全身性強皮症

(強皮症)

執筆者:Alana M. Nevares, MD, The University of Vermont Medical Center
レビュー/改訂 2020年 2月
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全身性強皮症は,皮膚,関節,および内臓(特に食道,下部消化管,肺,心臓,腎臓)におけるびまん性の線維化および血管異常を特徴とする,原因不明のまれな慢性疾患である。一般的な症状としては,レイノー現象,多発性関節痛,嚥下困難,胸やけ,腫脹などがあり,最終的には皮膚の硬化と手指の拘縮が起こる。肺,心臓,および腎臓の病変がほとんどの死亡の原因である。診断は臨床的に行うが,臨床検査は診断の裏付けになり,予後予測に役立つ。特異的治療は困難であり,合併症の治療に重点を置くことが多い。

全身性強皮症は男性に比べ女性で4倍多くみられる。SScは20歳から50歳で最も多く,小児ではまれである。

全身性強皮症の分類

全身性強皮症は以下のように分類される:

  • 限局皮膚硬化型全身性強皮症(CREST症候群)

  • びまん皮膚硬化型全身性強皮症(全身性の皮膚病変を伴う)

  • Sine scleroderma型全身性強皮症

限局皮膚硬化型全身性強皮症(CREST症候群―皮膚石灰沈着症[Calcinosis cutis],レイノー現象[Raynaud phenomenon],食道運動障害[Esophageal dysmotility],強指症[Sclerodactyly],毛細血管拡張[Telangiectasia])では,患者の顔面ならびに肘関節および膝関節より遠位に皮膚の硬化が生じるほか,胃食道逆流症がみられる場合もある。この病型は緩徐な進行を特徴とし,肺高血圧症を合併することが多い。

全身性の皮膚病変を伴うびまん皮膚硬化型全身性強皮症では,レイノー現象と消化管合併症がみられる。この病型は急速に進行する。間質性肺疾患および強皮症腎クリーゼが主な合併症である。

Sine scleroderma型の全身性強皮症では,全身性強皮症関連抗体と本疾患の内臓症状がみられるが,皮膚の硬化はみられない。

全身性強皮症の病因

免疫学的機序および遺伝(特定のヒト白血球抗原サブタイプ)が病因に関与している。全身性強皮症様の症候群と塩化ビニル,ブレオマイシン,ペンタゾシン,エポキシ樹脂および芳香族炭化水素,汚染したナタネ油,またはL-トリプトファンへの曝露との関連が報告されている。

全身性強皮症の病態生理

病態生理には,血管の損傷および線維芽細胞の活性化が関与し,様々な組織のコラーゲンおよびその他の細胞外タンパク質が過剰産生される。

全身性強皮症では,皮膚は真皮の網状層に比較的緻密な膠原線維を生じ,表皮の菲薄化,表皮突起(上皮が延長し下の結合組織へと突出している部分)の喪失,および皮膚付属器の萎縮を来す。T細胞が蓄積することがあり,皮膚および皮下の層に広範囲の線維化が発生する。爪郭では毛細血管のループが拡張し,一部の微小血管のループが消失する。四肢では,滑膜および滑膜表面ならびに関節周囲軟部組織に慢性炎症および線維化が起こる。

食道運動が損なわれ,下部食道括約筋が機能不全を来す;胃食道逆流および二次的な狭窄が生じることがある。腸管の粘膜筋板が変性し,結腸および回腸での仮性憩室形成につながる。間質および気管支周囲の線維化または小肺動脈の内膜肥厚が生じることがあり,長期にわたれば,肺高血圧症に至ることがある。びまん性の心筋線維症または心伝導異常が起こる。小葉間動脈および弓状動脈の内膜肥厚が腎内で生じることがあり,腎虚血および腎性高血圧を引き起こす。

全身性強皮症の重症度および進行は,急速に進行してしばしば致死的となる内臓障害を伴う全身的な皮膚肥厚(びまん皮膚硬化型全身性強皮症)から,孤立した皮膚病変(しばしば手指および顔面のみ)および緩徐な進行(しばしば数十年)の後に内臓疾患が発生する場合まで様々である。後者は,限局皮膚硬化型全身性強皮症またはCREST症候群と呼ばれる。さらに,全身性強皮症は他の自己免疫性リウマチ疾患,例えば,強皮症性筋炎(自己免疫性筋炎と見分けのつかない皮膚硬化および筋力低下)や混合性結合組織病とオーバーラップすることがある。

全身性強皮症の症状と徴候

全身性強皮症の最も一般的な初期の症状および徴候は,レイノー現象,および徐々に進行する手指の皮膚の肥厚を伴う四肢遠位部の潜行性の腫脹である。多発性関節痛も顕著である。消化管障害(例,胸やけ,嚥下困難)または呼吸器の愁訴(例,呼吸困難)がときに最初の臨床像となる。

皮膚および爪の症状

皮膚の腫脹は通常対称性であり,硬結へと進行する。手指(強指症)および手に限局することもあれば,身体の大部分もしくは全体を侵すこともある。最終的に皮膚が張り,光沢をもち,色素脱失または色素沈着を生じる;顔面は仮面様になる;毛細管拡張が手指,胸部,顔面,口唇,および舌に現れることがある。しかし,一部の患者では皮膚が様々な程度で軟化する。皮下の石灰沈着が生じることがある(通常は指先[指腹]および骨の隆起部上)。指潰瘍がよくみられ,特に指先に多く,指関節上または石灰沈着性の結節上にみられる。検眼鏡または解剖顕微鏡で,爪に毛細血管および微小血管の異常なループが観察されることがある。

全身性強皮症の皮膚症状
手の全身性強皮症
手の全身性強皮症
この画像では,ぴんと張っているために正常なしわの部分が消失した状態の,光沢があり肥厚した皮膚(強指症と呼ばれる)がみられる。

By permission of the publisher. From Pandya A: Gastroenterology and Hepatology: Stomach and Duodenum.Edited by M Feldman. Philadelphia, Current Medicine, 1996.

胸部および肩の全身性強皮症
胸部および肩の全身性強皮症
この画像では,ぴんと張った皮膚が拘束性に胸部全体に拡がり,両側性に肩の上にも伸展して,肩の可動域の減少に至っている。

By permission of the publisher. From Marder W, Lath V, Crofford L, Lowe L, McCune WJ: Atlas of Rheumatology.Edited by G Hunder. Philadelphia, Current Medicine, 2005.

足の全身性強皮症
足の全身性強皮症
この写真では,皮膚の硬化および硬結によりつま先が内側に丸まっている。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

関節の症状

多発性関節痛または軽度の関節炎が顕著な場合がある。手指,手関節,および肘関節に屈曲拘縮が生じることがある。関節,腱鞘,および大きな滑液包の部位で摩擦音が生じることがある。

消化管の症状

食道の機能障害が最もよくみられる内臓障害であり,ほとんどの患者に起こる。通常,嚥下困難(通常は胸骨後方)が最初に発生する。その後,胃酸逆流により胸やけおよび狭窄が引き起こされることがある。バレット食道が3分の1の患者に生じ,合併症(例,腺癌)の素因となる。小腸の運動低下が細菌の過剰増殖を引き起こし,吸収不良を招くことがある。損傷した腸壁に空気が侵入し,X線上で空気が認められることがある(腸管壁内気腫像)。腸管内容物が腹腔へ漏出することにより,腹膜炎が生じることがある。開口部の広い独特な憩室が結腸に生じることがある。限局皮膚硬化型全身性強皮症(CREST症候群)患者には胆汁性肝硬変が発生することがある。

心肺の症状

肺病変は一般に緩徐に進行し,個人的なばらつきがかなりあるが,頻度の高い死亡原因である。肺線維症および間質性肺疾患がよくみられ,それらによりガス交換が障害されることがあり,呼吸不全を最終的に伴う労作時呼吸困難および拘束性疾患が引き起こされる。急性の肺胞炎(治療に反応する可能性がある)が生じることがある。食道の機能障害により,誤嚥性肺炎が生じることがある。肺高血圧症が生じることがあり,同じく心不全も生じうるが,これらはどちらも予後不良の所見である。心嚢液貯留を伴う心膜炎または胸膜炎が生じることがある。不整脈がよくみられる。

腎の症状

しばしば突然発症する重度の腎疾患(強皮症腎クリーゼ)がみられる場合があり,通常はびまん皮膚硬化型強皮症でRNAポリメラーゼIII抗体を有する患者の,罹患後4~5年において最も頻度が高くなる。血栓性の微小血管障害性溶血性貧血の特徴を有する突然で重度の高血圧が,しばしばその前兆となる。急性高血圧を伴わずに,またはsine scleroderma型の全身性強皮症でも発生する可能性があることから,診断を下すには臨床的に疑う必要がある。コルチコステロイドの使用は強皮症腎クリーゼの発生の危険因子である。

全身性強皮症の診断

  • 臨床基準

  • 抗体検査

レイノー現象,典型的な筋骨格もしくは皮膚の症状,または説明のつかない嚥下困難,吸収不良,肺線維症,肺高血圧症,心筋症,もしくは伝導障害がみられる患者では,全身性強皮症を考慮すべきである。原因不明の内臓所見(例,肺高血圧症)がある患者では,sine scleroderma型の全身性強皮症の診断を考慮すべきである。レイノー現象(爪郭毛細血管異常の所見を伴う),嚥下困難,および皮膚硬化などの古典的な症状の組合せを有する患者では,全身性強皮症の診断が明白な場合がある。しかしながら,一部の患者では,臨床診断が不可能であり,確定診断のための臨床検査によって本症である可能性を高めることはできるが,所見を認めないことで本症を除外することはできない。

抗核抗体(ANA)は90%以上の患者でみられ,抗核小体型であることが多い。リウマトイド因子は3分の1の患者で陽性となる。セントロメアタンパク質に対する抗体(抗セントロメア抗体)は,限局皮膚硬化型全身性強皮症患者の血清に高率で生じる。びまん皮膚硬化型全身性強皮症の患者は限局皮膚硬化型全身性強皮症の患者よりも抗Scl-70(トポイソメラーゼI)抗体を保有する可能性が高い。RNAポリメラーゼIIIには,びまん皮膚硬化型全身性強皮症,強皮症腎クリーゼ,およびがんとの関連が認められている。抗U3 RNP(フィブリラリン)抗体にも,広汎性皮膚硬化型との関連が認められている。最も費用対効果の高い抗体検査法はANA,抗Scl-70抗体,および抗セントロメア抗体を最初に検査するものであり,結果が陰性であれば,臨床像に基づいてその他の抗体の検査を考慮すべきである。

確定診断の参考として,臨床医はAmerican College of Rheumatology(ACR)/European League Against Rheumatism(EULAR)の全身性強皮症の分類基準を参照することができる。

ACR/EULARの全身性強皮症の分類基準には,以下の特徴が含まれている:

  • 両手の指の皮膚肥厚

  • 指尖部病変(例,潰瘍,陥凹性瘢痕)

  • 毛細血管拡張

  • 毛細血管顕微鏡検査(例,検眼鏡または解剖顕微鏡で観察)における爪郭毛細血管異常(例,血管拡張,脱落領域)

  • 肺動脈性肺高血圧症および/または間質性肺疾患

  • レイノー現象

  • 全身性強皮症関連自己抗体(抗セントロメア,抗Scl-70,抗RNAポリメラーゼIII)

これらの基準は,一部の症例では下位分類に従った重み付けがなされ,加算してスコアを算出する。スコアが一定の閾値を超えると,明確な全身性強皮症と分類される。

肺病変が疑われる場合,その重症度を明確にするために,肺機能検査,胸部CT,および心エコー検査を開始することがある。胸部高分解能CTによって急性の肺胞炎が検出されることが多い。

全身性強皮症の予後

10年全生存率は,限局皮膚硬化型全身性強皮症で92%,びまん皮膚硬化全身性強皮症で65%である。早期死亡の予測因子には,男性であること,遅い発症,びまん皮膚硬化型,肺動脈性肺高血圧症,腎クリーゼなどがある(1)。経過は全身性強皮症の病型(びまん皮膚硬化型か限局皮膚硬化型か)と抗体プロファイルに依存するが,予測不能となる場合もある。びまん性の皮膚疾患のある患者は,より進行の速い臨床経過をたどって最終的に(通常は最初の3~5年以内に)内臓合併症を発症する傾向があり,重度であれば死に至る。心不全は難治性の場合がある。心室性期外収縮は,たとえ無症候性でも,突然死のリスクを増大させる。限局皮膚硬化型全身性強皮症(CREST症候群)患者では非進行性の疾患が長期間みられることがある;内臓の変化(例,肺の血管疾患に起因する肺高血圧症,特定の病型の胆汁性肝硬変)が最終的に起こるが,経過は非常に良性であることが多い。

予後に関する参考文献

  1. 1.Hao Y, Hudson M, Baron M, et al: Early mortality in a multinational systemic sclerosis inception cohort.Arthritis Rheumatol 69(5):1067–1077, 2017.doi: 10.1002/art.40027.

全身性強皮症の治療

  • 症状および機能障害のある器官に対する治療

全身性強皮症の自然経過全般に著しい影響を及ぼす薬物はないが,様々な薬物が特定の症状または器官系の治療に有用である。明白な筋炎または混合性結合組織病がある場合はコルチコステロイドが助けになることがあるが,腎クリーゼを生じやすくする可能性があるため,必要な場合にのみ使用する。

メトトレキサート,アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,およびシクロホスファミドなどの様々な免疫抑制薬が肺胞炎の治療に役立つことがある。ミコフェノール酸モフェチルは,間質性肺疾患の治療に効果的(1)であり,一部の専門施設では標準治療となっている。肺移植の成功例が報告されている。エポプロステノール(プロスタサイクリン)およびボセンタンが肺高血圧症に役立つことがある。

長時間作用型の経口ニフェジピン(例,1日30~120mg)などのカルシウム拮抗薬がレイノー現象の治療に役立つこともあるが,胃食道逆流を悪化させる可能性がある。ボセンタン,シルデナフィル,タダラフィル,およびバルデナフィルは重度のレイノー現象に対する他の代用薬である。患者は暖かい服装をして手袋をつけ,頭を暖かく保つべきである。プロスタグランジンE1(アルプロスタジル)またはエポプロステノールもしくは交感神経遮断薬の静注が,指の虚血に対して使用できる。

逆流性食道炎は,頻回な少量の食事,高用量プロトンポンプ阻害薬,ベッドの頭側を高くして寝ること,および最後の食事から3時間は仰臥位をとらないことにより軽減する。食道狭窄には定期的な拡張術が必要なことがあり,胃食道逆流には胃形成術が必要な可能性がある。経口シプロフロキサシン500mg,1日2回,またはメトロニダゾール(500mg,1日3回)と2倍量のトリメトプリム/スルファメトキサゾール(1錠,1日2回),7~10日間もしくは別の広域抗菌薬の併用により,腸内細菌叢の異常増殖を抑制でき,また腹部膨満,鼓腸,下痢などの小腸内細菌異常増殖症の症状が軽減することがある。

理学療法は筋力の維持に役立つことがあるが,関節拘縮の予防には効果がない。

石灰沈着症の治療において明確なベネフィットがある治療法はない。

医学的緊急事態である急性の腎クリーゼに対しては,アンジオテンシン変換酵素阻害薬による迅速な治療で生存期間を劇的に延長できる。腎クリーゼの死亡率は依然として高いが,迅速に治療すればクリーゼは回復可能である場合が多い。透析が必要になることがあるが,透析の必要性は一時的なこともある。末期腎臓病患者では腎移植が選択可能な選択肢の1つである。

最近のエビデンスにより,早期のびまん皮膚硬化型全身性強皮症における自家造血幹細胞移植はシクロホスファミドの静脈内投与と比較して1年後以降の生存率を改善することが示されているが,1年目は死亡率がより高かった。将来,一部の患者ではこれが選択肢の一つになる可能性がある(2)。

一部の専門家は,症状に応じた1~2年毎の肺機能検査および/または心エコー検査による定期的な肺高血圧症のスクリーニングを推奨している。

治療に関する参考文献

  1. 1.Tashkin DP, Roth MD, Clements PJ, et al: Mycophenolate mofetil versus oral cyclophosphamide in scleroderma-related interstitial lung disease (SLS II): A randomised controlled, double-blind, parallel group trial.Lancet Respir Med 4(9):708–719, 2016.doi: 10.1016/S2213-2600(16)30152-7.

  2. 2.van Laar JM, Farge D, Sont JK, et al: Autologous hematopoietic stem cell transplantation vs intravenous pulse cyclophosphamide in diffuse cutaneous systemic sclerosis: A randomized clinical trial.JAMA 311(24):2490–2498, 2014.doi: 10.1001/jama.2014.6368.

全身性強皮症の要点

  • 全身性強皮症における重要所見としては,皮膚および関節の変化,レイノー現象,食道の変化などがあるが,生命を脅かす影響が肺,心臓,腎臓などの臓器に生じることもある。

  • 患者にレイノー現象,典型的な筋骨格もしくは皮膚の症状,または説明のつかない嚥下困難,吸収不良,間質性肺疾患および肺線維症,肺高血圧症,心筋症,もしくは伝導障害がみられる場合,本症を考慮する。

  • ANA,抗Scl-70(トポイソメラーゼI)抗体,および抗セントロメア抗体を検査する。

  • 明確な疾患修飾療法(disease-modifying therapy)がないため,治療は罹患臓器に対して行う。

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