服装倒錯はパラフィリアの一種であるが,異性装者の大半はパラフィリア障害の臨床診断基準を満たさず,その基準では,本人の空想,強い衝動,または行動によって苦痛または機能障害が生じてるか,他者が害を被っていることが要件とされている。また,この状態が6カ月以上認められることも条件の1つである。
クロスドレッサー(cross-dresser)は,異性装者(transvestite)よりも一般的で容認されやすい用語である。異性装および異性装障害は出生時の性が女性である場合は極めてまれである。
女性の衣服を着用する異性愛の男性は,典型的にはそのような行動を小児期後期に始める。この行動は,少なくとも当初は,強い性的興奮と関連している。衣服それ自体によりもたらされる性的興奮はフェティシズムの一種と考えられ,異性装とともに生じる場合もあれば,異性装とは別で生じる場合もある。
異性装を行う男性のパーソナリティプロファイルは,一般的に年齢および人種をマッチさせた標準集団と同様である。
パートナーが協力的な場合,異性装の男性は部分的または完全に女装して性行為を行うことがある。パートナーが非協力的な場合は,異性装への欲求のために,不安,抑うつ,罪悪感,恥辱感を抱くことがある。このような感情に対する反応として,このような男性はしばしば自身の女性用の衣服を処分する。
治療
大半の異性装者は治療を求めて受診しない。受診するのは通常,困った配偶者に連れて来られた人,裁判所から紹介されてきた人,または社会的および職業的に好ましくない結果を経験することへの懸念から自ら受診した人である。併存する性別違和,物質乱用,または抑うつの治療のために受診する異性装者もいる。
異性装を行う男性のための社会的支援団体がしばしば大きな助けとなる。
確実に効果を示す薬剤は存在しない。
精神療法の適応がある場合は,自己受容とリスク行動の修正が目標となる。
後年,ときに50代または60代になって,異性装の男性が性別違和の症状のために医療機関を受診することがあり,性別違和の診断基準を満たす場合もある。