(血管炎の概要 血管炎の概要 血管炎は血管の炎症であり,しばしば虚血,壊死,および臓器の炎症を伴う。血管炎は,あらゆる血管,すなわち動脈,細動脈,静脈,細静脈,または毛細血管を侵すことがある。具体的な血管炎疾患の臨床像は多彩であり,侵された血管の太さおよび部位,臓器病変の範囲,ならびに血管外の炎症の程度およびパターンによって異なる。... さらに読む も参照のこと。)
高安動脈炎はまれな疾患である。アジア人により多くみられるが,世界中で発生する。女性:男性の比率は8:1であり,発症年齢は一般的に15~30歳である。北米では,年間発生率が100万人当たり2.6例と推定される。
高安動脈炎の病因
高安動脈炎の原因は不明である。細胞性免疫機序が関与している可能性がある。
高安動脈炎の病態生理
高安動脈炎は主に大型の弾性動脈を侵す。侵される頻度が最も高い血管は以下の通りである:
腕頭動脈および鎖骨下動脈
大動脈(主に上行大動脈と大動脈弓)
総頸動脈
腎動脈
ほとんどの患者に狭窄または閉塞がみられる。動脈瘤が3分の1の患者に生じる。通常,大動脈またはその分枝の壁は,内膜の皺とともに不規則に肥厚する。大動脈弓が侵されると,内膜の肥厚により大動脈から分枝する主要な動脈の開口部が著しく狭小化するか,ときに閉塞する。患者の半数では,肺動脈も侵される。ときに肺動脈の中型の分枝が侵される。
組織学的に,早期の変化は栄養血管周囲への細胞浸潤を伴う外膜の単核球浸潤から成る。その後,中膜に強い単核球性炎症が,ときに中膜の肉芽腫性変化,巨細胞,および斑状壊死を伴って起こることがある。形態学的変化は, 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は,胸部大動脈,大動脈から派生する頸部の大型動脈,および頸動脈の頭蓋外分枝を主に侵す。リウマチ性多発筋痛症の症状がよくみられる。症状および徴候には,頭痛,視覚障害,側頭動脈の圧痛,咀嚼時の顎筋の痛みなどがある。発熱,体重減少,倦怠感,疲労もよくみられる。赤血球沈降速度の亢進およびC反応性タンパク(CRP)値の上昇が典型的にみられる。診断は臨床的に行い,側頭動脈生検により確定する。高用量コルチコステロイドおよび/またはトシリ... さらに読む におけるものと区別がつかないことがある。汎動脈炎性の炎症性浸潤は罹患動脈の著しい肥厚と,それに続く血管内腔の狭小化および閉塞を引き起こす。
高安動脈炎の症状と徴候
大半の患者は,障害臓器または四肢の低灌流を反映する局所症状のみを呈する。
約50%の患者は,発熱,倦怠感,盗汗,体重減少,疲労,関節痛などの全身症状を訴える。
反復した腕の動きや腕を上げ続ける行為により痛みと疲労が生じることがある。腕や下肢の動脈の脈に減弱および不一致が生じることがある。四肢に虚血(例,冷感,下肢の跛行)の所見がみられることがある。血管雑音が,鎖骨下動脈,上腕動脈,頸動脈,腹部大動脈,または大腿動脈で,しばしば聴取される。片腕または両腕の血圧低下がよくみられる。
頸動脈と椎骨動脈の障害は,めまい,失神,起立性低血圧,頭痛,一過性視覚障害,一過性脳虚血発作,または脳卒中として発現する脳血流量の減少を招く。
開存している椎骨動脈起始部近くの鎖骨下動脈の狭窄病変は,腕を使った場合に後方循環の虚血性神経症状または失神を起こすことがある(鎖骨下動脈盗血症候群と呼ばれる)。その機序は,狭窄部位より遠位の鎖骨下動脈に血液を供給するための椎骨動脈内の血液の逆流,および運動時の上肢の動脈血管床の拡張である。
大動脈炎または冠動脈炎によって冠動脈の開口部が狭小化すると,狭心症もしくは心筋梗塞を招くことがある。上行大動脈が著しく拡張した場合,大動脈弁逆流が起こることがある。心不全が発生することがある。
下行大動脈の閉塞は,ときに大動脈縮窄症の徴候(例,高血圧,頭痛,下肢の跛行)を引き起こす。腹部大動脈または腎動脈の狭小化により,腎血管性高血圧が発生することがある。腕あるいは下肢の間欠的な跛行が発生することがある。
肺動脈が侵され,ときに肺高血圧を起こす。肺動脈の中型の分枝の障害は肺梗塞を起こすことがある。高安動脈炎は慢性であるため,側副血行路が生じることがある。したがって,四肢に向かう動脈の閉塞による虚血性の潰瘍または壊疽はまれである。
高安動脈炎の診断
MRアンギオグラフィー,ときにCT血管造影または大動脈造影
動脈硬化および他の大動脈障害のリスクが低い患者,特に若年女性において,大動脈もしくはその分枝により栄養される臓器の虚血を示唆する症状を認めるか,または末梢血管の脈拍の減弱もしくは消失を認める場合に高安動脈炎の診断を疑う。これらの患者では,動脈血管雑音および脈拍の強さまたは血圧の左右または上肢下肢の不一致もまた診断を示唆する。
診断の確定には大動脈造影が必要とされてきたが,現在では代わりにMRアンギオグラフィーまたはCT血管造影で大動脈の全ての分枝を評価できる。特徴的所見には,狭窄,閉塞,動脈内腔の不整,狭窄後の拡張,閉塞した血管付近の側副動脈,および動脈瘤などがある。
四肢全ての血圧を測定する。しかし,血圧の正確な測定は困難なことがある。両側の鎖骨下動脈が重度に侵されている場合,全身血圧は下肢でのみ正確に測定できる。疾患が両側の鎖骨下動脈を侵し,下行大動脈および/または両側の腸骨動脈もしくは大腿動脈に縮窄がある場合は,四肢のいずれにおいても血圧を正確に測定できない。その場合は,合併症を引き起こすことがある潜在性高血圧を検出するために,血管造影を介して中心動脈圧を測定する必要がある。
潜在性高血圧に対する他の手がかりとしては,眼底検査でみられる高血圧網膜症の徴候および/または心エコー検査でみられる求心性左室肥大の徴候がある。重度の高血圧を認めない場合は,合併症を,臓器虚血を起こす血管炎の徴候と混同していることがある。
臨床検査は非特異的であり,診断には役立たない。一般的な所見には,慢性疾患に伴う貧血,血小板数の増加,ときに白血球数の増加,ならびに赤血球沈降速度の亢進およびC反応性タンパク(CRP)値の上昇などがある。
以下が高安動脈炎の疾患活動性の指標である:
症状と徴候:新たな全身症状(例,発熱,疲労,体重減少,食欲不振,盗汗),新たな動脈領域を障害する血管炎を示唆する症状(例,跛行),新たな血管雑音,および/または血圧測定値の新たな変化。
臨床検査:血液検査で検出される炎症の所見(ただし活動性動脈炎では炎症性マーカーは正常値の場合がある)
画像検査:これまで侵されていない動脈に狭窄または動脈瘤が発生(定期的な画像検査[通常はMRアンギオグラフィー]で評価)
しかし,高安動脈炎は,臨床診断や臨床検査が完全寛解を示唆する場合でさえ,静かに進行することがある。このため,大動脈および大型の動脈の定期的な画像検査を行う必要がある。侵されていない肢の血圧を定期的に測定すべきである。
高安動脈炎に類似する疾患を除外する必要がある。具体的には以下のものがある:
先天性の非炎症性結合組織疾患(例, エーラス-ダンロス症候群 エーラス-ダンロス症候群 エーラス-ダンロス症候群は,関節過可動性,皮膚の過弾力性,および広範な組織脆弱性を特徴とする遺伝性のコラーゲンの障害である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。 遺伝形式は通常, 常染色体優性であるが,エーラス-ダンロス症候群は不均一性である。様々な遺伝子変異が様々なコラーゲンの量,構造,または形成に影響を与える。変異は,コラーゲン(例,I型,III型,V型)またはコラーゲン修飾酵素(例,コラーゲンを切断するプロテアーゼであるリジ... さらに読む , マルファン症候群 マルファン症候群 マルファン症候群は結合組織の異常から成り,結果として眼,骨格,および心血管系の異常を来す(例, 大動脈解離につながる上行大動脈の拡張)。診断は臨床的に行う。治療には,上行大動脈の拡張を遅らせるための予防的β遮断薬投与,および予防的大動脈手術などがある。 マルファン症候群の遺伝形式は 常染色体優性である。基礎的な分子生物学的異常は,ミクロフィブリルの主要成分であり細胞の細胞外基質への固定を助ける糖タンパク質フィブリリン-1(
さらに読む ) 血管感染(結核菌,真菌,または梅毒)
線維筋性異形成
動脈血栓を起こす疾患(例,凝固亢進状態)
特発性の炎症性疾患(例,大動脈炎を伴う 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎は,代表的な 脊椎関節症であり,体幹骨,末梢の大関節,および指の炎症,夜間の背部痛,背部のこわばり,脊柱後弯症の増強,全身症状,大動脈炎,心伝導異常,ならびに前部ぶどう膜炎を特徴とする全身性疾患である。診断には,X線上で仙腸関節炎を示す必要がある。治療は,非ステロイド系抗炎症薬および/または腫瘍壊死因子阻害薬もしくはインターロイキン17(IL-17)阻害薬と関節の柔軟性を維持する理学療法による。... さらに読む , 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチ(RA)は,主に関節を侵す慢性の全身性自己免疫疾患である。RAは,サイトカイン,ケモカイン,およびメタロプロテアーゼを介した損傷を引き起こす。特徴として,末梢関節(例,手関節,中手指節関節)に対称性に炎症が生じ,結果として関節構造が進行性に破壊される(通常は全身症状を伴う)。診断は特異的な臨床所見,臨床検査結果,および画像所見に基づく。治療としては,薬物療法,理学療法,およびときに手術を行う。疾患修飾性抗リウマチ薬は症状のコ... さらに読む , コーガン症候群 コーガン症候群 コーガン症候群はまれな自己免疫疾患で,眼および内耳を侵す。 コーガン症候群は若年成人に発生し,患者の80%は14~47歳である。本疾患は,角膜および内耳に共通する未知の自己抗原に対する自己免疫反応が原因であると考えられている。約10~30%の患者では重度の全身性血管炎もみられ,その中には生命を脅かす 大動脈炎も含まれる場合がある。 ( 角膜疾患に関する序論も参照のこと。) 主症状は,眼科系が38%,前庭聴覚系が46%,その両方が15%で... さらに読む または ベーチェット症候群 ベーチェット病 ベーチェット病は,粘膜の炎症を伴う,多臓器性,再発性の慢性血管炎疾患である。一般的な症状としては,再発性の口腔内潰瘍,眼の炎症,陰部潰瘍,皮膚病変などがある。最も重篤な症状は,失明,神経症状または消化管症状,静脈血栓,および動脈瘤である。診断は,国際診断基準を用いて臨床的に行う。治療は対症療法が中心であるが,より重度の症状に対しては,免疫抑制薬との併用の有無にかかわらずコルチコステロイドを使用することがある。... さらに読む , 川崎病 川崎病 川崎病は 血管炎の1つであり,乳児および1~8歳の小児に発生しやすく,ときに冠動脈を侵す。遷延する発熱,発疹,結膜炎,粘膜炎症,リンパ節腫脹を特徴とする。冠動脈瘤が発生し,破裂する,あるいは心筋梗塞を引き起こす可能性がある。診断は臨床基準により行われ,本疾患と診断されれば,心エコー検査が行われる。治療はアスピリンと免疫グロブリン静注療法である。冠動脈血栓には,線溶療法または経皮的インターベンションが必要となることがある。... さらに読む , サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスは単一または複数の臓器および組織に生じる非乾酪性肉芽腫を特徴とする炎症性疾患であり,病因は不明である。肺およびリンパ系が侵される頻度が最も高いが,サルコイドーシスはどの臓器にも生じうる。肺症状は,無症状から咳嗽,労作時呼吸困難,および,まれであるが肺または他臓器の機能不全に至るまで様々である。通常はまず肺病変を理由に本疾患... さらに読む )
これらは全て大型の血管を侵す。
高安動脈炎の予後
20%の患者で,経過は一相性である。残りの患者に関しては,経過は再燃と寛解または慢性化と進行を繰り返す。たとえ症状および臨床検査値の異常が無活動状態を示唆する場合でも,新たな血管病変が生じ,それらの病変は画像検査で明白である。進行性の経過および合併症(例,高血圧症,大動脈弁逆流症,心不全,動脈瘤)の存在は,あまり好ましくない予後を示唆する。
高安動脈炎の治療
コルチコステロイド
ときに他の免疫抑制薬
必要に応じて降圧薬および/または血管治療
薬物
コルチコステロイドが高安動脈炎の治療の要である。至適用量,漸減スケジュール,および治療期間は確立されていない。コルチコステロイド単独による治療が,ほとんどの患者で寛解を導入する。通常はプレドニゾンを用いる。開始量は1mg/kgを1日1回,1~3カ月の経口投与であり,用量をその後数カ月かけてゆっくり漸減する。これよりも低い開始量でも寛解を導入することがある。最初の反応にかかわらず,薬剤を漸減または中止した場合,約半数の患者に再燃がみられる。
メトトレキサート,シクロホスファミド,アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬(例,インフリキシマブ),およびトシリズマブが,一部の患者で効果的に使用されている(1 治療に関する参考文献 高安動脈炎は,大動脈,その分枝,および肺動脈を侵す炎症性疾患である。主に若年女性に発症する。病因は不明である。血管の炎症によって動脈の狭窄,閉塞,拡張,または動脈瘤を生じることがある。患者には,四肢の間(両側の肢の間または同じ側の腕と下肢の間)に非対称性の脈もしくは血圧測定値の不一致,四肢の跛行,脳灌流量の減少による症状(例,一過性視覚障害,一過性脳虚血発作,脳卒中),および高血圧もしくはその合併症がみられることがある。診断は,大動脈造... さらに読む , 2 治療に関する参考文献 高安動脈炎は,大動脈,その分枝,および肺動脈を侵す炎症性疾患である。主に若年女性に発症する。病因は不明である。血管の炎症によって動脈の狭窄,閉塞,拡張,または動脈瘤を生じることがある。患者には,四肢の間(両側の肢の間または同じ側の腕と下肢の間)に非対称性の脈もしくは血圧測定値の不一致,四肢の跛行,脳灌流量の減少による症状(例,一過性視覚障害,一過性脳虚血発作,脳卒中),および高血圧もしくはその合併症がみられることがある。診断は,大動脈造... さらに読む )。コルチコステロイドの効果が不十分であるか,または漸減できない場合には,これらの薬剤を試すことができる。メトトレキサートは,0.3mg/kg週1回の用量から開始し,最大25mg/週まで増量する。ミコフェノール酸モフェチルの投与も試すことができる。シクロホスファミドは,冠動脈炎または活動性動脈炎によると思われる他の重篤な合併症がある患者で考慮すべきである。
血小板介在性の閉塞が虚血の進行に役割を果たす可能性があるため,抗血小板薬(例,アスピリン325mgの1日1回経口投与)が頻繁に用いられる。高血圧を積極的に治療すべきであり,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が効果的となることがある。
手技
薬物療法が無効であれば,虚血組織への血流を再開するために,通常はバイパス術による血管治療が必要となりうる。適応としては以下のものがある:
大動脈弁閉鎖不全症
症候性の冠動脈疾患または虚血性心筋症を起こす冠動脈狭窄
拡大した大動脈瘤の解離
内科的管理に反応しない腎動脈狭窄に続発する重度の高血圧
日常生活を妨げる肢の虚血
脳虚血
大動脈縮窄
正確な血圧測定不能(どの肢でも)
望ましくは自家移植片を用いたバイパス移植術により,最良の開存率が得られる。動脈瘤形成と閉塞を予防するために罹患動脈の病変がない部位に吻合を作るべきであり,鎖骨下動脈などの将来的に罹患する可能性が高い血管は,通常は血行再建に使用しない。
経皮的冠動脈形成術(PTCA)はほとんどリスクがなく,短い病変に効果的となることがある。しかし長期の再狭窄率はバイパス移植術よりもはるかに高いように思われる。血管へのステント留置は,再狭窄率が高いため通常は推奨されない。
大動脈弁逆流に対しては,大動脈基部置換術を伴う弁膜手術が必要なことがある。
治療に関する参考文献
1.Mekinian A, Neel A, Sibilia J, et al: Efficacy and tolerance of infliximab in refractory Takayasu arteritis: French multicentre study.Rheumatology 51:882–886, 2012.doi: 10.1093/rheumatology/ker380.
2.Mekinian A, Comarmond C, Resche-Rigon A, et al: Efficacy of biological-targeted treatments in Takayasu arteritis: Multicenter, retrospective study of 49 patients.Circulation 132:1693–1700, 2015.doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.114.014321.
高安動脈炎の要点
高安動脈炎は,主に15~30歳の女性が罹患するまれな動脈炎である。
大動脈,肺動脈,およびそれらの分枝の障害により,非対称性の脈拍または血圧測定値,跛行,脳灌流量減少による症状(例,一過性視覚障害,一過性脳虚血発作,脳卒中),および高血圧(全身性および肺性)またはその合併症などの症状が生じることがある。
診断はMRアンギオグラフィー,またはときにCTもしくは従来の血管造影検査による。
治療はコルチコステロイド,他の免疫抑制薬,アスピリン,および適応となる場合は降圧薬により行う。
薬物療法にもかかわらず,重度の血管合併症(例,末端臓器の虚血,大動脈解離,大動脈縮窄,大動脈弁閉鎖不全)がみられる場合は,血管治療が可能な施設に紹介する。