(びまん性肺胞出血も参照のこと。)
PRSは,ある特定の疾患単位ではなく,鑑別診断と特定の一連の検査の必要性を示唆する症候群である。
肺の病態は,細動脈,細静脈,および,しばしば肺胞毛細血管を侵す小血管の血管炎である。
腎の病態は小血管の血管炎であり,結果として,巣状分節性増殖性糸球体腎炎(focal segmental proliferative glomerulonephritis)の形態に至る。
病因
肺腎症候群は,ほぼ常に基礎にある自己免疫疾患が発現したものである。グッドパスチャー症候群が典型的な原因であるが,PRSは,SLE,多発血管炎性肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎,またより頻度は低いが,その他の血管炎,結合組織疾患,および薬剤性血管炎(例,プロピルチオウラシル— 肺腎症候群の原因)によって引き起こされることもある。
比較的まれではあるが,IgA腎症やIgA血管炎などの免疫グロブリンA(IgA)を介する疾患,および本態性混合型クリオグロブリン血症などの免疫複合体を介する腎疾患の症候としてPRSが現れることもある。まれに,急速進行性糸球体腎炎が単独で,腎不全,体液量過剰,および喀血を伴う肺水腫に関連する機序により,PRSを引き起こすことがある。
肺腎症候群の原因
疾患 |
例 |
結合組織疾患 |
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グッドパスチャー症候群 |
— |
腎疾患 |
特発性の免疫複合体型糸球体腎炎 心不全を伴う急速進行性糸球体腎炎 |
全身性血管炎 |
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その他 |
薬剤(例,プロピルチオウラシル) |
症状と徴候
診断
肺腎症候群は,他の原因(例,肺炎,癌,または気管支拡張症)に起因することが明らかでない喀血がある患者において,特にびまん性実質性肺浸潤および腎疾患を示唆する所見を伴う場合に疑われる。
初期検査には,血尿および赤血球円柱(糸球体腎炎を示唆する)を証明するための尿検査,腎機能評価のための血清クレアチニン,および貧血を証明するための血算などがある。未実施であれば胸部X線を行う。
血清抗体検査は,以下に挙げるいくつかの原因の鑑別に役立つ可能性がある:
診断の確定には,肺生検における小血管の血管炎の所見,または腎生検における糸球体腎炎の所見(抗体沈着を伴うことがある)が必要である。
肺機能検査および気管支肺胞洗浄はPRSの診断に有用ではないが,糸球体腎炎および肺浸潤があるが喀血のない患者において,びまん性肺胞出血の確定の補助に用いることができる。洗浄液が連続採取の後に血性のままであれば,びまん性肺胞出血の診断が確定する(特にHctが低下した状態の場合)。
治療
免疫抑制が肺腎症候群の治療の要である。標準の寛解導入レジメンには,メチルプレドニゾロンのパルス静注などがある(500~1000mgを1日1回,3~5日間静注)。生命を脅かす所見が鎮静化するにつれて,コルチコステロイドを減量できる;最初の1カ月はプレドニゾン(または同等の薬剤)1mg/kg,1日1回経口投与,その後3~4カ月かけて漸減する。全身性疾患がある重症(critically ill)患者においては,コルチコステロイド療法にシクロホスファミドを追加すべきであり,用量はパルス静注0.5~1g/m2を月1回,または経口(1~2mg/kg,1日1回)とする。シクロホスファミドの代わりにリツキシマブが使用されることがある;リツキシマブはシクロホスファミドと同等の効果があり,有害作用はより少ない。
血漿交換もしばしば用いられ,特にグッドパスチャー症候群および特定の血管炎でよく行われる。
維持療法への移行は,導入療法開始後6~12カ月経過後または臨床的寛解後に行われることがある。維持療法には,低用量コルチコステロイドおよび細胞傷害性薬剤の併用などがある。しかしながら,治療の継続にもかかわらず再発することがある。