( 小児虐待の概要 : 性的虐待。)
小児性愛は他者に害をもたらすパラフィリアの一種であり,このためパラフィリア障害とみなされる。
小児に対する性犯罪は,報告される性犯罪行為の中で大きな割合を占めている。より年長の青年(すなわち,17~18歳)の場合,12~13歳の小児に対する持続的な性的関心または関与があっても障害の臨床診断基準を満たさない場合がある。ただし,法律上の基準は精神医学的な基準と異なる場合がある。例えば,19歳と16歳の間の性行為は,法律の管轄区域によっては,犯罪となるが小児性愛障害とならない場合がある。診断年齢のガイドラインは欧米文化を対象としたものであり,欧米よりはるかに低年齢での性行為,結婚,妊娠が容認されている多くの文化には適用できない。
大半の小児性愛者は男性である。魅力を感じる対象は男児,女児,または両方の場合がある。ただし,小児性愛者が嗜好する対象は異性の方が同性より2倍多い。ほとんどの例において,成人の小児性愛者は対象の小児の知人であり,家族,義理の親,権威をもつ人間(例,教師)である場合がある。性器の接触よりも,眺めたり触ったりする行為の方が多いようである。小児性愛者は小児にしか魅力を感じない場合(純粋型)と,成人にも魅力を感じる場合(非純粋型)があり,自分の身内である小児にしか魅力を感じない小児性愛者もいる(近親相姦)。
強引な小児性愛者は,その多くが反社会性パーソナリティ障害を有しており,小児に対して力を行使し,性的虐待の事実を他者に告げれば本人や飼っているペットに物理的な危害を加えると脅迫することがある。
小児性愛の経過は慢性的で,加害者はしばしば物質乱用,物質依存,うつ病を有していたり,新たに発症したりすることがある。広範な家族機能不全,性的虐待の既往,夫婦間の不和がよくみられる。その他の併存症としては,注意欠如症,うつ病,不安症,心的外傷後ストレス障害などがある。
診断
児童ポルノの広範な使用は,小児に対する性的嗜好の信頼性の高いマーカーであり,この障害の唯一の指標となる場合もある。ただし,児童ポルノの使用は,典型的には違法であるが,それだけで小児性愛障害の診断基準を満たすものではない。
患者が小児に対する性的嗜好を否定するが,状況からそれが事実でない可能性が示唆される場合は,特定の診断ツールがそのような性的嗜好の確認に役立つ可能性がある。具体的な方法としては,陰茎プレチスモグラフィー(男性),腟フォトプレチスモグラフィー(女性),標準化された性的素材の視聴時間などがあるが,そのような素材の所持は,それが診断目的であっても,特定の法的管轄区域では違法となる場合がある。
臨床診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition[DSM-5]に基づく)は以下の通りである:
患者を潜在的な小児性愛者として特定することは,ときに医療従事者にとって倫理的な危機につながる場合がある。しかしながら,医療従事者には小児のコミュニティを保護する責任がある。医療従事者は各州で制定されている報告義務を把握しておくべきである。医療従事者が小児の性的または身体的虐待について合理的な疑いをもった場合には,当局に報告することが法律により義務付けられている。報告義務は州によって異なる(Child Welfare Information Gatewayを参照のこと)。
治療
通常,長期にわたる個人または集団精神療法が必要であり,これは社会生活技能訓練,併存する身体および精神障害の治療,ならびに薬物療法を含めた集学的治療の一部として行われる場合に,特に有用となりうる。
判決を受けた性犯罪者の多くには,集団精神療法と抗アンドロゲン薬の併用などの治療が有益であるが,裁判所の命令で行われる治療は効果が低くなる。
治療とモニタリングを積極的に継続する一部の小児性愛者は,小児性愛的な行動を抑制して,社会復帰することが可能である。このような結果が得られる可能性は,他の精神障害,特にパーソナリティ障害が並存しない場合に高くなる。
薬剤
米国における第1選択の治療法は以下のものである:
メドロキシプロゲステロンは,下垂体での黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の産生を阻害することでテストステロン産生を減少させ,それにより性欲を低下させる。典型的な用法・用量は,メドロキシプロゲステロン200mg,筋注,週2~3回,2週間に続いて,200mg,週1~2回,4週間の後,以降は200mg,2~4週毎である。
下垂体でのLHおよびFSHの産生を減少させることでテストステロン産生を減少させるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストであるリュープロレリンも選択肢の1つであり,その場合は筋肉内投与の頻度が少なくて済む(1~6カ月間隔)。欧州では,テストステロン受容体を遮断するシプロテロンが使用されている。男性患者では,血清 テストステロン濃度をモニタリングして,女性の正常範囲内(62ng/dL未満)に維持すべきである。多くの場合,治療を中止すると数週間から数カ月で偏った空想が再発するため,通常は長期の治療が必要になる。肝機能検査を行うべきであり,また必要に応じて血圧,骨密度,および血算のモニタリングを行うべきである。
女性の小児性愛者における抗アンドロゲン薬の有用性については,十分に確立されていない。
抗アンドロゲン薬に加えて,SSRI(例,高用量フルオキセチン60~80mg,1日1回またはフルボキサミン200~300mg,経口,1日1回)が有用となりうる。
薬剤は集学的治療プログラムの一環として使用される場合に最も効果的となる。