(不整脈の概要 不整脈の概要 正常な心臓は規則正しく協調的に拍動するが,これは固有の電気的特性を有する筋細胞によって電気パルスが生成・伝達され,それにより一連の組織化された心筋収縮が誘発されることによって生じる。不整脈と伝導障害は,そうした電気パルスの生成,伝導,またはその両方の異常により引き起こされる。 先天的な構造異常(例,房室副伝導路)や機能異常(例,遺伝性のイ... さらに読む も参照のこと。)
リエントリー性SVTの病態生理
上室頻拍におけるリエントリー伝導路(典型的なリエントリーの機序 典型的なリエントリーの機序 の図を参照)としては以下のものがある:
心房結節(約50%)
副伝導路(40%)
心房または洞房結節(10%)
房室結節リエントリー性頻拍は,他の点では健康な患者で生じる場合が最も多い。 心房性期外収縮 心房性期外収縮 上室の興奮起源(通常は心房)から種々の調律が生じる。診断は心電図検査による。多くは無症状で,治療の必要はない。 ( 不整脈の概要も参照のこと。) 異所性上室性調律としては以下のものがある: 心房性期外収縮 心房頻拍 さらに読む により誘発されることが最も多い。
副伝導路リエントリー性頻拍には,正常な房室結合を部分的または完全に迂回する伝導組織の経路(副伝導路)が関与する。心房から直接心室へと走行するものが最も多く,心房から伝導系の一部へ,または伝導系の一部から心室へと走行するものは比較的少ない。これらは,心房性期外収縮または 心室性期外収縮 心室性期外収縮(VPB) 心室性期外収縮(VPB)は,心室内リエントリーまたは心室細胞の異常自動能に起因する単発性の心室興奮である。健常者と心疾患患者ともに極めて高頻度にみられる。心室性期外収縮は無症状のこともあれば,動悸を引き起こすこともある。診断は心電図検査による。通常,治療は必要ない。 ( 不整脈の概要も参照のこと。) 心室性期外収縮(VPB)は,PCVとも呼ばれるが,不規則に生じることもあれば,一定間隔で(例,3心拍毎[三段脈]または2心拍毎[二段脈])... さらに読む .により誘発されうる。
WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群
WPW症候群(早期興奮症候群)は,最も頻度の高い副伝導路によるSVTであり,およそ1000人に1~3人の頻度で発生する。WPW症候群はその多くが特発性であるが, 肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心エコー検査または心臓MRIによる。治療は,β遮断薬,ベラパミル,ジソピラミドのほか,ときに流出路閉塞... さらに読む や他の病型の 心筋症 心筋症の概要 心筋症は心筋の原発性疾患である。冠動脈疾患や弁膜症,先天性心疾患といった構造的心疾患とは明確に異なる疾患概念である。心筋症は病理学的特徴に基づき,以下に示す3つの主な病型に分類される( 心筋症の病型の図を参照): 拡張型 肥大型 拘束型 虚血性心筋症という用語は,重症 冠動脈疾患の患者で(梗塞領域の有無にかかわらず)発生することがある,心... さらに読む , 大血管転位症 大血管転位症(TGA) 大血管転位症(右旋性の場合)は,大動脈が右室から直接起始すると同時に,肺動脈が左室から起始した状態であり,結果として,肺循環および体循環が互いに独立して平行する状態となる;そのため,酸素化された血液は右心系と左心系を連結する開口部(例,開存した卵円孔,心室中隔欠損[VSD])を通る以外,体循環に入ることができない。症状は主に重度の新生児チアノーゼであり,VSDを合併する場合は,ときに心不全を来す。心音および心雑音は合併奇形の有無に応じて... さらに読む ,または エプスタイン奇形 エプスタイン奇形 その他の先天性心奇形としては,以下のものが挙げられる: 大動脈肺動脈窓 修正大血管転位症 両大血管右室起始症 エプスタイン奇形 さらに読む の患者で頻度が高くなっている。WPW症候群には主に以下の2つの病型がある:
古典的
不顕性
古典的(または顕性)WPW症候群では,洞調律中に副伝導路と正常伝導系の双方で順行性伝導が発生する。副伝導路は伝導速度がより速いため,心室の一部をより早く脱分極させ,その結果としてPR間隔は短縮し,QRS波の立ち上がりは不明瞭となる(δ波― 古典的WPW[Wolff-Parkinson-White]症候群 古典的WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群 の図を参照)。
古典的WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群
I,II,III,V3~V6誘導にて,WPW症候群の古典的特徴である洞調律でのPR間隔の短縮とδ波がみられる。 |
このδ波によりQRS時間が延長して0.12秒を超えるが,δ波を除けば全体的に正常な波形となる。δ波の方向によっては,偽梗塞パターンのQ波を認めることもある。早期に脱分極した心室の一部は再分極も早期に起こすため,T波のベクトルが異常となりうる。
不顕性WPW症候群では,副伝導路が順行方向に伝導せず,そのために前述の心電図異常は出現しない。しかしながら,副伝導路は逆行方向に伝導するため,リエントリー性頻拍の素因となる。
最も頻度の高い病型のリエントリー性頻拍(正方向性回帰性頻拍と呼ばれる)では,回路が正常な房室伝導路を介して心室を刺激し,副伝導路を介して心房へと戻る。したがって,その結果として起こるQRS波は(脚ブロック 脚ブロックおよび束枝ブロック 脚ブロックは,脚枝における興奮伝導が部分的または完全に途絶する状態であり,束枝ブロックは,脚枝の分枝において同様の途絶が生じる状態である。これら2つの障害はしばしば併存する。通常は無症状であるが,いずれの存在も心疾患を示唆する。診断は心電図検査による。適応となる特異的な治療法はない。 ( 不整脈の概要も参照のこと。) 伝導ブロック( 心臓内の電気刺激の伝導経路の図を参照)は多くの心疾患によって発生する可能性があり,これには他に心疾患の合... さらに読む を併発してしない限り)幅が狭く,δ波を伴わない。正方向性回帰性頻拍は,典型的にはRP時間の短い頻拍であり,ST部分に逆行性P波を伴う。
まれに,このリエントリー回路内で興奮が房室副伝導路を反対方向に通過して心房から心室へと伝導し,心室から正常な房室伝導系を逆方向に回帰する(逆方向性回帰性頻拍と呼ばれる)。心室は異常に興奮するため,QRS幅が広くなる。房室副伝導路が2本ある患者(まれではない)では,一方の副伝導路を順行方向に利用し,もう一方の副伝導路を逆行方向に利用する回帰性頻拍が発生しうる。
WPW症候群の頻拍は,最初から 心房細動 心房細動とWPW(Wolff-Parkinson-White)症候群 WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群では,副伝導路を介した順行性伝導が発生する。心房細動が発生した場合は,心室拍数が非常に高くなる可能性があるため,医学的な緊急事態となる。 ( 不整脈の概要および 心房細動も参照のこと。) 顕性 WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群では,副伝導路を介した順行性伝導が発生する。 心房細動が発生すると,房室結節の正常な律速作用が迂回され,結果として起きる心室拍数の... さらに読む (AF)として発症する場合と後からAFに増悪する場合があり,AFは非常に危険な状態となりうる。 肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心エコー検査または心臓MRIによる。治療は,β遮断薬,ベラパミル,ジソピラミドのほか,ときに流出路閉塞... さらに読む や他の病型の心筋症により心房が拡大している場合,WPW症候群患者は心房細動を起こしやすい。
リエントリー性SVTの症状と徴候
ほとんどの患者は若年成人期または中年期に受診する。典型的には,突然発症して突然停止する規則的な速い動悸の発作がみられ,しばしば血行動態障害の症状(例,呼吸困難,胸部不快感,ふらつき)を伴う。発作は数秒だけで収まることもあれば,数時間継続することもある(まれに12時間を超える)。
乳児では,間欠的な息切れ,嗜眠,授乳困難,または速い前胸部拍動で発症する。頻拍が長引くと,乳児では 心不全 心不全 先天性心疾患は,最も頻度の高い先天奇形であり,出生児の1%近くに発生する( 1)。先天異常のうち,先天性心疾患は乳児期死亡の主要な原因である。 乳児期に診断される最も頻度の高い先天性心疾患は,筋性部および膜性部 心室中隔欠損症であり,それに二次孔型 心房中隔欠損症が続き,これらを合わせた有病率は出生10... さらに読む を来す可能性がある。
診察は通常,心拍数が160~240/分であることを除けば特記すべき事項はない。
リエントリー性SVTの診断
心電図検査
上室頻拍の診断は, 心電図検査 心電図検査 標準的な心電図検査では,四肢・胸壁に装着した陽極・陰極間の電位差によって反映される心臓の電気的活動が12個のベクトルのグラフとして示される。それらのうち6つは前額面(双極肢誘導I,II,IIIと単極肢誘導aVR,aVL,aVFを使用する),6つは水平面(単極胸部誘導V1,V2,V3,V4,V5,V6を使用する)のベクトルである。標準的な12誘導心電図は,以下のような多くの心疾患を確定診断する上で極めて重要である(... さらに読む で規則的な速い頻拍を認めることによる。過去の心電図記録が入手できれば,顕性WPW症候群の徴候がないか確認する。
P波は一定ではない。房室結節リエントリーの大半の症例では,QRS波の終末部に逆行性P波が出現する(V1誘導ではしばしば偽性R′波が生じる);約3分の1がQRS波の直後に生じ,QRS波の前にみられることはほとんどない。WPW症候群の正方向性回帰性頻拍では,P波は常にQRS波の後にみられる。
脚ブロック,逆方向性回帰性頻拍,または二重副伝導路回帰性頻拍を併発している場合を除けば,QRS幅は狭い。QRS幅の広い頻拍は,心室頻拍と鑑別しなければならない(植込み型除細動器の適応 心室頻拍および心室細動における植込み型除細動器の適応 の表と 古典的なWPW[Wolff-Parkinson-White]症候群 古典的WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群 および QRS幅の狭い頻拍 QRS幅の狭い頻拍:WPW症候群における副伝導路を介した正方向性回帰性頻拍 の図を参照)。
QRS幅の狭い頻拍:WPW症候群における副伝導路を介した正方向性回帰性頻拍
興奮は房室結節,ヒス-プルキンエ系,心室,副伝導路,心房の順に伝導する。P波はQRS波のすぐ後ろに認められ,RPの短い頻拍である(PR > RP)。 |
リエントリー性SVTの治療
迷走神経刺激
アデノシン
QRS幅が狭い場合はベラパミルまたはジルチアゼム
頻回の再発には,アブレーション
多くのエピソードは治療開始前に自然に停止する。
迷走神経刺激(例,バルサルバ法,片側頸動脈洞マッサージ,氷水に顔をつける,氷水を飲み込む)により,特に早期に用いた場合,頻拍性不整脈を停止できることがあり,一部の患者はこれらの方法を自宅で用いている。
迷走神経刺激が無効で,かつQRS幅が狭い(順行性伝導を示唆する)場合は,房室伝導抑制薬を使用する;房室結節を介する伝導を1回の拍動で遮断することでリエントリーのサイクルを停止させる。アデノシンが第1選択である。用量は6mgの急速静注(小児では0.05~0.1mg/kg)であり,続いて生理食塩水20mLを急速投与する。この用量で無効の場合は,続いて12mgを5分間隔で2回投与する。アデノシンはときに短時間(2~3秒)の心拍停止を引き起こし,患者に苦痛を与え,医師を動揺させることがある。代替薬はベラパミル5mg静注またはジルチアゼム0.25~0.35mg/kg静注である。
QRS幅の広い規則的な頻拍で,二重副伝導路が関与しない逆方向性回帰性頻拍であることが判明している(既往歴から同定する必要があり,短時間に確定することはできない)場合にも,房室伝導抑制薬が効果的となりうる。しかしながら,頻拍の発生機序が不明で,心室頻拍を除外できない場合は,心室頻拍を悪化させる可能性のある房室伝導抑制薬の使用は避けるべきである。このような症例(または薬剤が無効な症例)では,静注のプロカインアミドまたはアミオダロンを使用することができる。あるいは,50ジュール(小児では0.5~2ジュール/kg)の カルディオバージョン 心臓再同期療法(CRT) 不整脈治療のニーズは,不整脈の症状および重篤度に依存する。治療は原因に対して行う。必要に応じて, 抗不整脈薬, カルディオバージョン/電気的除細動, 植込み型除細動器(ICD), ペースメーカー(および特殊なペーシング,心臓再同期療法), カテーテルアブレーション, 手術,またはこれらの併用などによる直接的な抗不整脈療法が用いられる。 一部の患者では,心腔が収縮を繰り返す間の整然とした正常な順序関係が崩壊している(同期不全を呈している)... さらに読む が迅速かつ安全であり,これらの毒性の強い薬剤よりも望ましい可能性がある。
房室結節リエントリー性頻拍の発作が頻回または患者にとって煩わしい場合は,抗不整脈薬の長期投与または経静脈的なカテーテル アブレーション 不整脈に対するアブレーション 不整脈治療のニーズは,不整脈の症状および重篤度に依存する。治療は原因に対して行う。必要に応じて, 抗不整脈薬, カルディオバージョン/電気的除細動, 植込み型除細動器(ICD), ペースメーカー(および特殊なペーシング, 心臓再同期療法),カテーテルアブレーション, 手術,またはこれらの併用などによる直接的な抗不整脈療法が用いられる。 頻拍性不整脈が特定の伝導路ないし異所性自動能に依存している場合には,治療のために問題の部位を意図的に破... さらに読む も選択肢に含まれる。一般にアブレーションが推奨されるが,これが許容されない場合は,予防的薬物療法を通常はジゴキシンから開始し,必要に応じてβ遮断薬,非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬,またはこれらの併用へと進み,その後はIa群,Ic群,またはIII群の抗不整脈薬を1剤または複数投与する(抗不整脈薬 抗不整脈薬(Vaughan Williams分類) の表を参照)。しかしながら,青年期を過ぎた顕性WPW症候群患者(心房細動が発生する可能性が高くなる)には,ジゴキシンまたは非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を単独で投与してはならない(心房細動とWPW[Wolff-Parkinson-White]症候群 心房細動とWPW(Wolff-Parkinson-White)症候群 WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群では,副伝導路を介した順行性伝導が発生する。心房細動が発生した場合は,心室拍数が非常に高くなる可能性があるため,医学的な緊急事態となる。 ( 不整脈の概要および 心房細動も参照のこと。) 顕性 WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群では,副伝導路を介した順行性伝導が発生する。 心房細動が発生すると,房室結節の正常な律速作用が迂回され,結果として起きる心室拍数の... さらに読む も参照)。
リエントリー性SVTの要点
リエントリー性上室頻拍の症状は突然始まり,突然終わる。
WPW症候群(早期興奮症候群)は,最も頻度の高い副伝導路によるSVTである。
典型的にはQRS波は狭く,速く,規則的であるが,幅が広い場合もあり,心室頻拍との鑑別が必要になる。
迷走神経刺激(例,バルサルバ法)がときに有用である。
QRS幅の狭い頻拍には房室伝導抑制薬を使用するが,第1選択薬はアデノシンで,それが無効に終わった場合の代替薬はベラパミルまたはジルチアゼムである。
QRS幅の広い頻拍への房室伝導抑制薬の使用は避け,カルディオバージョンまたはプロカインアミドもしくはアミオダロンを用いる。