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アルツハイマー病

(Alzheimer病)

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2016年 2月
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アルツハイマー病は進行性の認知機能低下を引き起こし,大脳皮質および皮質下灰白質におけるβアミロイド沈着および神経原線維変化を特徴とする。

神経認知障害の1つであるアルツハイマー病は,認知症の最も一般的な原因であり,高齢者の認知症の60~80%を占める。米国では,65歳以上の13%,85歳以上の45%がアルツハイマー病を有すると推定されている。本症は女性において男性の2倍の頻度でみられ,この理由の1つに女性の方が期待余命が長いことが挙げられる。先進国における有病率は高齢者人口の増大につれ増加すると予想される。

病因

ほとんどが孤発例であり,高齢発症(65歳以上)で病因不明である。発症リスクを最も左右するのは患者の年齢である。しかしながら約5~15%は家族性である;これらの症例の半数は早発性(65歳未満)で,通常特異的な遺伝子変異が関連する。

第1,12,14,19,21染色体上に位置する少なくとも5つの遺伝子座が,アルツハイマー病の発症と進行に影響している。

アミロイド前駆体タンパクであるプレセリンIおよびプレセリンIIの遺伝子変異は,アルツハイマー病の常染色体優性の病型を引き起こすことがあり,これは典型的には初老期に発症する。この遺伝子変異を有する患者では,アミロイド前駆体タンパクのプロセシングに変化が起きることで,βアミロイドの沈着および線維凝集が生じる;βアミロイドは老人斑の主成分であり,老人斑はこのアミロイドを中心として,変性した軸索または樹状突起,星細胞,および神経膠細胞で構成される。βアミロイドは,キナーゼとホスファターゼの活性を変化させ,それがやがてタウおよび神経原線維変化の形成につながる可能性がある。

その他の遺伝学的な決定因子として,アポリポタンパク(apo)Eアレル(ε)などがある。アポEタンパクは,βアミロイド沈着,細胞骨格の統合性,およびニューロンの修復効率に影響を及ぼす。アルツハイマー病のリスクは,2つのε4アレルを有する人々では大きく増加するが,ε2アレルを有する人々では減少すると考えられる。2つのε4アレルを有する人々は,75歳までにアルツハイマー病を発症するリスクが,このアレルを有さない人々と比較して10~30倍高い。

SORL1の変異も関与する可能性があり,それらは遅発性アルツハイマー病の患者でよくみられる。これらの変異は遺伝子の機能不全を引き起こし,βアミロイドの産生増加を招く可能性がある。

他の因子(例,ホルモン低値,金属への曝露)とアルツハイマー病の関係が研究されているが,明確な因果関係は確認されていない。

病態生理

アルツハイマー病の病態生理で最も重要なのは以下の2つである:

  • 細胞外のβアミロイドの沈着(老人斑)

  • 細胞内の神経原線維変化(paired helical filament)

βアミロイドの沈着および神経原線維変化は,シナプスとニューロンの喪失につながり,その結果病変のある脳領域(典型的には内側側頭葉から始まる)が大幅に萎縮する。

βアミロイドペプチドと神経原線維変化がこのような損傷を引き起こす機序は完全には解明されていないが,いくつかの仮説がある:

アミロイド仮説によると,脳へのβアミロイドの沈着が進行すると,複雑な生理カスケードが惹起され,その結果,神経細胞死,シナプスの喪失,進行性の神経伝達物質の欠乏に至る;これらの全てが認知症の臨床症状に寄与する。

また,アルツハイマー病ではプリオン病のメカニズムが同定されている。プリオン病では,プリオンタンパクと呼ばれる正常な脳の細胞表面タンパクがミスフォールディングされ,プリオンと呼ばれる病的な形態になる。このプリオンが,他のプリオンタンパクのミスフォールディングを同様に引き起こし,その結果異常なタンパクが著明に増加し,脳損傷に至る。アルツハイマー病では,脳のアミロイド沈着部位におけるβアミロイドと,神経原線維変化におけるタウが,プリオン様の自己複製特性を有すると考えられている。

症状と徴候

患者は認知症の症状と徴候を有する。

最も頻度の高い初期症状は,以下のものである:

  • 短期記憶の障害(例,同じ質問を何度もする,物の置き場所を頻繁に忘れる,約束を忘れる)

その他の認知障害は,以下のような複数の機能に関わる傾向がある:

  • 推論能力および複雑な課題を処理する能力の障害ならびに判断力の低下(例,銀行口座を管理できない,金銭管理がずさんになる)

  • 言語機能障害(例,一般的な言葉を思い出せない,話すときおよび/または書くときの間違い)

  • 視空間認知障害(例,人の顔や一般的な物を認識できない)

本症は徐々に進行するが,長期にわたって安定することもある。

行動障害(例,徘徊,興奮,わめく,被害妄想)がよくみられる。

診断

  • 他の認知症に対するものと同様

  • 正式な精神医学的診察

  • 病歴聴取および身体診察

  • 臨床検査

  • 脳画像検査

一般に,アルツハイマー病の診断は他の認知症の診断と同様である( 認知症 : 診断)。

評価には,徹底的な病歴聴取と標準的な神経学的診察を含める。臨床基準による正診率は85%であり,これを用いることで,アルツハイマー病を血管性認知症レビー小体型認知症など他の病型の認知症と鑑別することができる。

アルツハイマー病の従来の診断基準は以下の全てを含む:

  • 臨床的に確認され,正式な精神医学的診察によって証明された認知症

  • 2領域以上の認知機能の障害

  • 緩徐な発症(すなわち,数日や数週間ではなく,数カ月から数年かけて)と,記憶力およびその他の認知機能の進行性の悪化

  • 意識障害なし

  • 40歳以降の発症,65歳以上で最も多い

  • 記憶力および認知機能の進行性の障害を説明しうる全身性疾患または脳疾患(例,腫瘍,脳卒中)が存在しない

しかし,これらの診断基準から逸脱していても,特に混合型認知症の可能性があるため,アルツハイマー病の診断は除外されない。

National Institute on Aging-Alzheimer's Associationの最新の診断ガイドラインには,アルツハイマー病の病態生理を示す以下のバイオマーカーも含まれる:

  • 髄液中のβアミロイド低値

  • βアミロイド斑に特異的に結合するアミロイドの放射性トレーサー(例,ピッツバーグ化合物B[PiB],florbetapir)を使用し,PETによって脳のβアミロイドの沈着を検出する

その他に以下のバイオマーカーは損傷による下流のニューロン変性を示す:

  • 髄液中のタウタンパク高値

  • フッ素18(18F)標識デオキシグルコース(フルオロデオキシグルコース,FDG)によるPETを使用し測定した,側頭頭頂皮質における脳の代謝低下

  • MRIにより検出される,側頭葉の内側,基底,および外側,ならびに内側頭頂皮質における局所的萎縮

これらの所見があると,アルツハイマー病による認知症の確率が高まる。しかしながら,現時点では標準化と利用可能性に制限があるため,ガイドラインでは,これらのバイオマーカーを診断のためにルーチンに使用することは推奨されていない。また,apo ε4アレルのルーチン検査も推奨されていない。

鑑別診断

アルツハイマー病と他の認知症の鑑別は困難である。評価尺度(例,Hachinski Ischemic Score― 改変Hachinski Ischemic Score)は,血管性認知症とアルツハイマー病の鑑別に有用である。認知機能の変動,パーキンソン症状,鮮明な幻視,および比較的保持される短期記憶は,アルツハイマー病ではなくレビー小体型認知症を示唆する( アルツハイマー病とレビー小体型認知症の相違点)。

アルツハイマー病患者は他の認知症患者と比べて,しばしば身だしなみがよく,きちんとしている。

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改変Hachinski Ischemic Score

特徴

点数*

突然の発症

2

段階的な悪化(例,低下・安定・低下)

1

経過の変動

2

夜間の錯乱

1

パーソナリティは比較的保たれる

1

抑うつ

1

身体愁訴(例,身体の疼くような痛み,胸痛)

1

情緒不安定

1

高血圧の既往または存在

1

脳卒中の既往

2

併存する動脈硬化の所見(例,PAD,心筋梗塞)

1

局所的な神経症状(例,不全片麻痺,同名半盲,失語)

2

局所的な神経学的徴候(例,一側性の筋力低下,感覚消失,非対称性の反射,バビンスキー徴候)

2

*合計スコアを計算する:

  • 4点未満は一次性の認知症(例,アルツハイマー病)。

  • 4~7点は不確定的。

  • 7点を超える場合は血管性認知症。

PAD = 末梢動脈疾患。

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アルツハイマー病とレビー小体型認知症の相違点

特徴

アルツハイマー病

レビー小体型認知症

病理

大脳皮質および皮質下灰白質の老人斑,神経原線維変化,およびβアミロイド沈着

皮質ニューロン内のレビー小体

疫学

女性の方が2倍多い

男性の方が2倍多い

遺伝

5~15%の症例が家族性

まれに家族性

日毎の変動

いくらかある

顕著

短期記憶

早期から障害される

あまり障害されない

記憶獲得よりも覚醒および注意の障害が大きい

パーキンソン症状

非常にまれ,疾患の後期になって発生する

正常歩行

著明,疾患の早期から明らか

体軸性筋強剛(axial rigidity)および不安定歩行

自律神経機能障害

まれ

よくみられる

幻覚

約20%の患者で発生する,通常は疾患が中等症まで進行したとき

約80%の患者で発生する,通常は疾患の早期から

最も多い,幻視

抗精神病薬による有害作用

よくみられる

認知症の症状を悪化させる可能性あり

よくみられる

錐体外路症状が急性に悪化し,重症化したり生命を脅かしうる

予後

進行の速さにはばらつきがあるが,認知力の低下は不可避である。診断時からの平均生存期間は7年であるが,この数字については議論がある。歩行不能になってからの平均生存期間は約6カ月である。

治療

  • 一般に,他の認知症に対するものと同様

  • ときにコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチン

安全対策および支持療法は,他の認知症の治療と同様である。例えば,居住環境は明るく,にぎやかで,親しみ慣れたものとし,見当識を強化できるような配慮を施す(例,大きな時計やカレンダーを部屋に置く)べきである。患者の安全を確保する対策(例,徘徊する患者に対して遠隔モニタリングシステムを使用する)を講じるべきである。

アルツハイマー病の治療薬

一部の患者ではコリンエステラーゼ阻害薬によって認知機能および記憶がいくらか改善する。4つの薬剤が使用可能であり,一般にドネペジル,リバスチグミン,およびガランタミンは同等に効果的であるが,tacrineは肝毒性があるため,まれにしか使用されない。1日1回投与で忍容性が良好であることから,ドネペジルが第1選択薬である。推奨用量は5mg,1日1回で4~6週間投与し,その後は10mg,1日1回に増量する(訳注:本邦では3mgにて開始し、忍容性が良好であれば5mgへ増量。重症例に対して10mgまで使用可。23mgは適応外である)。中等症から重症のアルツハイマー病に対するドネペジル23mgの1日1回投与は,従来の10mg/日の投与より効果的である可能性がある。数カ月後に機能改善が明らかであれば治療を継続すべきであるが,そうでなければ投薬を中止すべきである。最も頻度の高い有害作用は消化器系症状である(例,悪心,下痢)。まれに,めまいおよび不整脈が生じる。有害作用は用量を漸増することで最小限に抑えられる( アルツハイマー病に対する薬剤)。

N-メチル-d-アスパラギン酸受容体拮抗薬であるメマンチンは,中等度から重度のアルツハイマー病患者の認知機能と日常生活能力を向上させるようである。用量は5mg,経口,1日1回であり,4週間かけて10mg,経口,1日2回まで増量する。腎機能不全の患者では,用量を減らすか,使用を避けるべきである。メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬と併用できる。

高用量ビタミンE(1000IU,経口,1日1回または1日2回),セレギリン,NSAID,イチョウ葉エキス,スタチン系薬剤の効力は明らかではない。エストロゲン療法は,予防にも治療にも有用でないとみられており,むしろ有害である可能性がある。

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アルツハイマー病に対する薬剤

薬剤名

開始量

最大量

備考

ドネペジル

5mg,1日1回(訳注:本邦では3mg)

23mg,1日1回(中等度から重度のアルツハイマー病に対して)(訳注:本邦では10mg)

一般に忍容性は良好であるが,悪心や下痢を引き起こすことがある

ガランタミン

4mg,1日2回

徐放性:8mg,1日1回,朝(訳注:徐放性につき本邦では適応なし)

12mg,1日2回

徐放性:24mg,1日1回,朝(訳注:徐放性につき本邦では適応なし)

行動症状に対して他の薬剤より有益である可能性がある

ニコチン受容体を調節するほか,アセチルコリンの放出を刺激して,その作用を促進するとみられる

メマンチン

5mg,1日2回(訳注:本邦では1日1回)

10mg,1日2回(訳注:本邦では20mg,1日1回)

中等度から重度のアルツハイマー病患者に使用する

リバスチグミン

溶液またはカプセル:1.5mg,1日2回(訳注:本邦では適応なし)

貼付薬:4.6mg/24時間(訳注:本邦では4.5mg)

溶液またはカプセル:6mg,1日2回(訳注:本邦では適応なし)

貼付薬:13.3mg/24時間(訳注:本邦では18mg)

溶液または貼付薬として使用可能

予防

以下の手段によって,アルツハイマー病のリスクが低下しうることを示唆する予備観察のエビデンスがある:

  • やりがいのある精神活動(例,新しい技術の習得,クロスワードパズルに取り組む)を高齢まで継続すること

  • 運動

  • 高血圧のコントロール

  • コレステロール値を下げる

  • ω-3脂肪酸が豊富で飽和脂肪酸が少ない食事の摂取

  • 適量のアルコール摂取

しかしながら,アルツハイマー病を予防するために,アルコールを飲まない人がアルコール摂取を開始すべきであるという説得力のあるエビデンスはない。

要点

  • 遺伝因子が関連している可能性はあるが,多くのアルツハイマー病は孤発性であり,予測されるリスクを最も左右するのは患者の年齢である。

  • アルツハイマー病を認知症の他の原因(例,血管性認知症,レビー小体型認知症)と鑑別するのは難しいが,臨床基準を用いるのが最善であり,そのアルツハイマー病の正診率は85%である。

  • アルツハイマー病の治療は他の認知症と同様である。

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