ハンチントン病

(Huntington病;ハンチントン舞踏病;慢性進行性舞踏病;遺伝性舞踏病)

執筆者:Hector A. Gonzalez-Usigli, MD, HE UMAE Centro Médico Nacional de Occidente
レビュー/改訂 2020年 5月
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ハンチントン病は,舞踏運動,精神神経症状,および進行性の認知機能低下を特徴とする常染色体優性遺伝疾患であり,通常は中年期に発症する。診断は遺伝子検査による。第1度近親者には,遺伝子検査を行う前に遺伝カウンセリングを勧めるべきである。治療は支持療法による。

運動障害疾患および小脳疾患の概要も参照のこと。)

ハンチントン病は男女に等しく発生する。

ハンチントン病の病態生理

ハンチントン病では,尾状核が萎縮し,線条体の抑制性中間有棘ニューロンが変性して,神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)およびサブスタンスPが減少する。

ハンチントン病は,4番染色体上のhuntingtinHTT)遺伝子の変異に起因し,この遺伝子は,アミノ酸のグルタミンをコードするDNA配列であるCAGのリピート異常をもたらす。その遺伝子産物はハンチンチンと呼ばれる大きなタンパク質で,ポリグルタミン残基の拡大伸長がみられ,それがニューロン内に蓄積され,未知の機序により疾患をもたらす。CAGリピートが多くなるほど,発症年齢はより低くなり,表現型はより重度になる。父親から変異が受け継がれる場合,世代を重ねるにつれてCAGリピート数が増すことがあり,経時的に家系内の表現型が重症化していくことがある(表現促進と呼ばれる)。

ハンチントン病の症状と徴候

ハンチントン病の症状と徴候は潜行性に発生し,表現型の重症度によって異なるが,35~40歳頃に始まる。

運動障害疾患に先行して,または運動障害疾患と同時に,認知症または精神障害(例,抑うつ,無関心,易刺激性,快感消失,反社会的行動,本格的な双極性障害または統合失調症様障害)が生じる。これらの症状は,希死念慮および自殺の素因となり,ハンチントン病患者では一般集団と比べてこれらの頻度がはるかに高い。

異常運動として,舞踏運動,アテトーゼ,チック,ミオクローヌス,偽性チック(pseudo-tic)(tourettismの原因の1つ)などがみられるようになる。Tourettismとは,別の神経疾患や薬剤の使用によって生じるトゥレット様症状のことであり,tourettismには舞踏病患者でみられる反復的な運動や発声も含まれる。真のチックとは異なり,ハンチントン病の偽性チックは抑制することができない。

典型的な特徴としては,操り人形のような奇異な歩行,しかめ面,瞬目や頭部の突き出しをせずに眼球を意図的に急速に動かすことができない(眼球運動失行),舌の突き出しや把持といった動作を維持することができない(運動維持困難)などがある。

ハンチントン病が進行すると,歩行が不可能になり,嚥下が困難になる;結果として重度の認知症に至る。多くの患者は最終的には施設入所が必要となる。通常は症状の出現から13~15年で死亡する。

ハンチントン病の診断

  • 臨床的評価を行い,遺伝子検査により確認する。

  • 神経画像検査

ハンチントン病の診断は,典型的な症候と本疾患の家族歴に基づいて行う。CAGリピート数を測定する遺伝子検査により確定する(検査結果の解釈については,ハンチントン病の遺伝子検査の表を参照)。

神経画像検査は尾状核の萎縮および,しばしば前頭優位の皮質萎縮の同定に役に立つ。

表&コラム

ハンチントン病の治療

  • 支持療法

  • 近親者の遺伝カウンセリング

ハンチントン病は進行性であるため,終末期ケアについて早期から話し合うべきである。

ハンチントン病の治療は支持療法および対症療法による。しかしながら,研究者らは疾患の進行を遅らせたり,止めたりする方法を探し続けている。

抗精神病薬により部分的に舞踏運動および興奮を抑えられることがある。抗精神病薬としては以下のものがある:

  • クロルプロマジン25~300mg,経口,1日3回

  • ハロペリドール5~45mg,経口,1日2回

  • リスペリドン0.5~3mg,経口,1日2回

  • オランザピン5~10mg,経口,1日1回

  • クロザピン12.5~100mg,経口,1日1回または1日2回

クロザピンを服用している患者では,無顆粒球症のリスクがあるため,白血球数を頻繁に測定するべきである。抗精神病薬の用量は,耐えられない有害作用(例,嗜眠,パーキンソニズム)が生じるか,症状がコントロールされるまで増量する。

代わりに,小胞モノアミントランスポーター2(VMAT-2)阻害薬(テトラベナジン,デューテトラベナジン[deutetrabenazine])を使用してもよい。この薬剤はドパミンを枯渇させ,舞踏運動およびジスキネジアを軽減することを目的としている。

テトラベナジンは12.5mg,経口,1日1回で開始し,2週目は12.5mg,1日2回,3週目は12.5mg,1日3回に増量する。4週目にはさらに12.5mg増量してもよい。12.5mgを超える用量は,1日3回に分けて経口投与する(総用量は37.5mg/日となる);総用量は1週間毎に12.5mg/日増量する。最大用量は33.3mg,経口,1日3回(総用量100mg/日)である。症状をコントロールするため必要に応じて,または有害作用に耐えられなくなるまで,連続的に用量を増量する。生じうる有害作用には,過剰な鎮静,アカシジア,パーキンソニズム,抑うつなどある。抑うつは抗うつ薬で治療する。

現在ではデューテトラベナジン(deutetrabenazine)がハンチントン病の舞踏運動の治療に利用できる。推奨用量は6~48mg/日,経口,分2である。開始量は6mg,1日1回とし,その後1週間毎に6mg/日ずつ(例,6mg,1日2回に)増量し,最大24mg,1日2回(48mg/日)まで増量できる。(12mg以上の用量は2回に分けて投与する。)有害作用はテトラベナジンのそれと同様であるが,より忍容性が高い。しかしながら,VMAT-2阻害薬は高価である。

現在研究されている治療法は,N-メチル-d-アスパラギン酸受容体を介したグルタミン酸系神経伝達を抑制し,ミトコンドリアエネルギー産生を強化することを目的としている。脳のGABA作動性の機能を増加させることを目的とした治療は無効に終わっている。

第1度近親者にハンチントン病の患者がいる人,特に妊娠可能年齢の女性や挙児を考慮している男性には,遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査を勧めるべきである。ハンチントン病の転帰は非常に深刻であるため,遺伝子検査を行う前に遺伝カウンセリングを勧めるべきである。

ハンチントン病の要点

  • ハンチントン病は,男女に発生する常染色体優性遺伝疾患であり,通常は中年期に認知症と舞踏運動を引き起こす;ほとんどの患者がやがて施設入居を余儀なくされる。

  • 症状および家族歴から本症が示唆される場合は,遺伝子検査を行う前に遺伝カウンセリングを提供し,神経画像検査を考慮する。

  • 症状の治療を行うとともに,終末期ケアについて可能な限り早期に話し合う。

  • 第1度近親者,特に親になる可能性がある近親者には,カウンセリングおよび遺伝子検査を勧める。

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