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せん妄

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2018年 3月
本ページのリソース

せん妄は,注意,認知,および意識レベルが急性かつ一過性に障害される病態で,その程度には変動がみられ,通常は可逆的である。ほぼ全ての疾患および薬剤が原因となりうる。診断は臨床的に行い,原因同定のために臨床検査と通常は画像検査を施行する。治療は原因の是正と支持療法である。

せん妄および認知症の概要も参照のこと。)

せん妄はあらゆる年齢で起こりうるが,高齢者でより多くみられる。入院する高齢患者の10%以上にせん妄があり,15~50%は入院期間中いずれかの時点でせん妄を経験する。術後患者,介護施設入居者,およびICU患者でも,せん妄がよくみられる。より若年者がせん妄を発症した場合,通常は薬物使用か生命を脅かす全身性疾患が原因である。

せん妄はときに急性錯乱状態と呼ばれることがあり,中毒性または代謝性脳症でも類似の状態になることがある。

せん妄と認知症は異なる病態であるが,ときに鑑別が困難である。どちらも認知機能が障害されるが,両者の鑑別には以下の点が役立つ:

  • せん妄は主に注意力に影響を及ぼし,典型的には急性疾患または薬物中毒(ときに生命を脅かす)によって引き起こされ,可逆的であることが多い。

  • 認知症は主に記憶に影響を及ぼし,典型的には脳の解剖学的変化によって生じ,発症がより緩徐で,一般に不可逆的である。

その他の特異的な特徴も,これら2つの病態の鑑別に有用である(Professional.see table せん妄と認知症の相違点*)。

病因

せん妄の最も一般的な原因は以下のものである:

  • 薬剤(特に抗コリン薬,向精神薬,およびオピオイド)

  • 脱水

  • 感染症

他にも多くの病態がせん妄を引き起こしうる(Professional.see table せん妄の原因)。約10~20%の患者では原因が同定されない。

素因には,脳疾患(例,認知症脳卒中パーキンソン病),高齢,感覚障害(例,視覚または聴覚障害),アルコール中毒,複数の併存疾患などがある。

誘因には,薬剤の使用(特に3種類以上の薬剤を新しく開始した場合),感染症,脱水,ショック,低酸素症,貧血,不動状態,低栄養,膀胱カテーテルの使用(尿閉の有無は問わない),入院,疼痛,睡眠不足,精神的ストレスなどがある。未診断の肝不全または腎不全があると,それにより代謝が障害され,それまで忍容性良好であった薬物のクリアランスが低下することで,薬物毒性とせん妄が生じることがある。

最近の麻酔への曝露もリスクを増大させるが,曝露が長期化した場合や手術中に抗コリン薬が投与された場合には,特にリスクが高まる。術後では,疼痛の存在とオピオイド鎮痛薬の使用もせん妄の発生に寄与する。リスクのある患者では,夜間に感覚刺激が減少することでせん妄が誘発されることがある。

ICUの高齢患者は,せん妄(ICU症候群)のリスクが特に高い。非痙攣性てんかん重積状態は,ICU患者における精神状態の変化の原因として認識される頻度が増えている。

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せん妄の原因

分類

神経学的な原因

脳血管疾患

confusional migraine(意識変容を引き起こす片頭痛)

炎症または感染

急性脱髄性脳脊髄炎脳膿瘍,中枢神経系血管炎,脳炎髄膜炎,髄膜脳炎

痙攣性疾患

非痙攣性てんかん重積状態,発作後朦朧状態

外傷

腫瘍

がん性髄膜炎,原発性または転移性脳腫瘍

神経系以外の原因

薬剤(多数)

抗コリン薬,制吐薬,抗ヒスタミン薬(例,ジフェンヒドラミン),降圧薬,一部の抗菌薬,抗精神病薬,鎮痙薬,ベンゾジアゼピン系薬剤,心血管系の治療薬(β遮断薬など),シメチジン,コルチコステロイド,ジゴキシン,ドパミン作動薬,睡眠薬,筋弛緩薬,NSAID,オピオイド,レクリエーショナルドラッグ(娯楽のため使用される薬物),鎮静薬,三環系抗うつ薬

内分泌疾患

血液疾患

過粘稠度症候群,白血病の急性転化,赤血球増多血小板増多

感染症

発熱肺炎敗血症,全身感染症,尿路感染症

外傷

熱傷電撃傷,脂肪塞栓,熱中症低体温症

代謝性疾患

酸塩基平衡障害・電解質バランスの異常(例,脱水高カルシウム血症高ナトリウム血症低カルシウム血症低ナトリウム血症低マグネシウム血症),肝性または尿毒症性脳症,高浸透圧,高血糖,高体温,低血糖,低酸素症,ウェルニッケ脳症

血管または循環器疾患

貧血不整脈心不全,低灌流状態,ショック

ビタミン欠乏症

離脱症候群

その他の原因

環境の変化,宿便,高血圧性脳症,肝不全,ICU長期滞在,精神障害,術後,感覚遮断,睡眠不足,中枢神経系に影響を及ぼす毒性物質,尿閉

病態生理

機序は完全には解明されていないが,以下の関与が考えられる:

  • 脳内の酸化的代謝の可逆的障害

  • 複数の神経伝達物質の異常,特にコリン作用の不足

  • C反応性タンパク,インターロイキン1βおよび6,腫瘍壊死因子αなどの炎症性マーカーの産生木

いかなる種類のストレスも,交感神経の緊張を高め,副交感神経の緊張を抑制し,コリン作動性機能を障害することによって,せん妄の一因となる。高齢者は特にコリン作動性伝達の低下に敏感であるため,せん妄のリスクが増加する。

原因を問わず,大脳半球,または視床および脳幹網様体賦活系による覚醒機序が阻害される。

症状と徴候

せん妄には主に以下の特徴がある:

  • 注意の集中,維持,または転換の困難(不注意)

患者の意識レベルは変動し,時間,ときには場所や人に対する見当識が障害される。患者は幻覚,妄想,およびパラノイアを有することがある。日々の出来事や日常のルーチン活動についての混乱がよくみられ,パーソナリティおよび感情の変化もよくみられる。思考は解体し,発語はしばしば乱れ,著明な不明瞭言語,早口,造語,失語症的な間違いがみられたり,支離滅裂となる。

せん妄の症状は数分から数時間かけて変動し,日中は比較的軽く,夜間に悪化しうる。

その他の症状としては不適切な行動,恐怖,パラノイアなどがみられる。患者は,易怒的,興奮,多動,および過覚醒になることもあれば,静かで,内向的,かつ嗜眠傾向になることもある。せん妄のある超高齢者は,寡黙で引きこもりになる傾向があり,この変化がうつ病と誤診される可能性がある。この2つの状態を交互に繰り返す患者もいる。

通常は,睡眠や食事のパターンがひどく乱れる。

多くの認知機能の障害のために,洞察力に乏しく,判断力が低下する。

その他の症候は原因によって異なる。

診断

  • 精神医学的診察

  • せん妄を確定するための標準の診断基準

  • 徹底的な病歴聴取

  • 原因を特定するための対象を絞った身体診察と選択的な検査

せん妄(特に高齢患者)はしばしば見逃される。記憶または注意に障害がみられる高齢患者では,全例でせん妄を考慮すべきである。

  • 記憶障害のある高齢患者では,認知症だけでなく,せん妄も考慮する。

精神医学的診察

認知障害の徴候がみられる患者には,正式な精神医学的診察を行う必要がある(Professional.see sidebar 精神医学的診察)。

まず,注意の評価を行う。単純な検査としては,3つの物の名称を即時に繰り返す検査,数唱記憶(7桁の数字を順唱,5桁の数字を逆唱する能力),曜日を順唱および逆唱する検査などがある。注意を向けられない状態(指示やその他の情報を記銘しない)は,短期記憶の障害(情報を記銘するがすぐに忘れる)と鑑別する必要がある。情報を記銘できない患者にさらなる認知機能検査を行っても無意味である。

初期評価後には,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition(DSM-5)やConfusion Assessment Method(CAM)などの標準的な診断基準を適用することができる。

DSM-5の基準を用いてせん妄の診断を下すには,以下の特徴が必要である:

  • 注意力の障害(例,言われていることに対する集中または理解の困難)および認識力の障害(すなわち,環境に対する見当識の低下)

  • 障害が短期間(数時間から数日)の内に発生し,日内変動する傾向がある

  • 認知機能の急性の変化(例,記憶,言語,知覚,思考の障害)

以上に加えて,病歴,身体診察,および/または臨床検査から,障害の原因が病気,物質(薬物または毒素など),または物質離脱であることを示唆する証拠が得られなければならない。

CAMでは以下の診断基準が使用される:

  • 意識レベルの変化(例,過覚醒,嗜眠,昏迷,昏睡)または思考の解体(例,とりとめのない会話,的外れな会話,非論理的な観念の流れ)

病歴

病歴聴取は家族,介護者,および友人の面接による。これにより,患者の精神状態の変化が最近のものであるかどうか,既存の認知症と異なるかどうかを判断できる(Professional.see table せん妄と認知症の相違点*)。病歴は精神障害とせん妄の鑑別に役立つ。精神障害では,せん妄の場合と異なり,不注意や意識状態の変動がみられることはほとんどなく,また精神障害の発症はほぼ常に亜急性である。

日没現象(夕方の行動の悪化)は,施設にいる認知症患者でよくみられ,鑑別が困難な場合がある;症状の新たな悪化は,そうでないことが証明されるまではせん妄と考えるべきである。

病歴にはアルコール,全ての違法薬物,一般用医薬品,および処方薬の使用歴も含めるべきであり,特に,抗コリン作用または他の中枢神経系作用を有する薬物,ならびに投薬の追加,中止,または用量変更(過量投与を含む)に重点を置く。栄養補助食品(例,ハーブ製品)の使用についても聴取すべきである。

身体診察

診察では(特に患者が十分に協力的でない場合)以下に焦点を当てるべきである:

  • バイタルサイン

  • 脱水状態

  • 潜在的な感染巣

  • 皮膚および頭頸部

  • 神経学的診察

所見から,以下のような原因が示唆されることがある:

  • 発熱,髄膜症,またはKernigおよびブルジンスキー徴候は,中枢神経系感染症を示唆する。

  • 振戦とミオクローヌスは,尿毒症,肝不全,薬物中毒,または特定の電解質異常(例,低カルシウム血症,低マグネシウム血症)を示唆する。

  • 眼筋麻痺と運動失調はウェルニッケ-コルサコフ症候群を示唆する。

  • 局所的な神経学的異常(例,脳神経麻痺,運動または感覚障害)または乳頭浮腫は,中枢神経系の器質的異常を示唆する。

  • 頭皮または顔面の裂創,皮下出血,腫脹,および頭部外傷のその他の徴候は,外傷性脳損傷を示唆する。

検査

通常,以下の検査を行う:

  • CTまたはMRI

  • 疑われる感染症の検査(例,血算,血液培養,胸部X線,尿検査)

  • 低酸素症の評価(パルスオキシメトリーまたは動脈血ガス)

  • 電解質,BUN,クレアチニン,血漿血糖値,毒性を有する恐れのある全ての薬物の血中濃度

  • 尿中薬物スクリーニング

診断が不明確であれば,さらなる検査として,肝機能検査,血清カルシウム値,血清アルブミン値,甲状腺刺激ホルモン(TSH),ビタミンB12,赤沈,および抗核抗体(ANA)の測定,梅毒検査(例,迅速血漿レアギン[RPR]試験,VDRL[Venereal Disease Research Laboratory]試験)などを行うことがある。

それでも診断が明確にならない場合は,髄液検査(特に,髄膜炎,脳炎,またはくも膜下出血を否定するため),血清アンモニア値の測定,および重金属の検査などを行うこともある。

非痙攣性てんかん発作(てんかん重積状態を含む)が疑われる場合(筋肉の微妙なひきつり,自動症,困惑状態と眠気が入れ替わり生じるパターン)が疑われる場合,脳波検査によるモニタリングを行うべきである。

予後

せん妄があって入院した患者と入院中にせん妄を来した患者では,合併症発生率および死亡率がより高く,せん妄のある入院患者の35~40%が1年以内に死亡する。このように割合が高いのは,患者が高齢で他に重篤な疾患を有する傾向があることも一因であると考えられる。

特定の病態(例,低血糖,薬物またはアルコール中毒,感染症,医原性因子,薬物毒性,電解質異常)を原因とするせん妄は,典型的には治療により速やかに消失する。しかしながら,特に高齢者をはじめとして,回復が緩慢になる場合もあり(数日から数週間ないし数カ月にもなる),入院期間の長期化,合併症のリスクと重症度の上昇,医療費の増大,長期の身体障害などにつながることもある。一部の患者はせん妄から完全に回復しない。せん妄の発症後2年間は,認知機能および生活機能の低下,施設への入所,ならびに死亡に至るリスクが高くなる。

治療

  • 原因の是正および増悪因子の除去

  • 支持療法

  • 興奮の管理

せん妄は原因の是正(例,感染症の治療,脱水に対する輸液および電解質投与)と増悪因子の除去(例,薬剤の中止)によって消失することがある。栄養欠乏症(例,チアミンまたはビタミンB12)は是正すべきであり,十分な栄養補給と水分投与を行うべきである。

一般的な対策

静かで落ち着いた明るい外部環境を確保し,見当識の視覚的な手がかりとなるもの(例,カレンダー,時計,家族の写真)を置くべきである。病院のスタッフや家族による頻繁な見当識の強化と励ましも役立つ。感覚障害は最小限に抑えるべきである(例,補聴器の電池交換,眼鏡や補聴器が必要な患者にはその使用の奨励)。

集学的な治療アプローチ(医師,理学療法士,作業療法士,看護師,およびソーシャルワーカーが協力する)をとり,移動能力および関節可動域の改善,疼痛および不快感の治療,皮膚損傷の予防,失禁の改善,ならびに誤嚥リスクの最小化を目的とした対策を講じるべきである。

患者の興奮によって,患者本人,介護者,または医療関係者の安寧が脅かされることがある。投薬レジメンを単純化することと,静脈ライン,膀胱カテーテル,および身体的拘束(特に長期ケアの場合)を極力回避することは,興奮の増悪を予防し,受傷リスクを低減するのに役立つ可能性がある。しかし,特定の状況では,患者が自身や他者に危害を加えるのを防ぐため,身体的拘束が必要になることもある。拘束具は,その使い方の訓練を受けたスタッフが取り付け,受傷しないよう少なくとも2時間毎に取り外し,可及的速やかに使用を中止すべきである。病院雇用の補助者(付添い人)によって常時観察させることも,拘束具の必要性を回避するのに役立つ。

せん妄の性質を家族に説明することで,家族も対処が容易になる。せん妄は通常は可逆的であるが,認知障害の改善には急性期疾患の回復からしばしば数週から数カ月を要すると伝えるべきである。

薬剤

薬剤,典型的には低用量ハロペリドール(0.5~1.0mgを経口,静注,または筋注で1回,必要に応じて1~2時間毎に反復投与)で,興奮や精神病症状を軽減できるが,ときにはるかに高い用量を要することがある。しかしながら,薬剤は基礎にある問題を是正はせず,せん妄を長期化または増悪させることがある。

第2世代(非定型)抗精神病薬(例,リスペリドン0.5~3mg,経口,12時間毎,オランザピン2.5~15mg,経口,1日1回,クエチアピン25~200mg,経口,12時間毎)は,錐体外路系の有害作用がより少ないため好まれることがあるが,認知症患者における長期使用は脳卒中および死亡のリスクを増大させる可能性がある。これらの薬剤は通常,静注も筋注もされない。

ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ロラゼパム0.5~1.0mg,経口または静注,1回に続き必要に応じて1~2時間毎に反復投与)は,アルコールまたはベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状によって生じたせん妄に対する第1選択薬である。作用発現は抗精神病薬より速い(非経口[parenteral]投与の5分後)。ベンゾジアゼピン系薬剤は錯乱および鎮静を悪化させるため,それ以外の原因によるせん妄では,使用を避けるべきである。

予防

せん妄は入院患者の予後を大きく悪化させるため,予防を重視すべきである。病院スタッフを訓練して,患者の見当識,移動能力,および認知機能を維持し,睡眠,十分な栄養と水分の補給,ならびに十分な疼痛緩和を確保するための対策を講じられるようにしておくべきである(特に高齢患者の場合)。家族にもこれらの方策への協力を求めるべきである。

可能であれば薬剤の数と用量を減らすべきである。

要点

  • せん妄は高齢の入院患者では非常によくみられ,その原因としては薬剤,脱水,および感染(例,尿路感染症)が多いが,他にも多くの原因がある。

  • 高齢患者では,特に記憶または注意の障害がみられる場合,せん妄を考慮する。

  • 家族,介護者,および友人からの病歴聴取と精神医学的診察は,せん妄を認識するための鍵である。

  • せん妄を引き起こす,神経学的・全身的原因および誘因がないか,せん妄の患者を徹底的に評価する。

  • 薬歴を徹底して確認し,せん妄に寄与する可能性のある薬剤は中止する。

  • せん妄のある入院患者の約35~40%は1年以内に死亡する。

  • せん妄の原因を治療し,必要であれば鎮静を含めた支持療法を行う。

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