(脊髄疾患の概要 脊髄疾患の概要 脊髄疾患は永続的な重度の神経機能障害を引き起こす可能性がある。評価および治療が迅速であれば,そのような身体障害を回避または最小化することが可能になる場合もある。 脊髄は大後頭孔で延髄から尾側に向かって伸び,上位腰椎(通常はL1とL2の間)で終わり,そこで脊髄円錐を形成する。腰仙部では,下位髄節からの神経根はほぼ垂直な束となって脊柱管内を下... さらに読む および 脊椎・脊髄外傷の応急処置 緊急治療 脊椎・脊髄の外傷では,脊髄,脊椎,またはその両方に損傷が生じる。ときに 脊髄神経も影響を受ける。 脊柱の解剖については,別の章に記載されている。 脊髄損傷は以下の場合がある: 完全 不全 ( 外傷患者へのアプローチも参照のこと。) さらに読む も参照のこと。)
圧迫の原因としては,脊髄内部の病変(髄内病変)より脊髄外部の病変(髄外病変)の方がはるかに頻度が高い。
圧迫は以下の場合がある:
急性
亜急性
慢性
急性脊髄圧迫は,数分から数時間以内に発症する。これは多くの場合以下に起因する:
外傷(例,骨片の転位を伴う 脊椎圧迫骨折 脊椎圧迫骨折 ほとんどの脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症によるものであり,症状はないかごくわずかで,外傷なしに,またはごくわずかな外傷により生じる。 ( 骨折の概要も参照のこと。) 骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折は,胸椎(通常T6より下)および腰椎でよくみられ,特にT12-L1の移行部の近くで多い。先行する外傷はないか,またはごくわずかなものである(例,軽い転倒,突然腰を曲げる,物を持ち上げる,咳嗽)。骨粗鬆症性脊椎骨折の既往がある患者は他の脊椎の骨折および脊椎以... さらに読む
,急性 椎間板ヘルニア 椎間板ヘルニア 椎間板ヘルニアは,椎間板が周囲の線維輪の亀裂を介して脱出する病態である。椎間板内の感覚神経の炎症のため亀裂により疼痛が生じるほか,椎間板が隣接する神経根を侵害することで,その神経根の分布域において錯感覚と筋力低下を伴った分節性の神経根障害が生じる。診断は通常,MRIまたはCTによる。軽症例の治療は,鎮痛薬,活動の修正,および理学療法による。床上安静が適応となることはまれである。進行性もしくは重症の神経脱落症状,難治性の疼痛,保存的治療の... さらに読む
,血腫を引き起こす重度の骨または靱帯損傷,脊椎の亜脱臼または脱臼)
転移性腫瘍
ときに膿瘍によることがあり,まれに特発性硬膜外血腫によることもある。急性脊髄圧迫が亜急性および慢性脊髄圧迫に続いて生じることがあり,特に原因が膿瘍または腫瘍である場合に多い。
亜急性脊髄圧迫は,数日から数週間かけて発生する。これは通常,以下に起因する:
転移性髄外腫瘍
硬膜下または硬膜外膿瘍または血腫
頸椎または(まれに)胸椎の椎間板ヘルニア
慢性脊髄圧迫は,数カ月から数年かけて発症する。一般的には以下によって生じる:
頸部,胸部,または腰部における脊柱管内への骨の突出(例,骨棘または脊椎症によるもので,特に 脊柱管狭窄症 腰部脊柱管狭窄症 腰部脊柱管狭窄症は,腰部脊柱管の狭小化することで,椎間孔から出る前の神経根糸および馬尾の神経根が圧迫される病態である。歩行中または荷重負荷があるときに,体位性の背部痛,椎間孔での神経根圧迫の症状,および下肢の痛みを引き起こす。 ( 頸部痛および背部痛の評価も参照のこと。) 脊柱管狭窄症は先天性または後天性のことがある。頸椎または腰椎を侵すことがある。後天性の腰部脊柱管狭窄症(LSS)は,中年患者または高齢患者における... さらに読む
など,脊柱管が狭くなっている場合)
椎間板ヘルニアおよび黄色靱帯の肥厚により,圧迫が悪化する可能性がある。比較的まれな原因としては, 動静脈奇形 脊髄動静脈奇形(AVM) 脊髄内部またはその周囲の動静脈奇形(AVM)は,脊髄圧迫,虚血,実質性出血,くも膜下出血,またはこれらの組合せを引き起こす可能性がある。症状としては,緩徐進行性,上行性,または増悪と軽快を繰り返す髄節性の神経脱落症状,根性痛,髄節性の突発的な神経脱落症状を伴って突然生じる重度の背部痛などがありうる。診断はMRIによる。治療は外科手術または定位放射線手術によるほか,血管造影による塞栓術が用いられることもある。... さらに読む や緩徐増殖性髄外腫瘍などがある。
環軸関節亜脱臼 環軸関節亜脱臼 環軸関節亜脱臼は第1頸椎と第2頸椎のアライメント異常であり,頸部を屈曲するだけで起こることがある。 ( 頸部痛および背部痛の評価ならびに 頭蓋頸椎移行部異常も参照のこと。) 環軸関節亜脱臼は,重度外傷に起因して,または 関節リウマチ, 若年性特発性関節炎,もしくは 強直性脊椎炎の患者において外傷なしに起こることがある。本症は非常にまれである。 環軸関節亜脱臼は通常無症状であるが,漠然とした頸部痛,後頭部痛,またはときに間欠的な(かつ致死... さらに読む やその他の 頭蓋頸椎移行部異常(craniocervical junction abnormalities) 頭蓋頸椎移行部異常 頭蓋頸椎移行部異常(craniocervical junction abnormality)は,後頭骨,大後頭孔,または第1および第2頸椎の先天性または後天性の異常により,下部脳幹と頸髄のためのスペースが狭小化する病態である。こうした異常は,頸部痛,脊髄空洞症,小脳,下位脳神経,および脊髄の障害,ならびに椎骨脳底動脈虚血の原因となることが... さらに読む
によって急性,亜急性,慢性の脊髄圧迫が引き起こされることがある。
脊髄を圧迫する病変は神経根を圧迫することがあり,まれに脊髄の血液供給路を塞いで 脊髄梗塞 脊髄梗塞 脊髄梗塞は通常,脊柱管外部の動脈に由来する虚血が原因で起こる。症状としては,突発的な重度の背部痛,その直後に四肢に生じる急速進行性かつ両側性の弛緩性筋力低下と感覚消失(温痛覚に顕著)などがある。診断はMRIによる。治療は主として支持療法である。 ( 脊髄疾患の概要も参照のこと。) 脊髄の後方3分の1への主要な栄養血管は後脊髄動脈であり,前方3分の2では前脊髄動脈である。前脊髄動脈は上位頸髄領域では数本の栄養動脈を,また下位胸髄領域では1... さらに読む を起こすこともある。
脊髄圧迫の症状と徴候
急性または進行した脊髄圧迫は,髄節性の障害,対麻痺または四肢麻痺,反射低下(急性期)に続く反射亢進,伸展性足底反応,括約筋の緊張減少(腸管および膀胱機能障害),および感覚障害を引き起こす。亜急性または慢性の脊髄圧迫は,限局性の背部痛で始まることがあり,疼痛はしばしば神経根の分布域に放散し(根性痛),ときに反射亢進および感覚消失を伴う。感覚消失は仙髄分節から始まることがある。続いて,完全な機能喪失が前触れなく突発的に生じることがあるが,これはおそらく続発性の脊髄梗塞に起因する。
原因が転移性の癌腫,膿瘍,または血腫の場合は,脊椎の叩打痛が著明となる。
髄内病変は根性痛よりむしろ部位を同定しにくい灼熱痛を引き起こす傾向にあり,仙髄支配領域の感覚は保たれる傾向にある。これらの病変は通常,痙性不全麻痺を引き起こす。
脊髄圧迫の診断
MRIまたはCT脊髄造影
反射,運動,または感覚障害(特にある髄節におけるもの)を伴う脊髄痛または根性痛により,脊髄圧迫が示唆される。
可能であれば直ちにMRIを施行する。MRIが利用できない場合は,CT脊髄造影を施行する;少量のイオヘキソール(非イオン性,低浸透圧性の造影剤)を腰椎穿刺で投与して頭側に移行させ,完全な髄液流の閉塞がないか調べる。閉塞が見つかった場合は,頸椎穿刺により造影剤を注入して,閉塞が頭側にどこまで広がっているのかを調べる。緊急脊椎固定を要する外傷性骨異常(例,骨折,脱臼,亜脱臼)が疑われる場合,脊椎単純X線を行うこともある。しかしながら,骨異常の検出にはCTの方が優れている。
脊髄圧迫の治療
圧迫軽減
脊髄圧迫の治療は,脊髄への圧迫を軽減することが目標となる。機能喪失が不完全な場合または完全でも発生直後の場合には,回復可能なこともあるが,完全な機能喪失が回復することはほとんどない;そのため,急性脊髄圧迫に対しては,診断および治療を直ちに行われなければならない。
圧迫が腫瘍による場合は,直ちにデキサメタゾン100mgを静注し,続いて25mgを6時間毎に静注するとともに,緊急手術または放射線療法を施行する。
以下のケースは手術適応となる:
手術以外の治療を行っても神経脱落症状が悪化する。
生検が必要である。
脊椎が不安定である。
放射線療法後に腫瘍が再発した。
膿瘍または圧迫性の硬膜下もしくは硬膜外血腫が疑われる。
脊髄圧迫の要点
脊髄圧迫は通常,脊髄外の腫瘤に続発する。
臨床像としては,背部痛および根性痛(初期)と髄節性の感覚および/または運動障害,反射異常,伸展性足底反応,括約筋緊張消失(腸管および膀胱機能障害を伴う)などがある。
MRIまたはCT脊髄造影を直ちに施行する。
脊髄への圧迫を軽減するため,可及的速やかに手術またはコルチコステロイド投与を行う。