醜形恐怖症

執筆者:Katharine Anne Phillips, MD, Weill Cornell Medical College;
Dan J. Stein, MD, PhD, University of Cape Town
レビュー/改訂 2021年 1月
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醜形恐怖症は,他者には明らかではないか軽微にしか見えないが本人は重大と認識している1つまたは複数の身体的欠陥にとらわれることを特徴とする。この外見についてのとらわれは,臨床的に意味のある苦痛または社会的,職業的,学業的,その他の機能面に障害を引き起こすものでなければならない。さらに,本障害の経過中のある時点において,外見へのとらわれに対する反応として,1つ以上の反復行動(例,鏡での確認,自分の外見と他人の外見の比較)が反復的かつ過剰に行われていなければならない。診断は病歴に基づく。治療は薬物療法(具体的には選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]またはクロミプラミン),精神療法(具体的には認知行動療法),またはその併用から成る。

通常,醜形恐怖症は青年期に発症し,女性において若干頻度が高い可能性がある。本障害の時点有病率は約1.7~2.9%である。

醜形恐怖症の症状と徴候

醜形恐怖症の症状の出現は,緩徐または突然である。重症度は一定しないことがあるが,患者が適切に治療されない限り,通常,この障害は慢性に経過すると考えられる。一般的に,患者の悩みは顔面または頭部に関するものであるが,身体のどの部位についても生じ,その数も限定はなく,時間経過とともにある部位から他の部位へと移ることもある。例えば,患者は頭髪の薄さ,ざ瘡,しわ,瘢痕,浮き出た血管,顔色,または顔毛もしくは体毛の濃さなどを気にすることがある。あるいは,鼻,眼,耳,口,乳房,殿部,下肢,または他の部位の形または大きさを気にすることもある。男性では(まれに女性でも)筋肉醜形恐怖と呼ばれる病型を呈することがあるが,これは自身の体が十分に引き締まった筋肉質でないという考えにとらわれるものである。患者は嫌っている部位を醜い,魅力がない,変形している,忌まわしい,奇形的などと表現することがある。

通常,患者は思い込んでいる欠陥について1日に何時間も悩んで過ごし,その欠陥のために他者が自分に注目している,あるいは自分を嘲笑していると誤って信じ込んでいる場合も多い。大部分の患者は自分の姿を頻繁に鏡で確認するが,鏡を避ける患者もおり,この2つの行動を交互に行う患者もいる。

他によくみられる強迫行動としては,自分の外見と他者の外見の比較,過剰な身づくろい,皮膚をむしる(欠陥があると思い込んでいる部分の皮膚を除去または治療するため),毛を引っ張ったり引き抜いたりする,再保証を求める(自分が欠陥と考えている点について),着替えなどがある。大半の患者は自分が欠陥と考えている点をカモフラージュしようと試みる;例えば,顎髭を伸ばすことにより自分が欠陥と考えている瘢痕を隠したり,または帽子をかぶることによりわずかに薄くなった頭髪を隠す。多くは自分が欠陥と考えている点を治そうと皮膚科,歯科,外科,または他の美容関連科の治療を受けるが,通常,そのような治療は不成功に終わり,とらわれが強化されることもある。筋肉醜形恐怖のある男性は,アンドロゲンのサプリメントを使用することがあるが,これは危険な場合がある。

醜形恐怖症の患者は,自らの外見に対する自意識が強いため,公衆の面前に出るのを避けることがある。大半の患者では,外見に関する悩みのために,社会的,職業的,学業的機能および他の機能が(しばしば著しく)障害される。夜間しか外出しない患者もいれば,全く外出しない患者もいる。社会的孤立,抑うつ,入院,および自殺行動がよくみられる。非常に重症の症例では,醜形恐怖症のために生活に支障が出る。

病識の程度は様々であるが,通常は乏しいか欠如している。すなわち,大半の患者は嫌っている部位について,おそらく(病識が乏しい)または確実に(病識なしまたは妄想的確信)異常,醜い,または魅力がないように見えると心から信じている。

醜形恐怖症患者の約80%が生涯を通じて希死念慮を経験し,約4分の1から30%近くが自殺を試みる(自殺行動を参照)。醜形恐怖症は,自殺リスクの高い他の精神障害(1)と比較して自殺傾向が有意に高いことを特徴とする。

徴候と症状に関する参考文献

  1. 1.Angelakis I,  Gooding PA, Panagioti M: Suicidality in body dysmorphic disorder (BDD): A systematic review with meta-analysis.Psychol Rev 49:55-66, 2016. doi: 10.1016/j.cpr.2016.08.002.

醜形恐怖症の診断

  • 臨床基準

多くの患者は症状を明らかにすることを嫌がり,恥に思うことから,醜形恐怖症は何年にもわたり未診断のまま放置されることがある。とらわれが時間を浪費し,かつ著しい苦悩,機能障害,またはその両方を引き起こすため,本障害は外見に対する正常な悩みと鑑別される。

醜形恐怖症の診断は病歴に基づく。悩みが体型と体重のみで,摂食行動に異常がみられる場合は,摂食障害がより正しい診断である可能性があり,また悩みが身体的・性的特徴としての外見に限られている場合は,性別違和の診断も考慮してよい。

醜形恐怖症の診断基準には以下が含まれている:

  • 他者には観察できないか軽微にしか見えない,1つまたは複数の外見的欠陥へのとらわれ

  • 本障害の経過中のある時点での,外見的な悩みに対する反応としての反復行動(例,鏡での確認,過剰な身づくろい)の実行

  • とらわれにより,著しい苦痛または社会的機能,職業機能,もしくはその他の領域の機能が障害される

醜形恐怖症の治療

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)およびクロミプラミンと,一部の症例では増強療法

  • 認知行動療法

醜形恐怖症患者では,SSRIとクロミプラミン(強力なセロトニン作動性の作用を有する三環系抗うつ薬)がしばしば非常に効果的である。うつ病や大半の不安症群に対して一般的に必要とされるより高用量を必要とすることが多い。データは限られているものの,これらの薬剤を十分に試しても実質的な改善がみられない一部の患者では,非定型抗精神病薬(例,アリピプラゾール),ブスピロン,グルタミン酸調節薬(例,N-アセチルシステイン)などの増強療法の追加が有益となる可能性がある。

醜形恐怖症の具体的な症状に合わせて個別化した認知行動療法が,現時点では第1選択の精神療法である。認知的アプローチ(例,認知再構成法)と曝露反応妨害法が治療の必須要素となる。医師は,患者に儀式の実行を我慢させると同時に,恐怖または回避の対象となっている状況に徐々に直面するよう促す。

認知行動療法には,皮膚むしりまたは抜毛がある場合,それに対する認知面の再訓練や習慣逆転法など,他の要素も含まれる。習慣逆転法には以下が含まれる:

  • 気づきの訓練(例,セルフモニタリング,行動の引き金になる因子の特定)

  • 刺激統制法(行動を始める可能性を低下させるために状況を変化させる手法―例,誘因の回避)

  • 競合反応訓練(過剰な行動の代わりに,こぶしを握りしめる,編み物をする,手の上に座るなど別の行動を行うよう指導する)

大半の患者は病識が乏しいか欠如しているため,治療に参加して継続する意欲を高めるために,しばしば動機づけの手法が必要となる。

多くの専門医は,重症例に対して,認知行動療法と薬物療法の併用が最良の治療法であると考えている。

醜形恐怖症の要点

  • 患者は,他者には明らかではないか軽微にしか見えない,1つ以上の身体の外見的な欠陥にとらわれている。

  • 本障害の経過中のある時点で,患者は外見的な悩みに対し,反復行動(例,鏡による確認,過剰な身づくろい)を実行したり,欠陥があると思い込んでいる部分を隠す,または除去するための手段を講じたりして反応する。

  • 典型的には,患者は病識が乏しいか欠如しており,嫌っている部位は異常である,または魅力的ではないと心から信じている。

  • 個別の醜形恐怖症に合わせて個別化した認知行動療法および/またはSSRIまたはクロミプラミンによる薬物療法(しばしば比較的高用量)により治療する。

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