線維筋痛症

(筋筋膜性疼痛症候群)

執筆者:Joseph J. Biundo, MD, Tulane Medical Center
レビュー/改訂 2020年 2月
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線維筋痛症は,頻度は高いものの完全には解明されていない,関節外を首座とする疾患であり,全身性の疼痛(ときに重度),筋肉,腱付着部周囲,および隣接する軟部組織の広範な圧痛,筋硬直,疲労,意識障害,睡眠障害,その他の様々な身体症状を特徴とする。診断は臨床的に行う。治療法としては,運動,局所の加温,ストレス管理,睡眠を改善する薬剤,非オピオイド鎮痛薬などがある。

線維筋痛症ではいずれの線維筋性組織も侵される可能性があり,特に後頭,頸部,肩関節,胸部,腰部,および大腿でその可能性が高い。特異的な組織学的異常はみられない。線維筋痛症の症状および徴候は全身性であり,オーバーユースまたは微小外傷と関連することが多い限局性の軟部組織の疼痛および圧痛(筋筋膜性疼痛症候群)とは対照的である。

線維筋痛症は一般的であり,女性で約7倍多い(通常は若年または中年女性)が,男性,小児,および青年に起こることもある。性差のため,男性ではときに見落とされる。関係のない他の全身性リウマチ性疾患の患者に併発することが多く,そのため,診断および管理が複雑になる。

線維筋痛症の病因

最新のエビデンスから,線維筋痛症が中枢を介した痛覚感受性の疾患である可能性が示唆されている。原因は不明であるが,ステージ4の睡眠の中断が一因である可能性があり,精神的ストレスも同様である。線維筋痛症は,ウイルス性もしくは他の全身性感染症(例,ライム病)または外傷的出来事によって引き起こされることがあるが,抗ウイルス薬または抗菌薬による追加または長期の治療は,有効ではないため,適応とならない。

線維筋痛症の症状と徴候

こわばりと疼痛がしばしば広範囲で緩徐に始まり,うずく感覚を伴う。疼痛は広範囲にわたり,疲労,筋挫傷,またはオーバーユースで悪化することがある。

患者には典型的に様々な身体症状がみられる。疲労がよくみられ,また集中困難および全般的な意識障害の感覚などの認知障害も同様に一般的である。多くの患者にはさらに,過敏性腸症候群間質性膀胱炎,または片頭痛もしくは緊張型頭痛の症状がみられる。錯感覚がみられる場合があり,典型的には両側性である。

症状は,環境的ストレス,精神的ストレス,睡眠障害,外傷,湿気もしくは寒冷への曝露により,または医師,家族,もしくは友人が本症を「全て気持ちの問題」とほのめかすことにより増悪することがある。

患者は,ストレスを感じ,緊張し,不安を覚え,疲労し,治療に積極的になったり,ときに抑うつ状態となる傾向がある。患者は成績優秀な完全主義者であることが少なくない。

触診すると,しばしば筋肉の特異的で独立した部位(圧痛点)に圧痛を認める点を除き,身体診察では著明な所見は認められない。圧痛のある部位には,腫脹,発赤,熱感はない;このような所見は,別の診断を示唆しているはずである。

線維筋痛症の診断

  • 臨床基準

  • 通常は他の疾患を除外するための検査および詳細な身体診察

以下がみられる患者では,線維筋痛症を疑う:

  • 全身性の疼痛および圧痛,特に身体所見と不釣り合いな場合

  • 広範囲の症状にもかかわらず臨床検査の結果が陰性

  • 主症状として疲労

広範囲にわたる疼痛が3カ月以上持続している患者では,線維筋痛症の診断を考慮すべきであり,特に様々な身体症状を伴っている場合は強く考慮すべきである。体の左側および右側,ウエストより上および下,ならびに体幹骨(頸椎,胸部前方もしくは胸椎,または腰部)に疼痛がある場合,疼痛が広範囲であるとみなす。

診断はAmerican College of Rheumatology(1)の臨床基準に基づき,この基準には,広範囲の疼痛と他の様々な認知症状および身体症状(上で挙げたものなど)の組合せを重症度で分類したものが含まれる。過去の基準は,18ある特定の圧痛点のうちいくつかに圧痛がみられることに依存するものであった。この基準は,非専門医が圧痛を一貫性をもって評価することはときに困難であること,圧痛点は強さが変動する場合があること,ならびに症状のみに基づく基準を設けることに利点があると考えられたことから,排除された。しかし,圧痛はかなりの頻度でみられるため,一部の専門医は圧痛の系統的な評価を続けている。

患者にみられる症状の他の原因を調べる検査として,赤血球沈降速度(赤沈)またはC反応性タンパク(CRP)とクレアチンキナーゼ(CK)のほか,おそらくは甲状腺機能低下症およびC型肝炎(疲労および全身性の筋肉痛を生じることがある)の検査を行うべきである。その他の検査(例,リウマチ性疾患に対する血清学的検査)については,病歴聴取または身体診察での所見から可能性が示唆される場合にのみ行うべきである。

考えられるピットフォールを回避するために,以下を考慮すべきである:

  • 線維筋痛症は,男性,小児,および青年では見落とされることが多い。

  • 慢性疲労症候群(systemic exertion intolerance disease[全身性労作不耐症])が同様の全身性の筋肉痛および疲労を引き起こすことがあり,臨床検査結果は典型的には正常である。

  • リウマチ性多発筋痛症は,より限局した筋肉痛を引き起こすが(特に高齢者において),近位筋を選択的に侵す傾向があり,朝に症状がみられることが比較的多く,通常は赤沈が亢進し,C反応性タンパク(CRP)値が上昇することから,線維筋痛症と鑑別することが可能である。

  • 全身性リウマチ性疾患の患者では,合併する線維筋痛症の診断がより難しいことがあるが,これは非常に一般的である。例えば,線維筋痛症が関節リウマチ全身性エリテマトーデスの増悪と誤診されることがある。

パール&ピットフォール

診断に関する参考文献

  1. 1.Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA, et al: 2016 revisions to the 2010/2011 fibromyalgia diagnostic criteria.Semin Arthritis Rheum 46(3):319–329, 2016.doi: 10.1016/j.semarthrit.2016.08.012.

線維筋痛症の予後

線維筋痛症は慢性である傾向があるが,ストレスが減れば自然に寛解することがある。また線維筋痛症は頻回に再発することもある。包括的な支援プログラムによる治療を受ける患者については,機能予後は通常良好であるが,症状はある程度続く傾向にある。気分障害が併存し,その対処が行われていない場合,予後不良となる可能性がある。

線維筋痛症の治療

  • ストレッチ運動および有酸素運動,局所の加温,ならびにマッサージ

  • ストレス管理

  • 睡眠を改善するために三環系抗うつ薬またはシクロベンザプリン(cyclobenzaprine)

  • 非オピオイド鎮痛薬

ストレッチ運動,有酸素運動,十分な熟睡,局所の加温,および愛護的なマッサージで症状が緩和することがある。総合的なストレス管理(例,深呼吸訓練,瞑想,心理的支援,必要な場合カウンセリング)が重要である。

症状がある筋肉を愛護的にストレッチする運動を毎日行うべきであり,ストレッチは約30秒間保持し,それを5回ほど繰り返すべきである。有酸素運動(例,速歩,水泳,エクササイズバイク)は,症状を軽減することがある。

睡眠の改善が極めて重要である。鎮静薬を服用してもよいが,夜間のみおよび睡眠を改善するためだけに限る。就寝時の低用量経口三環系抗うつ薬(例,アミトリプチリン10~50mg,トラゾドン50~150mg,ドキセピン10~25mg)または薬理学的に同様のシクロベンザプリン(cyclobenzaprine)~30mgにより,深い睡眠が促進され,筋肉痛が軽減することがある。最小有効量を用いるべきである。眠気,口腔乾燥,その他の有害作用により,これらの薬剤の一部または全てに患者(特に高齢患者)が耐えられなくなることがある。

非オピオイド鎮痛薬(例,アセトアミノフェン,非ステロイド系抗炎症薬[NSAID])が一部の患者で助けになることがある。オピオイドは避けるべきである。プレガバリン,デュロキセチン,およびミルナシプランは,線維筋痛症の治療に使用できるが,運動,睡眠を改善する対策,およびストレス管理の補助として用いるべきであり,これらは疼痛の軽減にいくらか役立つことがある。

耐えがたい局所の圧痛部の治療に1~5mLの0.5%ブピバカインまたは1%リドカインの注射がときに使用されるが,定期的な使用がエビデンスで支持されていないため,そのような注射を初期治療として頼るべきではない。

睡眠障害を悪化させている可能性のある薬剤を特定するために,患者が服用している薬剤を精査すべきである。そのような薬剤は避けるべきである。不安抑うつ,特に双極性障害がもしあれば,それらに対処すべきである。

線維筋痛症の要点

  • 線維筋痛症に関連するこわばりおよび疼痛は,環境的ストレス,精神的ストレス,睡眠障害,外傷,湿気もしくは寒冷への曝露により,または医師,家族,もしくは友人が本症を「全て気持ちの問題」とほのめかすことにより増悪することがある。

  • 全身性の疼痛および圧痛と疲労が説明できないか,身体所見や臨床検査所見に対して不釣り合いな場合は,線維筋痛症を疑う。

  • 赤血球沈降速度(赤沈)またはC反応性タンパク(CRP),クレアチンキナーゼ(CK),ならびに甲状腺機能低下症およびC型肝炎の検査を考慮するとともに,慢性疲労症候群リウマチ性多発筋痛症の可能性を考慮する。臨床的評価により他のリウマチ性疾患が示唆される場合に限り,さらなる検査を行う。

  • 一見すると関節リウマチ全身性エリテマトーデスなどの全身性リウマチ性疾患の疼痛を伴う増悪のように思えるが,そうした増悪を確定する臨床所見も臨床検査所見も認められない患者では,線維筋痛症を考慮する。

  • 理学療法,ストレス管理,および睡眠の改善に重点を置くことで治療し,また疼痛に対して必要な場合は非オピオイド鎮痛薬の投与により治療する。

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