(摂食障害群に関する序論 摂食障害群に関する序論 摂食障害群では,摂食または摂食に関連する行動に関して,以下のような持続的な障害が認められる: 食物の摂取または吸収を変容させる 身体的健康および/または心理社会的機能を大きく損なう 具体的な摂食障害群としては以下のものがある: 神経性やせ症 さらに読む も参照のこと。)
神経性過食症は青年期および若年女性の約1.6%と同世代の男性の0.5%が罹患する。患者は体型と体重について持続的に過度の関心を示す。神経性過食症患者の体重は, 神経性やせ症 神経性やせ症 神経性やせ症は,やせへの執拗な追求,肥満に対する病的な恐怖,身体像の歪み,および必要量に対する相対的な摂取量制限が有意な低体重につながっていることを特徴とする。診断は臨床的に行う。大半の治療は何らかの形態の精神療法および行動療法である。若年患者の治療では家族の関与が極めて重要である。オランザピンが体重増加に有用となることがある。 ( 摂食障害群に関する序論も参照のこと。) 神経性やせ症は主に女児および若年女性に生じる。通常,発症は青年期... さらに読む とは異なり,正常または平均以上である。

神経性過食症の病態生理
ときに重篤な水・電解質バランスの異常(特に 低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む )が生じる。ごくまれに,過食または排出といったエピソード中に胃または食道の破裂が発生し,生命を脅かす合併症につながることがある。
大幅な体重減少は生じないため,神経性やせ症でしばしば生じる他の重篤な身体的合併症はみられない。しかしながら,嘔吐を誘発するために制吐剤のトコンシロップを使用する場合,その長期乱用によって心筋症が発生することがある。
神経性過食症の症状と徴候
典型例では,神経性過食症患者は過食・排出行動について自分で説明する。過食は,大半の人が同程度の時間内に同様の状況下で食べると予想される量を明らかに上回る量(しかしながら,通常の食事と休日の食事で過剰とみなされる量は異なる場合がある)の食物を,自制心の喪失を感じながら素早く摂取することである。
過食エピソード中,患者は,甘く,高脂肪の食物(例,アイスクリーム,ケーキ)を摂取する傾向がある。過食における食物摂取量は様々であり,ときに何千カロリーにもなる。過食は発作的に生じ,しばしば心理社会的ストレスにより引き起こされ,1日に数回発生することも多く,通常は隠れて行われる。
過食の後には,自己誘発性嘔吐,下剤または利尿薬の使用,過度の運動,および/または絶食などの代償行動が続いてみられる。
典型的には,患者の体重は正常であり,過体重または肥満は少数である。しかしながら,患者は自身の体重および/または体型を過度に気にしており,しばしば患者は自身の体に不満をもち,減量する必要があると考えている。
神経性過食症患者は神経性やせ症患者と比べて,自らの行動をより自覚しており,後悔または罪悪感を覚えやすい傾向があり,共感的な対応のもとで医師から質問された場合,自分の心配を認める可能性が高い。社会的孤立は比較的生じておらず,衝動的行動,薬物およびアルコール乱用に走りやすく,明らかな抑うつに陥りやすい。これらの患者では抑うつ,不安(例,体重および/または社交状況に関する),および 不安症群 不安症の概要 恐怖や不安は誰もが日常的に経験するものである。 恐怖とは,直ちに認識可能な外部からの脅威(例,侵入者,凍結した路面でスピンする車)に対する情動的,身体的,および行動的な反応である。 不安とは,神経過敏や心配事による苦痛で不快な感情状態であり,その原因はあまり明確ではない。脅威が生じる厳密な時期と不安との間に強い結びつきはなく,不安は脅威の... さらに読む がよくみられる。
合併症
神経性過食症の身体的な症状および合併症は,大半が排出行動の結果である。自己誘発性嘔吐は,前歯のエナメル質の酸蝕,無痛性の耳下(唾液)腺腫大,および食道の炎症につながる可能性がある。身体徴候としては以下のものがある:
耳下腺の腫脹
手拳上の瘢痕(咽頭反射を引き起こすために繰り返し指で嘔吐を誘発することにより生じる)
歯の酸蝕
神経性過食症の診断
臨床基準
神経性過食症の臨床的な診断基準には以下が含まれる:
摂食のコントロールに対する喪失感を伴った過食(異常に大量の食物を自制できずに摂取する)のエピソードが,3カ月にわたり平均して週1回以上の頻度で反復する
体重に影響を及ぼす不適切な代償行動が反復してみられる(3カ月にわたり平均して週1回以上)
体型および体重に関する懸念により,過度に影響を受けている自己評価
神経性過食症の治療
認知行動療法
対人関係療法
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
神経性過食症に対しては認知行動療法が第1選択の治療法である。集団療法として行うことも可能であるが,治療は通常,4~5カ月にわたる16~20回の個別セッションで構成される。治療は以下を目的とする:
変化への動機づけを高める
不十分な食事を規則的で柔軟な食事パターンで置き換える
体型および体重に関する過度の懸念を緩和する
再発を予防する
認知行動療法は,約30~50%の患者において過食および自己誘発性嘔吐を解消する。他の多くの患者も改善を示すが,一部の患者は治療から脱落するか,反応を示さない。通常,改善は長期にわたり良好に維持される。
対人関係療法では,摂食障害を持続させている要素でありうる対人関係上の問題を患者が確認し,変容させることを支援することに力点を置く。治療は非指示的かつ非解釈的で,摂食障害の症状に直接焦点を合わせていない。認知行動療法を行えない場合は,対人関係療法を代替とみなすことができる。
長期成績は不明であるが, SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) うつ病の治療には,いくつかの薬物クラスおよび薬物が使用できる: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) セロトニン調節薬(5-HT2遮断薬) セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 ノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害薬 さらに読む 単独で過食および嘔吐の頻度を低減できる。SSRIは併存する不安および抑うつの治療にも効果的である。フルオキセチンは神経性過食症の治療として承認されており,用量は60mg,経口,1日1回が推奨される(この用量はうつ病で典型的に用いられるものより高用量である)。
神経性過食症の要点
神経性過食症では,過食に引き続いて,自己誘発性嘔吐,下剤もしくは利尿薬の乱用,絶食,または過度の運動などの不適切な代償行動が繰り返しみられる。
神経性やせ症の患者とは異なり,神経性過食症患者は大幅な体重減少または栄養不足が生じることはまれである。
反復性の自己誘発性嘔吐によって歯のエナメル質の酸蝕および/または食道炎が生じることがある。
認知行動療法のほか,ときにSSRIにより治療する。