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健忘

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2015年 9月

健忘とは,過去の経験を部分的または完全に想起できなくなることである。外傷性脳損傷,変性,代謝性疾患,てんかん発作,心理的障害などによって発生する。診断は臨床的に行うが,しばしば神経心理学的検査および脳画像検査(例,CT,MRI)も施行される。治療は原因に対して行う。

記憶の処理には以下の過程がある:

  • 登録(記銘:新しい情報を取り入れること)

  • 符号化(関連性の形成,タイムスタンプ,検索に必要なその他の過程)

  • 検索(想起)

これらの段階のいずれかが障害されると,健忘が発生する。健忘は,その定義からして,記憶機能の障害に起因するものであり,類似の症状を引き起こしうる他の機能(例,注意,動機づけ,推理,言語)障害によるものではない。

健忘は以下のように分類される:

  • 逆向性:原因となった出来事の前に起こった出来事に関する健忘

  • 前向性:原因となる出来事の前に新しい記憶を保持できないもの

  • 感覚特異的:ある感覚によって処理される出来事に関する健忘―例,失認

健忘には以下の種類がある:

  • 一過性(脳外傷後に発症するものなど)

  • 固定性(脳炎,広範囲の虚血,心停止などの重篤な事象後に発症するものなど)

  • 進行性(アルツハイマー病などの変性性認知症とともに発症するものなど)

記憶障害は事実(陳述記憶)に関するものが比較的多く,技能(手続き記憶)に関するものは比較的少ない。

病因

健忘は,びまん性脳障害,両側性病変,または大脳半球の記憶保存領域を障害する多巣性損傷によって生じる。

陳述記憶の優位経路は,海馬傍回内側領域および海馬にかけて存在するほか,側頭葉下内側部,前頭葉眼窩面(前脳基底部),および間脳(視床および視床下部を含む)にも存在する。これらの構造の中でも,以下は極めて重要である:

  • 海馬回

  • 視床下部

  • 前脳基底部の神経核

  • 視床背内側核

扁桃核は記憶に対する感情的な増幅に寄与する。視床髄板内核および脳幹網様体は,記憶の刷込みを刺激する。視床背内側核の両側性損傷は,近時記憶および新しい記憶の形成を重度に障害する。

健忘の原因としては以下のものが挙げられる:

  • 慢性のアルコール乱用または重度の低栄養がある患者ではチアミン欠乏症(ウェルニッケ脳症またはコルサコフ精神病を引き起こすことによる)

  • 外傷性脳損傷

  • てんかん発作

  • 脳全体の低酸素症または虚血

  • 脳炎

  • 脳底動脈先端部の塞栓性閉塞(脳底動脈先端部塞栓症)

  • アルツハイマー病などの変性性認知症

  • 様々な薬物中毒(例,慢性の溶剤吸入,アムホテリシンBまたはリチウム中毒)

  • 視床下部腫瘍

  • 心的外傷またはストレス

脳震盪または中等度もしくは重度の頭部外傷が生じる直前および直後の記憶に対する外傷後健忘は,側頭葉内側部の損傷に起因するようである。中等度または重度の損傷では,記憶の保持および想起に関わるより広い領域が侵されることがあり,これは認知症の原因となる多くのびまん性脳障害でも同様である。

心理的記憶障害は極度の心的外傷またはストレスから生じる( 解離性健忘)。

良性老年性もの忘れ(benign senescent forgetfulness)(加齢に伴う記憶障害)は,正常な加齢に伴って起こる記憶障害を指す。良性老年性もの忘れのある高齢者は,加齢とともに次第に記憶に関する問題が目に付くようになるが,それらは名称から始まることが多く,続いて出来事,ときに空間的関係が思い出せなくなる。良性老年性もの忘れと認知症との間には,関係性は証明されていないものの,見過ごしがたい類似点も存在する。

主観的な記憶の問題を有する人の中には健忘型軽度認知障害(健忘型MCI)がみられる場合があり,そのような人は客観的な記憶検査では成績が不良となるが,それ以外の認知機能は正常で,日常生活を問題なく送ることができる。健忘型MCIを有する集団は,記憶力に関して問題のない同年齢層の集団と比べて,アルツハイマー病を発症する可能性が高い。

診断

  • ベッドサイド検査

簡単なベッドサイド検査(例,3単語の想起,部屋の中に隠した物の場所)および正式な検査(例,California Verbal Learning TesやBuschke Selective Reminding Testなどの単語リスト学習テスト)は,言語性記憶障害の同定に有用となりうる。非言語性記憶の評価はより困難であるが,視覚的デザインまたは一連の色調の想起などが用いられる。

通常は臨床所見から原因と必要な検査が示唆される。

治療

  • 原因に向けた治療

基礎疾患または心理的原因があれば,全て治療しなければならない。しかしながら,急性健忘患者の一部は自然に回復する。健忘を引き起こす特定の疾患(例,アルツハイマー病,コルサコフ精神病,ヘルペス脳炎)は治療可能であるが,基礎疾患を治療しても,健忘が軽減することもあれば,軽減しないこともある。

アルツハイマー病患者では,コリン作動薬(例,ドネペジル)によって一時的かつわずかな記憶力の改善が得られることがあり,他の認知症が原因の場合にも,しばしばこれらの薬剤が試される。それ以外には,回復を早めたり,予後を改善できる特定の対策はない。

要点

  • 外傷性脳損傷,変性性認知症,代謝性疾患,てんかん発作,心的外傷またはストレスなど,健忘には様々な原因がある。

  • 健忘はベッドサイド検査(例,3単語の想起)または正式な検査(単語リスト学習テスト)を用いて臨床的に診断する。

  • 健忘の原因を治療する。

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