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肺塞栓症(PE)

執筆者:

Victor F. Tapson

, MD, Cedars-Sinai Medical Center

最終査読/改訂年月 2015年 3月
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肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による1本以上の肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,または心肺停止などがみられる。徴候もまた非特異的であり,頻呼吸,頻脈に加え,より重症例では,低血圧などがみられることがある。肺塞栓症の診断は,CT血管造影,換気・血流比シンチグラフィー,またはときに肺動脈造影により行う。肺塞栓症の治療には,抗凝固薬および,ときに血栓溶解薬による血栓の溶解または外科的除去がある。抗凝固療法の禁忌がある場合は,下大静脈フィルターを留置すべきである。予防法には,抗凝固薬の投与,入院患者の下肢への機械的圧迫装置の装着,これらの併用などがある。

肺塞栓症の推定発症率は10万人年当たり117人であり,したがって,発症数は毎年約35万例(おそらく米国では少なくとも10万例)であり,毎年最大8万5千人が肺塞栓症で死亡している。主に成人に発症する。

病因

ほぼ全ての肺塞栓症が下肢または骨盤の静脈の血栓から生じる(深部静脈血栓症)。血栓が腓腹部の静脈に近い場合,塞栓のリスクがより高くなる。血栓塞栓は腕の静脈または胸部の中心静脈に由来することもある(中心静脈カテーテルまたは胸郭出口症候群に起因する)。

深部静脈血栓症および肺塞栓症の危険因子( 深部静脈血栓症および肺塞栓症の危険因子)は小児および成人で同様であり,以下のものがある:

  • 床上安静や歩行がなく動きが制限されるなど,静脈還流を妨げる状態

  • 内皮の障害または機能不全を引き起こす状態

  • 凝固が亢進する基礎疾患(血栓性疾患)

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深部静脈血栓症および肺塞栓症の危険因子

年齢 > 60歳

ホルモン調節

  • エストロゲン受容体モジュレーター(例,ラロキシフェン,タモキシフェン)

  • 外因性の エストロゲンおよびプロゲスチン(経口避妊薬と エストロゲン療法を含む)

  • 外因性 テストステロン

心不全

不動状態

静脈カテーテル留置

骨髄増殖性疾患(過粘稠)

ネフローゼ症候群

肥満

妊娠/分娩後

血栓塞栓症の既往

鎌状赤血球症

喫煙

脳卒中

血栓性疾患(栓友病)

  • 抗リン脂質抗体症候群

  • アンチトロンビンIII欠乏症

  • 第V因子Leiden変異(活性化プロテインC抵抗性)

  • ヘパリン起因性血小板減少症

  • 線溶系の遺伝的異常

  • 高ホモシスチン血症

  • 第VIII因子の増加

  • 第XI因子の増加

  • von Willebrand因子の増加

  • 発作性夜間ヘモグロビン尿症

  • プロテインC欠乏症

  • プロテインS欠乏症

  • プロトロンビンG20210A遺伝子変異

  • 組織因子経路インヒビターの欠乏または機能障害

外傷/手術

活動性の低下,静脈損傷,または凝固亢進に関連するその他の状態

病態生理

一旦深部静脈血栓が発生すると,その血栓は遊離して静脈系および右心内を通過し,肺動脈に詰まることがあり,それによって1本または複数の血管が部分的または完全に閉塞する。その影響は,塞栓の大きさや数,肺の基礎状態,右室がどれだけ良好に機能するか,および血栓を溶解する身体の内因性血栓溶解能に依存する。死亡は右室不全による。

小さな塞栓は急性の生理学的影響をもたらさないことがあり,すぐに溶解しはじめて数時間または数日のうちに消失する可能性がある。より大きな血栓は,換気の反射的な増加(頻呼吸),換気/血流(V/Q)不均衡による低酸素血症,心拍出量低下による混合静脈血酸素飽和度の低下,肺胞の低炭酸ガス血症およびサーファクタントの異常による無気肺,ならびに機械的閉塞および血管収縮による肺血管抵抗の増加を引き起こしうる。ほとんどの血栓は,中等度の大きさのものでも,内因性溶解によって縮小し,生理学的変化は数時間または数日のうちに軽減する。溶解されず,器質化して残存する血栓もある。

PEは以下のような生理学的影響に応じて分類される:

  • 広範型:低血圧を伴う右室機能障害があり,収縮期血圧が < 90mmHgまたはベースラインからの ≥ 40mmHgの低下が15分以上続くことと定義され,数時間または数日以内の死亡の重大なリスクを示す。

  • 亜広範型:低血圧を伴わない右室機能障害

  • 狭範囲型:右室機能障害も低血圧もみられない

Saddle PEとは,肺動脈幹の分岐部と左右肺動脈に血栓が詰まることであり,saddle PEは通常,亜広範型または広範型である。

3~4%の症例では閉塞が慢性的に残存して 肺高血圧(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)が生じ,それが数年かけて進行し,結果として慢性右心不全に至る可能性がある。

大きな塞栓が主要な肺動脈を閉塞した場合,または多数の小さな塞栓がより遠位の血管の > 50%を閉塞した場合,右室圧が上昇し,その結果急性右室不全,ショック,または突然死に至ることがある。死亡のリスクは右心系の圧の上昇程度と上昇速度,および患者の心肺の基礎状態に左右される。既存の心肺疾患がある患者では死亡のリスクが高いが,若年かつ/またはその他の点で健康な患者は血管床の > 50%を閉塞するPEでも生存できる場合がある。

肺梗塞(肺組織の壊死につながる肺動脈血の遮断であり,胸部X線または他の画像検査でときに胸膜に接する[辺縁に位置する],しばしば楔形の陰影[Hampton hump]がみられる)がPEと診断された患者の < 10%で起こる。この割合の低さは,肺が二重の血液供給(すなわち,気管支動脈および肺動脈)を受けているためである。一般に肺梗塞は,より小さい血栓が,より遠位の肺動脈に詰まることにより起こる。

PEは非血栓性の原因によって生じることもある。

症状と徴候

大部分の肺塞栓症は狭範囲型であり,生理学的に有意ではなく,無症候性である。症状は,現れたとしても非特異的であり,頻度および重症度は様々で,肺血管閉塞の程度および発症前の心肺機能により異なる。

塞栓はしばしば以下の症状を引き起こす:

  • 急性呼吸困難

  • 胸膜性胸痛

呼吸困難は安静時には最小限である場合もあるが,活動時に悪化しうる。

比較的まれな症状として以下のものがある:

  • 咳嗽

  • 喀血

高齢患者では,精神状態の変化が最初の症状である可能性がある。

広範型PEでは,低血圧,頻脈,ふらつき/失神前状態,失神,または心停止が生じる可能性がある。

PEで最も頻度が高い徴候は以下の通りである:

  • 頻脈

  • 頻呼吸

比較的頻度は低いが,低血圧,肺動脈成分の亢進(P2)によるII音の亢進,および断続性ラ音もしくは喘鳴が患者にみられる。右室不全が存在する場合は,内頸静脈怒張および傍胸骨拍動が著明である場合があり,また三尖弁逆流を伴うまたは伴わない右室性奔馬調律(III音)が聴診されることもある。

発熱は,基礎疾患によるものではない限り,認められても通常は微熱である。

肺梗塞の特徴として,典型的には胸痛(主に胸膜性)および,ときに喀血がみられる。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は,右心不全の症候(労作時呼吸困難,易疲労性,および数カ月から数年にわたり発症する末梢浮腫など)を引き起こす。

急性PEの患者は,深部静脈血栓症の症状(すなわち,下肢または腕の疼痛,腫脹,かつ/または紅潮)も示す可能性がある。しかしながら,そのような下肢の症状はみられないことが多い。

診断

  • 強く疑うこと

  • 検査前確率の評価(パルスオキシメトリーおよび胸部X線などの臨床所見に基づく)

  • 検査前確率に基づく検査の施行

症候が非特異的であり,診断検査の感受性および特異度も100%ではないため,診断は困難である。呼吸困難,胸膜性胸痛,喀血,ふらつき,または失神前状態などの非特異的症状がみられる場合,PEを鑑別診断に挙げることが重要である。そのため,以下が疑われる患者では,鑑別診断としてPEを考慮すべきである:

  • 心筋虚血

  • 心不全

  • COPDの増悪

  • 気胸

  • 肺炎

  • 敗血症

  • 鎌状赤血球症の患者における急性胸部症候群(acute chest syndrome)

  • 過換気を伴う急性不安

説明のつかない著明な頻脈が手がかりとなりうる。また,頻呼吸および精神状態に変化のある高齢患者の全例でPEを疑うべきである。

初期評価では,パルスオキシメトリー,および胸部X線を行うべきである。心電図,動脈血ガス分析,またはその両方が,その他の診断(例,急性心筋梗塞)の除外に役立つ可能性がある。胸部X線は通常非特異的であるが,無気肺,限局性浸潤影,一側の横隔膜挙上,または胸水を示すことがある。血管影の局所的な消失(Westermark sign),末梢の楔形陰影(Hampton hump),または右肺動脈下行枝の拡張(Palla sign)などの古典的な所見は示唆的であるが,一般的ではなく(すなわち,感度が低く),特異度は不明である。胸部X線もまた肺炎の除外に役に立つ。PEによる肺梗塞は,肺炎と間違われる可能性がある。

パルスオキシメトリーは,酸素飽和度を評価する迅速な方法である;低酸素血症はPEの1つの徴候であり,さらなる評価が必要である。動脈血ガス分析は肺胞気-動脈血酸素分圧(A-a)較差(ときにA-a gradientと呼ばれる)の増大または低炭酸ガス血症を示すことがある;これらの検査のうち1つまたは両方によるPEの検出感度は中程度であるが,いずれの検査も特異度は低い。動脈血ガス分析は,呼吸困難または頻呼吸があり,パルスオキシメトリーで検出される低酸素血症がない患者で特に考慮すべきである。血栓量(clot burden)が少ない,または代償的過換気によって,酸素飽和度は正常である場合がある;動脈血ガス分析でpCO2が極めて低ければ,過換気と確定できる。

心電図は,しばしば頻脈および様々なST-T波異常を示すが,これはPEに特異的なものではない( 肺塞栓症における心電図)。S1Q3T3または新たな右脚ブロックは,右室圧の突然の上昇が右室伝導に与える影響を示していることがあるが,これらの所見の特異度は中等度であるが感度は低く,約5%の患者でしかみられない。右軸偏位(V1においてR > S)および肺性P波が認められることがある。また,V1からV4誘導ではT波逆転もみられる。

肺塞栓症における心電図

急性肺塞栓症があると証明された患者の心電図では,110/分の洞頻拍,S1Q3T3,およびV1における R = Sがみられる。

肺塞栓症における心電図

臨床確率

PEの臨床確率(clinical probability)は,病歴および身体所見と心電図および胸部X線所見を併せて評価する。Wellsスコア,改訂ジュネーブスコア,またはPulmonary Embolism Rule-Out Criteria (PERC)スコアなどの臨床予測スコアは,急性PEが存在する可能性の評価に役立つことがある。これらの評価システムは,多様な臨床因子に点数を割り付け,検査前のPEの確率(検査前確率)に名称をつけてその累積スコアを対応させたものである。例えば,Wellsスコアの結果はPEの可能性が高いか,または可能性が低いかに分類される。しかしながら,PEの可能性が他の診断より高いかどうかの判断は,やや主観的である。また,経験豊富な医師の臨床判断が,このような予測スコアと同等の,またはより高い感度をもつ可能性もある。1つまたは複数の症候(特に呼吸困難,喀血,頻脈,または低酸素血症)が臨床的に,または胸部X線により説明できない場合は,おそらくPEの可能性がより高いと考えるべきである。

検査前確率は検査計画および検査結果の解釈の指針となる。PEの確率が低い患者では,最小限の追加検査(すなわち,Dダイマー検査)のみが必要と考えられる。そのような症例では,Dダイマー検査が陰性(< 0.4μg/mL)であれば,PEではないことを強く示唆する。PEの臨床的疑いが高く,出血リスクが低い場合,追加検査を行い診断確定を進めながら,直ちに抗凝固薬を投与すべきである。

診断検査

  • 検査前確率が低ければ,Dダイマー検査によるスクリーニング

  • 検査前確率が高い,またはDダイマーが上昇していれば,CT血管造影,または造影CTが禁忌の場合はV/Qシンチグラフィー

  • ときに(例,肺の画像検査を避けるため)下肢または腕のみの超音波検査

急性肺塞栓症の疑い症例へのアプローチとして,普遍的に容認されているアルゴリズムはない。PEの診断または除外に最も有用な検査は以下の通り:

  • Dダイマー検査

  • CT血管造影

  • V/Qシンチグラフィー

  • Duplex法による超音波検査

Dダイマーは,内因性フィブリン溶解の副産物である;したがって,その高値は最近の血栓の存在を示唆する。検査前確率が低いと考えられる場合,Dダイマー値が陰性 (< 0.4μg/mL)であることは,PEがないことに対して感度が高く,陰性適中率は95%を超える;したがって,大抵の場合,日常診療においてPEの診断を除外する上では,このような検査結果は十分に信頼することができる。しかしながら,深部静脈血栓症(DVT)やPEがない状態でも検査値が高い患者は多いため,検査値の上昇は静脈血栓に対して特異的ではなく,それゆえDダイマー値が高いかまたはPEの検査前確率が高い場合は,さらなる検査が必要である。

CT血管造影は,急性PEの診断に望ましい画像手技である。迅速かつ正確で,感度および特異度が非常に高い。肺の他の病態に関するさらなる情報(例,低酸素症または胸膜性胸痛の原因がPEではなく肺炎であることが示される)を得られる。動きによるアーチファクトによる画質の低下または不十分な造影剤ボーラスによって検査の感度が制限されうるが,CTテクノロジーの向上により撮像時間が2秒以下に短縮され,呼吸困難のある患者でも比較的動きのない画像が得られる。撮影時間が短いため,使用するヨード造影剤の量が少なくなり,その結果急性腎障害のリスクが減少する。

CT血管造影は,肺動脈幹ならびに肺葉および区域の血管のPEに対する感度が最も高い。また,CT血管造影は亜区域の血管の塞栓(全てのPEの約30%)に対する感度が最も低い。しかしながら,テクノロジーの向上に伴い,CT血管造影の感度および特異度は改善している。

PEにおけるV/Qシンチグラフィーは換気があるが血流を欠く肺の領域を検出する。V/QシンチグラフィーはCT血管造影より時間がかかり,特異度もより低い。しかしながら,胸部X線所見が正常またはほぼ正常で,基礎に重大な肺疾患がなければ,感度の高い検査である。V/Qシンチグラフィーは,腎機能不全のためCT血管造影に必要な造影剤を使えない場合に,特に有用である。また,状態があまりに不安定なためにCTを施行できない患者には,血流シンチグラフィーは持ち運びで施行できるため有用である。V/Q不均衡のパターンに基づいて,検査結果は,PEの確率が低,中,または高のいずれかの形で報告される。画像結果が完全に正常であれば,ほぼ100%の精度でPEを除外するが,確率が低の場合,PEの可能性は依然として15%である。血流欠損は,その他の多くの肺の病態(例,COPD,肺線維症,肺炎,胸水)でも起こる可能性がある。不均衡を示す血流欠損でPEに類似している所見は,肺血管炎,肺静脈閉塞症,およびサルコイドーシスなどでみられる場合がある。

中等度確率のシンチグラフィーでは,PEの可能性は30~40%であり,高確率の画像では,PEの可能性は80~90%である。このような状況では,治療またはさらなる検査の必要性を判断するため,臨床的な確率検査の結果を画像検査の結果とともに用いなければならない。

duplex法による超音波検査は,下肢または腕(特に大腿静脈)の血栓を検出する上で,安全かつ非侵襲的な検査であり,装置は持ち運び可能である。静脈の圧縮性が乏しいこと,またはドプラ超音波で血流が低下していることにより,血栓を検出できる。この検査は血栓に対して > 95%の感度および > 95%の特異度を有する。腓腹部または腸骨の静脈におけるDVTの確認はさらに困難である可能性がある。超音波技師は,常に膝窩静脈の下から3枝に分かれる箇所まで画像化するよう試みるべきである。

大腿静脈に血栓が認められないことにより,他の血栓源を除外するわけではないが,他の血栓源である頻度ははるかに低いため,DVTの疑いがありduplex法によるドプラ超音波検査が陰性である患者のイベントフリー生存率は > 95%である。

下肢または腕の超音波検査はPEの診断に有用ではない;下肢または腋窩鎖骨下の血栓が明らかになれば抗凝固療法の必要性は確定するが,より積極的な治療(例,血栓溶解療法)が考慮されていなければ,それ以上の診断検査は不要としてもよい。そのことから,超音波検査で下肢または腕におけるDVTの検出後に診断評価を中止することは,状態が安定している患者で造影CTが禁忌であり,かつV/Qシンチグラフィーで高い感度が期待されない場合(例,胸部X線に異常がある場合)に極めて適切である。急性PEの疑いがある場合は,超音波検査が陰性でも,追加検査の必要性は否定されない。

パール&ピットフォール

  • 急性肺塞栓症の疑いがある場合は,超音波検査により静脈血栓を認めない場合でも,PEは除外されない。

心エコー検査は右房または右室の血栓を示す可能性があるが,最も一般的には急性PEのリスク層別化に使用される。右室拡大および壁運動低下の存在は,より積極的な治療の必要性を示唆している可能性がある。

心筋マーカー検査は,急性PEの患者の死亡リスクを層別化する有用な方法として進化しつつある。心筋マーカー検査はPEの疑いがある,またはその存在が証明された際の,補助的検査として使用できる。トロポニン値の上昇は,右室(またはときに左室)の虚血を意味する。脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびpro-BNP値の上昇は,右室機能障害を意味する可能性があるが,これらの検査は右室系またはPEに対して特異的ではない。

血栓性疾患(栓友病)の検査は,PEがあり,既知の危険因子のない患者に行うべきであり,特に35歳未満,繰り返すPE,または家族歴が陽性の場合に実施すべきである。

非侵襲的なCT血管造影で同様の感度および特異度が得られるため,現在では急性PEの診断に肺動脈造影が必要とされることはほとんどない。しかしながら,カテーテル血栓溶解療法を受けている患者では,肺血管造影がカテーテル留置の評価に用いられているほか,手技の成功を迅速に確認する方法としてカテーテル抜去時に施行されることもある。肺動脈造影はまた,慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者が肺動脈内膜摘除術の適応となるかを評価するため,右心カテーテルとともに使用される。

予後

PE患者の推定10%が,発症後最初の数時間以内に死亡する。急性PEの結果死亡する患者の多くは,死亡前に一度もPEを診断されることはない。実際,これらの患者の大半でPEは疑われていない。死亡率を下げるために取りうる最善の策は以下の通りである:

  • 診断頻度を増やす(例,非特異的ながらPEに合致する症候がみられる場合は,鑑別診断にPEを含める)

  • 診断および治療開始の速度を上げる

  • リスクのある患者に適切な予防策を講じる

慢性血栓塞栓症の患者は,少数ではあるが重要な生存するPEの患者である。抗凝固療法は,全患者においてPE再発率を約5%にまで低下させる。

一般的治療

  • 支持療法

  • 抗凝固療法

  • ときに下大静脈フィルター留置術

  • ときに血栓量(clot burden)の迅速な減量

支持療法の必要性に対する迅速な評価を行うべきである。低酸素血症の患者には,酸素を投与すべきである。広範型PEによる低血圧がある患者には,生理食塩水を静脈内投与してもよい。輸液によって十分に血圧を上げられない場合は,昇圧薬を投与することもある。

抗凝固療法はPE治療の中心であり,低血圧のある患者,および右室機能障害を伴う選択された患者には,血栓溶解療法または塞栓除去術による 血栓量(clot burden)の迅速な減量が適応となる。抗凝固療法が禁忌の患者,または抗凝固療法の施行にもかかわらずPEを再発する患者には,抜去可能な経皮的下大静脈フィルター(IVCF)の留置を考慮すべきである。

PEが強く疑われる,またはPEの診断が確定した患者はほとんどの場合,少なくとも24~48時間は入院させるべきである。バイタルサインの異常,または広範型もしくは亜広範型PEの患者では,より長期間の入院が必要である。広範な血栓量(clot burden),右室の機能低下,かつ/または著明な頻脈がある患者に対しては,ICU入室基準を極めて低く設定すべきである。

広範型PEは常にICU入室が必要である。PEが偶然発見された患者,または血栓量(clot burden)が極めて少なく症状が最小限の患者は,バイタルサインが安定しており,外来治療およびフォローアップの妥当な計画が存在すれば外来で管理してもよい。

抗凝固療法

初期抗凝固療法およびその後の抗凝固維持療法は急性PEの患者に適応となり,新たな血栓の形成はもちろんのこと,血栓の伸展およびさらなる塞栓を予防する目的で行われる。出血リスクが低いとみなされる限り,PEが強く疑われる場合は常に,急性PEのための抗凝固療法を開始すべきである。あるいは,診断され次第速やかに抗凝固療法を開始すべきである。小さな,亜区域レベルの血管内の塞栓(特に無症状で偶然発見された塞栓)の治療における,便益および害の可能性は現在のところ不明であり,害が便益にまさるという可能性が懸念されている。しかしながら,それでも現在のところ治療は推奨されている。抗凝固療法の主要な合併症は出血であり,入院中は出血がないか患者を注意深く観察すべきである。

初期抗凝固療法

急性PEに対する初期抗凝固療法の選択肢は以下の通りである:

  • 未分画ヘパリンの静脈内投与

  • 低分子ヘパリンの皮下投与

  • フォンダパリヌクスの皮下投与

  • 第Xa因子阻害薬(アピキサバンおよびリバーロキサバン)

  • ヘパリン起因性血小板減少症の患者に対しアルガトロバンの静脈内投与

静脈内投与による未分画ヘパリンは,半減期が短く(出血の可能性が通常より高いと考えられる場合に有用である),プロタミンで中和できる。未分画ヘパリンの初回ボーラス投与後,APTTが正常値の1.5~2.5倍となるようプロトコルに指定された用量でヘパリンの点滴を行うべきである( 体重に基づくヘパリンの用量設定)。そのため,未分画ヘパリンを投与する際は,入院が必要である。さらに,未分画ヘパリンの薬物動態は比較的予測が難しく,結果として抗凝固作用が過剰な時期と過少な時期がしばしば生じるため,頻回の用量調節が必要となる。それにもかかわらず,多くの医師がこの未分画ヘパリンの静脈内投与を好むが(特に血栓溶解療法の施行または検討時,もしくは患者に出血リスクがある場合),その理由はもし出血が起きたとしても,半減期が短いために投与中止後すぐに抗凝固効果が消失するためである。

体重に基づくヘパリンの用量設定

体重に基づくヘパリンの用量設定

低分子ヘパリンの皮下投与は未分画ヘパリンに比較して以下のような長所がある:

  • 優れた生物学的利用能

  • 体重に基づく用量の低分子ヘパリンは,体重に基づく用量の未分画ヘパリンに比べ,抗凝固効果が予測しやすい

  • 投与が簡便である(1日1回または2回の皮下投与で済む)

  • 出血の発生率が低い

  • おそらく転帰がより良好である

  • 患者による自己注射が可能である(そのためより早く退院できる)

  • 標準である未分画ヘパリンに比べ,ヘパリン起因性血小板減少症を起こすリスクが低い

腎機能不全のある患者では,用量減量が必要であり( 血栓塞栓性疾患における低分子ヘパリン*の選択肢),血清第Xa因子濃度の測定により用量が適切であるかを検証する(目標濃度:4回目投与後3~4時間の時点の測定で,0.5~1.2IU/mL)。低分子ヘパリンは一般に重度の腎機能不全のある患者(クレアチニンクリアランス < 30mL/min)では禁忌である。低分子ヘパリンの作用は部分的にプロタミンで中和できる。

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血栓塞栓性疾患における低分子ヘパリン*の選択肢

低分子ヘパリン

治療用量

予防用量

ダルテパリン

100単位/kg,scを12時間毎または200単位/kgを1日1回†, ‡

2500~5000単位を1日1回

エノキサパリン

1mg/kg,scを12時間毎,または1.5mg/kg,scを1日1回§

腹部手術後:40mg,scを1日1回

人工股関節置換術後:40mg,scを1日1回または30mg,scを12時間毎;人工膝関節置換術後:30mg,scを12時間毎

不安定狭心症または非Q波心筋梗塞:1mg/kg,scを12時間毎

手術を受けていないその他の(内科)患者:40mg,scを1日1回

チンザパリン

175単位/kg,scを1日1回(PEの有無を問わない)

3500単位を1日1回

*未分画ヘパリンの用量については, 体重に基づくヘパリンの用量設定を参照のこと

:低分子ヘパリンは持続静注による投与も可能であるが,この投与形態が必要または適応になることはまれである。患者を仰臥位にして,腹部領域に皮下注射により投与する。

癌の患者では,ダルテパリン200単位/kgを1日1回,治療の最初の30日間投与する。

腎機能不全を呈する患者では,ダルテパリンの用量を再評価すべきである。

§腎機能不全のある患者(クレアチニンクリアランス < 30 mL/min)では,エノキサパリンを減量または中止すべきである。

腎機能不全のある患者では,チンザパリンは慎重投与すべきであるが,特定の推奨用量はない。

PE = 肺塞栓症,sc = 皮下投与

全てのヘパリンの有害作用は以下の通りである:

  • 出血

  • 血小板減少(血栓塞栓の可能性があるヘパリン起因性血小板減少症を含む)

  • 蕁麻疹

  • アナフィラキシー(まれ)

未分画ヘパリンによるヘパリン過剰を原因とする出血は,未分画ヘパリン5000単位に対し最大50mgのプロタミンを15~30分間点滴することで止めることができる。低分子ヘパリンによるヘパリン過剰は,プロタミン1mgを生理食塩水20mLに加えた溶液を10~12分間点滴することで治療できるが,プロタミンは,低分子ヘパリンによる第Xa因子の不活性化を部分的にしか中和しないため,正確な用量は定義されていない。

フォンダパリヌクスはさらに新しい第Xa因子拮抗薬である。急性DVTにおいて,ヘパリンまたは低分子ヘパリンの代わりに使用できる。また,表在静脈血栓症の患者において,再発を予防することが示されている。転帰は未分画ヘパリンを使用した場合と同様と考えられる。長所は,1日1回または2回の固定用量の投与で済むこと,抗凝固効果のモニタリングを行う必要がないこと,また血小板減少を起こすリスクがより少ないことなどである。用量(mg/kgで,1日1回投与)は,< 50kgの患者では5mg,50~100kgの患者では7.5mg,> 100kgの患者では10mgである。クレアチニンクリアランスが30~50mL/minの場合,フォンダパリヌクスの用量を50%減量する。この薬剤はクレアチニンクリアランスが < 30mL/minの場合,禁忌である。

その他の新しい第Xa因子阻害薬にはアピキサバンおよびリバーロキサバンがあり,長所として,経口の固定用量があること, 抗凝固維持療法として使用できること,および抗凝固効果のモニタリングを行う必要がないことなどが挙げられる。これらは他の薬剤との有害な相互作用もほとんど起こさないが,アゾール系抗真菌薬および特定のHIV治療薬は特定の第Xa因子阻害薬の濃度を上昇させ,特定の抗てんかん薬およびリファンピシンは,特定の第Xa因子阻害薬の濃度を低下させる。

腎機能不全のある患者は,用量減量の適応となる。しかしながら(ヘパリンと異なり),出血が起こってもこれらの薬剤の抗凝固効果を中和するために迅速に使用できる拮抗薬が存在しない。それでも,これらの薬剤の半減期はワルファリンのそれよりもはるかに短い。中和を必要とする出血が生じた場合,4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤の使用を考慮すべきであり,血液科へのコンサルテーションが推奨される。心肺の代償不全を合併したPE患者における,これらの薬剤の安全性および効力はまだ研究されていない。

直接トロンビン阻害薬であるダビガトランおよび第Xa因子阻害薬であるエドキサバンはともに急性DVTの治療に効果的であることが証明されている。しかしながら,これらの薬剤の使用は非経腸治療の5~10日後の移行期に行われるべきであり,またPEの患者における初期抗凝固療法での単独使用についてはまだ研究されていない。

最後に,ヘパリン起因性血小板減少症が疑われるか,その診断が確定した患者では,抗凝固療法としてアルガトロバンの静脈内投与またはフォンダパリヌクスの皮下投与を行うことができ,lepirudinはもはや入手できなくなっている。新しい経口抗凝固薬の,ヘパリン起因性血小板減少症の患者における使用については,まだ研究されていない。

抗凝固維持療法

抗凝固維持療法は,血栓の伸展および塞栓のリスクを減少させるため,ならびに新たな血栓形成のリスクを減少させるために適応となる。抗凝固維持療法の薬剤の選択肢は以下の通りである:

  • 経口ビタミンK拮抗薬(米国ではワルファリン)

  • 経口第Xa因子阻害薬(アピキサバン,リバーロキサバン,エドキサバン)

  • 経口直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)

  • 低分子ヘパリンの皮下投与,主に高リスクの癌患者またはその他の抗凝固薬にもかかわらずPEを再発する患者

ワルファリンは,長期間投与する効果的な経口抗凝固薬であり,数十年にわたって使用されている。ほとんどの患者で,ワルファリンは初期抗凝固療法に用いられるヘパリン(またはフォンダパリヌクス)と同じ日に開始される。ヘパリン(またはフォンダパリヌクス)療法とワルファリン療法は少なくとも5日間,かつINRが少なくとも24時間治療域(2.0~3.0)にとどまるまで,併用すべきである。

ワルファリンの主な短所は,定期的なINRモニタリングの必要性,頻繁な用量調節,および薬物相互作用である。ワルファリンを処方する医師は薬物相互作用に注意すべきであり,ワルファリンを服用している患者では,実質的に新しく開始する全ての薬剤をチェックすべきである。

出血はワルファリン治療の最も頻度の高い合併症であり,65歳以上の患者,ならびに併存症(特に糖尿病,最近の心筋梗塞,Hct < 30%,またはクレアチニン > 1.5mg/dL)および脳卒中または消化管出血の既往がある患者は,リスクが最も高いと考えられる。出血は,ビタミンK2.5~10mgの静注または経口投与にて止血でき,また緊急の場合は新鮮凍結血漿または,新しい濃縮製剤(第II因子[プロトロンビン],第VII因子,第IX因子,第X因子,プロテインC,およびプロテインSを含むプロトロンビン複合体濃縮製剤)を用いて止血できる。ビタミンKは,紅潮,局所痛,およびまれにアナフィラキシーを引き起こすことがある。

ワルファリン誘発性の皮膚壊死は,ワルファリン治療の深刻な合併症であり,ヘパリン起因性血小板減少症の患者で,血小板数が回復する前にワルファリンを開始した場合に生じうる。このような考慮点およびより簡便な経口抗凝固薬が開発されていることに基づくと,ワルファリンの使用量は,今後数年の間にかなり減少する可能性が高い。

パール&ピットフォール

  • ワルファリンを服用している患者では,実質的に新しく開始する全ての薬剤について,相互作用の可能性がないかチェックすべきである。

経口第Xa因子阻害薬であるアピキサバンおよびリバーロキサバンは,初期抗凝固療法としても抗凝固維持療法としても使用できる( 経口抗凝固薬)。これらの薬剤は固定用量があり,抗凝固効果のモニタリングを行う必要がないためワルファリンよりも便利であるが,(ヘパリンおよびワルファリンとは異なり)出血が起こった場合,抗凝固効果を中和するために即座に利用できる対策が存在しない。臨床試験では,リバーロキサバンおよびアピキサバンのいずれも,ワルファリンに比べて大出血の発生率が有意に低かった。

別の第Xa因子阻害薬であるエドキサバンは,急性深部静脈血栓症およびPEの治療,ならびに抗凝固維持療法に使用できる。5~10日間のヘパリンまたは低分子ヘパリンによる初期治療後にエドキサバンを投与する。

直接トロンビン阻害薬であるダビガトランも,抗凝固維持療法に使用できる。5~10日間の未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリンによる治療後にダビガトランを投与する。

エドキサバンおよびダビガトランを投与する際のヘパリンによる初期療法の必要性は,単に臨床試験がそのように実施されたことを反映しているに過ぎないと考えられる。ダビガトランまたはエドキサバンの方がワルファリンよりも臨床的に重要な出血は少なかった。エドキサバンおよびダビガトランを維持療法に使用することの長所および短所は,第Xa因子阻害薬であるアピキサバンおよびリバーロキサバンの場合と同じである。

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経口抗凝固薬

薬剤

用量

備考

第Xa因子阻害薬

アピキサバン

10mg,経口で1日2回を7日間

その後5mg,経口で1日2回

エドキサバン

60mg,経口で1日1回

クレアチニンクリアランスが15~50mL/min,または体重 ≤ 60kgの場合,30mg,経口で1日1回

ヘパリンによる5~10日間の初期治療が必要である。

クレアチニンクリアランスが < 15 mL/minの場合,エドキサバンは使用すべきではない。

フォンダパリヌクス

体重が < 50kgの場合:5mg

患者が50~100kgの場合:7.5mg

体重が > 100 kgの場合:10mg

クレアチニンクリアランスが30~50mL/minであれば,フォンダパリヌクスの用量を50%減量する。

クレアチニンクリアランスが < 30mL/minの場合,この薬剤は禁忌である。

リバーロキサバン

15mg,経口で1日2回を21日間,食事とともに服用

その後20mg,経口で1日1回,食事とともに服用

クレアチニンクリアランスが < 30mL/minの場合,DVTに対してリバーロキサバンを使用すべきではない。

第IIa因子(トロンビン)阻害薬

ダビガトラン

150mg,経口で1日2回

ヘパリンによる5~10日間の初期治療が必要である。

クレアチニンクリアランスが < 30mL/minの場合,DVTに対しダビガトランを使用すべきではない。

アスピリンの長期維持療法における使用が研究されている。プラセボよりは効果的であるが,使用可能な他の抗凝固薬のいずれよりも効果的でないようである。

抗凝固療法の期間

PEに対する抗凝固維持療法の期間は多様な因子(例,PEの危険因子,出血リスク)に依存し,3カ月から生涯にわたる投与まで幅がある。危険因子が明らかに一時的な場合(例,不動状態,最近の手術,外傷),抗凝固療法は3カ月のみでよい。誘因のないPEの患者,より持続的なPEの危険因子(例,癌,血栓性疾患)がある患者,およびPEが再発する患者には,出血リスクが軽度または中等度であれば,生涯にわたる抗凝固療法が有益となりうる。

出血の危険因子としては以下のものがある:

  • 65歳以上

  • 出血の既往

  • 血小板減少

  • 抗血小板療法

  • 抗凝固作用のコントロール不良

  • 頻繁な転倒

  • 肝不全

  • アルコール乱用

  • 最近の手術

  • 呼吸機能低下

  • 脳卒中の既往

  • 糖尿病

  • 貧血

  • 腎不全

出血低リスクは,出血の危険因子がないことと定義され,出血中等度リスクは,危険因子が1つあることと定義され,出血高リスクは,危険因子が2つ以上あることと定義される。

血栓量(clot burden)の迅速な減量

低血圧を伴う急性PE(広範型PE)に対しては,塞栓除去術,もしくは点滴静注による溶解またはカテーテル血栓溶解療法を用いた血栓除去を考慮すべきである。低血圧で昇圧薬を必要とする患者は明らかな対象である。収縮期血圧 < 90mmHgが少なくとも15分間持続する患者は,血行動態が損なわれており,このような患者もまた対象である。

非常に軽度の右室機能障害の患者(臨床,心電図,または心エコー検査の所見に基づく)には,一般に抗凝固単独療法が推奨されるが,右室の障害が重度であれば,たとえ低血圧がなくても,血栓溶解療法または塞栓除去術が必要となりうる。

全身的血栓溶解療法

アルテプラーゼ(組織プラスミノーゲンアクチベーター[tPA]),ストレプトキナーゼ,またはウロキナーゼによる全身的な血栓溶解療法は,急速に肺血流量を回復するための非侵襲的な方法であるが,長期的な便益が出血リスクに明らかに勝るわけではないため,議論がある。にもかかわらず,血行動態が損なわれている患者,特にそれが重度である患者には,全身的血栓溶解療法を行うべきであることをほとんどの専門家は認めている。亜広範型PE患者における全身的血栓溶解療法による生存率の改善を証明したランダム化臨床試験は全くないが,一部の専門家は血栓溶解療法を推奨しており,多数または大きな血栓,非常に重度の右室機能障害,著明な頻脈,有意な低酸素血症,およびその他の付帯所見(下肢の残存血栓,トロポニン陽性,BNP高値など)が認められる場合は特に推奨される。その他の専門家は,広範型PE患者にのみ血栓溶解療法を施行している。

血栓溶解療法の絶対的禁忌としては以下のものがある:

  • 出血性脳卒中の既往

  • 1年以内の虚血性脳卒中

  • 活動性の外出血または内出血(出血源を問わない)

  • 2カ月以内の頭蓋内損傷または手術

  • 頭蓋内腫瘍

相対的禁忌としては以下のものがある:

  • 最近の手術(10日以内)

  • 出血性素因(肝機能不全でみられるような)

  • 妊娠

  • 圧迫困難な太い静脈(例,鎖骨下静脈,内頸静脈)に対する最近の穿刺

  • 最近の大腿動脈カテーテル(例,10日以内)

  • 消化性潰瘍またはその他の出血リスクを高める病態

  • 重症高血圧(収縮期血圧 > 180mmHgまたは拡張期血圧 > 110mmHg)

血栓溶解療法を施行しなければ死亡が予想される場合は,「絶対的禁忌」がある広範型PEの患者に対して,脳内出血が併存している場合を除き,この治療がときに実施される。相対的禁忌の患者では,全身的血栓溶解療法を行うかどうかの決定は個々の患者因子に依存する。

全身的血栓溶解療法の選択肢としては,ストレプトキナーゼ,ウロキナーゼ,アルテプラーゼ( 全身的血栓溶解療法のレジメン)などがある。

どの薬剤も他に勝ることは証明されていないが,ストレプトキナーゼの使用はまれであり,アレルギー反応および発熱反応のリスクがあること,ならびに投与の際は12~24時間に及ぶ持続静注を要することがその理由である。また,アルテプラーゼは他の薬剤に比べて投与時間が短いため,使用頻度がより高い。tenecteplaseは急性PEに対する使用について研究が継続されている。米国では,全身的血栓溶解療法施行時には,ヘパリンは初回負荷投与後に通常中止する。しかしながら欧州では,ヘパリンはしばしば継続され,どちらの方法が望ましいかについて明らかな決定はなされていない。

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全身的血栓溶解療法のレジメン

薬剤

標準レジメン

アルテプラーゼ*

100mgを2時間かけて持続注入

ストレプトキナーゼ

250,000単位を30分かけて静注

その後,100,000単位/時を24時間かけて静注

ウロキナーゼ

4400単位/kgを10分かけて静注

その後,4400単位/kg/hを12時間かけて静注

*アルテプラーゼはより低用量(50mg静注)でも,標準用量である100mg静注と同程度の有効性があり,出血の合併がより少なくなることを示唆するデータがある。

もし出血が起こった場合は,クリオプレシピテートまたは新鮮凍結血漿により止血できる。出血源の血管に到達可能である場合は,圧迫してもよい。全身的血栓溶解療法後の出血の可能性により,はるかに少量の血栓溶解薬の使用で済むカテーテル血栓溶解療法の実施頻度が増加してきている。

カテーテル治療

カテーテルによるPE治療(血栓溶解療法,塞栓除去)では,血栓の破砕かつ/または溶解のためカテーテルを肺動脈に留置する。これは広範型PEの治療に用いられる。亜広範型PEの治療へも適応が拡大されつつある。ランダム化臨床試験を含む今日までの研究で,このアプローチにより抗凝固療法単独の場合に比べて24時間時点のRV/LV比が改善することが実証されている。全身的血栓溶解療法と比較した場合のカテーテル治療の結果および安全性は調査中である。

PEに対するカテーテル血栓溶解療法では,典型的な右心カテーテル/肺動脈造影手技により肺動脈に到達し,カテーテルを介して近位の大きな塞栓へと血栓溶解薬を流し込む。最も広く研究されている手法では,血栓溶解薬の投与を容易にするために高周波低出力の超音波を使用している。超音波は,フィブリン線維を分解し,溶解薬の血栓への浸透性を増強することで,血栓溶解過程を加速する。

その他の手技には過流型カテーテルを用いた塞栓除去術(catheter-directed vortex suction embolectomy)があり,ときに体外バイパスと併用される。この手技は,より径の大きいカテーテルを必要とし,吸引した血液を静脈内(通常大腿静脈)へ戻さなければならないという点で,全身的血栓溶解療法およびカテーテル血栓溶解療法とは異なる。下大静脈,右房,または右室通過血栓(thrombi-in-transit),ならびに極めて近位の急性PEの患者が対象として最適である。静脈-動脈の体外式膜型人工肺(ECMO)は,他にどのような治療法を用いているかにかかわらず,急性PEの重症患者におけるレスキュー処置として利用することができる。

外科的塞栓除去術

外科的塞栓除去術は,支持療法にもかかわらず低血圧の続く患者(輸液療法および酸素投与後も収縮期血圧 90mmHgが持続する患者,または昇圧薬投与を要する患者),または心肺停止寸前の患者にのみ行うべきである。外科的塞栓除去術は,血栓溶解療法が禁忌の場合に考慮すべきである;そのような場合には,外科的塞栓除去術の前に過流型カテーテルを用いた塞栓除去術が考慮され,また設備および専門知識の有無にもよるが,試行されることもある。外科的塞栓除去術によって広範型PE患者の生存率は向上するようであるが,広く利用可能なわけではない。カテーテルによる塞栓/血栓除去と同様,塞栓除去術を施行する決断および手技の選択は,その施設の設備および専門知識の有無に依存する。

予防

急性静脈血栓塞栓症の予防

PEの予防はすなわち,深部静脈血栓症(DVT)の予防である;その必要性は患者のリスクに依存し,具体的には以下の通りである:

  • 手術の種類および所要時間

  • 癌および凝固亢進疾患などの,併存疾患

  • 中心静脈カテーテルの存在

  • DVTまたはPEの既往

寝たきりの患者や外科手術(特に整形外科)を受ける患者には有益であり,そのような患者の大部分は,血栓が形成される前に同定できる( 血栓症のリスク評価)。予防法として,低用量未分画ヘパリン,低分子ヘパリン,ワルファリン,フォンダパリヌクス,経口抗凝固薬(リバーロキサバン,アピキサバン,ダビガトラン),圧迫装置,および弾性ストッキングなどがある。

薬剤および装置の選択は多様な要因に依存し,患者集団,既知のリスク,禁忌(例,出血リスク),相対的費用,および簡便さなどを考慮する。American College of Chest Physiciansが発行した,急性DVT予防に関するエビデンスに基づく包括的推奨策には,手術患者および非手術患者,ならびに妊娠中における予防期間などが記載されている(The American College of Chest Physicians Guidelines on Prevention of Thrombosis)。予防の必要性は,数多くの患者集団を対象に研究されている。

手術の種類および患者固有の因子がDVTのリスクを決定する。独立した危険因子としては以下のものがある:

  • 年齢 60歳

  • DVTまたはPEの既往

  • 2 時間の麻酔

  • 4日の安静臥床

  • 男性

  • ≥ 2日の入院

  • 敗血症

  • 妊娠または分娩後

  • 中心静脈路

  • BMI > 40

Capriniスコアは,手術患者におけるDVTリスクの層別化,およびDVT予防の必要性の決定に一般的に使用される。( 血栓症のリスク評価)。

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血栓症のリスク評価

危険因子

スコア

年齢(歳)

41~60

1

60~74

2

≥ 75

3

手術

今回入院中の小手術

1

過去1カ月以内の大手術

1

今回入院中の関節鏡手術

2

今回入院中の45分を超える大手術

1

今回入院中の45分を超える腹腔鏡手術

2

今回入院中の待機的下肢関節形成術(大手術)

5

併存する病態

静脈瘤*

1

炎症性腸疾患

1

下肢浮腫(現存)

1

肥満(BMI > 25)

1

急性心筋梗塞

1

過去1カ月以内の心不全

1

過去1カ月以内の敗血症

1

過去1カ月以内の重篤な肺疾患

1

肺機能異常(例,COPD)

1

中心静脈路

2

癌(現存または既往)

2

DVT/PEの既往

3

血栓症の家族歴

3

第V因子Leiden変異

3

プロトロンビン20210A変異

3

血清ホモシステイン値の上昇

3

ループスアンチコアグラント陽性

3

抗カルジオリピン抗体上昇

3

ヘパリン起因性血小板減少症

3

その他の先天性または後天性の栓友病

3

過去1カ月以内の脳卒中

5

過去1カ月以内の多発外傷

5

過去1カ月以内の急性脊髄損傷/麻痺

5

不動状態

現在の床上安静(内科患者)

1

> 72時間の床上安静

2

過去1カ月以内のギプス固定

2

過去1カ月以内の股関節,骨盤,または下肢骨折

5

女性における付加的な危険因子

経口避妊薬の使用またはホルモン補充療法

1

過去1カ月以内の妊娠または分娩

1

説明のつかない死産,繰り返す自然流産(3回以上),妊娠中毒症を伴う早産または児の成長障害の既往

1

その他

その他の危険因子

1

*重篤な肺疾患には肺炎を含む。

血栓症の家族歴は,最もよく見逃される危険因子である。

その他の危険因子には,BMI > 40,喫煙, インスリンを必要とする糖尿病,化学療法,輸血,および2時間を超える手術などがある。

Data from Gould MK, Garcia DA, Wren SM, et al: Prevention of VTE in Nonorthopedic Surgical Patients Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines. Chest141(2_suppl): , 2012, e227S.

BMI = body mass index;COPD = 慢性閉塞性肺疾患;DVT = 深部静脈血栓症;PE = 肺塞栓症。

DVT予防の必要性は,リスク評価スコアに基づく( Capriniスコアに基づく予防)。適切な予防法は,早期離床からヘパリンの使用まで合計スコアによって様々である。

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Capriniスコアに基づく予防

点数

リスク

予防

0

極めて低い

早期離床

1~2

連続圧迫装置(Sequential compression device[SCD])

3~4

中等度

ヘパリンを8時間毎または低分子ヘパリン +/- SCD

≥ 5

高い

ヘパリンまたは低分子ヘパリン + SCD

肺塞栓症予防のための薬剤レジメン

DVT予防のための薬物療法は,術中出血を避けるため,通常術後に開始する。しかしながら,術前予防も効果的である。

一般的な手術患者には,低用量未分画ヘパリンを投与し,5000単位を皮下投与で 8~12時間毎に7~10日間,患者が完全に歩行できるようになるまで続ける。手術を受けない不動状態の患者には,5000単位を皮下投与で8~12時間毎に,患者が歩行できるようになるまで投与すべきである。

低分子ヘパリンDVT予防に対する用量は,個々の薬剤ごとに異なる(エノキサパリン,ダルテパリン,チンザパリン)。DVTおよびPEの予防に対しては,低分子ヘパリンは少なくとも低用量未分画ヘパリンと同等の効果がある。

整形外科の患者およびその他の一部の患者に対しては,フォンダパリヌクス2.5mgの1日1回皮下投与は,低分子ヘパリンと同等の効果がある。フォンダパリヌクスは選択的第Xa因子阻害薬である。

ワルファリンは,2~5mgを1日1回経口投与,あるいは人工股関節または人工膝関節全置換術を行った患者ではINRを2~3に維持するよう調節した用量であれば,通常効果的で安全である。ワルファリンはこのような患者における予防に対し,一部の整形外科医によって現在でも使用されているが,代わりとして新しい経口抗凝固薬使用が増えつつある。

リバーロキサバンは,経口第Xa因子阻害薬であり,膝関節または股関節の人工関節全置換術を受ける患者での急性DVT/PEの予防に使用されている。用量は10mgを経口で1日1回である。その他の患者(手術,非手術を問わない)における使用は現在研究中である。

アピキサバンは,経口第Xa因子阻害薬であり,これも膝関節または股関節の人工関節全置換術を受ける患者での急性DVT/PEの予防に使用されている。用量は2.5mgを経口で1日2回である。リバーロキサバンと同様,その他の患者群における使用は現在検討中である。

肺塞栓症予防のための器具

下大静脈フィルター,間欠的空気圧迫法(sequential compression devices[SCD]としても知られる),および段階着圧の弾性ストッキングが,単独でまたは薬剤と併用して,PEの予防に用いられる。これらを単独で使用するか,組み合わせるかは,それぞれの適応による。

下大静脈フィルター(IVCF)は,下肢のDVT患者におけるPEの予防に用いられるが,IVCFの留置により長期的合併症のリスクが生じる可能性がある。次のPEが生命を脅かす恐れがあると予想される場合は,便益がリスクに勝る;しかしながら臨床試験のデータはほとんど得られない。フィルターの最も明らかな適応となるのは以下の患者である:

  • DVT が証明され,抗凝固療法が禁忌の患者

  • 十分な抗凝固療法にもかかわらずDVT(または塞栓)が再発する患者

  • 肺血栓内膜摘除術を施行した患者

  • 最低限の心肺機能のため,小さくても新しい血栓の形成に耐えられるかどうかが懸念される患者(ときに)

静脈の側副血行が生じ,血栓がIVCFを迂回する経路ができるため,またときにフィルターに血栓が形成されることがあるため,DVTが再発する患者またはDVTの是正不可能な危険因子をもつ患者では,それでもなお抗凝固療法が必要となりうる。IVCFは内頸静脈または大腿静脈カテーテルにより腎静脈の直下の下大静脈に留置される。大抵のIVCFは抜去可能である。ときに,フィルターが留置場所から外れ,静脈床を上方向に移動して心臓に達することさえあるため,抜去または再留置が必要となる。フィルター自体に血栓が形成されることもあり,両側性の下肢静脈うっ滞(急性有痛性青股腫など),下半身虚血,および急性腎障害を引き起こす。

間欠的空気圧迫法(IPC)ではSCDを用いて下腿または下腿および大腿を外部から律動的に圧迫する。近位部のDVTより腓腹部のDVTの予防により効果的である。人工股関節または人工膝関節置換術後の単独予防法としては不十分であるが,他の種類の手術を受けた患者,もしくは内科患者でDVTのリスクが低いか,または出血リスクが高い場合にしばしば用いられる。予防的治療を受けていない間に潜在的DVTが生じた不動状態の患者において,IPCは理論的にはPEを誘発しうる。

段階着圧の弾性ストッキングは,外部からの下肢の空気圧迫より効果が低い可能性が高いが,1件の系統的なメタアナリシスでは,術後DVTの発生率が対照群では26%であったのに対し,弾性ストッキング使用群では 13%に減少したことが示唆されている。

肺塞栓症における予防法の選択

DVT/PEの発生率が高い手術の終了後には,低用量未分画ヘパリン,低分子ヘパリン,または用量調節ワルファリンが推奨される。

膝または股関節の整形外科手術の後は,追加選択肢として,新しい経口抗凝固薬であるリバーロキサバンおよびアピキサバンなどがある。これらの薬剤は安全かつ効果的で,ワルファリンと異なり,抗凝固効果モニタリングのための臨床検査が不要である。

人工股関節全置換術を受けた患者は,術後35日間抗凝固薬の服用を継続すべきである。DVT/PEおよび出血のリスクが両方とも非常に高い選択された患者では,IVCFの一時的留置も1つの予防選択肢である。

待機的脳神経外科手術を受ける患者ならびに急性脊髄損傷および多発外傷のある患者でも,DVT/PEのリスクが高い。頭蓋内出血が懸念されるため,脳神経外科患者には理学療法(SCDおよび弾性ストッキング)が用いられてきたが,低分子ヘパリンは代替療法として容認されているようである。高リスク患者において,SCDおよび低分子ヘパリンの併用はそれぞれ単独よりも効果が高いことがある。データは限られているが,脊髄損傷または多発外傷の患者におけるSCD,弾性ストッキング,および低分子ヘパリンの併用を支持する研究もある。非常にリスクの高い患者ではIVCFの一時留置が考慮されることがある。

急性症状のある内科患者では,低用量未分画ヘパリン,低分子ヘパリン,またはフォンダパリヌクスが投与されうる。抗凝固薬の禁忌がある場合,SCD,弾性ストッキング,またはその両方が用いられることがある。虚血性脳卒中の患者には,低用量未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリンを使用でき,またSCD,弾性ストッキング,またはその両方が有益となりうる。

要点

  • 急性PEは頻度が高く,また深刻となりうる内科的疾患である。

  • 急性PEで死亡する患者の大半では,PEが疑われることすらないのが実情であるため,臨床的に疑いをもつことと,確証をもって診断することが非常に重要である。

  • 抗凝固療法により生存率が改善するため,PEが診断された場合または強く疑われる場合は,抗凝固療法を施行すべきである。

  • 広範型PE患者または一部の亜広範型PE患者では,血栓溶解療法または塞栓除去術が考慮されるべきである。

  • 深部静脈血栓症(またPEも)の予防は,リスクのある全ての入院患者で考慮されるべきである。

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