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僧帽弁逸脱症(MVP)

執筆者:

Guy P. Armstrong

, MD, Waitemata Cardiology, Auckland Valvular Disorders

最終査読/改訂年月 2018年 6月
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僧帽弁逸脱症(MVP)は,僧帽弁尖が収縮期に左房側へ落ち込むようになる状態である。最も一般的な原因は特発性の粘液腫様変性である。MVPは通常良性であるが,合併症として僧帽弁逆流症,心内膜炎,腱索断裂などがある。通常,MVPは有意な逆流がみられない場合は無症候性であるが,一部の患者では胸痛,呼吸困難,めまい,動悸の発生が報告されている。徴候としては歯切れのよい収縮中期クリックがあり,逆流がある場合は収縮後期雑音がこれに続く。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は有意な逆流がない場合には良好であるが,腱索断裂および心内膜炎が発生することがある。有意な僧帽弁逆流が存在しない限り,特異的な治療は必要ない。

僧帽弁逸脱はよくみられる異常であり,その他の点では正常な集団での有病率は,採用された心エコー検査の基準に応じて1~3%である。女性と男性で有病率は等しく,発症時期は青年期の成長スパートの後となるのが通常である。

病因

僧帽弁逸脱症の原因で最も多いのは以下のものである:

  • 僧帽弁の弁尖および腱索の粘液腫様変性

粘液腫様変性では,弁の線維性コラーゲン層が菲薄化し,粘液様(粘液腫様)物質が蓄積する。腱索が伸展かつ菲薄化し,弁尖が拡大し,ゴム様となる。これらの変化により弁尖が軟化し,左室収縮時に左房内へ膨らむようになる(逸脱)。変性した腱索が断裂すると,弁尖の一部が心房内へ落ち込むようになり,これにより典型的には高度の逆流が生じる。

変性は通常は特発性であるが,常染色体優性またはまれにX連鎖劣性の形式で遺伝することもある。粘液腫様変性は結合組織疾患(例,マルファン症候群 マルファン症候群 マルファン症候群は結合組織の異常から成り,結果として眼,骨格,および心血管系の異常を来す(例,大動脈解離につながる上行大動脈の拡張)。診断は臨床的に行う。治療には,上行大動脈の拡張を遅らせるための予防的β遮断薬投与,および予防的大動脈手術などがある。 マルファン症候群の遺伝形式は常染色体優性である。基礎的な分子生物学的異常は,ミクロフィブリルの主要成分であり細胞の細胞外基質への固定を助ける糖タンパク質フィブリリン-1(FBN1)をコード... さらに読む マルファン症候群 エーラス-ダンロス症候群 エーラス-ダンロス症候群 エーラス-ダンロス症候群は,関節過可動性,皮膚の過弾力性,および広範な組織脆弱性を特徴とする遺伝性のコラーゲンの障害である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。 遺伝形式は通常,常染色体優性であるが,エーラス-ダンロス症候群は不均一性である。様々な遺伝子変異が様々なコラーゲンの量,構造,または形成に影響を与える。変異は,コラーゲン(例,I型,III型,V型)またはコラーゲン修飾酵素(例,コラーゲンを切断するプロテアーゼであるリジン... さらに読む エーラス-ダンロス症候群 ,成人の常染色体優性多発性嚢胞腎 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD) 多発性嚢胞腎(PKD)は腎嚢胞を形成する遺伝性疾患で,両腎の段階的な腫大をもたらし,ときには腎不全に進行する。ほぼ全種類が家族性の遺伝子変異に起因する。症状と徴候は,側腹部痛,腹痛,血尿,高血圧などである。診断はCTまたは超音波検査による。治療は,腎不全に至る前は対症療法,腎不全発生後は透析または移植である。 (嚢胞性腎疾患の概要も参照のこと。) PKDの遺伝は以下の形式をとる:... さらに読む 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD) 骨形成不全症 骨形成不全症 骨形成不全症は,骨のびまん性の異常な脆弱性を生じる遺伝性のコラーゲンの障害であり,ときに感音難聴,青色強膜,象牙質形成不全,関節の過可動性を伴う。診断は,通常,臨床的に行う。治療には,一部の病型に対して成長ホルモン,およびビスホスホネートが含まれる。 骨形成不全症には4つの主な病型がある: I型(常染色体優性) II型(常染色体劣性) III型(常染色体劣性) さらに読む 骨形成不全症 弾性線維性仮性黄色腫 弾性線維性仮性黄色腫 弾性線維性仮性黄色腫は,皮膚,網膜,および心血管系の弾性線維の石灰化を特徴とするまれな遺伝性疾患である。診断は臨床的に行う。特異的な治療法はないが,色素線条に対して,血管新生を阻害する抗体の硝子体内注射を行うことがある。 弾性線維性仮性黄色腫は,常染色体優性と劣性の両方の形式で遺伝するABCC6遺伝子の突然変異により起こる。ABCC6遺伝子産物は膜貫通型の輸送体タンパク質であり,これはおそらく細胞の解毒に寄与している。特徴的な皮膚の丘疹... さらに読む 弾性線維性仮性黄色腫 SLE 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデス(SLE)は,自己免疫を原因とする慢性,多臓器性,炎症性の疾患であり,主に若年女性に起こる。一般的な症状としては,関節痛および関節炎,レイノー現象,頬部などの発疹,胸膜炎または心膜炎,腎障害,中枢神経系障害,血球減少などがある。診断には,臨床的および血清学的な基準が必要である。重症で進行中の活動性疾患の治療には,コルチコステロイドおよびときに免疫抑制薬を必要とする。... さらに読む 全身性エリテマトーデス(SLE) 結節性多発動脈炎 結節性多発動脈炎(PAN) 結節性多発動脈炎は,典型的には中型の筋性動脈およびときに小型の筋性動脈を侵す全身性壊死性血管炎で,組織の二次的虚血を来す。腎臓,皮膚,関節,筋肉,末梢神経,および消化管が侵される頻度が最も高いが,どの臓器も侵される可能性がある。しかし,肺は通常障害を免れる。患者は典型的には全身症状(例,発熱,疲労)を呈する。診断には生検または動脈造影を必要とする。コルチコステロイドおよび免疫抑制薬による治療がしばしば効果的である。... さらに読む )や筋ジストロフィー 遺伝性筋疾患に関する序論 筋ジストロフィーとは,筋肉の正常な構造と機能に必要な遺伝子の1つまたは複数の欠陥の結果生じる遺伝性かつ進行性の筋疾患である;生検検体でジストロフィー変化(例,筋線維壊死および再生)が認められる。筋ジストロフィーの病型では顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーが最も一般的であり,デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーが2番目... さらに読む によっても引き起こされる。MVPはバセドウ病 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 (甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる(様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む 甲状腺機能亢進症 ,乳房発育不全,フォン・ウィルブランド症候群 フォン・ウィルブランド病 フォン・ウィルブランド病(VWD)は,フォン・ウィルブランド因子(VWF)の遺伝性欠乏症であり,血小板の機能症を引き起こす。出血傾向は通常,軽度である。スクリーニング検査では,血小板数が正常で,場合によりPTTのわずかな延長がみられる。診断はフォン・ウィルブランド因子抗原およびフォン・ウィルブランド因子活性(リストセチン補因子活性)の低値に基づく。治療には,補充療法(ウイルス不活化を行った中間純度第VIII因子濃縮製剤)またはデスモプレ... さらに読む 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状赤... さらに読む 鎌状赤血球症 ,およびリウマチ性心疾患 リウマチ熱 リウマチ熱は,A群レンサ球菌咽頭感染症の合併症として発生する急性の非化膿性炎症であり,関節炎,心炎,皮下結節,輪状紅斑,舞踏運動などを引き起こす。診断は,病歴,診察,および臨床検査から得た情報に対する,改変Jones診断基準の適用に基づく。治療には,アスピリンまたはその他のNSAIDの投与,重症心炎発生時のコルチコステロイド投与,残存するレンサ球菌の根絶と再感染防止のための抗菌薬投与が含まれる。... さらに読む リウマチ熱 の患者でより頻度が高い。

僧帽弁逸脱症に起因する僧帽弁逆流 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(MR)は,僧帽弁の閉鎖不全により,心室収縮期に左室から左房に向かって逆流が生じる病態である。MRは一次性(一般的な原因は僧帽弁逸脱およびリウマチ熱)または左室拡大もしくは心筋梗塞による二次性の可能性がある。合併症としては進行性心不全,不整脈,心内膜炎がある。症状と徴候には動悸,呼吸困難,全収縮期の心尖部雑音がある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は左室機能およびMRの病因,重症度,期間によって異なる。軽度で症状... さらに読む は,正常に見える僧帽弁尖(すなわち粘液腫性ではない)を有する患者で,虚血性乳頭筋機能不全またはリウマチ性腱索断裂により発生する場合がある。重度の脱水やときに妊娠中(妊婦が臥位にあり妊娠子宮が下大静脈を圧迫し,静脈還流量が減少する場合)など,血管内容量が大幅に減少する場合に一過性のMVPが起こることもある。

合併症

僧帽弁逸脱症の最も頻度の高い合併症は僧帽弁逆流である。MRは急性(腱索断裂により僧帽弁にflail leafletを来す)の場合と慢性の場合がある。MRを伴うMVPの続発症として,心不全 心不全(HF) 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全(HF) 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 感染性心内膜炎 ,血栓塞栓症を伴う心房細動 心房細動 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗凝固療法による血栓塞栓症の予防のほか,ときに洞調律に復帰させるための薬剤投与またはカルディオバージョ... さらに読む などがある。MVPがMRや心房細動と独立して脳卒中または心内膜炎を引き起こすか否かは明らかではない。

症状と徴候

僧帽弁逸脱症患者の大部分は無症状である。非特異的な症状(例,胸痛,呼吸困難,動悸,めまい,失神様状態,片頭痛,不安)を経験する患者もいるが,それらは僧帽弁の異常によるものではなく,アドレナリン作動性のシグナル伝達および感受性に関連したまだ十分に解明されていない異常に起因するものと考えられる。約3分の1の患者では精神的ストレスによって動悸が誘発されるが,これは良性不整脈(心房性期外収縮,発作性心房頻拍,心室性期外収縮,複雑な心室性期外収縮)の症状であることがある。

ときに初診時から僧帽弁逆流 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(MR)は,僧帽弁の閉鎖不全により,心室収縮期に左室から左房に向かって逆流が生じる病態である。MRは一次性(一般的な原因は僧帽弁逸脱およびリウマチ熱)または左室拡大もしくは心筋梗塞による二次性の可能性がある。合併症としては進行性心不全,不整脈,心内膜炎がある。症状と徴候には動悸,呼吸困難,全収縮期の心尖部雑音がある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は左室機能およびMRの病因,重症度,期間によって異なる。軽度で症状... さらに読む がみられる。まれに心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 感染性心内膜炎 (例,発熱,体重減少,血栓塞栓イベント)または脳卒中で受診する。突然死が1%未満の患者で起こり,最も一般的な原因は腱索断裂と僧帽弁のflail leafletである。心室性不整脈による死亡はまれである。

MVPに関連するが診断的ではないその他の身体所見としては,乳房発育不全,漏斗胸,ストレートバック症候群,前後径が短い胸などがある。

聴診

  • 明瞭な収縮中期クリック

典型的には,僧帽弁逸脱症は視認または触知可能な心徴候を引き起こさない。

MVP単独では,しばしば歯切れのよい収縮中期クリックが聴取され,これは弁下組織が急激に収縮することによる。このクリックは,左側臥位で膜型の聴診器を使用することにより,心尖部で最もよく聴取される。MRを伴うMVPは収縮後期のMR雑音を伴うクリックを生じる。左室のサイズを減少させる手技(例,着座,起立,バルサルバ手技)に伴い,クリックはI音に近づき,同じ手技によりMR雑音が出現するかまたは増大かつ延長する。これらの影響は,左室のサイズが減少することにより乳頭筋と腱索が弁の下方でより中央方向へとともに牽引し,その結果,より早期でより高度の逆流を伴うより速くより強力な逸脱が生じるために起こる。逆に,蹲踞や等尺性ハンドグリップはI音クリックを遅らせ,MR雑音が短縮する。

収縮期クリックは先天性大動脈弁狭窄のクリックと混同されることがあるが,先天性大動脈弁狭窄のクリックは収縮期の極めて早期に起こり,姿勢や左室容積が変化しても動かないことから区別できる。その他の所見としては,収縮期の警笛のような音(honk)やヒューヒューという音(whoop)があり,弁尖の振動により起こると考えられる;これらの所見は通常は一過性であり,呼吸相によって変化することがある。逸脱した弁が正常な位置に戻ることにより起こる拡張早期の開放音がまれに聴取される。一部の患者,特に小児では,MVPの所見は労作後により顕著な場合がある。

診断

予後

僧帽弁逸脱症は通常は良性であるが,弁の重度の粘液腫様変性はMRをもたらしうる。重症MR患者では,左室または左房の拡大,不整脈(例,心房細動),感染性心内膜炎,脳卒中,弁置換術の必要,死亡の発生率は年間約2~4%である。MVPの発生率は男性で低いが,発生した場合は高度のMRに進行する可能性が高い。

治療

  • 通常なし

  • ときにβ遮断薬

僧帽弁逸脱症は通常,治療を必要としない。

交感神経系の緊張亢進(例,動悸,片頭痛,めまい)の症状を緩和し,頻拍性不整脈のリスクを低減するためβ遮断薬が用いられることがあるが,この実践を裏付けるデータはない。典型的なレジメンはアテノロール25~50mg,経口,1日1回またはプロプラノロール20~40mg,経口,1日2回である。

心内膜炎に対する抗菌薬の予防投与は,もはや推奨されない。血栓塞栓症を予防するための抗凝固薬は,心房細動患者または一過性脳虚血発作もしくは脳卒中の既往を有する患者にのみ推奨される。

要点

  • 僧帽弁逸脱症の最も一般的な原因は,僧帽弁および腱索の特発性粘液腫様変性である。

  • 最も頻度の高い合併症は僧帽弁逆流症(MR)である。

  • 心音はしばしば収縮中期のシャープなクリックを含み,バルサルバ手技により早期に発生する。

  • 予後はMRが発生しない限り通常良好であり,発生した場合は心不全,心房細動,脳卒中,感染性心内膜炎のリスクが上昇する。

  • 治療は,重大なMRが発生しない限り必要ない。

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