(頭痛患者へのアプローチも参照のこと。)
疫学
病態生理
片頭痛は,中枢神経処理の異常(脳幹核の活性化,皮質の過興奮,皮質拡延性抑制)および三叉神経血管系の関与(神経ペプチドの放出を誘発することにより,頭蓋内血管および硬膜に疼痛を伴う炎症を引き起こす)を伴う,神経血管性の疼痛症候群と考えられている。
片頭痛を誘発しうる因子が数多く同定されており,具体的には以下のものがある:
頭部外傷,頸部痛,または顎関節機能障害が,ときに片頭痛を誘発または増悪させる。
エストロゲンレベルの変動は片頭痛の強力な誘発因子である。多くの女性が初経時に片頭痛を発症し,月経時に重度の発作を経験し(月経時片頭痛),更年期に増悪する。ほとんどの女性患者では,妊娠中に片頭痛が寛解し(ただし第1または第2トリメスターでときに増悪がみられる),出産後に エストロゲンレベルが急速に低下すると悪化する。
経口避妊薬およびその他のホルモン療法は片頭痛を誘発または増悪させることがあり,前兆のある片頭痛を有する女性の脳卒中との関連が報告されている。
家族性片麻痺性片頭痛と呼ばれる片頭痛のまれな亜型には,1番,2番,19番染色体の遺伝子異常が関連している。より一般的な病型の片頭痛における遺伝子の役割は現在研究中である。
症状と徴候
しばしば,発作に先立って予兆(片頭痛が始まるという感覚)がみられる。予兆には気分変化,食欲減退,悪心や,これらの組合せなどがある。
約25%の患者で発作に前兆を伴う。前兆は,感覚,平衡,筋協調運動,発話,または視覚に影響しうる一時的な神経学的障害である;数分から1時間持続する。前兆は頭痛開始後も持続することがある。最も一般的な前兆は視覚症状(閃輝暗点—例,両眼性閃光,閃輝の弧,ジグザグの光,暗点)である。錯感覚およびしびれ(典型的には片手から始まり同側の腕および顔面に進展),発話障害,一過性の脳幹機能障害(例えば運動失調,錯乱,または意識障害さえ引き起こす)は,視覚症状ほど一般的ではない。前兆の後に頭痛がほとんど,または全くみられない患者も存在する。
頭痛は中等度から重度まで様々で,発作は4時間から数日持続し,典型的には睡眠により寛解する。疼痛はしばしば一側性であるが両側性のこともあり,前頭側頭部に好発し,典型的には拍動性の痛みまたはズキズキする痛みと表現される。
片頭痛は単なる頭痛ではない。悪心(ときに嘔吐を伴う),羞明,聴覚過敏,嗅覚過敏などの随伴症状が顕著である。患者は発作の間,集中困難を訴える。片頭痛は通常,日常的な身体活動により増悪する;このため,羞明および聴覚過敏を伴うことも相まって,患者の大多数は発作中,暗く静かな部屋で横になりたがる。発作は,家庭生活や仕事など,他のことができなくなるほど重度となりうる。
発作の頻度および重症度は有意に異なる。多くの患者で,悪心および羞明を伴わない軽度の発作を含む,数種類の頭痛がみられ,それらは緊張型頭痛に類似することもあるが,片頭痛の不完全型である。
慢性片頭痛
その他の症状
診断
片頭痛の診断は,特徴的な症状の存在と系統的な神経学的診察を含めた身体所見が正常であることに基づく。
(たとえ片頭痛の存在が判明している患者でも)別の診断を示唆するレッドフラグサインとしては以下のものがある:
特徴的な症状があり,レッドフラグサインのない患者では検査は不要である。レッドフラグサインのある患者では,しばしば脳画像検査およびときに腰椎穿刺が必要となる。
よくみられる診断エラーとしては以下のものがある:
いくつかのまれな疾患が前兆のある片頭痛に類似することがある:
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頸動脈または椎骨動脈解離
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脳血管炎
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もやもや病
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皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy:CADASIL)
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MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作)症候群
予後
治療
疾患について十分に説明することで,片頭痛は完治はしないがコントロール可能であることを患者に理解させ,治療に積極的に参加するように促すことができる。
発作回数,タイミング,可能性のある誘因,および治療に対する反応を頭痛日記に記録するよう患者に促す。同定された誘因は可能であれば除去する。患者は誘因を避けるようにすべきであり,医師はストレスが主な誘因である場合や鎮痛薬が過剰使用されている場合には,片頭痛を管理するための行動療法(バイオフィードバック,ストレス管理,精神療法)を勧める。
急性片頭痛の治療は,発作の頻度,持続時間,および重症度に基づいて行うべきである 。鎮痛薬,制吐薬,トリプタン製剤,ジヒドロエルゴタミンなどを使用する(1)。
軽度から中等度の発作
NSAIDまたはアセトアミノフェンを用いる。オピオイド,カフェイン,またはブタルビタールを含む鎮痛薬は頻度の低い軽度の発作に対して役立つが,過剰使用される傾向があり,ときに薬物乱用頭痛と呼ばれる日常的に続く頭痛症候群の一形態へと陥る。
軽度または中等度の発作を緩和するために制吐薬を単独で使用することがある。
重度の発作
軽度の発作から他のことができなくなるほどの片頭痛に進展する場合,または発作が開始時から重度の場合,トリプタン製剤が用いられる。トリプタン製剤は選択的セロトニン1B/1D受容体作動薬である。トリプタン製剤そのものは鎮痛薬ではないが,片頭痛の疼痛を誘発する血管作動性神経ペプチドの放出を特異的に阻害する。トリプタン製剤は発作開始時に服用すると最も効果が得られる。経口,経鼻,皮下注の製剤があり( 片頭痛および群発頭痛に対する薬剤*),中でも皮下注製剤の効果が高いが,有害作用が多い。トリプタン製剤の過剰使用も薬物乱用頭痛を招きうる。悪心が顕著な場合,発作開始時にトリプタン製剤を制吐薬と組み合わせて投与することが効果的である。
輸液(例,生理食塩水1~2L)は,特に嘔吐により脱水状態にある患者において,より頭痛を緩和し,健康感を増すことができる。
ジヒドロエルゴタミンの静注と制吐薬としてのドパミン拮抗薬(例,メトクロプラミド10mg,静注,プロクロルペラジン5~10mg,静注)の併用は非常に重度の持続性発作を止めるのに役立つ。ジヒドロエルゴタミンは皮下投与の形でも,鼻腔スプレーとしても利用可能である。肺吸入製剤は現在開発中である。
トリプタン製剤およびジヒドロエルゴタミンは冠動脈狭窄の原因となりうるため,冠動脈疾患またはコントロール不良の高血圧がある患者では禁忌である;また高齢患者および血管危険因子を有する患者では,これらの薬剤は慎重に使用しなければならない。
ジヒドロエルゴタミンまたはトリプタン製剤はくも膜下出血およびその他の器質的異常による頭痛を軽減することがあるため,これらの薬剤への反応が良好であることをもって,片頭痛と診断できると考えるべきではない。
トリプタン製剤およびその他の血管収縮薬に耐えられない患者には,プロクロルペラジンの坐薬(25mg)または錠剤(10mg)も1つの選択肢である。
オピオイドは,重度の頭痛に対し他に有効策がない場合の最後の手段(レスキュー薬)として用いるべきである。
慢性片頭痛
片頭痛の発作の予防に用いられるものと同じ薬剤が,慢性片頭痛の治療に用いられる。また,A型ボツリヌス毒素と程度は低いもののトピラマートが有効であるという強いエビデンスがある。
片頭痛および群発頭痛に対する薬剤*
治療に関する参考文献
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1.Marmura MJ, Silberstein SD, Schwedt TJ: The acute treatment of migraine in adults: The American Headache Society evidence assessment of migraine pharmacotherapies. Headache 55(1):3–20, 2015.
予防
急性期の治療にもかかわらず頻繁な片頭痛により活動に支障を来す場合,日常的な予防治療が必要である。A型ボツリヌス毒素を第1選択薬と考える専門家もいる。
頻繁に(例,週2日を超えて)鎮痛薬を使用する患者,特に薬物乱用頭痛を呈する患者は,予防薬投与( 片頭痛および群発頭痛に対する薬剤*)と組み合わせて,鎮痛薬の過剰使用を止めるためのプログラムを実施すべきである。選択すべき薬剤は,以下のように併存疾患に応じて決まることがある:
要点
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片頭痛は,多数の誘因がありうる一般的な一次性頭痛である。
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症状としては,拍動性の一側性または両側性疼痛,悪心,感覚刺激(例,光,音,匂い)への過敏性,非特異的な予兆,頭痛に先行する一過性の神経症状(前兆)などがある。
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片頭痛は臨床所見に基づいて診断する;レッドフラグサインがあれば,しばしば検査が必要となる。
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誘因の回避,状況に応じたバイオフィードバック,ストレス管理,および精神療法を適切に用いるなど,患者を治療に参加させるようにする。
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ほとんどの頭痛は,鎮痛薬,ジヒドロエルゴタミンの静注,またはトリプタン製剤で治療する。
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発作が頻繁で活動の妨げとなる場合,予防薬(例,A型ボツリヌス毒素,アミトリプチリン,β遮断薬,トピラマート,divalproex)を用いる。