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神経性やせ症

執筆者:

Evelyn Attia

, MD, Columbia University Medical Center;


B. Timothy Walsh

, MD, College of Physicians and Surgeons, Columbia University

最終査読/改訂年月 2018年 3月
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神経性やせ症は,やせへの執拗な追求,肥満に対する病的な恐怖,身体像の歪み,および必要量に対する相対的な摂取量制限が有意な低体重につながっていることを特徴とする。診断は臨床的に行う。大半の治療は何らかの形態の精神療法および行動療法である。若年患者の治療では家族の関与が極めて重要である。オランザピンが体重増加に有用となることがある。

神経性やせ症は主に女児および若年女性に生じる。通常,発症は青年期中であり,40歳以降での発症はまれである。

神経性やせ症には2つのタイプが認められている:

  • 摂食制限型:患者は食物摂取量を制限するが,過食または排出行動を定期的に行うことはなく,一部の患者は過度の運動を行う。

  • 過食・排出型:患者は定期的に過食し,その後嘔吐および/または,下剤,利尿薬,または浣腸を乱用したりする。

過食は,大半の人が同様の状況で同程度の時間内に食べるであろう量より明らかに多量の食物を,自制心を失って(すなわち,摂食に抵抗できない,または摂食を止めることができないと感じながら)摂取することと定義される。

病因

神経性やせ症の病因は不明である。

女性であること以外に,危険因子はほとんど同定されていない。欧米社会において,肥満は魅力がなく不健康とみなされ,やせたいという欲求が小児の間にまで広まっている。思春期前の女児の50%以上が,食事制限またはその他の方法で自分の体重をコントロールしている。体重への過剰な関心または食事制限の既往は,リスクの増大を示唆すると考えられ,おそらくはいくらかの遺伝的素因が存在する。一卵性双生児の研究により,50%未満の一致率が示されており,二卵性双生児での一致率はそれより低い。

おそらく,家族および社会的因子も関与している。多くの患者は中流または上流の社会経済階級に属し,細かいことにこだわり,強迫的で,平均的な知能を有し,達成および成功の基準を非常に高く設定する。

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病態生理

神経性やせ症では内分泌異常がよくみられ,具体的には以下のものがある:

  • 性腺ホルモンの低値

  • サイロキシン(T4)値およびトリヨードサイロニン(T3)値の軽度低下

  • コルチゾール分泌量の増加

通常,月経が停止するが,現在,月経停止は診断基準ではない。骨量が低下する。重度の低栄養を来した患者では,ほぼ全ての主要器官系が影響を受けることがある。しかしながら,感染に対する感受性は典型的には増大しない。

脱水および代謝性アルカローシスが生じることがあり,血清中のカリウムおよび/またはナトリウムが低いこともある;いずれも自己誘発性嘔吐および下剤または利尿薬の使用により悪化する。

心筋重量,心腔の大きさ,および拍出量が低下し,僧帽弁逸脱症がよく認められる。一部の患者ではQT間隔の延長(心拍数補正後も)がみられ,これに電解質異常によるリスクが加わると,頻拍性不整脈を起こしやすくなる。突然死(心室性頻拍性不整脈によるものが最も多い)を起こすこともある。

症状と徴候

神経性やせ症は,軽症で一過性の場合もあれば,重症で持続的となる場合もある。

低体重であっても,自分は体重が多すぎる,または特定の部位(例,大腿部,殿部)に脂肪が付き過ぎているとの懸念を大半の患者は抱いている。患者は友人および家族から,十分にやせている,または非常に体重が軽いと保証および警告されても,体重を減らそうと努力し続け,少しでも体重が増えると,許容できない自己統制の失敗とみなす。るいそうに至ったとしても,体重増加への執着および不安は増大する。

食欲は,患者が著しい悪液質にならない限り維持される場合が多いため,本疾患をanorexia(食欲不振)と呼ぶのは不正確である。患者には以下のような食物へのとらわれが認められる:

  • 食事およびカロリーについて色々調べることがある。

  • 食物をためこみ,隠し,浪費することがある。

  • レシピを収集することがある。

  • 他者のために手の込んだ食事を作ることがある。

患者はしばしば食物摂取量を実際より多く申告し,自己誘発性嘔吐などの行動を隠そうとする。過食・排出型は30~50%の患者に生じる。残りの患者は単純に食物摂取量を制限する。

多くの神経性やせ症患者は,体重をコントロールするために,過度の運動も行う。悪液質の患者でも,なおも非常に活動的な傾向を示す(激しい運動プログラムに取り組むなど)。

腹部膨満,腹部不快感,および便秘の訴えも多い。通常,患者は性に対する興味を喪失する。抑うつも高頻度で生じる。

よくみられる身体所見としては,徐脈,低血圧,低体温,うぶ毛の密生または軽い多毛,および浮腫などがある。体脂肪は大幅に減少する。頻繁に嘔吐する患者では,歯のエナメル質侵食,無痛性の唾液腺腫大,および/または食道の炎症が生じていることがある。

診断

  • 臨床基準

低体重および食事制限の深刻さを認識していないことが神経性やせ症の顕著な特徴である。患者は評価および治療に抵抗する;通常,患者は家族に連れられて受診するか,併存症のために受診する。

神経性やせ症の臨床的な診断基準には以下が含まれる:

  • 有意な低体重につながる食物摂取量の制限

  • 過度の体重増加や肥満に対する恐怖(患者が具体的に表明するか,体重増加を妨げる行動として現れる)

  • 身体像の歪み(体重および/または外見に対する誤った知覚)または病態の重篤性の否認

成人では,低体重はBMIを用いて定義される。BMIが17kg/m2未満の場合は有意な低値とみなされ,17~18.5kg/m2の場合は患者の開始時の値に応じて有意な低値となりうる。

小児および青年では,年齢別のBMIパーセンタイル値が用いられ,通常は5パーセンタイルがカットオフ値とされる。しかしながら,5パーセンタイルを上回る小児でも,期待される成長曲線を維持していなければ,低体重の基準を満たすとみなす場合もある;年齢別のBMIパーセンタイル表と標準成長曲線がCDCから入手可能である(CDC Growth Chartsを参照)。小児用と青年用に別個のBMI計算ツールが利用可能である。

患者は他の点では健康に見えることがあり,血液検査では異常があったとしても,ごくわずかである。診断の鍵は,体重増加を避けようとする持続的かつ積極的な努力と,体重減少後も消失しない肥満に対する強い恐怖を特定することである。

鑑別診断

統合失調症 統合失調症 統合失調症は,精神病(現実との接触の喪失),幻覚(誤った知覚),妄想(誤った確信),まとまりのない発語および行動,感情の平板化(感情の範囲の狭まり),認知障害(推理および問題解決の障害),ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが,遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。通常,症状は青年期または成人期早期に始まる。診断を下すには,6カ月以上持続する症状のエピソードが1回以上は認められなければならな... さらに読む や原発性のうつ病 抑うつ障害群 抑うつ障害群は,機能を妨げるほど重度または持続的な悲しみ,および興味または喜びが減退することにより特徴づけられる。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。通常,治療は薬物療法,精神療法,またはその両方,および電気痙攣療法から成る。 うつ病という用語は,しばしばいくつかの抑うつ障害群のいずれかを指して用いられる。一部はDiagnostic... さらに読む といった別の精神障害によって体重減少と食事に対する消極性が生じる場合もあるが,それらの精神障害は神経性やせ症と関連するものではなく,それらの障害の患者には身体像の歪みがみられない。

まれに,気づかれていない重度の身体疾患が大幅な体重減少を引き起こしている場合がある。考慮すべき疾患としては,吸収不良症候群 吸収不良の概要 吸収不良とは,食物中の物質が十分に同化されない状態であり,消化,吸収,または輸送の障害に起因する。 吸収不良は,多量栄養素(例,タンパク質,炭水化物,脂肪),微量栄養素(例,ビタミン,ミネラル),またはその両方に影響を及ぼすことがあり,結果として便中への過剰排泄,栄養欠乏,および消化管症状が起こる。吸収不良は,ほぼ全ての栄養素の吸収障害を... さらに読む (例,炎症性腸疾患またはセリアック病によるもの),新規発症の1型糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病(DM)はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリンお... さらに読む 副腎機能不全 臨床症候群 ,がんなどがある。アンフェタミン乱用 アンフェタミン アンフェタミンは中枢刺激作用と多幸作用がある交感神経刺激薬であり,その中毒性有害作用には,せん妄,高血圧,痙攣発作,および高体温がある(これらは横紋筋融解症や腎不全を引き起こすことがある)。中毒の管理は,静注ベンゾジアゼピン系薬剤(激越,高血圧,および痙攣発作)や冷却法(高体温)などの支持療法により行う。典型的な離脱症候群は存在しない。 このクラスの元となった薬物であるアンフェタミンは,そのフェニル環上の様々な置換によって修飾された結果... さらに読む でも同様の症状を生じうる。

予後

死亡率は高く,受診した患者における10年当たりの死亡率は10%近くであるが,認識されていない軽症例が死に至ることは,おそらくまれである。治療を行う場合,予後は以下の通りである:

  • 半数の患者では減少した体重の大半または全てを回復し,内分泌系および他の合併症は回復に向かう。

  • 約4分の1の患者では,転帰は中程度であり,再発することがある。

  • 残りの4分の1の患者では,転帰は不良であり,再発および持続性の身体的および精神的合併症などがみられる。

神経性やせ症の治療を受けた小児および青年患者の転帰は,成人の場合より良好である。

治療

  • 栄養補給

  • 精神療法(例,認知行動療法)

  • 小児および青年には家族をベースとする治療(family-based treatment)

  • ときに第2世代抗精神病薬

神経性やせ症の治療では,体重を回復するために,救命のための短期間の介入が必要となる場合がある。体重減少が重度もしくは急激である場合,または体重が推奨体重の約75%未満まで低下している場合,速やかな体重回復が不可欠であり,入院を考慮すべきである。少しでも疑いがあれば,入院させるべきである。

外来治療には,様々な程度の支援および監督が必要であり,一般的には複数の医療従事者がチームとして関与する。

多くの場合,体重回復の目標を明確に設定する行動療法とともに栄養補給が行われる。栄養補給は1日約30~40kcal/kgから開始するが,これにより入院中は1週間当たり最大1.5kg,外来治療中は1週間当たり0.5kgの体重増加が可能である。固形食による経口栄養が最善であり,多くの体重回復計画では液体の補助食品も使用する。非常に抵抗が強く,低栄養の患者ではときに経鼻胃栄養が必要となる。

骨量の減少に対しては,1200~1500mg/日の成分カルシウムおよび600~800IU/日のビタミンDが一般に処方される。

栄養,体液,および電解質の状態が安定したら,長期治療を開始する。外来精神療法が治療の要となる。治療では,正常な食事および体重などの行動面の転帰を重視すべきである。治療は体重が回復してから1年間継続すべきである。予後は罹病期間が6カ月未満の青年患者で最良である。

青年患者には家族療法,特にモーズレイモデル(family-based treatmentとも呼ばれる)を用いることが有用である。このモデルは3つの段階から構成される:

  • 患者に摂食を再開させる方法(例,監督下での家族内の食事を通じて)と,それにより患者の体重を回復させる方法を家族に教示する(従来のアプローチとは対照的に,このモデルでは障害の発症について家族および患者の責任を明示しない)。

  • 食事をコントロールする権限を徐々に患者に戻していく。

  • 患者が回復した体重を維持できるようになった後,青年としての健全な同一性の形成に治療の焦点を移す。

体重増加に対する患者の嫌悪感と病態の否認のため,神経性やせ症の治療は複雑なものとなる。医師は適度なカロリー摂取を強く促すと同時に,穏やかで,相手を気遣う,安定した関係を構築するように努めるべきである。

治療では定期的なフォローアップによるモニタリングも行い,具体的な食事療法の計画や正常体重を回復するのに必要なカロリーの情報を提供する栄養士など,しばしば複数の医療従事者がチーム体制で担当する。

要点

  • 神経性やせ症の患者は,全て逆の証拠がある場合でも,体重の増加または太ることに対して強い恐怖を抱く。

  • 摂食制限型の神経性やせ症では,患者は食物の摂取量を制限し,ときに過度の運動を行うが,過食または排出を定期的に行うことはない。

  • 過食・排出型では,患者は定期的に過食し,続いて食物を排出しようとして,嘔吐を誘発したり,および/または下剤,利尿薬,もしくは浣腸を乱用したりする。

  • 成人では,BMIが有意に低値となり,青年ではBMIのパーセンタイルが低いか,正常な成長で予想されるほど増加しない。

  • 身体的異常がよくみられ,死に至る可能性がある。

  • 栄養補給,精神療法(例,認知行動療法),および青年に対しては家族をベースとする治療法により治療する;第2世代抗精神病薬(例,オランザピン)が役立つ場合もある。

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