反社会性パーソナリティ障害(ASPD)

執筆者:Andrew Skodol, MD, University of Arizona College of Medicine
レビュー/改訂 2019年 12月
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反社会性パーソナリティ障害は,結果や他者の権利を軽視する広汎性のパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療には,認知行動療法,抗精神病薬,および抗うつ薬がある。

パーソナリティ障害の概要も参照のこと。)

反社会性パーソナリティ障害患者は,個人的利益や快楽のために違法行為,欺瞞行為,搾取的行為,無謀な行為を行い,良心の呵責を感じない;患者は以下のことを行うことがある:

  • 自分の行動を正当化または合理化する(例,敗者は負けるべくして負けたと考える,自分自身の利益を追及する)

  • 被害者を馬鹿だったまたは無力だったと責める

  • 自分の行動が他者に及ぼす搾取的で有害な影響に関心を示さない

反社会性パーソナリティ障害について,米国における12カ月間の推定有病率(過去の版のDSM[Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders]基準に基づく)は約0.2~3.3%である。反社会性パーソナリティ障害は男性の方が女性より多く(6:1),強い遺伝要素がある。有病率は加齢とともに減少し,患者が時間の経過とともに自分の不適応行動を変化させることを学び,人生を築く努力を払えることを示唆している。

併存症がよくみられる。大半の患者は物質使用障害も有している(また物質使用障害患者の約半数は反社会性パーソナリティ障害の基準を満たす)。反社会性パーソナリティ障害患者は,しばしば衝動制御障害注意欠如・多動症,または境界性パーソナリティ障害も有している。

反社会性パーソナリティ障害の病因

遺伝因子および環境因子(例,小児期の虐待)が反社会性パーソナリティ障害の発症に寄与している。考えられる機序は,異常なセロトニントランスポーター機能と関連する衝動的攻撃性である。幼児期に他者の痛みを無視することが青年期後期の反社会的行動と関連づけられている。

反社会性パーソナリティ障害は,この障害を有する患者の第1度親族において,一般集団よりも高い頻度でみられる。この障害を発症するリスクは,この障害を有する親の養子および実子のいずれでも高い。

注意欠如・多動症を伴う素行症を10歳以前に発症した場合,成人期に反社会性パーソナリティ障害を発症するリスクは増加する。素行症が反社会性パーソナリティ障害へと進展するリスクは,親が子供を虐待したり,ネグレクトしたりする場合,またはしつけもしくは子育てに一貫性がない場合(例,温かく支持的なものから,冷たく批判的なものへの変化)は増加する場合がある。

ASPDの症状と徴候

反社会性パーソナリティ障害患者は,器物の破壊,他者への嫌がらせ,窃盗により他者や法律の軽視を示すことがある。彼らは自分の欲しいもの(例,金,権力,セックス)を手に入れるために,人を欺き,利用し,言いくるめ,操作することがある。患者は偽名を使うことがある。

このような患者は衝動的であり,前もって計画を立てることがなく,自己もしくは他者に対する行動の結果または自己もしくは他者の安全性を顧慮しない。その結果,患者は突然転職したり,引っ越したり,人間関係を変えたりする。運転中にスピードを出したり,酩酊中に運転したりして,ときに事故につながることがある。過剰な量のアルコールを摂取したり,有害作用が生じうる違法薬物を使用したりする。

反社会性パーソナリティ障害患者は社会的,金銭的に無責任である。別の仕事に就く計画もなく,仕事を辞めることがある。機会があっても職を求めないことがある。請求書の支払いをしなかったり,ローン返済を怠ったり,子供の養育費を支払わなかったりする。

このような患者はしばしばすぐに怒り,身体的攻撃性を示す;配偶者やパートナーと喧嘩を始めたり,虐待したりする。性的関係では,患者は無責任で,パートナーを利用し,パートナーを1人だけに留めることができない場合がある。

行動に対する後悔の念がない。反社会性パーソナリティ障害患者は自分が傷つけた相手や(例,傷つけられて当然である)世の中のあり方(例,不公平である)を責めることで自分の行動を合理化することがある。彼らは人のいいなりになるまいとし,いかなる犠牲を払っても自分にとって最善と考えることをしようとする。

このような患者は他者に対する共感に欠け,他者の感情,権利,および苦しみを馬鹿にしたり,それらに無関心であったりする。

反社会性パーソナリティ障害患者は自己評価が高い傾向があり,非常に独断的,自信家,または傲慢なことがある。望むものを手に入れるためには,感じよく,能弁で,流暢に話すことがある。

ASPDの診断

  • 診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition[DSM-5])

反社会性パーソナリティ障害の診断を下すには,患者に以下が認められる必要がある:

  • 他者の権利に対する持続的な軽視

この軽視は,以下のうちの3つ以上が認められることによって示される:

  • 逮捕の対象となる行為を反復的に行うことにより示される法律の軽視

  • 反復的な嘘,偽名の使用,または個人的利益もしくは快楽のために他者を言いくるめることにより示される欺瞞的態度

  • 衝動的に行動したり,事前に計画を立てなかったりする

  • 絶えず身体的喧嘩を始めたり,他者を攻撃したりすることにより示される易怒性または攻撃性

  • 自分または他者の安全性の向こう見ずな軽視

  • 別の仕事のあてもなく仕事を辞めたり,請求書の支払いをしなかったりすることにより示される一貫した無責任な行動

  • 他者を傷つけたり虐待したりすることに対する無関心またはそのような行為の合理化により示される後悔の念の欠如

また,素行症が15歳以前には存在したという証拠を有している必要がある。反社会性パーソナリティ障害は18歳以上の人でのみ診断される。

鑑別診断

反社会性パーソナリティ障害は以下と鑑別する必要がある:

  • 物質使用障害衝動性および無責任性が物質使用障害によるものなのか,または反社会性パーソナリティ障害によるものなのかの判断が困難な場合があるが,幼少期を含む患者の病歴の検討に基づいてしらふの時期を確認することで可能となる。併存する物質使用障害が治療された後に,反社会性パーソナリティ障害がより容易に診断できることがあるが,反社会性パーソナリティ障害は物質使用障害がみられる場合でも診断可能である。

  • 素行症素行症は社会規範および法律に違反する同様の広汎なパターンを有するが,素行症は15歳以前にみられる必要がある。

  • 自己愛性パーソナリティ障害患者は同様に搾取的で,共感性に欠けるが,反社会性パーソナリティ障害でみられるように攻撃的でも虚偽的でもないことが多い。

  • 境界性パーソナリティ障害患者は同様に操作的であるが,反社会性パーソナリティ障害患者のように自分の望むもの(例,金,権力)を手に入れるためではなく,ケアをしてもらうためにそのようにする。

ASPDの治療

  • 一部の症例では,認知行動療法のほか,ときに特定の薬剤

特定の治療法により長期的改善が得られるという証拠はない。このため,治療の目的は,患者を変容させることではなく,法的責任を避けるなどの他の短期的目標を達成することである。随伴性マネジメント(すなわち,患者の行動に応じて患者が望むものを与えたり,与えなかったりする)が適応となる。

顕著な衝動性と情緒不安定がみられる攻撃的な患者では,認知行動療法または薬剤(例,リチウム,バルプロ酸,選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療が有益となる場合がある。非定型抗精神病薬が役立つ可能性があるが,その使用についてのエビデンスはあまりない。

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