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神経伝達

執筆者:

Ricardo Cruciani

, MD, PhD, Center for Pain Palliative Medicine, Drexel University College of Medicine

最終査読/改訂年月 2009年 12月
本ページのリソース

ニューロンは活動電位を発生させて,これを軸索に沿って伝導した後,このシグナルを神経伝達物質の放出によりシナプスを介して伝達し,別のニューロンまたは効果細胞(例,筋細胞,外分泌および内分泌細胞の大半)の応答を誘発する。関与する神経伝達物質と受容体の関係に応じて,受容細胞はシグナルによって刺激される場合と抑制される場合がある。

中枢神経系では,相互接続が複雑である。ニューロンから別のニューロンへ伝達されるインパルスは,軸索から細胞体,軸索から樹状突起(ニューロンの受容を担う分枝),細胞体から細胞体,または樹状突起から樹状突起へと通過することがある。ニューロンは,複数のニューロンから同時に多くの興奮性および抑制性インパルスを受け取り,同時に発生したインパルスを様々な発火パターンに統合することができる。

伝導

軸索に沿った活動電位の伝導は電気的な現象であり,軸索膜を介したNa+とK+の交換によって引き起こされる。個々のニューロンは,毎回の刺激後に同じ大きさの活動電位を発生させ,それを軸索に沿って一定の速度で伝導する。伝導速度は軸索の直径と髄鞘化の程度に依存し,細い無髄線維では1~4m/秒,太い有髄線維では75m/秒である。伝導速度は有髄線維の方が速いが,これは有髄線維には一定の間隔で軸索が露出した部分(ランビエ絞輪)があるためである。電気的インパルスは,髄鞘化された軸索部分を飛び越えて,絞輪から絞輪へと跳躍して伝導していく。したがって,髄鞘に影響を及ぼす疾患(例,多発性硬化症)ではインパルスの伝導が障害され,それにより様々な神経症状が引き起こされる。

伝達

インパルスの伝達は化学的な現象であり,神経終末(末端)から特異的な神経伝達物質が放出することにより引き起こされる。神経伝達物質はシナプス間隙を越えて拡散し,隣接するニューロンまたは効果細胞の特異的受容体に短時間結合する。結合する受容体に応じて,生じる反応は興奮性または抑制性となる。

ある種のシナプス(電気シナプス)では,神経伝達物質は関与せず,イオンチャネルによってシナプス前後のニューロンの細胞質が直接連結される。この形態の伝達が最も速く進行する。

神経細胞体は,ほとんどの神経伝達物質を合成する酵素を産生しており,神経伝達物質は神経終末の小胞内に貯蔵される( 神経伝達参照)。1つの小胞内にある量(通常は分子数で数千)を1量子(quantum)と呼ぶ。神経終末に到達した膜活動電位によって軸索のCaチャネルが開口すると,Caイオンが流入する結果,小胞膜が神経終末膜に融合することにより,多数の小胞から神経伝達物質の分子が放出される。膜融合により出口ができると,そこから開口分泌によってシナプス間隙中に分子が放出される。

神経伝達

活動電位により軸索のCaチャネルが開口する(図には示していない)。Ca2+により,貯蔵場所である小胞からの神経伝達物質(NT)の放出が活性化される。NTの分子でシナプス間隙が満たされる。一部がシナプス後受容体と結合し,応答を惹起する。それ以外のNTは,軸索内に回収されるか,周囲の組織中に貯蔵されたり拡散したりする。

神経伝達

神経終末での神経伝達物質の量は,一般的には神経の活動に左右されず,神経伝達物質前駆体の取込みの調節や神経伝達物質の合成または分解に関与する酵素の活性の調節によって,比較的一定に保たれている。シナプス前受容体を刺激するとシナプス前部での神経伝達物質の合成を減少させ,シナプス前受容体を遮断すると合成を増加させることができる。

受容体の急速かつ反復的な活性化を可能にするには,神経伝達物質と受容体との相互作用は速やかに終結する必要がある。受容体と相互作用を起こした神経伝達物質には,以下のいずれかが起こる:

  • 能動的かつATP依存的にシナプス前神経終末に回収される(再取り込み)。

  • 受容体付近の酵素によって破壊される。

  • 周辺の領域に拡散して除去される。

神経終末に取り込まれた神経伝達物質は,再利用のため小胞内に再び詰め込まれる。

受容体

神経伝達物質の受容体は,細胞膜に広く分布するタンパク複合体である。その性質によって,結合した神経伝達物質が興奮性に働くか,抑制性に働くかが決定される。神経伝達物質または薬物によって絶えず刺激されている受容体は脱感作(ダウンレギュレーション)を起こし,神経伝達物質による刺激を受けないか,薬物により慢性的に遮断されている受容体は感受性亢進(アップレギュレーション)を起こす。受容体のダウンレギュレーションやアップレギュレーションは,耐性や身体依存の発生に強く影響する。これらの概念は臓器または組織移植の際に特に重要であり,これらの状況では,脱神経のために受容体が神経伝達物質から遮断されている。離脱症状は,受容体の結合性または密度が変化したことによる反跳現象によって,少なくとも一部は説明できる。

大部分の神経伝達物質は主としてシナプス後受容体と相互作用するが,シナプス前ニューロンに発現する受容体もあり,神経伝達物質の放出を微調整している。

イオンチャネル型受容体と呼ばれる受容体ファミリー(例,N-メチル-d-グルタミン酸受容体,カイニン酸-キスカル酸受容体,ニコチン性アセチルコリン受容体,グリシン受容体,γ-アミノ酪酸[GABA]受容体)は,神経伝達物質と結合することで開口するイオンチャネルで構成されており,非常に迅速な応答に関与する。代謝型受容体と呼ばれる別の受容体ファミリー(例,セロトニン受容体,αおよびβアドレナリン受容体,およびドパミン受容体)では,神経伝達物質はGタンパクと相互作用して,タンパクのリン酸化やCaの動員を介した連鎖反応を触媒する別の分子(cAMPなどのセカンドメッセンジャー)を活性化する;セカンドメッセンジャーが介在する細胞の変化は比較的緩徐であり,神経伝達物質に対するイオンチャネルによる迅速な応答を微細に調整することができる。セカンドメッセンジャーを活性する神経伝達物質より,特異的な受容体を活性する神経伝達物質の方がはるかに多い。

主要な神経伝達物質および受容体

少なくとも100種類の物質が神経伝達物質として作用し,そのうち約18種類が特に重要である。いくつかは若干異なる形態で存在する。

グルタミン酸およびアスパラギン酸

これらのアミノ酸は,中枢神経系における主な興奮性神経伝達物質である。大脳皮質,小脳,および脊髄に存在する。ニューロン内では,グルタミン酸に反応して一酸化窒素(NO)合成が増加する。過剰なグルタミン酸は毒性を示すことがあり,細胞内カルシウム濃度,フリーラジカル,およびプロテイナーゼ活性を増加させる。これらの神経伝達物質は,オピオイド治療に対する耐性の一因となったり,痛覚過敏に関与したりすることがある。

グルタミン酸受容体はNMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)受容体と非NMDA受容体に分類される。フェンシクリジン(PCP,エンジェルダストとしても知られる)とメマンチン(アルツハイマー病の治療に使用される)はNMDA受容体に結合する。

GABA

GABAは脳における主な抑制性神経伝達物質である。グルタミン酸に由来するアミノ酸であり,グルタミン酸がグルタミン酸脱炭酸酵素により脱炭酸化されて生じる。受容体との相互作用の後,GABAは神経終末に能動的に回収されて代謝される。グリシンはその作用面でGABAに類似するが,主として脊髄の介在ニューロン(Renshaw細胞)や拮抗筋を弛緩させる回路に存在する。

GABA受容体はGABAA(塩素イオンチャネルを活性化する)とGABAB(cAMP合成を増強する)に分類される。GABAA受容体は,ベンゾジアゼピン系薬剤,バルビツール酸系薬剤,ピクロトキシン,ムシモールなど,いくつかの神経刺激薬の作用部位である。GABAB受容体は,筋攣縮(例,多発性硬化症において)の治療に使用されるバクロフェンにより活性化される。

セロトニン

セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン,5-HT)は,縫線核と橋および上位脳幹の正中に存在するニューロンにより産生される。トリプトファンはトリプトファン水酸化酵素によって5-ヒドロキシトリプトファンへと水酸化され,さらに脱炭酸化されてセロトニンとなる。セロトニン濃度は,トリプトファンの取込みとニューロン内のセロトニンを分解するモノアミン酸化酵素(MAO)によって調節される。最終的に,セロトニンは5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)として尿中に排出される。

セロトニン(5-HT)受容体(少なくとも15のサブタイプがある)は,5-HT1(4つのサブタイプがある),5-HT2,および5-HT3に分類される。選択的セロトニン受容体作動薬(例,スマトリプタン)は片頭痛を抑える効果がある。

アセチルコリン

アセチルコリンは,延髄脊髄の運動ニューロン,自律神経節前線維,コリン作動性節後(副交感神経)線維,および中枢神経系の多くのニューロン(例,基底核,運動皮質)の主要な神経伝達物質である。アセチルコリンは,コリンとアセチルコエンザイムAからコリンアセチルトランスフェラーゼにより合成され,その作用は,局所におけるアセチルコリンエステラーゼによるコリンと酢酸への加水分解によって急速に終結する。アセチルコリン濃度は,コリンアセチルトランスフェラーゼとコリンの取込みによって調節されている。アルツハイマー病患者では,この神経伝達物質の濃度が低下している。

アセチルコリン受容体は,ニコチン性のN1(副腎髄質と自律神経節)およびN2(骨格筋)と,ムスカリン性のM1~M5(中枢神経系に広く分布)に分類される。M1受容体は自律神経系,線条体,大脳皮質,および海馬に,M2受容体は自律神経系,心臓,腸管平滑筋,後脳,および小脳に存在する。

ドパミン

ドパミンは,一部の末梢神経線維と多くの中枢ニューロン(例,黒質,中脳,腹側被蓋野,視床下部)の受容体と相互作用する。アミノ酸のチロシンがドパミン作動性ニューロンに取り込まれ,チロシン水酸化酵素によって3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(ドパ)に変換され,これが芳香族l-アミノ酸脱炭酸酵素によって脱炭酸化されてドパミンとなる。放出されて受容体と相互作用した後,ドパミンは神経終末に能動的に回収される(再取り込み)。チロシン水酸化酵素とMAO(ドパミンを分解する)が神経終末におけるドパミン濃度を調節している。

ドパミン受容体はD1~D5に分類される。D3受容体およびD4受容体は思考の制御(統合失調症の陰性症状に限る)に関与しており,D2受容体の活性化は錐体外路系を制御する。しかしながら,受容体への結合親和性から機能的な応答(内因活性)を予測することはできず,例えば,ロピニロールはD3受容体に高い親和性を示すが,内因活性はD2受容体の活性化を介して生じる。

ノルアドレナリン

ノルアドレナリンは,ほとんどの交感神経節後線維と多くの中枢ニューロン(例,青斑および視床下部)の神経伝達物質である。前駆体であるチロシンがドパミンに変換された後,ドパミンβ-水酸化酵素により水酸化されてノルアドレナリンとなる。放出されて受容体と相互作用した後,ノルアドレナリンの一部はカテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)により分解され,残りは神経終末へ能動的に再取り込みされ,そこでMAOにより分解される。チロシン水酸化酵素,ドパミンβ-水酸化酵素,およびMAOがニューロン内のノルアドレナリン濃度を調節している。

アドレナリン受容体はα1(交感神経系のシナプス後膜),α2(交感神経系のシナプス前膜および脳のシナプス後膜),β1(心臓),β2(交感神経支配を受けるその他の構造)に分類される。

エンドルフィンおよびエンケファリン

エンドルフィンとエンケファリンはオピオイドである。エンドルフィンは,多くの中枢ニューロン(例,視床下部,扁桃体,視床,青斑)を活性化する大きなポリペプチドである。細胞体には,α-,β-,γ-エンドルフィンの前駆体であるプロオピオメラノコルルチンと呼ばれる大きなポリペプチドが存在する。このポリペプチドは軸索内を輸送されて複数の断片に開裂するが,その1つがβ-エンドルフィンであり,中脳水道周囲灰白質および大脳辺縁系に投射するニューロンと脳の主なカテコールアミンニューロンに認められる。放出されて受容体と相互作用した後,β-エンドルフィンはペプチダーゼによって加水分解される。

Met-エンケファリンとLeu-エンケファリンは,多くの中枢ニューロン(例,淡蒼球,視床,尾状核,中心灰白質)に存在する小さなポリペプチドである。これらの前駆体であるプロエンケファリンが細胞体で産生され,これが特異的ペプチダーゼによって活性化ペプチドへと分断される。これらの物質は脊髄にも存在し,そこでは疼痛刺激を修飾する。脊髄後角における疼痛刺激の神経伝達物質は,グルタミン酸とサブスタンスPである。エンケファリンは,放出される神経伝達物質の量を減少させるとともに,シナプス後膜を過分極(より負にする)させ,活動電位の発生と中心後回レベルでの疼痛知覚を減弱させる。放出されてペプチド受容体と相互作用した後,エンケファリンは不活性の小さなペプチドおよびアミノ酸へと加水分解される。外因性のエンケファリンは急速に不活化されることから,これらの物質は臨床的には有用でない。代わりに,より安定な分子(例, モルヒネ)が鎮痛薬として使用されている。

エンドルフィン-エンケファリン(オピオイド)受容体は,μ1およびμ2(感覚運動統合および鎮痛に関与する),δ1およびδ2(運動の統合,認知機能,および鎮痛に関与),ならびにκ1κ2,およびκ3(水分バランスの制御,鎮痛,および摂食行動に関与する)受容体に分類される。σ受容体は現在では非オピオイドとして分類されており,大半が海馬に局在し,PCPと結合する。新しいデータと薬理学的な推測に基づき,さらに多くの受容体サブタイプの存在が示唆されている。受容体タンパクの合成過程で前駆体の構成要素に再構成が起きることで,受容体の変異体がいくつか生じる可能性がある(例,μオピオイド受容体には27のスプライス変異体がある)。2つの受容体が結合(二量体化)して新しい受容体を形成することもある。

その他の神経伝達物質

ダイノルフィンは,互いにアミノ酸配列の類似した7つのペプチドで構成されるグループである。これらはエンケファリンと同様にオピオイドである。

ペプチドであるサブスタンスPは,中枢ニューロン(手綱,黒質,基底核,延髄,および視床下部)に存在するほか,後根神経節に高濃度で存在する。その放出は,疼痛による強い求心性刺激によって誘発される。サブスタンスPは,疼痛および気分に対する神経学的応答を修飾し,また脳幹に局在するNK1A受容体の活性化を介して悪心および嘔吐を修飾する。

一酸化窒素(NO)は,ニューロンレベルの多くのプロセスに関与する不安定な気体である。NO合成酵素によって アルギニンから産生される。細胞内Ca2+濃度を上昇させる神経伝達物質(例,サブスタンスP,グルタミン酸,アセチルコリン)は,NO合成酵素を発現するニューロンにおいてNO合成を刺激する。NOは細胞内メッセンジャーである可能性があり,細胞外の二次ニューロンに拡散して生理反応を引き起こしたり(例,長期増強[特定のシナプス前およびシナプス後の応答を強化する―学習の一形態]),グルタミン酸の(NMDA受容体を介した)神経毒性(例,パーキンソン病,脳卒中,アルツハイマー病)を増強したりする可能性がある。

神経伝達における役割が十分に確立されていない物質としては,ヒスタミン, バソプレシン,血管作動性腸管ペプチド(VIP),カルノシン,ブラジキニン,コレシストキニン,ボンベシン,ソマトスタチン,コルチコトロピン放出因子,ニューロテンシンなどがあり,おそらくは アデノシンも該当する。

神経伝達の障害が関連する疾患

神経伝達物質の産生,放出,受容,分解,または再取り込みに変化を及ぼしたり,受容体の数や結合親和性を変化させたりする障害ないし物質は,神経または精神症状や疾患の原因となりうる( 神経伝達の障害が関連する疾患の例参照)。それらの疾患の多く(例,パーキンソン病,うつ病)は,神経伝達を修飾する薬剤によって軽快させることが可能である。

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神経伝達の障害が関連する疾患の例

疾患

病態生理

治療

神経伝達物質の不均衡

アルツハイマー病

細胞外のβアミロイド沈着,細胞内の神経原線維変化,および老人斑:特に大脳辺縁系(例,海馬),連合野,およびアセチルコリンを合成して使用するニューロン(例,マイネルト基底核とそこから投射する広範囲の皮質)

コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル,リバスチグミン,ガランタミン)は,シナプスにおけるアセチルコリンの分解を遅延させるため,認知機能および記憶を中等度に改善する。

NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンは,本疾患の進行を遅らせ,自律性を高める可能性がある。

不安

GABAの活性低下を反映している可能性があり,それはおそらく,GABA受容体に対する内因性の阻害物質,刺激物質,またはその両者の不均衡によるものと考えられる

ノルアドレナリンおよびセロトニンに対する応答の不均衡にもまた,影響を及ぼす可能性がある

ベンゾジアゼピン系薬剤は,GABAA受容体を活性化することにより,GABAが修飾するClチャネルの開口確率を上昇させる。

ベンゾジアゼピン系薬剤は耐性が生じる可能性があるため,長期治療では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第1選択薬である。

自閉症

高セロトニン血症が想定されており,自閉症患者の30~50%でみられるが,中枢におけるセロトニン系の異常は証明されていない

SSRIおよびリスペリドンが有用となる可能性がある。

脳損傷

興奮性神経伝達物質(例,グルタミン酸)の過剰放出と細胞内へのカルシウムイオン2+の蓄積を刺激する損傷(例,外傷,低酸素症,遷延する全身痙攣)により,ニューロン死につながる

虚血および損傷の実験モデルでは,カルシウム拮抗薬,グリシン,旧来のNMDA受容体遮断薬(例,デキストロメトルファン,ケタミン)によってニューロンの脱落が軽減されることがあるが,これらの薬剤にヒトでは効果が認められていない。

新しいNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンの研究が進められている。

うつ病

コリン作動性,カテコールアミン(ノルアドレナリン,ドパミン)作動性,およびセロトニン(5-HT)作動性神経伝達の複合的な異常

他のホルモンや神経ペプチド(例,サブスタンスP,ドパミン,アセチルコリン,GABA)が関与している可能性もある

抗うつ薬は,セロトニン(SSRIなど)およびノルアドレナリンもしくはドパミン再取り込みの阻害,またはMAOの遮断によって,間接的または直接的に受容体のダウンレギュレーションを引き起こす。

5-HT2A/2C(前頭葉に豊富に存在するセロトニン受容体)の遮断でSSRI(例,トラゾドン)の効力を増強できる可能性がある。

痙攣性疾患

脳の特定の領域に局在するニューロン群が突然同期性かつ高頻度の発火を起こすことで痙攣発作が生じるが,おそらくはグルタミン酸の活性亢進またはGABAの活性低下が原因である

フェニトイン,ラモトリギン,カルバマゼピン,バルプロ酸,トピラマート,およびその他の抗てんかん薬(例,ゾニサミド,オクスカルバゼピン)は,電位依存性ナトリウムチャネルを安定化させる。

エトスクシミドおよびガバペンチンは,特定のカルシウム電流を減少させる。

フェニトインもまた,過剰な神経伝達物質の放出を抑制する。

ラモトリギンはグルタミン酸およびアスパラギン酸の濃度を低下させる。

フェノバルビタールやベンゾジアゼピン系薬剤は,GABAA受容体-Clチャネル複合体に作用してGABAによる活性化を増強する。

tiagabineは神経膠細胞によるGABAの取込みを阻害する。

バルプロ酸はGABAの濃度を上昇させる。

トピラマートはGABAの活性を上昇させる。

ハンチントン病(舞踏病)

4番染色体の異常遺伝子を原因とする,ポリグルタミン伸長(CAG繰返し配列にコードされる)の結果として,大脳皮質および線条体に重大な神経損傷が生じる(異常遺伝子はハンチンチンタンパクを過剰産生するが,このタンパクは,グルタミン酸などの興奮性アミノ酸神経伝達物質による細胞の過剰刺激を誘導する分子と結合する)

特異的な治療法はないが,NMDA受容体を遮断する薬剤で過剰なグルタミン酸による毒性を阻害できる場合がある。

GABA類似薬剤は無効である。

躁病

ノルアドレナリンおよびドパミン活性の上昇,セロトニン濃度の低下,ならびにグルタミン酸神経伝達の異常がみられる

従来からリチウムが第1選択薬である。ノルアドレナリンの放出を減少させ,セロトニンの合成を増加させる。

バルプロ酸およびラモトリギンは有益であるが,おそらくはグルタミン酸神経伝達を正常化することによる。

トピラマートは電位依存性ナトリウムチャネルを遮断し,GABAA受容体の一部のサブタイプにおけるGABA活性を上昇させ,グルタミン酸受容体のサブタイプであるAMPA/カイニン酸受容体に拮抗し,炭酸脱水素酵素(特にアイソザイムIIおよびIV)を阻害する。

ガバペンチンは,中枢神経系において電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニット(1および2)に結合すると考えられている。

カルバマゼピンおよびオクスカルバゼピンは,電位依存性ナトリウムチャネルを安定化させる。

神経遮断薬による悪性症候群

薬物(例,抗精神病薬,メチルフェニデート)によるドパミン(D2)受容体の遮断またはドパミン作動薬の突然の離脱により,筋強剛,発熱,精神状態の変化,および自律神経不安定状態が生じる

D2作動薬(例,ブロモクリプチン)による治療で,この障害された神経伝達を正常化できる。

必要に応じて,その他の薬剤も使用する(例,筋攣縮を止めるために直接的な筋遮断薬であるダントロレンを使用する)。

疼痛

組織に損傷が生じると,脊髄後角でサブスタンスPおよびグルタミン酸が放出されるとともに,主に脊髄のII層およびIV層に局在して疼痛シグナルを媒介する他の高分子(カルシトニン遺伝子関連タンパク,ニューロキニンA,ブラジキニンなど)も放出される

それらのシグナルは,エンドルフィン(脊髄)とセロトニンおよびノルアドレナリン(脳から始まる下行路)によってさらに修飾を受ける

非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は,プロスタグランジン合成を選択的(COX-2阻害薬―例,セレコキシブ,parecoxib)または非選択的(COX-1およびCOX-2阻害薬―例,イブプロフェン,ナプロキセン)に阻害し,疼痛インパルスの発生を減少させる。

オピオイド鎮痛薬(例,モルヒネ)は,エンドルフィン-エンケファリン(μδ,およびκ)受容体を活性化して,疼痛インパルスの伝達を抑制する。

パーキンソニズム

抗精神病薬によるドパミン受容体の遮断のため,ドパミン系が阻害される

抗コリン薬はコリン活性を減少させ,コリン系とドパミン系のバランスを回復させる。

パーキンソン病

黒質緻密部やその他の領域においてドパミン作動性ニューロンが消失するとともに,ドパミン濃度とメトエンケファリン濃度が低下することにより,ドパミン/アセチルコリンのバランスが変化し,結果として線条体でアセチルコリン活性が過剰となる

l-ドパはシナプス間隙に到達すると,軸索に取り込まれ,脱炭酸化されてドパミンとなり,そのドパミンがシナプス間隙に分泌され,樹状突起のドパミン受容体を活性化する。アマンタジンは,シナプス前膜からのドパミン放出量を増加させる;ブロモクリプチン,プラミペキソール,およびロピニロールは,ドパミン受容体のサブタイプD2,D3,およびD4受容体のみに結合するが,ドパミン作動薬はドパミン受容体を刺激する。

抗コリン薬はコリン系の活動性を低下させ,ドパミンとアセチルコリンのバランスを回復させる。

MAO-B阻害薬は,ドパミンの再取り込みを阻止することにより,ドパミン濃度を上昇させる。MAO-B阻害薬のセレギリンは,ドパミンの分解を阻害することにより,レボドパへの反応を延長させるため,カルビドパ/レボドパの減量が可能になる。

カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬もドパミンの分解を阻害する。

統合失調症

シナプス前でのドパミンの放出および合成の増加,シナプス後ドパミン受容体の感受性または密度の増加,またはこれらの両方が起こる

抗精神病薬はドパミン受容体を遮断し,過剰なドパミン活性を正常レベルまで低下させる。

ハロペリドールは,中脳皮質野のD2およびD3受容体(高親和性)とD4受容体(低親和性)を選択的に遮断する。

クロザピンはD4および5-HT2受容体との結合親和性が高いことから,セロトニン系が統合失調症の発生機序および治療への反応に関与していることが示唆される。クロザピンには白血球減少という有意なリスクがある。

オランザピンとリスペリドンは,ハロペリドールに類似し,5-HT2およびD2受容体にも高い結合親和性を示す。

遅発性ジスキネジア

抗精神病薬による長期の受容体遮断のため,ドパミン受容体の感受性が亢進する

抗精神病薬の減量でドパミン受容体の感受性亢進を低減できる可能性があるが,症例によっては不可逆的な変化のこともある。

神経伝達物質は正常であるが,受容体が機能しない

重症筋無力症

自己免疫反応により生じる,神経筋接合部でのアセチルコリン受容体の不活化とシナプス後部の組織化学的変化を反映する

抗コリンエステラーゼ薬は,アセチルコリンエステラーゼを阻害することにより,神経筋接合部でのアセチルコリン濃度を上昇させ,残っている受容体を刺激して,筋肉の活動性を増加させる。

ニューロンによる神経伝達物質の取込みが減少する

筋萎縮性側索硬化症

おそらく一部はグルタミン酸の神経毒性により,上位および下位運動ニューロンが破壊される

グルタミン酸による神経伝達を阻害するリルゾールは,ニューロンの生存期間をいくらか延長させる。

神経伝達物質は正常であるが,イオンチャネルに欠陥がある

周期性失調症(episodic ataxia)

電位依存性カリウムチャネルの欠陥により,遠位筋のさざ波状の筋収縮と協調運動障害(ミオキミア)が起こる

一部の病型の周期性失調症には,アセタゾラミドによる治療が効果的である。

高カリウム血性周期性四肢麻痺

ナトリウムチャネルの不活化が減少する

重度の発作は,グルコン酸カルシウム,ブドウ糖,およびインスリンの投与で抑えられることがある。

低カリウム血性周期性四肢麻痺

電位依存性カルシウムチャネルの欠陥

急性発作はカリウム塩の投与により抑えられる。

アセタゾラミドが予防に効果的である。

ランバート-イートイン症候群*

抗体によってシナプス前膜からのアセチルコリンの放出が減少する

コルチコステロイド,3,4-ジアミノピリジン(DAP),グアニジン,IVIG,およびプラズマフェレーシスが役立つ可能性がある。

先天性パラミオトニア

電位依存性ナトリウムチャネルの欠陥により,寒冷で誘発される筋強直および一過性の筋力低下が生じる

メキシレチン(ナトリウムチャネル遮断薬)およびアセタゾラミド(炭酸脱水素酵素阻害薬)が有用となりうる。

ラスムッセン脳炎

ウイルス感染後にグルタミン酸受容体に対する抗体が産生され,グルタミン酸作動性チャネルが障害される

最も特徴的な病型は持続性部分てんかん(epilepsia partialis continua)である

コルチコステロイドおよび抗ウイルス薬は通常無効である。

自然寛解が得られない場合は,機能的半球切除術で発作をコントロールできる可能性がある。

びっくり病(過剰驚愕症,stiff baby syndrome)

グリシン作動性チャネルのα1サブユニット遺伝子の突然変異

硬直,夜間ミオクローヌス,および過剰な驚愕反射(反射亢進および転倒を伴う)を特徴とする

クロナゼパムまたはその他ある種の抗てんかん薬(例,フェニトイン,フェノバルビタール,ジアゼパム,バルプロ酸)の使用が改善につながりうる。

中毒

ボツリヌス症

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生する毒素による運動ニューロンからのアセチルコリン放出の阻害

特異的な薬物療法はない。

微量の毒素が,特定のジストニア,痙縮,神経障害性疼痛,および片頭痛の治療として,また皮膚の皺を減少させる美容処置として使用されている。

キノコ中毒

ベニテングタケ(Amanita muscaria):イボテン酸(グルタミン酸と同様の作用を示す)とムシモール(GABAと同様の作用を示す)様の代謝物を含有する

アセタケ類(Inocybe)およびカヤタケ類(Clitocybe):ムスカリンおよび関連化合物によりムスカリン受容体が刺激される

神経伝達への影響を逆転させる薬剤は存在しないため,治療は支持療法となる。

アトロピンはムスカリン様作用の発現を逆転させるのに役立つ。

有機リン酸塩

アセチルコリンエステラーゼが不可逆的に阻害され,シナプス間隙でアセチルコリン濃度が著明に上昇する

プラリドキシムはアセチルコリンエステラーゼから毒性物質を除去し,ムスカリン様作用と同じく,ニコチン性作用を回復させるのにも役に立つ。

アトロピンはムスカリン様作用を迅速に逆転させるのに役立つ。

アマガサヘビ(タイワンアマガサ)のヘビ毒

α-ブンガロトキシンにより神経筋接合部でアセチルコリン受容体が遮断される

抗毒素が効果的とみられ,入手可能である。

*イートン-ランバート症候群は,抗体を介した腫瘍随伴症候群で,典型的には小細胞肺癌で発生する。腫瘍が明らかになる前から発生することもある。

CRF = 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)放出因子;GABA =γ-アミノ酪酸;5-HT = セロトニン;IVIG = 免疫グロブリン静注療法;MAO = モノアミン酸化酵素;MAO-B = モノアミン酸化酵素B;NMDA =N-メチル-d-アスパラギン酸;PIP2= ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸。

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