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深部静脈血栓症(DVT)

執筆者:

James D. Douketis

, MD, McMaster University

最終査読/改訂年月 2016年 7月
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深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはduplex法による超音波検査)により確定される。DVTが疑われる場合,Dダイマー検査が用いられる;陰性の結果はDVTを除外する上で有用であるが,陽性の結果は非特異的であり,DVTの確定診断を得るにはさらなる検査が必要となる。治療は抗凝固薬による。十分な治療を迅速に行った場合の予後は一般に良好である。よくみられる長期合併症として静脈不全症があり,これに静脈炎後症候群を伴う場合もある。

DVTは下肢または骨盤に好発する( 下肢の深部静脈)。DVTは上肢の深部静脈にも発生しうる(DVT症例の4~13%)。

下肢の深部静脈

下肢の深部静脈

下肢のDVTは,肺塞栓症(PE)を引き起こす可能性がはるかに高く,これはおそらく生じる血栓の量が多いことに起因する。大腿部の浅大腿静脈および膝窩静脈と腓腹部の後脛骨静脈および腓骨静脈が最も侵されやすい。腓腹部の静脈に生じたDVTが大きな塞栓の発生源となる可能性は比較的低いが,近位の大腿静脈まで進展して,そこからPEを引き起こす可能性もある。DVT患者の約50%は潜在性のPEを有し,PE患者の30%以上は証明可能なDVTを有する。

パール&ピットフォール

  • DVT患者の約50%は不顕性の肺塞栓症を有する。

病因

多くの因子がDVTの発生に寄与する可能性がある( 静脈血栓症の危険因子)。癌はDVTの危険因子であり,特に癌患者のうち高齢者と血栓症を繰り返す患者で重要である。関連性は,腸管の癌や膵癌など粘液分泌性の内皮細胞腫瘍で最も強くみられる。特発性DVTと思われる患者は潜在癌を有している可能性があるが,癌の主要な危険因子があるか,潜在癌を示唆する症状がみられる場合を除いて,腫瘍に対する広範な精査は推奨されない。

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静脈血栓症の危険因子

年齢60歳以上

喫煙(受動喫煙を含む)

エストロゲン受容体モジュレーター(例,タモキシフェン,ラロキシフェン)

心不全

不動状態

静脈カテーテル留置

四肢外傷

骨髄増殖性疾患(過粘調)

ネフローゼ症候群

肥満

経口避妊薬またはエストロゲン療法

妊娠および分娩後

静脈血栓塞栓症の既往

鎌状赤血球貧血

過去3カ月以内の手術

外傷

病態生理

下肢のDVTで最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • 静脈還流の障害(例,不動状態の患者)

  • 内皮の損傷または機能不全(例,下肢の骨折後)

  • 凝固亢進状態

上肢のDVTで最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • 中心静脈カテーテル,ペースメーカー,または注射薬物の使用による内皮損傷

上肢のDVTは,ときに上大静脈症候群の一部として,または凝固亢進状態もしくは胸郭出口での鎖骨下静脈圧迫の結果として発生する。圧迫は正常な第1肋骨もしくは頸肋または線維帯に起因するか(胸郭出口症候群),激しい腕の運動時に発生する(労作性血栓症,またはPaget-Schroetter症候群とも呼ばれ,上肢DVT症例の1~4%を占める)。

深部静脈血栓症は通常,静脈の弁尖から始まる。血栓はトロンビン,フィブリン,および赤血球と比較的少数の血小板から構成され(赤色血栓),無治療の場合,血栓が近位側に進展したり,血流に乗って肺に移動したりすることがある。

合併症

深部静脈血栓症の一般的な合併症としては以下のものがある:

はるかにまれにであるが,急性DVTから有痛性白股腫または有痛性青股腫を来すことがあり,ともに速やかに診断して治療を行わなければ,うっ血性壊疽につながる可能性がある。

有痛性白股腫は,妊娠中にみられるDVTのまれな合併症であり,下肢が乳白色を呈する。病態生理は明らかでないが,浮腫により軟部組織の圧力が毛細血管の灌流圧を超えて上昇する結果,それにより組織虚血と湿性壊疽を来す可能性がある。

有痛性青股腫では,広範な腸骨-大腿静脈血栓症によってほぼ完全な静脈閉塞が引き起こされ,下肢に虚血,極度の疼痛,およびチアノーゼが生じる。静脈還流の遮断または巨大な浮腫による動脈血流の遮断が生じるため,病態生理には下肢の静脈および動脈血流の完全なうっ滞が関与している可能性がある。結果としてうっ血性壊疽が生じることがある。

まれに,静脈血栓に感染が生じる可能性もある。内頸静脈とその周囲軟部組織の細菌(通常は嫌気性菌)感染症である頸静脈化膿性血栓性静脈炎(Lemierre症候群)が扁桃咽頭炎に続いて発生することがあり,しばしば菌血症や敗血症を合併する。敗血症性の骨盤血栓性静脈炎では,分娩後に骨盤内で血栓症が発生して,そこに感染が生じ,間欠熱が引き起こされる。末梢の表在静脈への細菌感染により生じる化膿性(敗血症性)血栓性静脈炎は,感染と凝固で構成され,通常は静脈カテーテル留置が原因である。

症状と徴候

DVTは外来患者に発生することもあれば,手術または重大な内科的疾患の合併症として発生することもある。高リスクの入院患者では,ほとんどの深部静脈血栓は腓腹部の細い静脈で発生し,無症状で発見されないことがある。

症状や徴候(例,漠然とした疼く痛み,静脈の分布に沿った圧痛,浮腫,紅斑)がみられる場合にも,それらは非特異的であり,頻度および重症度は様々で,腕と下肢で類似する。拡張した表在部の側副静脈を視認ないし触知できることがある。下肢遠位部のDVTでは,膝関節を伸展した状態で足関節を背屈することで誘発される腓腹部の不快感(ホーマンズ徴候)がときにみられるが,感度および特異度ともに高くない。圧痛,下肢全体の腫脹,3cmを超える腓腹部周径の左右差,圧痕性浮腫,および表在部の側副静脈が最も特異的な所見と考えられ,これらが3つ以上併存し,かつ他に可能性の高い診断がない場合には,DVTの可能性が高くなる( 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率)。

微熱がみられることがある;DVTは明らかな感染源を欠いた発熱の原因であることがあり,特に術後患者ではその可能性が高くなる。発症した場合のPEの症状としては,息切れや胸膜性胸痛などがある。

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臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率

因子

腓腹部または大腿部の静脈分布に沿った圧痛

下肢全体の腫脹

腓腹部の腫脹(脛骨粗面の10cm下で測定した腓腹部周径の左右差が3cmを超える

患側下肢でより重度の圧痕性浮腫

表在部の側副静脈の拡張

癌(過去6カ月以内に治療を中止した症例を含む)

下肢の不動状態(例,麻痺,不全麻痺,ギプス使用,最近の長距離旅行などによる)

3日を超える不動状態につながる手術を過去4週間以内に受けた

確率

確率は該当する因子の数で表され,他の診断の可能性がDVTと同等かそれ以上である場合は2点を引く。

  • 確率が高い:3点以上

  • 確率が中程度:1~2点

  • 確率が低い:0点以下

Based on data from Anand SS, Wells PS, Hunt D, et al: Does this patient have deep vein thrombosis?Journal of the American Medical Association 279 (14):1094–1099, 1998.

DVTに類似する非対称性の下肢の腫脹の一般的な原因は,軟部組織外傷,蜂窩織炎,骨盤内の静脈またはリンパ管閉塞,ならびに静脈還流を妨げる膝窩部滑液包炎(ベーカー嚢胞)である。静脈またはリンパ管の還流を妨げる腹部または骨盤内の腫瘍は,比較的まれな原因である。就下性の浮腫を引き起こす薬剤(例,ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬,エストロゲン,高用量オピオイド)の使用,静脈高血圧症(通常は右心不全による),および低アルブミン血症は,典型的には両下肢に対称性の腫脹を引き起こすが,静脈不全症が併存して片側の下肢が対側より重症の場合には,腫脹は非対称性となることもある。

急性DVTに類似する腓腹部の疼痛の一般的な原因には,静脈不全症および静脈炎後症候群;腓腹部に有痛性の紅斑を引き起こす蜂窩織炎;腓腹部に腫脹および疼痛,ときに内果領域に皮下出血を引き起こす,膝窩(ベーカー)嚢胞の破裂(偽性DVT);腓腹部の筋または腱の部分的または完全な断裂などがある。

診断

  • 超音波検査

  • ときにDダイマー検査

病歴聴取と身体診察がDVTの検査前確率を判定する上で役立つ( 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率)。診断は典型的にはドプラ血流測定による超音波検査(duplex法による超音波検査)による。追加検査(例,Dダイマー検査)の必要性とその選択および順序は,検査前確率およびときに超音波検査の結果に依存する。最善とされる単一の検査プロトコルはなく,アプローチの1例を 深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例に記載した。

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例

超音波検査

超音波検査では,静脈の内層を直接描出することに加え,静脈の異常な圧縮率を証明するか,ドプラ法で静脈血流の障害を証明することによって,血栓を同定する。この検査は大腿および膝窩静脈の血栓症については感度が90%を超え,特異度は95%を超えるが,腸骨静脈または腓腹部の静脈の血栓症では,やや精度が低くなる。

D ダイマー

Dダイマーは線溶の副産物であり,その濃度が高いことは,近い過去に血栓が存在して溶解したことを示唆する。Dダイマー測定の感度および特異度は様々であるが,ほとんどは感度が高いが,特異度は低い。最も正確な検査法のみを用いるべきである。例えば,高感度な検査法の1つに酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)があり,感度は約95%である。

DVTの検査前確率が低い場合,感度の高い検査法でDダイマー値が正常と判定された患者では,DVTを安全に除外することができる。このため,Dダイマー検査で陰性となれば,DVTの可能性が低く,さらなる超音波検査が必要ない患者を同定することができる。一方,検査結果は他の病態によっても上昇する可能性があるため(例,肝疾患,外傷,妊娠,リウマトイド因子陽性,炎症,最近の手術,癌),陽性の結果は非特異的であり,さらなる検査が必要である。

DVTの検査前確率が中程度または高い場合は,duplex法による超音波検査と同時にDダイマー検査を施行することが可能である。超音波検査で陽性となれば,Dダイマーの測定値にかかわらず,診断確定となる。超音波検査でDVTの所見を認めない場合には,Dダイマー値が正常という所見がDVTを除外する上で有用となる。Dダイマー値が上昇している患者は,臨床的な疑いに応じて超音波検査を数日内に再度施行するか,静脈造影など,さらなる画像検査を行うべきである。

静脈造影

静脈造影は,かつてはDVTの診断において決定的な役割を果たしていたが,現在では,非侵襲的でより容易に施行でき,DVTの検出においてほぼ同等の診断精度を備える超音波検査に,ほぼ取って代わられている。静脈造影は,超音波検査が正常であるが,検査前のDVTの疑いが強い場合に適応となりうる。合併症発生率は2%であり,大半が造影剤アレルギーによるものである。

その他の検査

静脈造影に代わる非侵襲的な検査法の研究が進められている。具体的にはMR静脈造影や,グラディエントエコー法と水励起パルスによるT1強調画像で血栓を直接描出するMRIなどがあり,後者では理論的に,深部静脈と亜区域レベルの肺動脈に生じた血栓を(PEの診断のために)同時に描出することが可能である。

症状と徴候からPEが示唆される場合は,追加の画像検査(例,換気血流[V/Q]シンチグラフィー,CT肺血管造影)が必要である。

原因の特定

DVTの確定診断が得られ,原因(例,不動状態,手術,下肢外傷)も判明している患者には,それ以上の検査は必要ない。凝固亢進を検出するための検査については議論があるが,特発性(もしくは原発性)DVTまたは再発性のDVTを有する患者,その他の血栓症の既往または家族歴を有する患者,および明らかな素因がない若年患者では,ときに行われる。凝固亢進の存在は臨床的な危険因子ほどDVTの再発を予測しないことを示唆するエビデンスもある。

DVT患者に対する癌スクリーニングは,あまり成果がない。完全な病歴聴取と身体診察に基づき選択した検査と癌の検出を目標とした基本的な「ルーチン」検査(血算,胸部X線,尿検査,肝酵素,血清電解質,BUN,クレアチニン)でおそらく十分である。さらに,年齢および性別に応じて定められている癌スクリーニング(例,マンモグラフィー,大腸内視鏡検査)を実施すべきである。

予後

十分な治療を行わない場合,下肢のDVTが致死的なPEをもたらすリスクは3%であり,上肢のDVTによる死亡は非常にまれである。DVTの再発リスクは,一過性の危険因子(例,手術,外傷,一時的な不動状態)を有する患者で最も低く,持続的な危険因子(例,癌)を有する患者,特発性のDVT患者,過去のDVTの回復が不完全な(残存血栓)患者で最も高い。ワルファリン中止後に測定されたDダイマー値が正常であることは,DVTまたはPEの再発リスクが比較的低いことを予測する一助となる。静脈不全症のリスクは予測が難しい。静脈炎後症候群の危険因子としては,近位部の血栓症,同側でのDVTの再発,BMI(body mass index) 22kg/m2以上などがある。

治療

  • ヘパリンの注射後に経口抗凝固薬(ワルファリンまたは第Xa因子阻害薬もしくは直接トロンビン阻害薬)を投与する抗凝固療法

治療は第一にPEの予防を目的とし,第二に症状の軽減とDVTの再発,慢性静脈不全症,および静脈炎後症候群の予防を目的とする。下肢と上肢のDVTの治療は概ね同じである。

DVTでは全例に抗凝固薬を投与し,最初はヘパリンの注射剤(未分画または低分子)を短期間投与し,続いて経口薬(例,ワルファリン)による長期治療を24~48時間以内に開始する。特定の患者では,経口剤への切替えの代わりに,低分子ヘパリンによる治療を継続してもよい。最初の24~48時間の抗凝固療法が不十分であると,再発またはPEのリスクが増大する可能性がある。急性DVTは外来での治療が可能であるが,重度の症状のために鎮痛薬の注射剤が必要な場合,他の疾患のために退院後の安全を確保できない場合,および他の因子(例,機能面,社会経済面)により処方された治療の遵守が困難となる可能性がある場合は例外である。

一般的な支持療法として鎮痛薬による疼痛コントロールがあり,これにはNSAIDの短期コース(3~5日間)が含まれる場合がある。NSAIDおよびアスピリンによる長期治療は,これらの薬剤の抗血小板作用により出血性合併症のリスクが増大する可能性があるため,避けるべきである。また,非活動期には下肢の挙上(静脈圧迫を回避するため,枕など表面が柔らかい物で支える)が推奨される。身体活動は患者が耐えられる程度で許可してもよく,早期からの活動再開によって血栓の移動やPEのリスクが高まったり,静脈炎後症候群のリスクを軽減する上で有用となったりするといったエビデンスはない。

抗凝固薬

最も頻用される抗凝固薬( 抗凝固薬とその作用部位)は以下のものである:

  • 低分子ヘパリン(LMWH)

  • 未分画ヘパリン(UFH)

  • フォンダパリヌクス

  • ワルファリン

  • ワルファリン以外の経口抗凝固薬(non-warfarin oral anticoagulant):第Xa因子阻害薬(例,リバーロキサバン,アピキサバン),直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)

LMWH(例,エノキサパリン,ダルテパリン,チンザパリン― 血栓塞栓性疾患における低分子ヘパリン*の選択肢)は外来で使用できるため,初期治療での第1選択薬である。DVTの再発,血栓の進展,およびPEによる死亡リスクを低減する上で,LMWHはUFHと同等に効果的である。UFHと同様に,LMWHもアンチトロンビンの作用(凝固因子プロテアーゼを阻害する)を触媒し,凝固第Xa因子および(程度はやや低いが)凝固第IIa因子の不活化をもたらす。LMWHはまた,アンチトロンビンを介した抗炎症作用もある程度有しており,これは血栓の器質化を促進して症状および炎症を軽減する。

LMWHは典型的には体重に基づく標準用量で皮下投与される(例,エノキサパリン1.5mg/kg,皮下,1日1回もしくは1mg/kg,皮下,12時間毎,またはダルテパリン200単位/kg,皮下,1日1回)。腎機能不全を有する患者には,UFHまたは減量したLMWHによる治療が可能である。LMWHは総合的な凝固検査の結果に有意な延長をもたらさないことから,モニタリングは信頼性が低い。さらに,LMWHは予測可能な用量反応性を示し,LMWHの抗凝固作用と出血との間に明確な関連性は認められていない。治療はワルファリンで十分な抗凝固効果が得られるまで継続する(典型的には5日程度)。ただし,癌患者などの高リスク患者ではLMWHがDVTの長期治療に効果的であることがエビデンスから示唆されている。このため,一部の患者ではLMWHがワルファリンの許容可能な代替薬となりうるが,ワルファリンは費用が安く,投与経路が経口であることから,ほとんどの患者ではワルファリンが第1選択の治療となる可能性が高い。

UFHは腎臓で除去されないことから,入院患者と腎機能不全または腎不全(クレアチニンクリアランス10~30mL/min)を有する患者には,LMWHの代わりにUFHを使用してもよい。UFHは,十分な抗凝固効果(例,活性化PTT[aPTT]基準範囲の1.5~2.5倍)を達成するため,急速投与と点滴で投与される( 体重に基づくヘパリンの用量設定)。外来患者では,歩行を促進するために,最初のUFH 333単位/kgの急速投与に続いて250単位/kgを12時間毎に皮下投与する治療法で静脈内投与の代替とすることが可能であり,aPTTに基づく用量調節は必要ないようである。治療はワルファリンで十分な抗凝固効果が得られるまで継続する。

ヘパリンの合併症としては,出血,血小板減少(LMWHでは比較的少ない),蕁麻疹,まれに血栓症やアナフィラキシーなどがある。UFHの長期使用は低カリウム血症,肝酵素値上昇,および骨減少症の原因となる。まれに,皮下投与したUFHによって皮膚の壊死が引き起こされることがある。入院患者には(ときには外来患者にも),継続的な血算および(適切な場合には)便潜血検査による出血のスクリーニングを行うべきである。

ヘパリン過剰による出血は,硫酸プロタミンで止血することができる。用量はLMWH 1mg当たりプロタミン1mgであり,生理食塩水20mLにつき1mgを希釈して投与し,10~20分かけて緩徐に静注する。2回目の投与が必要な場合は,1回目の半量で投与すべきである。ただし,プロタミンはLMWHによる第Xa因子の不活化を部分的にしか中和しないため,厳密な用量は明らかでない。点滴中は必ず,患者を観察して低血圧やアナフィラキシー様の反応がみられないか確認すべきである。静脈内投与されたUFHの半減期は30~60分であることから,プロタミンについては,UFHが投与されている患者(例,UFHの投与が60分以上前の場合)には投与を控えるか,UFHの半減期から推定される血漿中のヘパリンの残存量に基づく用量で投与する。

注射剤の選択的第Xa因子阻害薬であるフォンダパリヌクスは,DVTまたはPEの初期治療にUFHまたはLMWHの代替薬として使用することができる。7.5mg,皮下,1日1回(体重が100kgを超える患者では10mg,50kg未満の患者では5mg)の固定用量で投与する。この薬剤は固定用量であることが利点であり,血小板減少を惹起する可能性が低い。

注射剤の直接トロンビン阻害薬(アルガトロバン,bivalirudindesirudin)が使用可能であるが,DVTまたはPEの治療ないし予防で果たせる役割はない。アルガトロバンは,ヘパリン起因性血小板減少症を呈するDVT患者の治療に有用となりうる。

ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬は,全ての患者において長期抗凝固療法の第1選択薬であるが,妊婦(ヘパリン投与を継続すべきである)とワルファリン投与中に静脈血栓塞栓症が発生または悪化した患者(下大静脈フィルター留置術の適応である可能性がある)は例外である。ワルファリンは十分な治療効果が得られるまでに5日程度の期間を要することから,5~10mgの投与をヘパリンとともに直ちに開始することが可能である。高齢者および肝疾患を有する患者では,一般的にワルファリンは低用量で使用する必要がある。治療目標はINR 2.0~3.0である。INRのモニタリングを,ワルファリン開始後最初の1~2カ月間は週1回,その後は月1回の頻度で実施する;INRがこの範囲内に維持されるように用量を0.5~3mgずつ増減する。ワルファリンの投与を受けている患者には,起こりうる薬物相互作用(食品や処方箋なしで入手できる薬用ハーブとの相互作用も含む)について情報を提供すべきである。

ワルファリン以外の経口抗凝固薬(non-warfarin oral anticoagulant)は,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)とも呼ばれ,DVTおよびPEの治療にワルファリンに代わる第1選択薬として使用可能となっているが,全てのDOACがこの適応でFDAの承認を受けているわけではない( 経口抗凝固薬)。具体的には第Xa因子阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)や直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)などがある。ワルファリンと比較して,これらの薬剤はDVTの再発に対して同程度の予防効果をもたらし,重篤な出血リスクも同程度である(あるいはアピキサバンの場合はより低い)ことが示されている。

これらの薬剤の利点は,数時間以内に作用を示すこと(このため,ダビガトランを除き,ヘパリンによる注射剤でのブリッジングが必要ない)と,固定用量で投与できること(このため,継続的に臨床検査を行う必要がない)である。

これらの薬剤の欠点は,高価であることと,生命を脅かす出血を起こした患者や緊急手術が必要になった患者で抗凝固作用を消去するために使用できる中和剤が(ダビガトランとエドキサバンを除いて)現時点でないということである。イダルシズマブは, ダビガトランに対するヒトモノクローナル抗体であり,ダビガトランに対して有効な中和剤である。他の直接作用型経口抗凝固薬に対する中和剤の開発が現在進められている。生命を脅かす出血が発生した場合は,リバーロキサバンおよびアピキサバンの抗凝固作用を減弱させるためにプロトロンビン複合体製剤(PCC)を試すことができ,ダビガトランに対しては(中和剤が入手できない場合は)活性型PCCを使用してもよい。タンパク結合率が高くないダビガトランでは,その抗凝固作用を減弱する上で血液透析または血液吸着法がまれに有用となるが,これらの処置はリバーロキサバンとアピキサバンには無効である。DOACを服用している患者にみられる多くの出血は,輸液および濃厚赤血球輸血による支持療法で十分である。

使用する場合,リバーロキサバンは15mg,経口,1日2回で診断後すぐに開始して3週間投与し,続いて20mg,経口,1日1回で9週間投与する。アピキサバンは10mg,経口,1日2回で診断後すぐに開始して7日間投与し,続いて5mg,経口,1日2回で6カ月間投与する。ダビガトランは150mg,経口,1日2回とし,LMWHによる5~7日間の初期投与後にのみ投与する。

治療期間は一定でない。DVTの一過性の危険因子(例,不動状態,手術)を有する患者は,通常3~6カ月後にワルファリンの服用を中止できる。是正できない危険因子(例,凝固亢進)を有する患者,既知の危険因子がない特発性(または原発性)DVT患者,およびDVTを再発した患者は,ワルファリンの服用を少なくとも6カ月以上,一部の患者では合併症が起こらない限りおそらく生涯にわたって継続すべきである。

最も頻度の高い合併症は出血である。重度の出血(生命を脅かす出血または7日間以内での2単位以上の失血と定義される)の危険因子は以下の通りである:

  • 年齢 ≥ 65歳

  • 消化管出血または脳卒中の既往

  • 最近の心筋梗塞

  • 貧血(Hct < 30%),腎機能不全(血清クレアチニン値 > 1.5mg/dL),または糖尿病

活動性出血を呈する患者と出血リスクが高い可能性がある患者では,抗凝固作用の中和にビタミンKを使用することができ,その用量はINRが5~9の場合は1~2.5mg,経口,INRが9を超える場合は2.5~5mg,経口,出血が起きている場合は5~10mg,静注(アナフィラキシーを回避するため緩徐に投与)である。出血が重度の場合は,凝固因子,新鮮凍結血漿,またはプロトロンビン複合体製剤の輸注も行うべきである。過剰抗凝固状態(INR 5~9)を呈し,活動性出血がみられず,出血リスクの増大もない一部の患者では,ワルファリンを1~2回休薬して,INRのモニタリングをより頻回に行い,その後にワルファリンを低用量で再開することで管理できる。プロテインCまたはS欠乏症の患者と第V因子Leiden変異を有する患者では,ワルファリンはまれに皮膚壊死を引き起こす。

抗凝固薬とその作用部位

LMWH = 低分子ヘパリン; TF = 組織因子; UFH = 未分画ヘパリン。

抗凝固薬とその作用部位

下大静脈フィルター(IVCF)

抗凝固薬の禁忌がある下肢DVTの患者と十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性DVT(または塞栓)がみられた患者では,PEの予防にIVCFが有用となりうる。IVCFは下大静脈の腎静脈直下に,カテーテルを用いて経内頸静脈的または経大腿静脈的に留置される。一部のIVCFは抜去することができ,一時的な使用(例,抗凝固療法の禁忌が軽快または消失するまで)が可能である。

IVCFは血栓による急性合併症のリスクを低減するが,長期の合併症が発生する可能性がある(例,静脈側副血行路が発達して塞栓がIVCFを迂回する経路が形成される,DVTの再発リスクが増大する)。また,IVCFは逸脱する可能性や血栓により閉塞する可能性もある。したがって,DVTの再発患者とDVTの是正不可能な危険因子を有する患者には,IVCFが留置された状態でも抗凝固薬が必要である。血栓が形成されたフィルターは,両側性の下肢静脈うっ滞(急性の有痛性青股腫を含む),下半身虚血,および急性腎障害を引き起こす可能性がある。フィルターの逸脱に対する治療法は,血管造影による処置,あるいはもし必要なら,外科的方法による抜去である。IVCFは広く使用されているにもかかわらず,PEの予防における効果は研究されておらず,証明されていない。IVCFは可能であれば必ず抜去すべきである。

血栓溶解薬

ストレプトキナーゼ,ウロキナーゼ,およびアルテプラーゼは,血栓を溶解する作用を有し,ヘパリン単独と比較して静脈炎後症候群の予防により効果的である可能性があるが,出血リスクがヘパリンよりも高い。これらの薬剤の使用は現時点で研究段階にあり,特にPEおよび右室機能障害を呈する患者において,また広範な近位DVTに対する経皮的機械的血栓除去術との併用で評価されている。

血栓溶解療法単独での治療は,近位部の大きな血栓(特に腸骨-大腿静脈領域のもの)と有痛性白股腫または青股腫で適応となりうる。留置カテーテルを用いた血栓溶解療法の局所投与(経皮的血栓除去術の施行中)は,静脈内投与より望ましい可能性がある。

手術

手術が必要になることはまれである。しかしながら,血栓溶解薬に反応しない有痛性白股腫または青股腫には,肢切断に至る恐れがある壊疽の予防を試みるため,血栓除去術,筋膜切開術,またはその両方が必須である。

予防

DVTは治療するより予防する方が望ましく,その方が安全であり,特に高リスク患者でその傾向が強くなる( 手術患者における深部静脈血栓症および肺塞栓症のリスク)。以下の治療法が用いられる(より詳細な考察についてはDVTの予防を参照のこと):

  • 不動状態の予防

  • 抗凝固療法(例,LMWH,フォンダパリヌクス,用量調節ワルファリン)

  • 間欠的空気圧迫法

  • IVCF

要点

  • 症状と徴候は非特異的であるため,警戒が必要であり,特に高リスク患者では細心の注意を払う必要がある。

  • 低リスク患者ではDダイマー検査を行い,その結果が正常であれば基本的にDVTは除外できる;それ以外の患者には超音波検査を施行すべきである。

  • 初期治療ではヘパリンの注射剤(未分画またはLMWH)を投与した後,ワルファリンの経口剤またはときにLMWHを投与する。経口剤の第Xa因子阻害薬および直接トロンビン阻害薬が果たす役割が拡大してきている。

  • 治療期間は危険因子の有無とその性質に依存するが,典型的には3カ月または6カ月間であり,一部の患者では生涯にわたる治療が必要となる。

  • 重大な疾患で寝たきりの患者と特定の手術を受ける患者には,予防的治療が必要である。

  • 推奨される予防策は早期の歩行再開,下肢の挙上,および抗凝固薬であり,抗凝固薬を投与すべきでない患者には,間欠的空気圧迫装置,弾性ストッキング,またはその併用が有益となる可能性がある。

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