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心不全 (HF)

(うっ血性心不全)

執筆者:

Sanjiv J. Shah

, MD, Northwestern University Feinberg School of Medicine

最終査読/改訂年月 2017年 3月
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心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,アルドステロン拮抗薬,ネプリライシン阻害薬,特殊な植込み型ペースメーカー/除細動器とその他の医療機器,心不全症候群の原因の是正などがある。

米国では約650万人が心不全に罹患しており,毎年96万例を超える新規症例が発生している。世界全体では約2600万人が罹患している。

生理

心収縮能(収縮力と収縮速度),心室機能,心筋酸素必要量は,以下の要素によって規定される:

  • 前負荷

  • 後負荷

  • 利用可能な基質(例,酸素,脂肪酸,グルコース)

  • 心拍リズム

  • 生存心筋量

心拍出量は,一回拍出量と心拍数の積であり,静脈還流量,末梢血管緊張,および神経体液性因子からも影響を受ける。

前負荷は,収縮(収縮期)直前の流入期(拡張期)末期に心臓にかかる負荷条件である。前負荷は拡張末期の心筋線維伸展の程度と拡張末期容積を反映し,これは心室拡張期圧と心筋壁組成から影響を受ける。典型的には,左室拡張末期圧は(特に正常範囲より高い場合)前負荷の妥当な指標となる。左室の拡大,肥大,および心筋伸展性(コンプライアンス)の変化は,前負荷を修飾する。

後負荷は,収縮期の開始時に心筋線維の収縮に対して抵抗する力である。後負荷は大動脈弁開放時の左室の内圧,内径,および壁厚によって規定される。臨床的には,大動脈弁開放時またはその直後の全身収縮期血圧は収縮期の最大壁応力と相関し,後負荷とほぼ等しい。

Frank-Starlingの法則により,前負荷と心収縮能の関係が説明される。この法則によると,正常のとき,収縮期の収縮性能(一回拍出量または心拍出量によって表される)は正常生理範囲内の前負荷に比例する(Professional.see figure Frank-Starlingの法則 Frank-Starlingの法則 Frank-Starlingの法則 )。収縮性は,臨床的には(心臓カテーテル法と圧容積分析を必要とするため)測定困難であるが,駆出率(収縮毎に駆出される血液量の拡張末期容積に対する割合で,一回拍出量/拡張末期容積で算出される)が妥当な指標となる。駆出率は一般に心エコー検査,核医学検査,またはMRIで非侵襲的に十分に評価することができる。

心予備能とは,精神的または身体的ストレスに対する反応として安静時の水準を超えて心機能を亢進させる能力のことであり,身体の酸素消費量は,最大労作中に250mL/minから1500mL/min以上まで増大する可能性がある。その機序としては,心拍数,収縮期容積,拡張期容積,一回拍出量,および組織の酸素抽出量(動脈血と混合静脈血または肺動脈血との酸素含量の差)の増加などがある。十分に鍛えられた若年成人では,心拍数は安静時の55~70/分から最大運動時の180/分まで増加し,心拍出量は6L/分から25L/分以上に増加する可能性がある。安静時には,酸素含有量は動脈血で約18mL/dL,混合静脈血または肺動脈血で約14mL/dLである。このため,酸素抽出は約4mL/dLである。要求量が増加すれば,抽出量は12~14mL/dLまで増加しうる。この機序は,心不全で組織血流量が低下した場合の代償にも役立つ。

Frank-Starlingの法則

正常では(上の曲線),前負荷が増加すると,一回拍出量も増加する。しかし,ある時点で一回拍出量はプラトーに達し,続いて減少に転じる。収縮機能障害による心不全では(下の曲線),曲線全体が下に移動するが,これは前負荷とは無関係に一回拍出量が減少することを反映した変化であり,この場合は前負荷が増加しても,一回拍出量はあまり増加しない。治療により(中央の曲線)一回拍出量は改善するが,正常には戻らない。

Frank-Starlingの法則

病態生理

心不全では,心臓が代謝要求に十分な量の血液を組織に供給できなくなり,心臓の変化に関連して肺または全身静脈圧が上昇する結果,臓器うっ血を来すことがある。この状態は,収縮機能,拡張機能,あるいは一般的には両機能に異常を来した結果として発生する。主要な異常としては心筋機能の変化が考えられるが,細胞外基質のコラーゲンの代謝回転にも変化が生じている可能性がある。心臓の構造的欠損(例,先天的欠損,弁膜症),調律異常(持続的な心拍数高値も含む),および代謝要求の亢進(例,甲状腺中毒症に起因するもの)も心不全の原因となりうる。

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駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)

HFrEF(収縮性心不全とも呼ばれる)では,左室全体の収縮機能障害が主である。左室の収縮が不良になり,駆出が不十分となる結果,拡張期容積の増大,拡張期圧の上昇,および駆出率の低下が生じる。エネルギー利用,エネルギー供給,電気生理学的機能,および収縮成分の相互作用について多くの異常が生じ,細胞内カルシウム濃度の調節やcAMP産生の異常が生じる。

駆出率が保持された心不全(HFpEF)

HFpEF(拡張性心不全とも呼ばれる)では,左室充満が損なわれる結果,安静時または労作時に左室拡張末期圧が上昇する。全体的な収縮性は正常なままであり,したがって駆出率も正常である。HFpEF患者の大半では,拡張末期左室容積は正常である。しかしながら,一部の患者では,左室充満の著明な制限により,拡張末期左室容積が異常に小さくなり,そのため心拍出量が低下して,全身症状が現れる。左房圧が上昇すると,肺高血圧症と肺うっ血が生じる可能性がある。

拡張機能障害は通常,心室弛緩の障害(能動的な過程),心室スティフネスの亢進,弁膜症,または収縮性心膜炎から生じる。急性心筋虚血も拡張機能障害の原因となりうる。充満抵抗は加齢とともに上昇するが,これは心筋細胞機能障害と心筋細胞の喪失の両方,および間質のコラーゲン沈着の増加を反映しており,したがって,拡張機能障害は特に高齢者で多くみられる。肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心... さらに読む 肥大型心筋症 ,心室肥大を伴う病態(例,高血圧,有意な大動脈弁狭窄),およびアミロイドの心筋浸潤では,拡張機能障害が優勢である。右室圧の著明な上昇により心室中隔が左心側に移動すると,左室の充満および機能も障害されることがある。

心不全の原因としての拡張機能障害に対する認識が高まってきている。推定結果は一定でないが,心不全患者の約50%はHFpEFであり,その有病率は加齢と糖尿病患者で高くなる。HFpEFは現在では,しばしば複数の病態生理が同時多発的に生じる,多臓器の異常による複雑かつ不均一な全身性の症候群であることが知られている。最新のデータによると,様々な併存症(例,肥満 肥満 肥満は体重の過剰であり,BMI(body mass index)が30kg/m2以上であることと定義される。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断はBMIに基づく。... さらに読む 高血圧 高血圧の概要 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,または原発性アルドステロン症に起因する。高血圧は重症となるか長期間持続しない限... さらに読む 高血圧の概要 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病(DM)はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリンお... さらに読む 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 )により全身性の炎症,広範な内皮機能障害,および心臓微小血管の機能障害が生じ,最終的には心臓の分子レベルの変化によって心筋線維化や心室硬化が増加する可能性が示唆されている。したがって,HFrEFは典型的には一次性の心筋損傷に関連した病態であるが,HFpEFは末梢で生じた異常による二次性の心筋損傷に関連している場合がある。

左室不全

左室機能障害に起因する心不全では,心拍出量が減少し,肺静脈圧が上昇する。肺毛細血管圧が血漿タンパク質の膠質浸透圧(約24mmHg)を上回ると,体液が毛細血管から間質および肺胞へと漏出し,肺のコンプライアンスが低下し,呼吸仕事量が増大する。リンパ管からの排出が増加するが,胸水の増加を代償することはできない。肺胞への著明な液貯留(肺水腫)により,換気血流比(肺胞換気量[V]/肺血流量[Q])が有意に変化する:酸素化前の肺動脈血が換気の低下した肺胞を通過することにより,全身動脈血の酸素化(Pao2)が低下し,呼吸困難が生じる。しかしながら,呼吸困難がV/Q比の異常に先立って生じることもあり,これはおそらく肺静脈圧の上昇と呼吸仕事量の増加が原因と考えられるが,その厳密な機序は不明である。

重度または慢性の左室不全では,胸水が貯留するのが特徴であり,これにより呼吸困難がさらに増悪する。分時換気量は増加し,そのためPaco2が低下し,血液pHが上昇する(呼吸性アルカローシス)。末梢気道の著明な間質性浮腫により換気が妨げられ,それによりPaco2が上昇することがある(呼吸不全 呼吸不全の概要 急性呼吸不全は,酸素化障害,二酸化炭素排出障害,または両方の障害であり,生命を脅かす病態である。呼吸不全の原因は,ガス交換の障害,換気の減少,またはその両方がありうる。一般的な症候には呼吸困難,呼吸補助筋の使用,頻呼吸,頻脈,発汗,チアノーゼ,意識変容などがあり,無治療の場合最終的には意識障害,呼吸停止,および死に至る。診断は臨床的に行わ... さらに読む が切迫している徴候)。

右室不全

右室機能障害に起因する心不全では,全身静脈圧が上昇し,主に各体位で下方にある組織(歩行可能な患者では足や足関節)や腹腔内臓器に体液が漏出して浮腫を来す。肝臓への影響が最も大きいが,胃や腸管にもうっ血が生じるほか,腹腔への液貯留(腹水)が起こることがある。右室不全は一般的に,中等度の肝機能障害を引き起こし,通常は抱合型および非抱合型ビリルビンの軽度上昇,プロトロンビン時間(PT)の軽度延長,および肝酵素値(特にアルカリホスファターゼ,およびγ-グルタミルトランスペプチダーゼ[GGT])の軽度上昇を伴う。肝障害によりアルドステロン分解能が低下する結果,体液貯留がさらに亢進する。内臓における慢性静脈うっ滞は,食欲不振,栄養および薬物の吸収不良,タンパク漏出性胃腸症(下痢および著明な低アルブミン血症を特徴とする),消化管の慢性出血,まれに虚血による腸梗塞を引き起こす可能性がある。

心臓の反応

HFrEFでは,左室収縮機能が著しく損なわれるため,心拍出量を維持するためにより大きな前負荷が必要となる。その結果,時間の経過とともに両心室でリモデリングが生じる:左室は卵円形から球形となり,拡大して肥大し,右室は拡大し,肥大する場合もある。これらの変化は初期には代償性であるが,最終的には拡張期のスティフネスおよび壁張力を増強させ(すなわち拡張機能障害が発生する),これにより一回拍出量が減少し,特に身体的ストレスが生じた際に著明となる。壁応力の上昇により,酸素需要が増大し,心筋細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)が加速する。心室の拡大により(弁輪が拡大するために)僧帽弁または三尖弁逆流が生じる可能性もあり,その場合は拡張末期容積がさらに増大する。

血行動態の反応

心拍出量が減少した場合,組織への酸素運搬は,酸素抽出の増加のほか,ときに酸素解離曲線(Professional.see figure 酸素解離曲線 酸素解離曲線 酸素解離曲線 )の右側へのシフト(酸素放出の促進)によって維持される。

全身血圧の低下を伴う心拍出量の減少は,動脈の圧反射を活性化し,それにより交感神経緊張が亢進し,副交感神経緊張が抑制される。その結果,心拍数および心筋収縮性の増加,一部の血管床での細動脈の収縮,静脈収縮の発生,ならびにナトリウム・水貯留がもたらされる。これらの変化は,低下した心室機能を代償するとともに,心不全の早期段階で血行動態の恒常性を維持するのに役立っている。しかしながら,これらの代償性変化は,心仕事量,前負荷,および後負荷の増大,冠および腎血流量の減少,体液貯留によるうっ血,カリウム排泄の亢進をもたらし,心筋壊死や不整脈を引き起こす可能性がある。

腎臓の反応

心機能が悪化するに従い,腎血流量が低下する(心拍出量が少ないため)。さらに,腎静脈圧が高まり,腎静脈うっ血が生じる。これらの変化は,ともに糸球体濾過量(GFR)の低下をもたらし,腎臓内で血流の再分布が生じる。濾過率およびナトリウム濾過量は低下するが,尿細管再吸収が亢進するため,ナトリウム・水貯留を来す。労作時にはさらなる血流の再分布により腎臓への血流が減少するが,安静時には腎血流量が改善する。

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン-バソプレシン(抗利尿ホルモン[ADH])系は,有害となりうる一連の長期的影響を誘導する。アンジオテンシンIIは,腎臓の輸出細動脈を含めた血管収縮を引き起こし,アルドステロンの産生を増加させることにより心不全を悪化させ,これは遠位ネフロンでのナトリウム再吸収を促進し,心筋および血管のコラーゲン沈着や線維化も引き起こす。アンジオテンシンIIはノルアドレナリンの分泌を促進し,バソプレシンの分泌を刺激し,アポトーシスの引き金となる。アンジオテンシンIIは血管および心筋の肥大に関与していると考えられ,そのため心臓および末梢血管構造のリモデリングに寄与し,心不全を悪化させる可能性がある。アルドステロンは,心臓および血管系においてアンジオテンシンIIとは独立して合成されることあり(おそらくコルチコトロピン,一酸化窒素,フリーラジカル,その他の刺激が介在する),これらの臓器に悪影響を及ぼす可能性がある。

進行性の腎機能障害(心不全の治療に使用された薬剤に起因する腎機能障害も含む)を引き起こす心不全は,心不全の増悪に寄与し,心腎症候群と呼ばれる。

神経体液性因子を介した反応

ストレス条件下では,神経体液性因子を介した反応は心機能の向上や血圧および臓器灌流の維持に役立つが,それらの反応が慢性的に活性化されると,心筋刺激ホルモンと血管収縮ホルモンの間,および心筋弛緩ホルモンと血管拡張ホルモンの間の正常なバランスに悪影響が生じる。

心臓には神経体液性因子に対する受容体が多数(α1,β1,β2,β3,アンジオテンシンII 1型[AT1]および2型[AT2],ムスカリン,エンドセリン,セロトニン,アデノシン,サイトカイン,ナトリウム利尿ペプチド)存在するが,これらの受容体全ての役割は,依然として十分に解明されていない。心不全患者では,β1受容体(心臓のβ受容体の70%を占める)は,おそらく交感神経の強い活性化に対する反応としてダウンレギュレーションされている。そのダウンレギュレーションがもたらす結果は,心筋細胞の収縮性の低下と心拍数の上昇である。

血漿ノルアドレナリン濃度は上昇するが,血漿アドレナリン濃度は上昇しないため,前者の濃度上昇は主として交感神経刺激を反映する。生じる悪影響としては,前負荷および後負荷の増大を伴う血管収縮,アポトーシスを含む直接的な心筋障害,腎血流量の減少,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン-バソプレシン系を含む他の神経体液性因子の活性化などがある。

バソプレシンは,血圧低下に対する反応として,種々の神経ホルモン刺激を介して分泌される。バソプレシン濃度の上昇は自由水の腎排泄を減少させ,心不全における低ナトリウム血症の一因となる可能性がある。血圧が正常な心不全患者のバソプレシン濃度は一様でない。

心房性ナトリウム利尿ペプチドは,心房の容量増加と圧上昇に対する反応として分泌され,脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は,心室の伸展に対する反応として心室から放出される。これらのペプチドはナトリウムの腎排泄を促進するが,その作用は心不全患者では腎灌流圧の低下,受容体のダウンレギュレーション,そしておそらくは酵素による分解の促進によって減弱する。さらに,高濃度のナトリウム利尿ペプチドはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系とカテコールアミン刺激に対して反対方向の調節作用を及ぼす。

心不全では内皮機能障害が起こるため,内因性血管拡張物質(例,一酸化窒素,プロスタグランジン類)の産生が減少し,内因性血管収縮物質(例,エンドセリン)の産生が増加する結果,後負荷が増大する。

機能不全に陥った心臓やその他の臓器は腫瘍壊死因子(TNF)αを産生する。このサイトカインは異化を亢進させ,重症心不全を伴うことのある心臓悪液質(除脂肪組織の10%以上の喪失)や他の有害な変化に関与する可能性がある。機能不全に陥った心臓では,遊離脂肪酸の利用増加とグルコース利用の低下を伴う代謝の変化も発生するが,これらの変化は治療の標的となる可能性がある。

加齢に伴う変化

加齢に伴う心臓および心血管系の変化は,心不全の発現閾値を低下させる。心筋内の間質コラーゲンが増加し,心筋が硬化し,心筋弛緩が延長する。これらの変化は,たとえ健康な高齢者においても,左室拡張機能の有意な低下につながる。加齢とともに収縮機能もいくらか低下していく。加齢に伴ってβアドレナリン受容体刺激に対する心筋および血管の反応性が低下することで,心血管系が仕事量の需要増大に対応する能力がさらに低下する。

これらの変化の結果,最大運動耐容量が大きく低下していき(30歳以降は10年当たり約8%ずつ),最大労作時の心拍出量もやや緩やかに低下する。この低下のペースは,定期的な運動によって遅らせることができる。このため,高齢患者は若年患者と比較して,全身性疾患のストレスや相対的に軽度の心血管傷害に反応して心不全症状を発症しやすい傾向がある。ストレス因子としては,感染(特に肺炎),甲状腺機能亢進症,貧血,高血圧,心筋虚血,低酸素症,高体温,腎不全,周術期の輸液負荷,薬物療法または減塩食に対するアドヒアランス不良,特定の薬剤の使用(特にNSAID)などがある。

病因

心臓因子と全身因子のどちらも,心臓のポンプ機能を障害して,心不全の発症や増悪につながる可能性がある(Professional.see table 心不全の原因 心不全の原因 心不全の原因 )。

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分類

現在最も一般的に用いられている心不全の分類では,患者を次のように層別化している:

駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)とは,左室駆出率が40%以下の心不全と定義される。駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)とは,左室駆出率が50%以上の心不全と定義される。左室駆出率が40%~50%の患者は中間域にあるとされ,最近では駆出率が中間域にある心不全(heart failure with mid-range ejection fraction:HFmrEF)に分類されるようになっている(1 分類に関する参考文献 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 分類に関する参考文献 )。

心臓は全体で1つのポンプとして機能するものであり,ある心腔に生じた変化は最終的には心臓全体に影響を及ぼすため,従来からの左室不全と右室不全という区別は,いくらかの誤解を招く考え方である。しかしながら,これらの用語は心不全につながる主たる異常部位を示しており,初期の評価および治療には有用となりうる。その他の一般的な表現としては,急性または慢性,高拍出性または低拍出性,拡張型または非拡張型,虚血性,高血圧性,特発性拡張型心筋症などがある。治療方針は,臨床像が急性心不全か慢性心不全かによって異なる。

左室不全は,虚血性心疾患,高血圧 高血圧の概要 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,または原発性アルドステロン症に起因する。高血圧は重症となるか長期間持続しない限... さらに読む 高血圧の概要 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(MR)は,僧帽弁の閉鎖不全により,心室収縮期に左室から左房に向かって逆流が生じる病態である。MRは一次性(一般的な原因は僧帽弁逸脱およびリウマチ熱)または左室拡大もしくは心筋梗塞による二次性の可能性がある。合併症としては進行性心不全,不整脈,心内膜炎がある。症状と徴候には動悸,呼吸困難,全収縮期の心尖部雑音がある。診断は身体... さらに読む 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症(AR)は,大動脈弁の閉鎖不全により,拡張期に大動脈から左室に向かって逆流が生じる病態である。原因としては,弁変性および大動脈基部拡張(二尖弁の合併を含む),リウマチ熱,心内膜炎,粘液腫様変性,大動脈基部解離,結合組織疾患(例,マルファン症候群),リウマチ性疾患などがある。症状としては,労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼... さらに読む 大動脈弁逆流症 大動脈弁狭窄症 大動脈弁狭窄症 大動脈弁狭窄症(AS)は,大動脈弁が狭小化することによって,収縮期の左室から上行大動脈への血流が妨げられる病態である。原因としては,先天性二尖弁,石灰化を伴う特発性の変性硬化,リウマチ熱などがある。無治療のASは進行して症候性となり,古典的三徴(失神,狭心症,労作時呼吸困難)のうち1つまたは複数が生じ,心不全および不整脈を来すこともある。... さらに読む 大動脈弁狭窄症 ,大半の病型の心筋症 心筋症の概要 心筋症は心筋の原発性疾患である。冠動脈疾患や弁膜症,先天性心疾患といった構造的心疾患とは明確に異なる疾患概念である。心筋症は病理学的特徴に基づき,以下に示す3つの主な病型に分類される(心筋症の病型の図を参照): 拡張型 肥大型 拘束型 虚血性心筋症という用語は,重症冠動脈疾患の患者で(梗塞領域の有無にかかわらず)発生することがある,心筋が... さらに読む ,および先天性心疾患(例,心室中隔欠損症 心室中隔欠損症(VSD) 心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,両心室間の短絡を引き起こす。欠損孔が大きい場合,有意な左右短絡の発生につながり,乳児期に哺乳時の呼吸困難および発育不良を来す。胸骨左縁下部で粗大な全収縮期雑音が聴取されることが多い。繰り返す呼吸器感染症や心不全を来すことがある。診断は心エコー検査による。欠損孔は乳児期に自然閉鎖... さらに読む 心室中隔欠損症(VSD) ,短絡量の大きい動脈管開存症 動脈管開存症(PDA) 動脈管開存症(PDA)とは,大動脈と肺動脈をつなぐ胎児期の交通路(動脈管)が出生後も開存している状態である。心臓に他の構造的異常がなく,肺血管抵抗の上昇もない場合,PDAにおける短絡は左右方向(大動脈から肺動脈)となる。症状としては,発育不良,哺乳不良,頻拍,頻呼吸などがある。胸骨左縁上部に連続性雑音が聴取されることが多い。診断は心エコー... さらに読む 動脈管開存症(PDA) )で発生するのが特徴である。

右室不全は,最も一般的には過去の左室不全(肺静脈圧の上昇から肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつ... さらに読む を来し,それにより右室負荷をもたらす)または重度の肺疾患(肺性心 肺性心 肺性心とは,肺動脈性肺高血圧症を引き起こす肺疾患に続発して右室拡大が生じる病態である。続いて右室不全へと至る。所見には,末梢浮腫,頸静脈怒張,肝腫大,胸骨近傍の挙上などがある。診断は臨床的に行い,心エコー検査による。治療は原因に対して行う。 肺性心は肺またはその血管系の障害により生じるもので,左室不全,先天性心疾患(例,心室中隔欠損症),... さらに読む 肺性心 と呼ばれる場合)によって発生する。その他の原因としては,多発性肺塞栓,右室梗塞,肺動脈性肺高血圧症,三尖弁逆流症 三尖弁逆流症 三尖弁逆流症(TR)は,三尖弁の閉鎖不全により,収縮期に右室から右房に向かって逆流が生じる病態である。最も一般的な原因は右室の拡大である。症状や徴候は通常みられないが,重症TRでは頸部の拍動,全収縮期雑音,および右室由来の心不全または心房細動が引き起こされる。診断は身体診察および心エコー検査による。TRは通常良性で治療を必要としないが,一... さらに読む 三尖弁狭窄症 三尖弁狭窄症 三尖弁狭窄症(TS)は,三尖弁口が狭小化することによって,右房から右室への血流が妨げられる病態である。原因はほぼ全例でリウマチ熱である。症状としては,頸部のはためくような不快感,疲労,皮膚冷感,右上腹部不快感などがある。頸静脈拍動が著明となり,前収縮期雑音がしばしば第4肋間胸骨左縁で聴取され,吸気時に増強する。診断は心エコー検査による。T... さらに読む 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症(MS)は,僧帽弁口が狭小化することによって,左房から左室への血流が妨げられる病態である。原因は(ほぼ)常にリウマチ熱である。一般的な合併症は,肺高血圧症,心房細動,および血栓塞栓症である。症状は心不全と同じであり,徴候としては開放音や拡張期雑音などがある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は良好である。内科的治療と... さらに読む ,肺動脈狭窄症,肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症(PS)は,肺動脈流出路が狭小化することによって,収縮期の右室から肺動脈への血流が妨げられる病態である。ほとんどの症例が先天性であり,多くは成人期まで無症状である。徴候としては漸増漸減性の駆出性雑音などがある。診断は心エコー検査による。症状がみられる患者と圧較差が大きい患者には,バルーン弁形成術が必要である。... さらに読む ,肺静脈閉塞症,不整脈原性右室心筋症,エプスタイン奇形 エプスタイン奇形 その他の先天性心奇形としては,以下のものが挙げられる: 大動脈肺動脈窓 大動脈二尖弁 修正大血管転位症 両大血管右室起始症 さらに読む アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群 アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が経時的に増大するにつれて,短絡が両方向性となり,最終的に右左短絡となる。脱酸素化された血液が体循環に流入することにより,低酸素症の症状が引き起こされる。心雑音および心音は基礎にある奇形に依存する。診断は心エコー検査または心臓カテーテル検査に... さらに読む といった先天性疾患などがある。心機能が正常の場合があることを除けば右室不全に酷似する病態もあり,具体的には赤血球増多または輸血過剰における容量負荷と全身静脈圧の上昇,ナトリウムと水の貯留を伴う急性腎障害,上下いずれかの大静脈閉塞,何らかの原因による低タンパク血症に起因する血漿膠質浸透圧の低下と末梢浮腫などが挙げられる。

高拍出性心不全は,心拍出量が長期間高い水準で維持されることにより生じ,最終的には正常であった心臓が十分な拍出量を維持できなくなる。心拍出量の増加につながる病態としては,重度の貧血,末期の肝疾患,脚気,甲状腺中毒症,進行したパジェット病,動静脈瘻,持続性の頻拍などがある。

心筋症 心筋症の概要 心筋症は心筋の原発性疾患である。冠動脈疾患や弁膜症,先天性心疾患といった構造的心疾患とは明確に異なる疾患概念である。心筋症は病理学的特徴に基づき,以下に示す3つの主な病型に分類される(心筋症の病型の図を参照): 拡張型 肥大型 拘束型 虚血性心筋症という用語は,重症冠動脈疾患の患者で(梗塞領域の有無にかかわらず)発生することがある,心筋が... さらに読む は,心筋の疾患を総称する用語である。この用語は大抵の場合,先天性の解剖学的異常;弁膜症,全身性疾患,もしくは肺血管疾患;心膜,結節,もしくは伝導系の独立した障害;または心外膜冠動脈疾患(CAD)のいずれにも起因しない,心室心筋の原発性疾患を指して用いられる。この用語は,ときに病因を反映させて使用されることもある(例,虚血性心筋症と高血圧性心筋症)。心筋症は常に症候性の心不全に至るとは限らない。心筋症はしばしば特発性であり,拡張型,うっ血型心筋症,肥大型,浸潤性拘束型(infiltrative-restrictive),たこつぼ型(ストレス心筋症とも呼ばれる)に分類される。

分類に関する参考文献

  • 1.Yancy CW, Jessup M, Bozkurt B, et al: 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines.Circulation128:e240–327, 2013.

症状と徴候

臨床像は,最初に右室および左室がどの程度の影響を受けたかに依存する。臨床的な重症度には大きなばらつきがあり,通常はNew York Heart Association(NYHA)分類(Professional.see table 心不全のNew York Heart Association(NYHA)分類 心不全のNew York Heart Association(NYHA)分類 心不全のNew York Heart Association(NYHA)分類 )に従って分類されるが,高齢の衰弱した患者では通常の活動の例を修正することがある。心不全の重症度には大きな幅があるため,NYHA分類のクラスIIIをさらにIIIAとIIIBに細分することも提唱されている。クラスIIIBは,典型的には最近心不全が増悪した患者に適用される。American College of Cardiology/American Heart Associationは,心不全予防の必要性を強調するために心不全の病期分類(A,B,C,D)を提唱している。

  • A:心不全のリスクが高いが,心臓の器質的または機能的異常も症状も認めない

  • B:心臓の器質的または機能的異常を認めるが,心不全症状は認めない

  • C:心不全症状を伴う構造的心疾患を認める

  • D:高度な治療(例,機械的循環補助,心臓移植)または緩和ケアを必要とする難治性心不全

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病歴

左室不全の最も一般的な症状は,肺静脈圧の上昇と心拍出量の低下(安静時の低下または労作時の心拍出量の増大不良)による呼吸困難および疲労である。呼吸困難は通常労作中にみられ,安静により緩和される。心不全が増悪すると,呼吸困難が安静時や夜間にもみられるようになり,ときに夜間咳嗽も生じる。心不全が進行した患者では,臥位を取った直後に発生し,座位により速やかに軽減する呼吸困難(起座呼吸)がよくみられる。発作性夜間呼吸困難(PND)では,就寝後数時間で呼吸困難が発生して患者を覚醒させ,座位を15~20分間維持するまで緩和されない。重度の心不全では,周期的な呼吸サイクル(チェーン-ストークス呼吸 視診 視診 ―短時間の呼吸数増加[過呼吸]とそれに続く短時間の呼吸停止[無呼吸])が日中または夜間にみられ,突然の過呼吸相のために中途覚醒を来すこともある。PNDでは過呼吸相が短く10~15秒しか持続しないのと異なり,チェーン-ストークス呼吸では,サイクルが一定の頻度で繰り返され,1回につき30秒から2分間にわたり持続する。PNDには肺うっ血が,チェーン-ストークス呼吸には心拍出量低下が関連する。心不全では,睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔... さらに読む などの睡眠時呼吸障害が一般的にみられ,心不全を増悪させることがある。重度の脳血流量の低下と低酸素血症により,慢性の易刺激性が生じ,精神機能が障害されることがある。

右室不全の最も一般的な症状は,足関節の腫脹と疲労である。ときに,腹部や頸部に膨満感が生じることがある。肝うっ血は右上腹部の不快感を,胃や腸管のうっ血は早期満腹感,食欲不振,および腹部膨満を引き起こすことがある。

やや特異性の低い心不全症状としては,末梢部の冷感,体位性のふらつき,夜間頻尿,日中の排尿減少などがある。重度の両室不全では骨格筋萎縮が生じることがあり,これは廃用を反映している可能性もあるが,サイトカイン産生の増加に伴う異化の亢進を反映している可能性もある。有意な体重減少(心臓悪液質)は予後不良の徴候であり,高い死亡率と関連する。

高齢者では,錯乱,せん妄,転倒,突然の機能低下,夜間尿失禁,睡眠障害など典型的でない症状が主訴となる場合もある。認知障害と抑うつの併存が評価や治療介入に影響を及ぼす場合もあり,これらが心不全によって増悪することもある。

診察

全身状態の観察により,心不全を惹起または悪化させる全身性疾患または心疾患(例,貧血,甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 (甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類で... さらに読む 甲状腺機能亢進症 ,アルコール依存症,ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシスは,過剰な鉄(Fe)蓄積を特徴とする遺伝性疾患で,組織障害を引き起こす。所見としては,全身症状,肝疾患,心筋症,糖尿病,勃起障害,および関節障害がみられることがある。診断は,血清フェリチン,鉄,およびトランスフェリン飽和度の高値により行い,遺伝子検査により確定する。連続的な瀉血による治療が一般的である。... さらに読む 遺伝性ヘモクロマトーシス ,頻拍性心房細動 心房細動 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗... さらに読む 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(MR)は,僧帽弁の閉鎖不全により,心室収縮期に左室から左房に向かって逆流が生じる病態である。MRは一次性(一般的な原因は僧帽弁逸脱およびリウマチ熱)または左室拡大もしくは心筋梗塞による二次性の可能性がある。合併症としては進行性心不全,不整脈,心内膜炎がある。症状と徴候には動悸,呼吸困難,全収縮期の心尖部雑音がある。診断は身体... さらに読む )の徴候が検出されることがある。

左室不全では,頻脈および頻呼吸が生じうる。重度の左室不全を呈する患者は,低酸素症と脳灌流量の低下により,呼吸困難,チアノーゼ,低血圧,錯乱ないし興奮を呈するように見えることがある。これらのやや特異性の低い症状の一部(例,錯乱)は,高齢者でより多くみられる。

中枢性チアノーゼ(舌や粘膜など温度の高い部位をも含む全身に出現する)は重度の低酸素血症を反映する。口唇,手指,および足指の末梢性チアノーゼは,酸素抽出の増加を伴う血流量低下を反映している。強いマッサージで爪床の色調が改善する場合,チアノーゼは末梢性と考えられ,もしチアノーゼが中心性であれば,局所血流が増加しても色調は改善しない。

HFrEFの心臓所見としては,びまん性かつ持続性で外側に偏位した心尖拍動,聴取可能でときに触知可能なIII音およびIV音,ならびにII音肺動脈弁成分(P2)の亢進などがある。これらの異常心音はHFpEFでも聴取できる。心尖部における僧帽弁逆流の汎収縮期雑音は,HFrEFとHFpEFのどちらでも聴取されることがある。肺所見には,吸気相早期に肺底部で聴取され咳嗽で消失しない断続性ラ音や,胸水が存在する場合の打診上の濁音や肺底部の呼吸音減弱などがある。

右室不全の徴候には,圧痛を伴わない足部および足関節の圧痕性浮腫(指で押すと明瞭で触知可能な痕跡が残り,ときにかなり深くなる),右肋骨下縁の触知可能でときに拍動性の肝腫大,腹部の腫脹および腹水,視認可能な頸静脈圧の上昇(ときに座位または立位でも視認できる大きなa波またはv波を伴う)などがある(Professional.see figure 正常な頸静脈波 正常な頸静脈波 正常な頸静脈波 )。頸静脈における大きなV波は通常,右室不全でしばしばみられる有意な三尖弁逆流を示唆する。吸気時に頸静脈圧がかえって上昇する現象(クスマウル徴候)は,右心不全を示唆する徴候であり,右室不全,拘束型心筋症,収縮性心膜炎,および重度の三尖弁逆流症でみられることがある。心不全の重症例では,末梢浮腫が大腿部,さらには仙骨部,陰嚢,下腹部の腹壁にも認められ,ときにより上方に拡がることもある。複数の領域に発生する重度の浮腫は全身浮腫(anasarca)と呼ばれる。患者が左右どちらの側臥位をとることが多くなると,浮腫は非対称性となりうる。

肝うっ血が生じると,肝臓に触知可能な腫大または圧痛が生じることがあり,また肝頸静脈逆流や腹部頸静脈逆流を認めることがある(Professional.see page 頸静脈 頸静脈 頸静脈 )。前胸部の触診では右室拡大による胸骨左縁の挙上,聴診では三尖弁逆流雑音または胸骨左縁に沿った右室のIII音が検出されることがあり,いずれの所見も吸気時に増強する。

診断

  • ときに臨床的評価のみ

  • 胸部X線

  • 心エコー検査,心臓核医学検査,および/またはMRI

  • ときにBNPまたはN-terminal-pro-BNP(NT-pro-BNP)濃度

  • 必要に応じて心電図検査および病因に対するその他の検査

心不全は臨床所見(例,労作時呼吸困難または疲労,起座呼吸,浮腫,頻拍,断続性ラ音,III音,頸静脈怒張)から示唆されるが,それらは通常,早期には明瞭とならない。同様の症状がCOPD 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,毒素の吸入(しばしばタバコ煙)に対する炎症反応によって引き起こされる気流制限である。比較的まれな原因として,非喫煙者におけるα1-アンチトリプシン欠乏症および様々な職業曝露がある。症状は数年かけて発現する湿性咳嗽および呼吸困難であり,一般的な徴候には呼吸音の減少,呼気相の延長,および喘鳴などがある。重症例で... さらに読む 慢性閉塞性肺疾患(COPD) や反復性肺炎 肺炎の概要 肺炎は,感染によって引き起こされる肺の急性炎症である。初期診断は通常,胸部X線および臨床所見に基づいて行う。 原因,症状,治療,予防策,および予後は,その感染が細菌性,抗酸菌性,ウイルス性,真菌性,寄生虫性のいずれであるか,市中または院内のいずれで発生したか,機械的人工換気による治療を受けている患者に発生したかどうか,ならびに患者が免疫能... さらに読む で生じることもあれば,誤って肥満や高齢によるものと判断されることもある。心筋梗塞の既往,高血圧,または弁膜症もしくは心雑音がある患者では,心不全を強く疑うべきであり,また高齢者や糖尿病患者でも中程度に疑うべきである。

胸部X線,心電図検査,および心機能の客観的検査(典型的には心エコー検査)を行うべきである。血液検査は,BNP値を除き,診断に用いられないが,原因や全身的な影響の同定には有用である。

胸部X線

心不全を示唆する胸部X線所見には,心陰影の拡大,胸水,大葉間裂内の液体貯留,後下肺野末梢部を水平に走る線状影(Kerley B line)がある。これらの所見は,慢性的な左房圧の上昇と浮腫による小葉間中隔の慢性肥厚を反映している。上葉の肺静脈うっ血と間質または肺胞の浮腫がみられることもある。側面像の心陰影を慎重に観察することにより,心室および心房内腔の特異的な拡大を同定できる。X線撮影では別の診断(例,COPD,肺炎,特発性肺線維症 特発性肺線維症 特発性肺線維症(IPF)は,特発性間質性肺炎の最も頻度の高い型であり,進行性の肺線維症を引き起こす。症状および徴候は数カ月から数年にわたって発現し,労作時呼吸困難,咳嗽,および捻髪音(ベルクロラ音)などがある。診断は病歴,身体診察,高分解能CTに基づき,必要があれば肺生検を行う。治療法としては抗線維化薬や酸素療法などがある。ほとんどの患者... さらに読む 特発性肺線維症 肺癌 肺癌 肺癌は世界におけるがん関連死因の第1位である。約85%の症例に喫煙の関連がみられる。症状としては,咳嗽,胸部不快感または胸痛,体重減少などのほか,頻度は低いものの喀血もありうるが,多くの患者では何の臨床症状もないまま転移を来す。診断は,典型的には胸部X線またはCTによって行い,生検によって確定する。治療には,病期に応じ手術,化学療法,放射... さらに読む 肺癌 )が示唆されることもある。

心電図検査

心電図所見では診断に至らないが,心電図異常,特に過去の心筋梗塞,左室肥大,左脚ブロック,または頻拍性不整脈(例,頻拍性心房細動)を示す場合は,心不全の疑いを強め,その原因の同定に役立つことがある。慢性心不全では完全に正常な心電図はまれである。

画像検査

心エコー検査 心エコー検査 この写真には,心エコー検査を受けている患者が写っている。 この画像には,4つの心腔全てと三尖弁および僧帽弁が示されている。 心エコー検査では,超音波を利用して心臓,心臓弁,および大血管の画像を描出する。この検査は心臓壁の厚さ(例,肥大または萎縮)や運動の評価に役立ち,虚血および梗塞に関する情報が得られる。収縮機能や左室拡張期の充満パターン... さらに読む 心エコー検査 は,心腔径,弁膜機能,左室駆出率,壁運動異常,左室肥大,拡張機能,肺動脈圧,左室および右室充満圧,右室機能,ならびに心嚢液貯留の評価に役立つ。心臓内血栓,腫瘍,および石灰化が心臓弁,僧帽弁輪,大動脈壁の異常部位などに検出される可能性がある。局所または区域レベルの壁運動異常は基礎疾患としての冠動脈疾患の存在を強く示唆するが,斑状の心筋炎でも認めることがある。ドプラまたはカラードプラ心エコー検査では,弁膜症や短絡を正確に検出できる。ドプラ法による僧帽弁流入量の評価と僧帽弁輪の組織ドプラ画像を組み合わせることで,左室拡張機能障害の同定と左室充満圧の定量化に役立てることができる。左室駆出率を測定することで,HFpEF(駆出率 0.50)とHFrEF(駆出率 0.40)を鑑別できる。重要であるため,心不全は左室駆出率が正常でも発生するということを改めて強調しておく。スペックルトラッキング法による心エコー検査(無症状の収縮機能障害や特定パターンの心筋機能障害の検出に有用である)は,重要となる場合もあるが,現時点では専門の医療機関でしか行えない。

心臓MRI MRI 心臓の画像検査によって,心臓の構造および機能を描出することができる。標準的な画像検査としては以下のものがある: 心エコー検査 胸部X線 CT MRI さらに読む MRI は心構造を正確に画像化し,より広く普及しつつある。心臓MRIは,心筋疾患の原因の評価と限局性およびびまん性の心筋線維化の検出に有用である。心アミロイドーシス,サルコイドーシス,および心筋炎は,心臓MRIの所見から検出または疑うことのできる心不全の原因である。

血液検査

心不全では,しばしば血清BNP濃度が高値となるが,この所見は,臨床所見が不明瞭な場合や他の診断(例,COPD)を除外する必要がある場合に有用となりうる。特に,肺疾患の既往と心疾患の既往を両方有する患者で有用となりやすい。NT-pro-BNPは,pro BNPが分断された際に生成される不活性成分であり,BNPと同様に利用することができる。しかし,BNP濃度が正常でも心不全を除外することはできない。HFpEFでは,30%の患者において,BNP濃度が一般的に適用される閾値である100pg/mLを下回る。肥満は,心不全の併存症として多くみられるようになってきているが,BNP産生の減少とBNPクリアランスの増加を伴う。

BNP以外に推奨される血液検査としては,血算,クレアチニン,BUN,電解質(マグネシウムおよびカルシウムを含む),グルコース,アルブミン,肝機能検査などがある。心房細動患者と特定の条件を満たす患者(特に高齢者)には,甲状腺機能検査が推奨される。

その他の検査

胸部超音波検査は,心不全患者において肺うっ血を検出できる非侵襲的な検査法である。胸部超音波検査でみられる「comet tail artifact」は,X線所見の「Kerley B line」に相当する。

冠動脈造影またはCT冠動脈造影は,CADが疑われる場合,または心不全の病因が不確かな場合に適応となる。心内圧測定を伴う心臓カテーテル検査(侵襲的血行動態検査)は,拘束型心筋症および収縮性心膜炎の診断の助けになることがある。侵襲的血行動態検査は,心不全の診断が不確かな場合にも非常に役立つ(特にHFpEFの患者)さらに,侵襲的血行動態検査では心血管系に対する負荷(例,運動負荷,容量負荷,薬物負荷[例,ニトログリセリン,ニトロプルシド])が心不全の診断に非常に役立つことがある。

心内膜生検は,浸潤性心筋症が強く疑われるが非侵襲的な画像検査(例,心臓MRI)で確定できない場合に,ときに施行される。

予後

一般に,原因を是正できなければ,心不全患者の予後は不良である。心不全による入院後の5年生存率は,患者の駆出率に関係なく,約35%である。明白な慢性心不全での死亡率は,症状および心室機能障害の重症度に依存し,1年当たり10~40%の範囲をとる。

予後不良を示唆する具体的な因子としては,低血圧,駆出率の低下,CADの存在,トロポニンの放出,BUN値の上昇,糸球体濾過量の低下,低ナトリウム血症,機能的能力の不良(例,6分間歩行試験で検査)などがある。

BNP,NTproBNP,そしてMAGGIC Risk ScoreSeattle Heart Failure modelなどのリスクスコアは,集団全体としては心不全患者の予後予測に役立つが,個々の患者間では生存期間に有意なばらつきがみられる。

心不全は通常,重度の代償不全の期間を挟みながら段階的に増悪していき,最終的には死亡に至るが,それまでの時間経過は最近の治療法により延長してきている。しかしながら,症状の悪化が先行せず,突発的に予期せぬ死亡が起きる場合もある。

終末期ケア

全ての患者および家族に疾患の進行および心臓突然死のリスクについて説明すべきである。患者によっては,生活の質の改善が生存期間の延長と同等に重要になる。したがって,状態が悪化した場合の蘇生処置(例,気管挿管,心肺蘇生)に関する患者の意思を明確にしておくことが重要であり,特に心不全がすでに重症化している場合には極めて重要である。

全ての患者を症状はいずれ軽減すると安心させるとともに,症状が著しく変化した際には早期に医療機関を受診するように勧めるべきである。終末期ケア 臨死患者 臨死患者は,他の患者とは異なるニーズがある可能性がある。彼らのニーズを満たすために,臨死患者はまず特定されなければならない。死亡の前に,患者は3種類の一般的な機能低下の軌跡の1つをたどる傾向がある: 着実な進行性機能低下の限定的期間(例,進行性のがんに典型的) 着実に進行性ではないことがある,重度の機能障害の長期的な不確定期間(例,重度の... さらに読む には薬剤師,看護師,ソーシャルワーカー,および聖職者(患者が希望する場合)の関与が特に重要であり,これらの職種はすでに機能している集学的チームや疾患管理プログラムに参加している場合もある。

治療

  • 食事および生活習慣の改善

  • 原因の治療

  • 薬剤(多数のクラス)

  • ときに医療機器を用いる治療(例,植込み型除細動器,心臓再同期療法,機械的循環補助)

  • ときに心移植

  • 集学的ケア

特定の疾患(例,急性心筋梗塞,心室拍数の高度上昇を伴う心房細動,重症高血圧,急性弁逆流症)による急性心不全または心不全の増悪を呈する患者,ならびに肺水腫 肺水腫 肺水腫は,肺静脈性肺高血圧と肺胞内の液貯留(alveolar flooding)を伴った重度の急性左室不全である。所見は,重度の呼吸困難,発汗,喘鳴,ときに泡沫状の血痰である。診断は臨床的に行われ,胸部X線による。治療には酸素,硝酸薬静注,利尿薬のほか,ときにモルヒネを使用するとともに,駆出率が低下した心不全患者には,短期間の陽性変力薬の... さらに読む ,重度の症状,新規発症の心不全,または外来治療に反応しない心不全の患者では,早急な入院治療が必要である。過去に診断された心不全に軽度の増悪がみられた患者は,在宅での治療が可能である。

第一の目標は,心不全に至った疾患を診断し,それを是正ないし治療することである。

短期の目標としては,症状の緩和と血行動態の改善,低カリウム血症,腎機能障害,および症候性低血圧の回避,神経液性因子の活性化の是正などが挙げられる。

長期の目標としては,高血圧の是正,心筋梗塞および動脈硬化の予防,心機能の改善,入院回数の減少,生存期間および生活の質の改善などが挙げられる。

疾患の管理

一般的な対応,特に患者および介護者の教育と食事および生活習慣の改善が,全ての心不全患者で重要である。

  • 教育

  • ナトリウム摂取制限

  • 適正体重と健康水準

  • 基礎疾患の是正

長期的な成功には患者および介護者の教育が極めて重要である。治療の選択に患者と家族を関与させるべきである。患者および家族に服薬アドヒアランスの重要性,増悪の警告徴候,原因と結果の結び付け方(例,食事の塩分増加と体重の増加または症状の出現)について指導すべきである。

多くの医療施設(例,専門外来クリニック)では,様々な分野の医療従事者(例,心不全を専門とする看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,リハビリテーション専門家)を集学的医療チームや外来心不全管理プログラムに組み入れている。このようなアプローチにより,転帰を改善し,入院を減少させることが可能であり,最重症の患者で最も効果的である。

食事でのナトリウム摂取制限は体液貯留の制限に役立つ。全ての患者について,調理過程での食塩使用を排除し,食卓に食塩を置かないようにし,塩分の多い食品を控えさせるべきであり,最重症の患者では,減塩食品のみを摂取させてナトリウム摂取量を2g/日未満に制限すべきである。

毎朝の体重測定がナトリウム・水貯留を早期に検出する上で有用である。体重が数日間で2kg以上増加した場合は,利尿薬の用量を患者自身が調節させることも可能であるが,体重増加が続けたり,症状が生じたりするようであれば,医療機関を受診させるべきである。

徹底した症例管理,特に服薬アドヒアランスと予定外の来院または救急搬送および入院の頻度をモニタリングすることで,介入が必要な時期を特定することが可能になる。心不全専門の看護師は,患者教育,フォローアップ,および所定のプロトコルに従った用量調節において貴重な存在となる。

動脈硬化または糖尿病のある患者には,それぞれの疾患に応じた食事制限を厳守させるべきである。肥満は心不全症状の誘因となることがあり,また心不全症状を常に増悪させるため,BMI(body mass index)は30kg/m2以下(理想的には21~25kg/m2)を目標とすべきである。

一般に,各患者の症状に合わせた定期的な軽い運動(例,ウォーキング)が推奨される。運動は身体機能の低下につながる骨格筋のデコンディショニングを予防するが,生存率の改善や入院の減少にはつながらないようである。急性増悪期には安静が適切な対応となる。運動による正式な心臓リハビリテーションは,慢性のHFrEFに有用であり,HFpEFの患者にも役立つ可能性が高い。

インフルエンザは心不全を増悪させる可能性があり,特に高齢者でその可能性が高いことから,心不全患者にはインフルエンザの予防接種を毎年受けさせるべきである。

高血圧,持続性の頻拍性不整脈,重度の貧血,ヘモクロマトーシス,コントロール不良の糖尿病,甲状腺中毒症,脚気,アルコール依存症,シャーガス病,またはトキソプラズマ症がある患者でその治療が成功すれば,劇的な改善が得られる可能性がある。有意な心筋虚血は積極的に治療すべきであり,その治療法としては,経皮的冠動脈インターベンション 経皮的冠動脈インターベンション(PCI) 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)には,経皮的冠動脈形成術(PTCA)やステント留置を伴うPTCAなどがある。最も重要な適応は以下の治療である: 狭心症(安定または不安定) 心筋虚血 急性心筋梗塞(特に心原性ショックを起こしているか,その発生が確認された患者) 貫壁性のST上昇型心筋梗塞(STEMI)では,疼痛の発生から90分以内の... さらに読む 経皮的冠動脈インターベンション(PCI) またはバイパス手術 冠動脈バイパス術(CABG) 冠動脈バイパス術後の患者の胸部X線正面像および側面像に胸骨縫合(黒矢印)と手術用クリップ(赤矢印)が描出されている。 冠動脈バイパス術(CABG)では,ステント留置による血行再建が困難な高度狭窄または閉塞を来した固有冠動脈に対して迂回路を作成する。その適応は,経皮的インターベンションの施行例が増えてきたことで変化している。... さらに読む 冠動脈バイパス術(CABG) による血行再建などがある。心室を広範に侵す浸潤性疾患(例,アミロイドーシス)の管理は,かなり改善された。化学療法による原発性(アミロイド原性AL)アミロイドーシス アミロイドーシス アミロイドーシスは,異常凝集したタンパク質から成る不溶性線維の細胞外蓄積を特徴とする多様な疾患群である。これらのタンパク質は局所に蓄積してほとんど症状を引き起こさない場合もあるが,全身の複数の臓器に蓄積して,重度の多臓器不全をもたらすこともある。アミロイドーシスは原発性の場合と,種々の感染症,炎症,または悪性疾患に続発する場合とがある。 さらに読む アミロイドーシス の治療と一部の症例で行われる自家造血幹細胞移植 造血幹細胞移植 造血幹細胞(HSC)移植は,造血器悪性腫瘍(白血病,リンパ腫,骨髄腫)および他の血液疾患(例,原発性免疫不全症,再生不良性貧血,骨髄異形成)で治癒をもたらす可能性がある手技で,急速に発展しつつある。HSC移植は,ときに化学療法に反応する固形腫瘍(例,一部の胚細胞腫瘍)に用いられることもある。(移植の概要も参照のこと。)... さらに読む により,予後が著明に改善されている。

薬物治療

心不全の薬物療法は以下を目的とする:

HFrEFについては,これら全ての薬物クラスが研究されており,長期管理に有益であることが示されている。

HFpEFについては,十分に研究された薬剤が比較的少ない。しかしながら,HFpEFの治療には一般にACE阻害薬,ARB,およびβ遮断薬が使用される。ARNIは依然として研究段階にある。複数のランダム化比較試験により,アルドステロン拮抗薬は有益であるが,硝酸薬はおそらく有益でないことが示唆されている。重度のHFpEF患者では,重度の拡張機能障害のため一回拍出量が比較的固定されているため,心拍数を(β遮断薬などにより)低下させると,症状が悪化する可能性がある。このような患者の場合,心拍出量が心拍数に依存しているため,心拍数を低下させると安静時および/または労作時の心拍出量も低下する可能性がある。

全ての患者に使用薬剤に関する明確な情報を明示的に伝えるべきであり,具体的には適時な処方の更新と治療アドヒアランスの重要性,有害作用を認識する方法,医師に連絡すべき状況などが挙げられる。

不整脈

  • 電解質を正常化する。

  • 心房および心室拍数をコントロールする。

  • ときに抗不整脈薬を投与する。

心不全でよくみられる代償性変化である洞頻拍は,心不全治療が奏効すると通常は消失する。洞頻拍が消失しない場合は,関連する原因(例,甲状腺機能亢進症,肺塞栓症,発熱,貧血,疼痛)を検索すべきである。原因を是正しても洞頻拍が持続する場合は,β遮断薬(徐々に増量しながら投与)が一部の患者に役立つことがある。しかしながら,進行したHFpEF患者(例,拘束型心筋症)でβ遮断薬により心拍数を低下させることは,重度の拡張機能障害により拍出量が固定されているため,有害となる可能性がある。このような患者の場合,心拍出量が心拍数に依存しているため,心拍数を低下させると安静時および/または労作時の心拍出量も低下する可能性がある。

心室拍数がコントロールできない心房細動 心房細動 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗... さらに読む は必ず治療する必要があり,安静時の目標心室拍数は典型的には80/分未満である。β遮断薬が第1選択薬であるが,収縮機能が維持されている場合には,心拍数低下作用のあるカルシウム拮抗薬を慎重に使用してもよい。一部の患者では,ジゴキシン,低用量アミオダロン,その他リズム/心拍数コントロール作用のある薬剤の追加が助けになる場合がある。洞調律への是正とその維持をルーチンに試みる方針については,レートコントロール単独よりも優れているとした大規模臨床試験の結果は得られていない。しかしながら,一部の患者は正常洞調律の回復により著しく状態が改善するため,この判断はケースバイケースで下すのが最善である。頻拍性心房細動が薬物治療に反応しない場合は,洞調律または規則的なリズムを回復させるため,一定の条件を満たす患者に対して,房室結節の完全もしくは部分的なアブレーションまたはその他の心房細動アブレーション 心房細動に対するアブレーション手技 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗... さらに読む を併用する恒久型ペースメーカーの植込みを考慮してもよい。

心不全でよくみられる単発性の心室性期外収縮 心室性期外収縮(VPB) 心室性期外収縮(VPB)は,心室内リエントリーまたは心室細胞の異常自動能に起因する単発性の心室興奮である。健常者と心疾患患者ともに極めて高頻度にみられる。心室性期外収縮は無症状のこともあれば,動悸を引き起こすこともある。診断は心電図検査による。通常,治療は必要ない。 (不整脈の概要も参照のこと。)... さらに読む 心室性期外収縮(VPB) は,特異的な治療は不要であるが,まれに非常に高頻度の心室性期外収縮(1日15,000回以上)が心不全を誘発することが示されている。一方,心不全治療を至適化して電解質異常(特にカリウムおよびマグネシウム)を是正すれば,心室性不整脈のリスクが低下する。

原因(例,カリウムまたはマグネシウム低値,虚血)の是正と心不全に対する至適な薬物治療にもかかわらず,持続性心室頻拍 心室頻拍(VT) 心室頻拍は,連続で3拍以上にわたり心拍数が120/分以上となる状態である。症状は持続時間に依存し,無症状から動悸,血行動態の破綻,さらには死に至ることもある。診断は心電図検査による。短時間の発作に収まらない場合の治療には,症状に応じてカルディオバージョンまたは抗不整脈薬を用いる。必要な場合は,植込み型除細動器による長期治療を行う。... さらに読む が遷延する場合は,抗不整脈薬が必要である可能性がある。アミオダロン,β遮断薬,およびドフェチリドが第1選択薬であるが,これは,左室収縮機能障害がある場合,他の抗不整脈薬では有害な催不整脈作用が生じるためである。アミオダロンはジゴキシンとワルファリンの血中濃度を上昇させるため,ジゴキシンおよび/またはワルファリンの投与は半量に減量するか中止すべきである。血清ジゴキシン濃度とINR値をルーチンにモニタリングすべきである。ただし,たとえ治療濃度でも薬物毒性が生じる可能性がある。アミオダロンの長期使用は有害作用の発生につながる可能性があるため,可能であれば低用量(200mg,経口,1日1回)で使用し,肝機能および甲状腺刺激ホルモンの血液検査を6カ月毎に施行する。胸部X線で異常がみられるか,呼吸困難が有意に増悪する場合は,胸部X線および肺機能検査を年1回施行して肺の線維化が生じていないか確認する。持続的な心室性不整脈にはアミオダロンが必要となる場合があり,突然死のリスクを低減するために,負荷量400~800mgの1日2回経口投与を1~3週間にわたりリズムが十分にコントロールされるまで継続し,その後は1カ月かけて維持量の200mg,経口,1日1回まで減量する。

医療機器を用いる治療

他の点では期待余命が良好な患者において,症候性の心室頻拍または心室細動が持続する場合,またはガイドラインに従った薬物療法にもかかわらず,症状が持続し,左室駆出率の低下(0.30未満)が持続する場合は,ICDが推奨される。HFrEFにおけるICD使用に関するデータは,非虚血性心筋症より虚血性心筋症の方が強固である。

左室駆出率が0.35未満で左脚ブロックのパターンを伴うQRS波の拡大(> 0.15秒―QRS波が広いほど,治療効果は大きくなる)を認める心不全患者には,CRTが症状の軽減と心不全による入院の減少につながる可能性がある。CRTデバイスは効果的であるが高価であるため,適切に患者を選択すべきである。多くのCRTデバイスは,その機構にICDが組み込まれている。

侵襲的な血行動態モニタリング(例,肺動脈圧)を遠隔で行う植込み型の機器は,高度に選択された患者において心不全管理の指針となりうる。例えば,そのような機器の測定値に基づく薬剤(例,利尿薬)の用量調節について,HFrEFとHFpEF両方の患者を対象とした臨床試験で心不全による入院期間の大幅な短縮との関連が認められた。この種の機器では,心不全患者における肺毛細血管楔入圧(とそれに基づく左房圧)の代替指標として肺動脈拡張期圧を用いる。ただし,評価は心不全の増悪を繰り返したNYHAクラスIIIの患者のみを対象として行われた。今後のさらなるエビデンスが,この技術をどのように導入すべきかの指針になると考えられる。

利尿薬に抵抗性を示す容量負荷がみられる重度の心腎症候群の入院患者の一部には,限外濾過(静静脈血液濾過)が有用となる可能性がある。ただし,限外濾過については臨床試験で長期の臨床的有益性が示されていないため,ルーチンに用いるべきではない。

回復の可能性が高い特定の急性心不全患者(例,心筋梗塞に続く急性心不全)や,心臓手術(例,重度の弁膜症の修復,多枝冠動脈疾患の血行再建),左室補助人工心臓,心臓移植など,より永続的な治療までのブリッジングを必要とする患者には,大動脈内バルーンパンピングによるカウンターパルセーションが助けとなる。

左室補助人工心臓は,左室拍出量を増強する植込み型ポンプである。この機器は移植を待機している重症心不全患者の状態維持によく用いられるほか,移植適応がない一部の患者での「destination therapy」(すなわち長期の解決策)としても用いられる。

手術

特定の基礎疾患を有する患者では,手術が適切な治療法となる場合がある。進行した心不全患者の手術は専門施設で施行されるべきである。

先天性または後天性の心内短絡は,外科的閉鎖で治癒が得られる可能性がある。

虚血性の左室収縮機能障害がある心不全患者を対象とした大規模臨床試験では,虚血を減少させるための冠動脈バイパス術(CABG)によって5年全生存率は改善されなかったが,10年全死亡率の低下と心血管系の原因による10年死亡率および入院日数の低下が認められた。したがって,多枝CADのある心不全患者に対する血行再建はケースバイケースで判断するべきである。

心不全の主な原因が弁膜症 心臓弁膜症の概要 いずれの心臓弁も狭窄または閉鎖不全(逆流とも表現される)を起こす可能性があり,その場合,症状出現のかなり前から血行動態に変化が生じる。弁の狭窄または閉鎖不全は,個々の弁で独立して起こる場合が最も多いが,複数の弁膜症が併存する場合もあれば,1つの弁に狭窄と閉鎖不全が併発する場合もある。... さらに読む である場合は,弁の修復または移植を考慮すべきである。原発性僧帽弁逆流症患者は,左室拡大に続発した僧帽弁逆流症の患者より治療が有効となる可能性が高く,後者では術後も心筋機能の低下が持続する可能性が高い。手術は,心筋の拡大と損傷が不可逆的になる前に行うのが望ましい。

心臓移植 心臓移植 心臓移植は,以下の疾患を有する患者のうち,最適な薬物および医療器具を用いているにもかかわらず,死亡のリスクが持続しており,耐えがたい症状のある場合の選択肢の1つである: 末期心不全 冠動脈疾患(CAD) 不整脈 肥大型心筋症 さらに読む は,難治性の重症心不全があり,他に生命を脅かす疾患がなく,管理の推奨事項に対するアドヒアランスが極めて良好な60歳未満の患者では,第1選択の治療法である。心不全以外は健康な高齢患者(約60~70歳)の一部でも,移植についての他の基準を全て満たす場合には,一般的に移植が考慮される。生存率は1年時点で85~90%,その後の年間死亡率は約4%であるが,ドナー待機中の死亡率は12~15%である。ヒトの臓器提供は依然として少ない。

持続する心不全

治療後もしばしば症状が持続する。その理由としては,治療後も持続する基礎疾患(例,高血圧,虚血/梗塞,弁膜症),不十分な心不全治療,アドヒアランス不良,食事でのナトリウムまたはアルコールの過剰摂取,未診断の甲状腺疾患,貧血,または不整脈(例,頻拍性心房細動,間欠性心室頻拍)の併発などがある。また,他の疾患の治療に使用された薬剤が心不全治療に影響を及ぼしている可能性もある。NSAID,糖尿病に対するチアゾリジン系薬剤(例,ピオグリタゾン),および短時間作用型のジヒドロピリジン系または非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は,心不全を増悪させる可能性があるため,他に代替薬が存在しない場合には回避すべきであり,これらの薬剤を服用しなければならない患者には,綿密なフォローアップを行うべきである。

治療に関する参考文献

  • 1.Yancy CW, Jessup M, Bozkurt B, et al: 2016 ACC/AHA/HFSA Focused update on new pharmacological therapy for heart failure: An update of the 2013 ACCF/AHA Guideline for the Management of Heart Failure: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines and the Heart Failure Society of America.Circulation 134(13):e282–293, 2016.

  • 2.Shah SJ, Kitzman D, Borlaug B, et al: Phenotype-specific treatment of heart failure With preserved ejection fraction: A multiorgan roadmap.Circulation134(1):73–90, 2016.

要点

  • 心不全には心室機能障害が関与しており,最終的には代謝に必要なだけの血液を心臓が組織に供給できなくなる。

  • 駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)では,心室収縮が不良で駆出が不十分になり,駆出率が低値となる。

  • 駆出率が保持された心不全(HFpEF)では,心室充満が損なわれ,安静時および/または労作中の拡張終期圧が高くなるが,駆出率は正常である。

  • 労作時呼吸困難もしくは疲労,起座呼吸,および/または浮腫を呈し,特に心筋梗塞の既往,高血圧,または心臓弁の障害もしくは雑音を有する患者では,心不全を考慮する。

  • 胸部X線,心電図検査,BNP濃度の測定,および心機能の客観的検査(典型的には心エコー検査)を行う。

  • 十分に治療されなければ,心不全は進行して予後不良となる傾向がある。

  • 治療には教育および生活習慣の改善,基礎疾患のコントロール,様々な薬剤,ときに植込み型機器(CRT,ICD)などがある。

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