特発性肺線維症は組織学的には通常型間質性肺炎と同定されており, 特発性間質性肺炎 特発性間質性肺炎の概要 特発性間質性肺炎(IIP)は,類似した臨床的および画像的所見を共有する原因不明の 肺間質の疾患群であり,主に肺生検における病理組織パターンにより区別される。組織学的に8つのサブタイプに分類され,その全てが程度の異なる炎症および線維化を特徴とし,いずれも呼吸困難を引き起こす。診断は,病歴,身体診察,高分解能CT,肺機能検査,および肺生検に基づく。治療はサブタイプによって異なる。予後はサブタイプにより異なり,極めて良好なこともあるが,不良な... さらに読む の大部分の症例を占める。IPFは > 50歳の男女に起こり(男女比は2:1),また10歳年を重ねる毎に発生率が顕著に増加する。現在または過去の喫煙は,この疾患と非常に強く関連する。遺伝的素因がいくらか存在し,家族内集積は症例の最大20%にみられる。
特発性肺線維症の病因
環境因子,遺伝因子,およびその他の未知の要因の組合せが,肺胞上皮細胞の機能障害または初期化におそらく寄与し,その結果肺内の異常な線維性増殖がもたらされる。遺伝的素因,環境刺激,炎症細胞,肺胞上皮,間葉,および基質の疾患への寄与に関する研究が現在進められている。
特発性肺線維症の病理
特発性肺線維症の重要な組織学的所見は胸膜下の線維化であり,線維芽細胞の増生巣(fibroblast foci)および密な瘢痕と,正常な肺組織の領域とが混在する(不均質性)。リンパ球,形質細胞,および組織球の浸潤を伴う間質性の炎症が散在する。嚢胞性の異常所見(蜂巣肺)が全ての患者で認められ,また疾患の進行に伴い増加する。同様の組織学的所見が,原因が既知の間質性肺疾患の症例でみられることはまれである( Professional.see table 特発性間質性肺炎の主要な特徴* 特発性間質性肺炎の主要な特徴* )。
特発性肺線維症の症状と徴候
特発性肺線維症の症状および徴候は,典型的には6カ月から数年かけて発現し,労作時呼吸困難および乾性咳嗽などがある。微熱および筋肉痛のような全身症状はまれである。IPFの古典的な徴候は,両側肺底部の呼気時の捻髪音(ベルクロラ音)である。ばち指は症例の約50%に認められる。その他の検査は疾患が進行するまでは正常であるが,進行例では 肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつ... さらに読む および 右室の収縮機能障害 肺性心 肺性心とは,肺動脈性肺高血圧症を引き起こす肺疾患に続発して右室拡大が生じる病態である。続いて右室不全へと至る。所見には,末梢浮腫,頸静脈怒張,肝腫大,胸骨近傍の挙上などがある。診断は臨床的に行い,心エコー検査による。治療は原因に対して行う。 肺性心は肺またはその血管系の障害により生じるもので,左室不全,先天性心疾患(例,心室中隔欠損症),または後天性弁膜症に続発した右室拡大は肺性心とは呼ばない。肺性心は通常慢性に経過するが,急性かつ可逆... さらに読む の徴候が発現することがある。
特発性肺線維症の診断
高分解能CT(HRCT)
ときに外科的肺生検
亜急性の呼吸困難,乾性咳嗽,および胸部診察時にベロクロラ音のある患者で特発性肺線維症を疑う。しかしながらIPFは, 気管支炎 急性気管支炎 急性気管支炎は気管気管支の炎症であり,一般的には,慢性肺疾患のない患者に発生する上気道感染症に続いて起こる。原因はほぼ常にウイルス感染である。病原体が同定されることはまれである。最も一般的な症状は咳嗽であり,発熱は伴うことも伴わないこともあり,また喀痰産生を伴うことがある。診断は臨床所見に基づく。治療は支持療法であり,抗菌薬は通常不要であ... さらに読む , 喘息 喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む ,および 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む など,他のより頻度の高い疾患に臨床的に類似しているため,最初は見落とされることが多い。
診断にはHRCTが必要であり,外科的肺生検を要する例もある。
胸部X線では,典型的には下肺野および末梢領域にびまん性網状陰影がみられる。小嚢胞病変(蜂巣肺)および牽引性気管支拡張による拡張した気道が付加的所見として認められる。
HRCTでは,不規則に肥厚した小葉間隔壁および小葉内線状影を伴う胸膜下のびまん性斑状網状陰影;胸膜下の蜂巣肺;ならびに牽引性気管支拡張がみられる。すりガラス陰影が肺の > 30%でみられる場合は,別の診断が示唆される。
臨床検査は診断にほとんど役立たない。
特発性肺線維症の予後
ほとんどの患者は,診断時に中等症例から進行例であり,治療しても悪化する。生存期間の中央値は診断時から約3年である。いくつかの予後モデルが提唱されている。予後不良を示す因子には,高齢,男性,努力肺活量の低下,およびDLCOの低下などがある。
急性の悪化の原因には,感染症, 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む , 気胸 気胸 気胸は胸腔内に空気が存在することであり,部分的または完全な肺虚脱を引き起こす。気胸は,自然に起こることもあれば,外傷または医療行為が原因で起こることもある。診断は,臨床基準および胸部X線に基づく。ほとんどの気胸は経カテーテル的吸引または胸腔ドレナージを必要とする。 原発性自然気胸は,肺の基礎疾患がなく,典型的には,背が高く痩身の10代および20代の若年男性に発生する。原発性自然気胸は,喫煙によって生じた,または患者が遺伝的にもつ,胸膜下... さらに読む
,および 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む
などがある。また,原因不明の急性増悪も起こりうる。全ての急性増悪は合併症発生率および死亡率が高い。IPFの患者では肺癌発生頻度がより高いが,死因は通常呼吸不全である。IPFは予後不良であるため,患者および家族と, アドバンス・ケア・プランニング 事前指示書 事前指示書は,ある人が能力を喪失した場合に,医療に関する決断に対しその人のコントロールを及ばせる法律文書である。能力の喪失が起きる以前に希望を表明するため,それらは事前指示書と呼ばれる。このような文書では通常,終末期ケアに関する決定が含まれている。このような終末期の決定について患者と共感的かつ効果的にコミュニケーションを取るには特別な技術が必要であるため,訓練が望ましい。 2つの主要な形式の事前指示書がある:... さらに読む および終末期ケアについて早くから話し合っておくことが重要である。
特発性肺線維症の治療
ピルフェニドンまたはニンテダニブ
酸素投与および呼吸リハビリテーション
ときに肺移植
ピルフェニドンおよびニンテダニブは,抗線維化薬であり,特発性肺線維症の進行を遅らせる(1-3 治療に関する参考文献 特発性肺線維症(IPF)は,特発性間質性肺炎の最も頻度の高い型であり,進行性の肺線維症を引き起こす。症状および徴候は数カ月から数年にわたって発現し,労作時呼吸困難,咳嗽,および捻髪音(ベルクロラ音)などがある。診断は病歴,身体診察,高分解能CTに基づき,必要があれば肺生検を行う。治療法としては抗線維化薬や酸素療法などがある。ほとんどの患者は悪化し,生存期間の中央値は診断から約3年である。... さらに読む )。支持療法には,酸素投与および 呼吸リハビリテーション 呼吸リハビリテーション 呼吸リハビリテーションとは,慢性呼吸器疾患を有する患者の機能を改善し,生活の質を高めるために,運動,教育,行動療法を用いることである。 慢性呼吸器疾患の多くの患者にとって,内科的治療は,疾患の症状および合併症を部分的に軽快させるに過ぎない。呼吸リハビリテーションの包括的プログラムにより,以下のようなかなりの臨床的改善がもたらされる可能性がある: 息切れが減る 運動耐容能が高まる... さらに読む などがある。支援団体に参加することで病気によるストレスが軽減すると感じる患者もいる。
IPFに対する多くの新しい治療法が研究され,治療として検証されている段階であり,適切と考えられる場合は,臨床試験に参加するよう患者に促すべきである。
肺移植 肺移植および心肺同時移植 肺移植または心肺同時移植は,呼吸機能不全または呼吸不全があり,最適な医療にもかかわらず死亡リスクが残る患者における選択肢の1つである。 最も頻度が高い肺移植の適応は以下のものである: COPD 特発性肺線維症 嚢胞性線維症 さらに読む は,他の点では健康な65歳未満のIPF患者で成功率が高い。このような患者に対し,診断時に肺移植の評価を行うべきである。
治療に関する参考文献
1.King TE, Bradford WZ, Castro-Bernardini S, et al: A phase 3 trial of pirfenidone in patients with idiopathic pulmonary fibrosis.N Eng J Med 370:2083-2092, 2014.
2.Raghu G, Rochwerg B, Zhang Y, et al: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline: Treatment of Idiopathic Pulmonary Fibrosis.An Update of the 2011 Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med 192 (2):e3-e19, Jun 15, 2015.
3.Richeldi L, du Bois RM, Raghu G, et al: Efficacy and safety of nintedanib in idiopathic pulmonary fibrosis.N Engl J Med 370:2071–2082, 2014.
特発性肺線維症の要点
特発性肺線維症は特発性間質性肺炎の大部分を占め,高齢者に発生する傾向がある。
症状および徴候(例,亜急性呼吸困難,乾性咳嗽,およびベルクロラ音)は非特異的であり,通常はより頻度の高い他の疾患によって引き起こされるものである。
高分解能CTで,不規則に肥厚した小葉間隔壁および小葉内線状影を伴う胸膜下のびまん性斑状網状陰影,胸膜下の蜂巣肺,ならびに牽引性気管支拡張症などの所見が得られれば,診断に役立つ可能性がある。
治療は支持的に行い,可能であればピルフェニドンまたはニンテダニブを使用する。
臨床試験への参加を促すとともに,患者が65歳未満で他の点では健康であれば,診断の際に肺移植を考慮する。