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多発神経障害

執筆者:

Michael Rubin

, MDCM, New York Presbyterian Hospital-Cornell Medical Center

最終査読/改訂年月 2016年 9月
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多発神経障害は,単一の神経の分布域または一肢にとどまらない,びまん性の末梢神経障害であり,典型的には比較的両側対称性である。電気診断検査を必ず施行すべきであり,障害されている神経構造物,障害の分布,および重症度の分類を行い,原因の同定に役立てる。治療は原因の是正に向けて行う。

末梢神経系疾患の概要も参照のこと。)

一部の多発神経障害(例,鉛中毒,ジアフェニルスルホンの使用,ダニ刺咬,ポルフィリン症,またはギラン-バレー症候群によるもの)は,主に運動神経線維を侵す;他方,主に感覚神経線維を侵す多発神経障害(例,悪性腫瘍による後根神経節炎,ハンセン病AIDS糖尿病,または慢性ピリドキシン中毒によるもの)もある。一部の障害(例,ギラン-バレー症候群,ライム病,糖尿病,ジフテリア)では脳神経も侵されることがある。特定の薬物および毒性物質は,感覚神経線維,運動神経線維,またはその両方を障害する可能性がある( 多発神経障害を引き起こす毒性物質)。

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多発神経障害を引き起こす毒性物質

神経障害の病型

原因

軸索運動性

ガングリオシド,破傷風,ダニ麻痺症

鉛,水銀への長期曝露

軸索感覚運動性

アクリルアミド,アルコール(エタノール),塩化アリル,ヒ素,カドミウム,二硫化炭素,クロルフェノキシ化合物,シガトキシン,コルヒチン,シアン化物,ジアフェニルスルホン,ジスルフィラム,DMAPN,エチレンオキシド,リチウム,臭化メチル,ニトロフラントイン,有機リン酸塩,PCB,PNU,podophyllin,サキシトキシン,スペイン有毒油,タキソール,テトロドトキシン,タリウム,トリクロロエチレン,TOCP,ビンカアルカロイド系

軸索感覚性

アルミトリン,ボルテゾミブ,クロラムフェニコール,ダイオキシン,ドキソルビシン,エタンブトール,エチオナミド,エトポシド,ゲムシタビン,グルテチミド,ヒドララジン,イホスファミド,インターフェロンα,イソニアジド,鉛,メトロニダゾール,ミソニダゾール,亜酸化窒素,ヌクレオシド(ジダノシン[ddI],スタブジン[d4T],ザルシタビン[ddC]),フェニトイン,白金製剤,プロパフェノン,ピリドキシン,スタチン系薬剤,サリドマイド

脱髄性

クロウメモドキ,クロロキン,ジフテリア,ヘキサクロロフェン,ムゾリミン,ペルヘキシリン,プロカインアミド,タクロリムス,テルル,ジメルジン

混合性

アミオダロン,エチレングリコール,金,ヘキサカーボン,n-ヘキサン,シアン酸ナトリウム,スラミン

DMAPN = ジメチルアミノプロピオニトリル;PCB = ポリ塩化ビフェニル;PNU =N-3ピリジルメチル-N-p-ニトロフェニル尿素;TOCP = リン酸トリオルソクレシル。

症状と徴候

多発神経障害の症状は突然現れることもあれば緩徐に発生することもあり,原因によっては慢性化する。病態生理と症状は関連するため,多発神経障害はしばしば機能障害の存在する部位によって分類される:

  • ミエリン

  • 神経栄養血管

  • 軸索

多発神経障害は後天性のこともあれば,遺伝性のこともある。

ミエリン機能障害

ミエリン機能障害による(脱髄性)多発神経障害は,莢膜を有する細菌(例,Campylobacter属),ウイルス(例,腸内ウイルス,インフルエンザウイルス,HIV),またはワクチン(例,インフルエンザワクチン)によって誘発される免疫応答に起因する場合が最も多い。おそらく,これらの因子に含まれる抗原が末梢神経系内の抗原と交差反応を起こし,それが免疫応答(細胞性,液性,またはその両方)を誘導することで,種々の程度のミエリン機能障害をもたらすのではないかと考えられている。

急性例(例,ギラン-バレー症候群)では,急速に進行する筋力低下,および呼吸不全が生じることがある。慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)では,症状が数カ月から数年かけて再発または進行することがある。

通常,ミエリン機能障害は大径線維性の感覚障害(錯感覚),萎縮の程度から予想される以上に有意な筋力低下,および反射の著明な減弱をもたらす。体幹の筋組織および脳神経が侵されることもある。脱髄は典型的には1つの神経全体にわたって生じ,近位症状および遠位症状が生じる。左右の非対称性がみられることもあり,上半身が下半身より先に侵されることもあれば,その逆のこともある。筋肉量および筋緊張は比較的正常に保たれる。

神経栄養血管の障害

慢性動脈硬化性虚血,血管炎,感染症,および凝固亢進状態により,血管から神経への血液供給が遮断され,神経梗塞が起こることがある。

通常は,小径線維性の感覚機能障害および運動機能障害が最初に起こる。典型例では疼痛のほか,しばしば灼熱感を伴う感覚障害がみられる。痛覚および温度覚が障害される。

神経栄養血管の障害(例,血管炎または感染症によって引き起こされる)は,多発性単神経障害として発症することがあるが,多くの神経が両側性に侵されると,多発神経障害のように見えることがある。疾患の初期には異常が非対称性を示す傾向があり,まれに四肢の近位3分の1または体幹の筋が侵されることもある。脳神経の障害はまれであるが,例外的に糖尿病では第3脳神経(動眼神経)がよく侵される。後に神経病変が融合すると,症状と徴候が対称性に見えることがある。

自律神経失調および皮膚の変化(例,皮膚が萎縮したり,光沢が出る)がときに生じる。

筋力低下は萎縮に比例する傾向にあり,反射が完全に失われることはまれである。

軸索障害

軸索障害は遠位部に生じる傾向があり,対称性のこともあれば,非対称性のこともある。

対称性の軸索障害は,中毒・代謝性疾患に起因することが最も多い。一般的な原因としては以下のものがある:

  • 糖尿病

  • 慢性腎機能不全

  • 化学療法薬の有害作用(例,ビンカアルカロイド系)

軸索障害は,栄養欠乏(最も多いのはチアミンまたはビタミンB6,B12,またはE),あるいはビタミンB6またはアルコールの過剰摂取により生じることもある。より頻度が低い代謝性の原因には,甲状腺機能低下症,ポルフィリン症,サルコイドーシス,アミロイドーシスなどがある。その他の原因としては,特定の感染症(例,ライム病),薬物(例,亜酸化窒素),特定の化学物質(Agent Orange,n-ヘキサン)または重金属(例,鉛,ヒ素,水銀)への曝露などがある。

小細胞肺癌に合併する腫瘍随伴症候群では,脊髄後根神経節とその感覚性神経軸索の喪失によって亜急性の感覚神経障害が生じる。

原発性軸索機能障害は,大径または小径線維あるいは両線維の機能障害による症状で始まることがある。その結果生じる神経障害は通常,遠位部に対称性に,手袋靴下型の分布を示す;下肢が等しく侵された後,障害は上肢へと及び,遠位部から近位部へと対称性に進行する。

非対称性の軸索障害は,感染随伴性障害または血管疾患により生じることがある。

診断

  • 電気診断検査

  • 臨床検査,疑われる神経障害の病型によって決まる

びまん性または多巣性の感覚障害,反射亢進を伴わない筋力低下,またはその両方がみられる患者では,多発神経障害を疑う。しかしながら,所見が比較的びまん性であっても非対称性に開始したのであれば,多発性単神経障害が原因である可能性もある。

パール&ピットフォール

  • 所見が多発神経障害と矛盾しない場合は,症状が非対称性に始まったかどうかの判定を試みる(非対称性に開始した場合,多発性単神経障害を示唆する可能性がある)。

臨床所見,特に発症速度は,以下のように多発神経障害の診断および原因の同定に役立つ:

  • 非対称性の神経障害は,髄鞘または神経栄養血管を侵す疾患を示唆する。

  • 遠位部の対称性の神経障害は,中毒性または代謝性の原因を示唆する。

  • 緩徐に進行する慢性の神経障害は,遺伝性であるか,毒性物質への長期曝露または代謝性疾患に起因することが多い。

  • 急性の神経障害は,原因として自己免疫,血管炎,毒性物質,感染症,感染後因子,ときに薬剤や悪性腫瘍を示唆する。

  • 非対称性の軸索性神経障害の患者における発疹,皮膚潰瘍,およびレイノー症候群は,凝固亢進状態あるいは感染随伴性または自己免疫性の血管炎を示唆する。

  • 体重減少,発熱,リンパ節腫脹,および腫瘤性病変は,腫瘍または腫瘍随伴症候群を示唆する。

多発神経障害の全ての患者において,軸索障害を考慮すべきである。

電気診断検査

臨床所見とは無関係に,神経障害の病型を分類するために筋電図および神経伝導検査が必要である。少なくとも両下肢の筋電図検査を施行し,非対称性の有無および軸索が完全に喪失されているかどうかを評価すべきである。

筋電図および神経伝導検査では,主に肢遠位部にある太い有髄線維を評価するため,ミエリン機能障害が近位部にある患者(例,ギラン-バレー症候群の初期)および小径線維の機能障害が主体の患者では,筋電図検査は正常なことがある。こうした症例では,主症状に応じて感覚神経または自律神経の定量的検査,あるいは皮膚パンチ生検を行うことがある。

臨床検査

全例を対象とするベースラインの臨床検査には,血算,電解質,腎機能検査,迅速血漿レアギン試験,ブドウ糖負荷試験2時間値,ならびに空腹時血漿血糖,HbA1C,ビタミンB12,葉酸,および甲状腺刺激ホルモンの測定などがある。さらに血清タンパク電気泳動を含める医師もいる。その他の検査の必要性は,多発神経障害の亜型に応じて判断する。筋電図および臨床所見による鑑別で結論が出ない場合は,全ての亜型に対する検査が必要になることがある。

ミエリン機能障害による急性神経障害の患者に対するアプローチは,ギラン-バレー症候群患者の場合と同じであり,努力肺活量を測定し,初期呼吸不全の有無を確認する。急性または慢性のミエリン機能障害では,肝炎およびHIVを含む感染症ならびに免疫機能不全の検査,さらに血清タンパク電気泳動を行う。腰椎穿刺も施行すべきである;自己免疫応答によるミエリン機能障害は,しばしばタンパク細胞解離を引き起こす:すなわち,髄液タンパクが増加する(> 45mg%)一方で,白血球数は正常値を示す( 5/μL)。

神経栄養血管の障害または非対称性の軸索性多発神経障害には,凝固亢進状態および感染随伴性または自己免疫性血管炎の検査を行うべきである(特に臨床所見から示唆される場合);最低限行うべき項目として以下が挙げられる:

  • 赤沈の測定

  • 血清タンパク電気泳動

  • リウマトイド因子,抗核抗体,および血清CKの測定

急速発症により筋損傷が生じている場合には,CKの上昇がみられることがある。

疑われる原因に応じて,その他の検査を行う:

  • 凝固検査(例,プロテインC,プロテインS,アンチトロンビンIII,抗カルジオリピン抗体,およびホモシステイン濃度)は,病歴または家族歴から凝固亢進状態が示唆される場合にのみ行うべきである。

  • サルコイドーシス,C型肝炎,または多発血管炎性肉芽腫症(以前はウェゲナー肉芽腫症として知られていた)に対する検査は,症状と徴候からこれらの疾患が示唆される場合にのみ行うべきである。

  • 原因を同定できない場合には,神経生検および筋生検を行うべきである。

通常は,1本の障害された腓腹神経を生検する。生検を行う腓腹神経に隣接する筋,あるいは四頭筋,上腕二頭筋,または三角筋のいずれかを生検することもある。生検を行う筋は,中等度の筋力低下が認められ,針筋電図検査を行ったことのない筋とする(針のアーチファクトによる誤解を避けるため)。特に神経障害がある程度対称性である場合,対側の同じ筋に筋電図異常があれば,生検で異常が発見される頻度がより高くなる。神経生検は対称性および非対称性多発神経障害で有用であるが,非対称性軸索障害では特に有用性が高い。

初期の検査で遠位部の対称性軸索障害の原因を同定できなかった場合には,24時間蓄尿により重金属の有無を調べ,尿タンパク電気泳動を行う。慢性の重金属中毒が疑われる場合には,陰毛または腋毛の検査が役立つことがある。

その他の原因に対する検査が必要であるかどうかは,病歴および身体所見による。

治療

  • 原因に向けた治療

  • 支持療法

多発神経障害の治療は可能であれば原因の是正に焦点を置く;原因となる薬物または毒性物質を排除するか,栄養欠乏を是正する。こうした対策により進行が止まり,症状が少なくなっても,回復は遅く,ときに不完全である。

原因の是正が不可能な場合には,治療は身体障害および疼痛を最小限に抑えることに焦点を絞る。理学療法士および作業療法士は,有用な補助器具を推奨することができる。アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬またはガバペンチンなどの抗てんかん薬は,神経障害性疼痛(例,糖尿病の灼熱足[burning feet])の緩和に有用である。

ミエリン機能障害による多発神経障害には通常,免疫系を修飾する治療法が用いられる:

  • 急性のミエリン機能障害には,血漿交換または免疫グロブリン静注

  • 慢性のミエリン機能障害には,血漿交換または免疫グロブリン静注,コルチコステロイド,および/または代謝拮抗薬

要点

  • びまん性の感覚障害,反射亢進を伴わない筋力低下,またはその両方がみられる場合は,多発神経障害を疑う。

  • 進行が緩徐な慢性の多発神経障害がみられる場合は,遺伝性の原因,毒性物質への長期曝露,または代謝性疾患を考慮する。

  • 遠位部に対称性の神経障害がみられる場合は,中毒性または代謝性の原因を考慮する。

  • 非対称性の多発神経障害がみられる場合は,髄鞘または神経栄養血管を侵す疾患を考慮する。

  • 顕著な筋力低下,最低限の萎縮,および反射低下を伴う多発神経障害がみられる場合は脱髄疾患を考慮する。

  • 多発神経障害,温痛覚異常,筋力低下の程度に比例した萎縮があり,ときに病状に不釣り合いなほど反射が保たれている場合は,神経栄養血管の障害を考慮する。

  • 多発神経障害の全ての患者では,軸索障害を考慮する。

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