(脊髄疾患の概要も参照のこと。)
脊髄硬膜外膿瘍は通常,胸椎または腰椎領域に生じる。基礎疾患としてしばしば感染症があり,その部位は離れている(例,心内膜炎,皮膚のせつ,歯の膿瘍)こともあれば,近接している(例,化膿性脊椎炎,褥瘡,後腹膜膿瘍)こともある。約3分の1の症例では原因を特定できない。最も頻度の高い原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であり,次いで大腸菌(Escherichia coli)と混合性の嫌気性菌である。ときに,胸椎の結核性膿瘍が原因のこともある(Pott病)。まれに,同様の膿瘍が硬膜下腔に起こる。
症状と徴候
診断
神経脱落症状を予防または最小限に抑えるために速やかな治療が必要であるため,非外傷性の有意な背部痛がある患者では,特に脊椎上に限局性の叩打痛がある場合や,発熱がみられるか最近の感染歴または歯科処置歴がある場合には,脊髄硬膜外膿瘍を疑うべきである。特徴的な神経脱落症状はより特異的であるが,遅れて出現する場合があるため,そのような神経脱落症状の出現を待って画像検査を遅らせることは,転帰の悪化につながる可能性が高い。
脊髄硬膜外膿瘍の診断はMRIによるが,MRIが利用できない場合は,脊髄造影とそれに続いてCTを施行してもよい。血液および感染部位からの検体の培養を行う。
膿瘍が完全に髄液の流れを閉塞している場合,腰椎穿刺は脊髄ヘルニアの誘因になる可能性があるため禁忌である。単純X線はルーチンに適応とはならないが,施行すれば約3分の1の患者で骨髄炎が認められる。赤沈値は上昇するが,この所見は非特異的である。
治療
抗菌薬投与と場合により膿瘍穿刺吸引の併用で十分な場合もあるが,膿瘍が神経学的障害(例,麻痺,腸または膀胱機能障害)を引き起こしている場合は,直ちに外科的ドレナージを施行する。膿のグラム染色および培養を行う。培養結果が出るまでは,脳膿瘍の場合と同様,黄色ブドウ球菌と嫌気性菌をカバーする抗菌薬を投与する。膿瘍が神経外科処置後に発生した場合は,グラム陰性細菌をカバーするためにアミノグリコシド系薬剤を追加する。