外科的胸腔ドレナージ

執筆者:Rebecca Dezube, MD, MHS, Johns Hopkins University
レビュー/改訂 2019年 6月
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外科的胸腔ドレナージとは胸腔に外科用ドレーンを挿入し,空気または液体を排出する手技である。

外科的胸腔ドレナージの適応

  • 再発性,持続性,外傷性,大きい,緊張性,または両側性の気胸

  • 陽圧換気下の患者における気胸

  • 症状を伴うまたは繰り返す大量の胸水

  • 膿胸または肺炎随伴性胸水

  • 血胸

  • 乳び胸

外科的胸腔ドレナージの禁忌

絶対的禁忌

  • なし

相対的禁忌

  • 凝固障害または出血性疾患(血液製剤または凝固因子が必要になることがある)

外科的胸腔ドレナージの合併症

  • 肺実質,葉間裂,横隔膜下,または皮下へのドレーンの誤挿入

  • 血栓,細胞残渣,またはねじれによるドレーンの閉塞

  • 再挿入を必要とするドレーンのずれ

  • 再膨張性肺水腫

  • 皮下気腫

  • 残存胸水への感染または胸水の再発

  • 肺または横隔膜の裂傷

  • 肋骨下の神経血管束の損傷による肋間神経痛

  • 出血

  • まれに胸部または腹部の他の構造物の穿孔

外科的胸腔ドレナージに使用する器具

  • 滅菌ガウン,マスク,手袋,およびドレープ

  • ワセリンガーゼおよび通常のガーゼ,テープ

  • 2%クロルヘキシジン液などの消毒液

  • 25Gおよび21G針

  • 2mLおよび20mLシリンジ

  • 1%リドカインなどの局所麻酔薬

  • 2本の止血鉗子またはKelly鉗子

  • 非吸収性の,強力な絹糸またはナイロン糸(例,0または1-0)

  • メス(No. 11)

  • 胸腔ドレーン:太さは16~36フレンチ(Fr)まであり,用途に応じて使い分ける(気胸には20~24Fr;悪性胸水には20~24Fr;肺炎随伴性胸水,膿胸,および気管支胸膜瘻には28~36Fr;また血胸には32~36Fr)

  • 吸引装置

  • 水封式排液装置と接続チューブ

外科的胸腔ドレナージに関するその他の留意事項

  • 待機的な胸腔ドレーンの挿入は,この手技の訓練を受けた医師が行うのが最善である。その他の医師は,胸腔穿刺による緊張性気胸の脱気であれば実施できる。

  • 胸腔ドレーンの留置は入院処置である。救急外来で行われた場合,患者はそのまま入院することになる。

外科的胸腔ドレナージでの体位

  • 自発呼吸のある患者では,ベッドの頭側を30~60°挙上することにより,呼気時の横隔膜の上昇が制限され,腹腔内への誤挿入のリスクが下がる。

  • 患側は腕を頭上に挙げるか,別の方向に外転させる。

  • 手は頭の後ろに置く。

外科的胸腔ドレナージにおける関連する解剖

  • それぞれの肋骨の下縁には神経血管束がある。それゆえ,神経血管束の損傷を避けるために,ドレーンは肋骨の上縁から挿入しなければならない。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • 滅菌水で満たされた水封式吸引装置を吸引源につなぐ。通常は,壁内の吸引源と胸腔ドレーンとをプラスチック製のチューブで連結する市販の装置が使用される。

  • 挿入部位は,排出されるのが空気か液体かによって変わる。気胸の場合,ドレーンは通常,第4肋間,他の適応疾患では,第5肋間のそれぞれ中腋窩線上または前腋下線上に挿入する。

  • 挿入部位に印を付ける。

  • クロルヘキシジンなどの消毒液を挿入部位およびその周囲に塗布する。

  • 周囲にドレープをかける。

  • 1%リドカインなどの局所麻酔薬を皮膚,皮下組織,肋骨骨膜(挿入部位の下の肋骨),および壁側胸膜に注射する。骨膜と壁側胸膜は痛みに極めて敏感であるため,この周囲には多量の局所麻酔薬を注射する。リドカインを注射する前に,血管内への注射を避けるため,シリンジを吸引する。麻酔注射器が胸腔に入り,シリンジの中に空気または液体が戻れば,適切な位置にあることが確認される。

  • 全ての皮下組織や脂肪組織を(特に肥満患者で)考慮して,ドレーンの全ての穴が胸腔内に開放されるようなドレーンの挿入深度を推定する。ドレーンをその深さまで挿入したときに皮膚表面に一致すると予測される位置に印を付けるかその位置の目盛りを覚える。

  • 皮膚に1.5~2cmの切開を加え,止血鉗子またはKelly鉗子を進めながら,胸膜に届くまで肋間の軟部組織を鈍的に剥離する。挿入部位の下の肋骨を同定し,肋骨を越えて胸膜腔に到達する。鉗子を閉じた状態で胸膜を突き破り(通常ポンッという音がする,かつ/または突然抵抗が下がる),そのままの向きで鉗子を開く。

  • 指を使ってその経路を広くし,胸腔の中に入ったことおよび癒着がないことを確認する。

  • 胸腔ドレーンの遠位端をクランプする。

  • 別の鉗子でドレーンの先端をクランプし,この経路を通して挿入し,胸水では背側下方へ,気胸では肺尖部へと,ドレーンの全ての穴が胸壁の中に入るまで進める。

  • 任意の縫合手技で,胸腔ドレーンを胸壁の皮膚に縫い付ける。1つの方法は巾着縫合である。さらに,ドレーンの横に切開部を横切る縫合をつくり,途中で止めてドレーンの周囲に糸を巻き付ける。別の方法としては,巾着縫合の代わりにドレーンの反対側にもう1つ切開部を横切る縫合を途中まで行い,それも同様にドレーンに結びつけるやり方がある。

  • 滅菌ワセリンガーゼで挿入部位の傷を覆う。

  • 2枚の滅菌ガーゼを途中まで切り,チューブの周りにあてる。

  • ドレープを除去する。

  • 圧迫ガーゼを用いて,テープでしっかりと固定する。安定性を増すために,ドレーンの体外に出ている部分をガーゼまたは患者の体にテープで別に固定することを考慮する。

  • ドレーンを水封式吸引装置につなぐことで,ドレーンを介して胸腔に空気が入るのを防ぎ,排液が可能になる(吸引は使用することもあれば使用しないこともある)。

外科的胸腔ドレナージのアフターケア

  • ドレーンの位置確認のため,ベッドサイドで胸部X線の前後像を撮影すべきである。胸腔ドレーンの位置または機能に不安があれば,胸部X線の後前像もしくは側面像を得るか,または胸部CTを施行すべきである。

  • 胸腔ドレーンは,留置が必要となった病態が改善すれば抜去する。気胸の場合は,吸引を停止してドレーンを数時間水封につなぐだけにしておくことで,エアリークが止まり,肺が膨張した状態を保っていることを確認する。ドレーンを抜去する前に,最後にエアリークの証拠が確認されてから12~24時間後に,再度胸部X線を行うことがしばしばある。胸水または血胸の場合には,典型的には,漿液の排出が100~200mL/日未満になるとドレーンを抜去する。

  • 機械的人工換気下にある患者,特に酸素需要が高い,陽圧換気下にある,慢性肺疾患がある,または気胸の再発のリスクが高い患者から胸腔ドレーンを抜去する際は,呼吸器の専門家へのコンサルテーションを行うべきである。

  • 抜去の際,患者は半座位にさせるべきである。縫合を除去し,抜去の瞬間は,患者に息を深く吸い込ませ,次に力強く吐くように指示する;ドレーンは患者の呼出中に抜去し,その部位をワセリンガーゼで覆うことで,抜去中の気胸の発生率が減少する。

  • ドレーン挿入時に巾着縫合を行った場合はそれを閉じ,さらに,あるいはその代わりに切開部の閉鎖に追加の縫合が必要になることがある。

  • ドレーンを抜去して数時間経過してから,再度胸部X線を行うべきである。ドレーン抜去後のX線で気胸が認められなければ,患者の臨床状態に特段の変化がない限り,それ以上胸部X線を行う必要はない。

外科的胸腔ドレナージの注意点とよくあるエラー

  • 水封式吸引装置から液体または空気が胸腔に逆流するのを防ぐため,装置は患者の100cm(40インチ)下に置くべきである。

  • 再膨張性肺水腫を懸念して,24時間以内に1.5Lを超える胸水を排出しないよう勧める医師もいる。しかしながら,排液の量と再膨張性肺水腫のリスクが直接相関することを示すエビデンスはほとんどない(1)。そのため,適切なモニタリング下にある患者に対して処置を行うのであれば,ドレーン挿入時に完全に胸水を除去するのが賢明かもしれない。

  • 胸部X線で,胸腔ドレーンが深部に届いておらず,ドレーンの穴が胸腔内に開放していないことが分かれば,胸腔ドレーンを留置し直す必要がある。単純に胸腔ドレーンを進めると,滅菌処理のされていない部分が胸腔内に入る可能性がある。

  • 挿入時の一般的なエラーとして,局所麻酔薬の不足および最初の切開が小さすぎることなどが挙げられる。

  • ドレーンの挿入にはかなり力を要し,ストレッチャーを動かしてしまう可能性があるため,挿入前にストレッチャーにロックをかけておくこと。

外科的胸腔ドレナージのアドバイスとこつ

  • 選択された症例では,処置に先立って意識下鎮静をかけることがある。

  • 刺入点に印を付けるときは,スキンマーカーを使うか普通のペンでしっかり印を付け,消毒時に消えないようにする。

外科的胸腔ドレナージに関する参考文献

  1. 1.Feller-Kopman D, Berkowitz D, Boiselle P, et al: Large-volume thoracentesis and the risk of reexpansion pulmonary edema.Ann Thoracic Surg 84:1656–1662, 2007.

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