親和性と活性に基づいて,従来型抗精神病薬および第2世代抗精神病薬(SGA)に分類される。SGAは,効力の面で若干優れているという点(ただし,最近のエビデンスは薬物クラスとしてのSGA全体の利点には疑問を投げかけている)と,不随意運動や関連する有害作用の可能性が低いという点で,ある程度優れている可能性がある。最近の研究結果からは,新規の作用をもつ新しい抗精神病薬,すなわち微量アミンおよびムスカリン受容体作用薬が使用可能になる可能性が示唆されている。現在,SGAは米国で処方される抗精神病薬の約95%を占めている。しかしながら,メタボリックシンドローム(内臓脂肪の過剰,インスリン抵抗性,脂質異常症,および高血圧)のリスクは,SGAの方が従来型抗精神病薬よりも高い【訳注:必ずしも全てのSGAで高いわけではない】。両クラスともいくつかの抗精神病薬はQT延長症候群を引き起こす可能性があり,究極的には致死的不整脈のリスクを増大させる;そのような薬剤としては,チオリダジン【訳注:日本では販売中止】,ハロペリドール,オランザピン,リスペリドン,ジプラシドンなどがある。

    従来型抗精神病薬

    従来型抗精神病薬(従来型抗精神病薬の表を参照)は,主としてドパミンD2受容体を遮断することによって作用する(ドパミンD2受容体遮断薬)。

    従来型抗精神病薬は高力価,中力価,低力価に分類できる。高力価の抗精神病薬は,ドパミン受容体に対する親和性が高く,αアドレナリン受容体およびムスカリン受容体に対する親和性が低い。低力価の抗精神病薬は,ほとんど使用されることはないが【訳注:日本ではクロルプロマジンなどが使用されている】,ドパミン受容体に対する親和性が低く,αアドレナリン,ムスカリン,およびヒスタミン受容体に対する親和性が比較的高い。

    様々な薬物が錠剤,液剤,ならびに短時間および長時間作用型筋注製剤として市販されている。具体的な薬剤の選択は,主に以下に基づいて判断する:

    • 有害作用プロファイル

    • 必要な投与経路

    • その患者の各薬剤に対する過去の反応

    従来型抗精神病薬は重大な有害作用,特に認知および錐体外路系運動障害(例,ジストニア,振戦,遅発性ジスキネジア)に関連する作用を引き起こすことがある。

    統合失調症患者の約30%は,従来型抗精神病薬に反応しない。そのような患者はSGAであるクロザピンに反応することがある。

    表&コラム
    医学計算ツール(学習用)

    第2世代抗精神病薬

    米国で現在処方されている全ての抗精神病薬のうち,約95%がSGAである。

    SGAは,従来型抗精神病薬よりもドパミン受容体を選択的に遮断するため,有害作用として錐体外路症状(運動性)を引き起こす可能性が低い。SGAの陽性症状に対する抗精神病作用と有害作用プロファイルの改善には,セロトニン受容体に対する結合性の高さが寄与している可能性がある。

    SGAには以下の特徴もある:

    • 陽性症状を軽減する傾向がある

    • 従来型抗精神病薬より陰性症状を軽減する度合いが大きい可能性がある(ただし,このような相違については疑問視されている)

    • 認知機能の低下をあまり引き起こさない可能性がある

    • 錐体外路系有害作用を引き起こす可能性が低い

    • 遅発性ジスキネジアを引き起こすリスクが低い

    • プロラクチン濃度をほとんどまたは全く上昇させない(リスペリドンは例外で,従来型抗精神病薬と同程度にプロラクチン濃度を上昇させる)

    • インスリン抵抗性,体重増加,および高血圧を伴うメタボリックシンドロームを引き起こすことがある。

    SGAは,従来型抗精神病薬と比べて,有害作用としてパーキンソン症状を引き起こす可能性が低いことから,陰性症状を軽減しているように見えることがある。

    最初のSGAであるクロザピンは,従来型抗精神病薬に抵抗性の患者の最大50%において効果的であることが示された唯一のSGAである。クロザピンは陰性症状を軽減し,自殺傾向を低下させ,運動性の有害作用がほとんどまたは全くなく,遅発性ジスキネジアを引き起こすリスクもごくわずかであるが,他にも鎮静作用や低血圧,頻脈,体重増加,2型糖尿病,唾液分泌亢進などの有害作用がある。用量依存的に痙攣発作を引き起こす可能性もある。最も重篤な有害作用は無顆粒球症で,約1%の患者において発生する可能性がある。そのために,白血球数の頻回なモニタリング(最初の6カ月間は週1回,その後は2週に1回,1年経過後は月1回)が必要であり,クロザピンは一般に他の薬剤で十分な反応が得られなかった患者に使用する。

    新規のSGA(第2世代抗精神病薬の表を参照)は,クロザピンの利点の一部を有する一方で無顆粒球症のリスクがなく,急性エピソードの治療と再発の予防に関して,一般に従来型抗精神病薬より好んで使用される。しかしながら,長期の大規模対照臨床試験において,4つのSGA(オランザピン,リスペリドン,クエチアピン,ジプラシドン)のいずれを用いた症状緩和も,抗コリン作用を有する従来型抗精神病薬であるペルフェナジンより優れてはいなかった。追跡研究において,試験終了前に試験治療を中止した患者が,他の3剤のSGAのいずれか,またはクロザピンにランダムに割り付けられた;本研究により,クロザピンが他のSGAより明らかに優れていることが実証された。したがって,従来型抗精神病薬またはSGAによる治療が不成功に終わった患者に対する効果的な治療薬は,クロザピンのみと考えられる。しかしながら,おそらくは忍容性の低さおよび継続的な血液モニタリングの必要性から,依然としてクロザピンはあまり使用されていない。

    ルマテペロン(lumateperone)は,成人の統合失調症の治療薬に使用できる最も新しいSGAである。心理社会的機能を改善し,代謝および運動機能に対する副作用が少ない。認知症に関連した精神病症状がある高齢患者では,死亡リスクを高めるため,使用すべきではない。その他の副作用として鎮静や口腔乾燥症などがある。

    表&コラム

    新規のSGAは効力の点では互いに同様であるが,有害作用に違いがあるため,薬剤は個々の反応および他の薬剤の特徴に基づいて選択する。例えば,オランザピンは鎮静作用を示す頻度が比較的高く,著明な焦燥または不眠がある患者に処方されることがあり,鎮静作用のより少ない薬剤は,嗜眠のある患者の対して望ましいと考えられる。最大効力および有害作用プロファイルを評価するには,通常は4~8週間投薬を試みる必要がある。急性症状が安定した後,維持療法が開始される;この目的では,症状の再発を予防する最低量を用いる。アリピプラゾール,オランザピン,およびリスペリドンについては,長時間作用型の注射製剤が使用可能である。

    体重増加,高脂血症,および2型糖尿病のリスク増加がSGAの主な有害作用である。したがって,SGAによる治療を開始する前には,全患者について糖尿病の既往歴または家族歴,体重,ウエスト周囲長,血圧,空腹時血漿血糖値,脂質プロファイルなどの危険因子についてスクリーニングを行うべきである。メタボリックシンドロームを有する患者またはその重大なリスクがある患者は,他のSGAより,ジプラシドンまたはアリピプラゾールによる治療がより適切である場合がある。多尿,多飲,体重減少,および糖尿病性ケトアシドーシス(悪心,嘔吐,脱水,速い呼吸,意識障害)を含む糖尿病の症状・徴候について,患者および家族の教育を行うべきである。さらに,SGAの服用を開始する際に,全患者に対して栄養および身体活動に関するカウンセリングも行うべきである。SGA服用中の全患者について,体重,BMI,および空腹時血漿血糖の定期的なモニタリングが必要であり,患者が高脂血症または2型糖尿病を発症した際には,評価のために患者を専門医に紹介する必要がある。

    ときに抗精神病薬と他の薬剤の併用が有益となる場合がある(1)。具体的には以下の薬剤がある:

    • 抗うつ薬/選択的セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬

    • 別の抗精神病薬

    • リチウム

    • ベンゾジアゼピン系薬剤

    ドパミン受容体に拮抗する治験薬が開発中であり,ABT-925,BL1020,ITI 007,JNJ-37822681,およびその他の新規薬剤などがある(2)

    長時間作用型抗精神病薬

    一部の従来型および第2世代抗精神病薬(SGA)には長時間作用型のデポ剤がある(抗精神病薬のデポ剤の表を参照)。これらの製剤はアドヒアランス不良に対応するのに有用である。また,解体,無関心,または疾患の否認のために,経口薬を確実に毎日服用できない患者にも有用となる場合がある。

    表&コラム

    抗精神病薬の有害作用

    従来型抗精神病薬には,鎮静,認知能力の鈍化,ジストニアおよび筋硬直,振戦,プロラクチン濃度の上昇(乳汁漏出症を引き起こす),体重増加,および痙攣発作またはそのリスクがある患者における発作閾値の低下など,いくつかの有害作用がある(有害作用の治療については,抗精神病薬の急性有害作用に対する治療の表を参照)。アカシジア(運動不穏)は特に不快であり,アドヒアランス不良につながりうるが,プロプラノロールで治療できる可能性がある。

    第2世代抗精神病薬は,錐体外路系(運動性)有害作用や遅発性ジスキネジアを引き起こす可能性は低いが,これらが発生する場合もある。メタボリックシンドローム(内臓脂肪の過剰,インスリン抵抗性,脂質異常症,および高血圧)は,多くのSGAで認められる重大な有害作用である。

    表&コラム

    遅発性ジスキネジアは,多くの場合,唇と舌をすぼめる,腕や下肢をねじる,またはその両方を特徴とする不随意運動がみられる疾患である。従来型抗精神病薬を服用している患者では,遅発性ジスキネジアの発生率は薬剤曝露1年当たり約5%である。約2%では,遅発性ジスキネジアにより容貌が著しく損なわれる。遅発性ジスキネジアはSGAでは頻度が低い。一部の患者では遅発性ジスキネジアが遷延し,投与を中止しても持続する場合もある。このリスクがあるため,維持療法を長期間受ける患者には,少なくとも6カ月毎に評価を行うべきである。長期的変化をより正確に追跡するために,異常不随意運動スケール(Abnormal Involuntary Movement Scale)などの評価尺度を使用してもよい。統合失調症があり,引き続き抗精神病薬を必要とする患者は,SGAであるクロザピンまたはクエチアピンで治療してもよい。小胞体モノアミン輸送体2阻害薬であるバルベナジンは,遅発性ジスキネジアの治療薬として最近承認された。開始量は40mg,1日1回であり,肝機能障害がなければ,1週間後に80mg,1日1回に増量する。最も重要な有害作用は,過敏症,傾眠,QT延長,およびパーキンソニズムである。

    神経遮断薬による悪性症候群は,まれではあるが死に至る可能性のある有害作用であり,筋強剛,発熱,自律神経不安定,およびクレアチンキナーゼ値の上昇を特徴とする。

    表&コラム

    抗精神病薬に関する参考文献

    1. Correll CU, Rubio JM, Inczedy-Farkas G, et al: Efficacy of 42 pharmacologic cotreatment strategies added to antipsychotic monotherapy in schizophrenia: Systematic overview and quality appraisal of the meta-analytic evidence.JAMA Psychiatry 74 (7):675-684, 2017.doi: 10.1001/jamapsychiatry.2017.0624.

    2. Wang SM, Han C, Lee SJ: Investigational dopamine antagonists for the treatment of schizophrenia.Expert Opin Investig Drugs 26(6):687-698, 2017.doi: 10.1080/13543784.2017.1323870.

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