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高血圧緊急症

執筆者:

George L. Bakris

, MD, University of Chicago School of Medicine

医学的にレビューされた 2018年 2月
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高血圧緊急症は,標的臓器(主に脳,心血管系,および腎臓)障害の徴候を示す重症高血圧である。診断は血圧測定,心電図,尿検査,血清BUNおよびクレアチニンの測定による。治療法は,静注薬(例,クレビジピン[clevidipine],フェノルドパム[fenoldopam],ニトログリセリン,ニトロプルシド,ニカルジピン,ラベタロール,エスモロール,ヒドララジン)を用いた迅速な降圧である。

標的臓器障害には,高血圧性脳症, 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む ,肺水腫を伴う 急性左室不全 心不全 (HF) 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全 (HF) 心筋虚血 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血, 狭心症, 急性冠症候群( 不安定狭心症, 心筋梗塞), 心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の... さらに読む 冠動脈疾患の概要 急性大動脈解離 大動脈解離 大動脈解離は,大動脈内膜の裂口を介して壁内に血液が急激に流入することで,内膜と中膜が分離して偽腔(チャネル)が生じる病態である。内膜裂口は原発性に生じることもあれば,中膜内の出血に続発することもある。大動脈解離は大動脈のあらゆる部位から始まる可能性があり,さらに中枢または末梢に進展して他の動脈に及ぶこともある。高血圧が重要な寄与因子の1つである。症状と徴候には,胸部または背部に突然生じる引き裂かれるような痛みがあるほか,解離により大動脈... さらに読む 大動脈解離 腎不全 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 などがある。障害は急速に進行し,しばしば致死的となる。

高血圧性脳症では,脳血流量の自己調節機構の破綻が関与すると考えられる。正常では,血圧が上昇すると,脳灌流量を一定に保つために脳血管が収縮する。平均動脈圧(MAP)が約160mmHg(正常血圧の人で血圧が急上昇する場合はこれより低い値)を超えると,脳血管が収縮から拡張に転じる。その結果,著しい血圧上昇が毛細血管床に直接波及するとともに,脳内に血漿が漏出および滲出し,乳頭浮腫を含めた脳浮腫が生じる。

高血圧切迫症

標的臓器障害(おそらく 1~3度網膜症 高血圧網膜症 高血圧網膜症は,高血圧に起因する網膜血管の損傷である。徴候は通常,疾患後期に出現する。眼底検査で細動脈の狭小化,網膜血管狭窄(arteriovenous nicking),血管壁の変化,火炎状出血,綿花様白斑,黄色の硬性白斑,および視神経乳頭浮腫を認める。治療では血圧のコントロールを目指し,視力障害が現れたときは,網膜を治療する。 急性の血圧上昇により,典型的に網膜血管で可逆的な血管収縮が生じ,高血圧クリーゼにより視神経乳頭浮腫が生じる... さらに読む 高血圧網膜症 は除く)を伴わない著しい血圧上昇(例,拡張期血圧が120~130mmHgを上回る)では,高血圧切迫症(hypertensive urgency)を考慮してもよい。非常に高い血圧値に遭遇すると,医師はしばしば心配になるが,急性の合併症が生じる可能性は低いことから,即時の降圧は不要である。しかしながら,経口薬2剤の併用治療は開始すべきであり( Professional.see page 薬剤 薬剤 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,または原発性アルドステロン症に起因する。高血圧は重症となるか長期間持続しない限... さらに読む 薬剤 ),綿密な評価を(治療効果の評価とともに)外来で継続すべきである。臓器損傷を伴わない非常に高い血圧は,強い不安のある患者や数週間にわたり睡眠の質が非常に悪かった患者でよくみられる。

症状と徴候

血圧は上昇し,しばしば顕著である(拡張期血圧が120mmHgを上回る)。中枢神経系症状としては,急速に変化する神経学的異常(例,錯乱,一過性の皮質盲,不全片麻痺,片側感覚障害,痙攣発作)などがある。心血管症状としては,胸痛や呼吸困難などがある。腎障害は無症状のこともあるが,進行した腎不全による重度の高窒素血症から嗜眠または悪心を来すことがある。

身体診察では標的臓器に焦点を置き,神経学的診察,眼底検査,および心血管系の診察を行う。全般的な脳機能障害(例,錯乱,昏睡を含む意識障害)は,局所神経脱落症状の有無にかかわらず脳症を示唆し,精神状態が正常で巣症状を認める場合は 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中とは,神経脱落症状を引き起こす突然の局所的な脳血流遮断が生じる多様な疾患群である。脳卒中には以下の種類がある: 虚血性(80%):典型的には血栓または塞栓によって生じる 出血性(20%):血管の破裂によって生じる(例, くも膜下出血, 脳内出血) 明らかな急性脳梗塞の所見(MRIの拡散強調画像に基づく)を伴わない一過性(典型的には1... さらに読む 脳卒中の概要 が示唆される。重度の網膜症(硬化症,綿花様白斑,細動脈の狭小化,出血,乳頭浮腫)は通常,高血圧性脳症とともに発症し,その他の高血圧緊急症の多くでも,いくらかの網膜症がみられる。頸静脈怒張,肺底部の断続性ラ音,およびIII音の聴取は 肺水腫 肺水腫 肺水腫は,肺静脈性肺高血圧と肺胞内の液貯留(alveolar flooding)を伴った重度の急性左室不全である。所見は,重度の呼吸困難,発汗,喘鳴,ときに泡沫状の血痰である。診断は臨床的に行われ,胸部X線による。治療には酸素,硝酸薬静注,利尿薬のほか,ときにモルヒネを使用するとともに,駆出率が低下した心不全患者には,短期間の陽性変力薬の静注と補助換気(気管挿管と機械的人工換気または二相性陽圧換気)を行う。... さらに読む を示唆する。左右上腕での脈拍非対称性は 大動脈解離 大動脈解離 大動脈解離は,大動脈内膜の裂口を介して壁内に血液が急激に流入することで,内膜と中膜が分離して偽腔(チャネル)が生じる病態である。内膜裂口は原発性に生じることもあれば,中膜内の出血に続発することもある。大動脈解離は大動脈のあらゆる部位から始まる可能性があり,さらに中枢または末梢に進展して他の動脈に及ぶこともある。高血圧が重要な寄与因子の1つである。症状と徴候には,胸部または背部に突然生じる引き裂かれるような痛みがあるほか,解離により大動脈... さらに読む 大動脈解離 を示唆する。

診断

  • 非常に高い血圧値

  • 標的臓器障害の同定:心電図検査,尿検査,BUN,クレアチニン,神経学的所見を認める場合は頭部CT

典型的に施行される検査には,心電図,尿検査,血清BUN,血清クレアチニンなどがある。

神経学的所見を認める患者では,頭蓋内出血,浮腫,梗塞を診断するための頭部CTが必要である。

胸痛または呼吸困難がみられる患者には,胸部X線が必要である。

標的臓器障害を示唆する心電図異常には,左室肥大または急性虚血の徴候などがある。

腎障害に典型的な尿検査異常には,赤血球,赤血球円柱,タンパク尿などがある。

診断は著しい血圧高値と標的臓器障害の所見に基づく。

治療

  • ICUでの管理

  • 短時間作用型の静注薬剤:硝酸薬,フェノルドパム(fenoldopam),ニカルジピン,またはラベタロール

  • 目標:1~2時間内にMAPを20~25%低下させる

高血圧緊急症はICUで治療し,血圧は短時間作用型の調節可能な静注薬を用いて(急激にではなく)徐々に低下させる。薬剤の選択と降圧の速さおよび程度は,障害臓器によりある程度異なるが,一般に1時間程度の間にMAPを20~25%下降させるのが適切であり,症状に応じてさらに調節する。緊急に「正常」血圧まで戻す必要はない。典型的な第1選択薬には,ニトロプルシド,フェノルドパム(fenoldopam),ニカルジピン,ラベタロールなどがある( Professional.see table 高血圧緊急症に対する注射薬 高血圧緊急症に対する注射薬 高血圧緊急症に対する注射薬 )。ニトログリセリン単独では効果がより弱い。

経口薬は作用発現が一定せず,用量調節も困難であるため,適応とならない。短時間作用型の経口薬であるニフェジピンは,速やかな降圧が得られるものの,急性の心血管および脳血管イベント(ときに致死的)につながることがあるため,推奨されない。

クレビジピン(clevidipine)は,超短時間作用型(1~2分以内)の第3世代カルシウム拮抗薬であり,静脈血管緊張および心充満圧に影響を及ぼすことなく,末梢血管抵抗を低下させる。クレビジピン(clevidipine)は血中エステラーゼにより速やかに加水分解されるため,その代謝は腎機能や肝機能に影響されない。最近の臨床試験で,周術期高血圧および高血圧緊急症のコントロールに効果的かつ安全であることが示されており,ニトロプルシドと比較して死亡率低下との関連が認められた。

クレビジピン(clevidipine)の開始量は1~2mg/時であり,目標血圧に達するまで90秒毎に用量を倍増させ,その後は5~10分毎に2倍未満の幅で増量する。このため,ほとんどの高血圧緊急症に対してニトロプルシドより クレビジピン(clevidipine)の方が好ましいと考えられるが,クレビジピン(clevidipine)は陰性変力作用を有する可能性があるため,駆出率の低下した急性心不全患者では慎重に使用すべきである。クレビジピン(clevidipine)が使用可能でない場合は,フェノルドパム(fenoldopam),ニトログリセリン,ニカルジピンが合理的な代替薬となる。

ニトロプルシドは静脈および動脈の拡張作用があり,前負荷および後負荷を低下させることから,心不全を呈する高血圧患者には最も有用である。ニトロプルシドは高血圧性脳症にも使用されており,β遮断薬との併用で大動脈解離にも用いられる。開始量は0.25~1.0μg/kg/分であり,最大8~10μg/kg/分まで0.5μg/kgずつ漸増し,シアン化物中毒のリスクを最小限に抑えるため,最大用量の投与は10分以内にとどめる。この薬剤は速やかにシアン化物と一酸化窒素(活性部分)に分解される。シアン化物はチオシアン酸へと解毒される。しかしながら,2μg/kg/分を超えて投与すると,シアン化物が蓄積して,中枢神経系と心臓に対して毒性を示すことがあり,その場合にみられる病態としては,興奮,痙攣,心臓の不安定化,アニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスなどがある。

ニトロプルシドの長期投与(1週間以上または腎機能不全患者では3~6日)はチオシアン酸の蓄積につながり,嗜眠,振戦,腹痛,および嘔吐が生じる。その他の有害作用には,降圧が急激すぎた場合にみられる毛包の一過性隆起(鳥肌)などがある。3日連続の投与後にチオシアン酸濃度を毎日モニタリングし,血清中チオシアン酸濃度が12mg/dL(2mmol/L)を超えた場合は,投薬を中止すべきである。ニトロプルシドは紫外線により分解されるため,点滴用のバッグおよびチューブは不透明な被覆に包んで使用する。クレビジピン(clevidipine),ニトログリセリン,ニカルジピンと比較して,ニトロプルシドの使用により死亡率が上昇することを示した最近のいくつかの研究データを考慮すると,他の代替薬が利用できる場合は,ニトロプルシドはおそらく使用するべきでない。

フェノルドパム(fenoldopamは,全身および腎臓の血管拡張およびナトリウム排泄を引き起こす末梢ドパミン-1作動薬である。作用発現が速く半減期が短いために,ニトロプルシドの代替薬として効果的であり,さらに血液脳関門を通過しないという利点もある。初回投与量は0.1μg/kg/分の点滴静注であり,最大1.6μg/kg/分まで15分毎に0.1μg/kgずつ漸増する。

ニトログリセリンは細動脈よりも静脈に強く作用する血管拡張薬である。冠動脈バイパス術での術中・術後の高血圧,急性心筋梗塞,不安定狭心症,および急性肺水腫の管理に使用できる。重度の冠動脈疾患の患者には,ニトロプルシドよりニトログリセリンの静注が望ましいが,これは,ニトログリセリンが冠血流量を増大させるのに対して,ニトロプルシドナトリウムは虚血部位への冠血流量を減少させる傾向があるためで,おそらく「盗血」現象に起因すると考えられる。開始量は10~20μg/分であり,最大の降圧効果が得られるまで,5分毎に10μg/分ずつ漸増する。

長期の血圧コントロールのためには,ニトログリセリンは他の薬剤と併用する必要がある。最も頻度の高い有害作用は頭痛(約2%)であり,その他にも頻拍,悪心,嘔吐,不安,不穏状態,筋収縮,動悸などがみられるある。

ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬であるニカルジピンは,ニフェジピンと比較して陰性変力作用が弱く,主に血管拡張薬として作用する。術後高血圧および妊娠中に最もよく使用される。用量は5mg/時の静注であり,最大15mg/時まで,15分毎に増量する。紅潮,頭痛,および頻拍を引き起こすことがあり,腎機能不全のある患者ではGFRを低下させる可能性がある。

ラベタロールは,いくらかのα1遮断作用を有するβ遮断薬であり,したがって,典型的な反射性頻脈を伴わずに血管拡張を引き起こす。ラベタロールは持続注入または頻回の急速静注による投与が可能で,急速投与で有意な低血圧が生じることは示されていない。ラベタロールは,妊娠中,血圧コントロールが必要な頭蓋内疾患,および心筋梗塞後に使用される。点滴速度は0.5~2mg/分とし,最大4~5mg/分まで漸増する。ボーラス投与は20mgの静注から開始し,その後10分毎に40mg,さらにその後は80mg(3回まで)の投与を合計で最大300mgまで行う。有害作用はごくわずかであるが,ラベタロールにはβ遮断作用があるため,喘息患者の高血圧緊急症には使用してはならない。ニトログリセリンを同時に投与する場合は,左室不全に対して低用量で使用することができる。

要点

  • 高血圧緊急症は標的臓器障害を引き起こす高血圧であり,静注薬による治療と入院が必要である。

  • 標的臓器障害には,高血圧性脳症,妊娠高血圧腎症および子癇,肺水腫を伴う急性左室不全,心筋虚血,急性大動脈解離,腎不全などがある。

  • 心電図検査,尿検査,血清BUNおよびクレアチニン,さらに神経症候が認める患者では頭部CTを施行する。

  • クレビジピン(clevidipine),ニトログリセリン,フェノルドパム(fenoldopam),ニカルジピン,ラベタロールなどの調節可能な短時間作用型の静注薬を使用して,最初の1時間でMAPを約20~25%低下させる。

  • 緊急に「正常」血圧まで戻す必要はない(特に急性脳卒中の場合)。

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